第96話 ゴブリン王国の危機
――クウネルが、暴食の邪神からの更なるメールに悲鳴を上げている頃。
旅の1つ目の目的地で在るゴブリン王国では、兵士達が慌ただしく駆けていた。 ゴブリン王国は城郭都市となっており、北と南の門から成り立ち中には数多くの家々と中央に王城が聳え立つ平和な王国だった。 ほんの少し前までは。
今は城壁の上では多くのゴブリン弓兵達が城壁の外に向かって矢を放ち続けている。
「ギゲァッ! おい、其処のお前! 裏門に増援を送れ! 正門は我等が守る!」
1匹のゴブリン兵士に指示を飛ばすのは、鉄の立派な全身鎧を着た大柄な兵士だ。
「キガァッ! 了解です! 将軍もご武運を!」
同じく鉄の質素な鎧を着た小柄な兵士が返答し、他の兵士達と共に走って行く。
「ギガガガ! お前もな!」
ゴブリンの将軍は緑色の肌に浮かぶ汗を拭い、これから始まる激戦の予感に武者震いをする。
「さてさて……少々分が悪いが民の為、門を突破される訳にはいかないな」
ゴブリン王国が誇る最強の将軍ギド、それがこのゴブリンの名前で有り役職だ。 大層な称号と肩書きだが、現在この王国を襲う敵達には心許なかった。
敵達は既に王国を囲い、城壁の上から矢や投石をするしか手段の取れない有り様だ。
(他の集落へ援軍を頼む時間すら無かったのだ、今有る戦力で何とかするしか無い……。 まさか……王国を囲う分厚い石の城壁を頼もしく思わない日が来るとはな)
ギドは苦々しく元から醜い顔を更に歪め、手に持つ槍を強く握り締めた。
「ギゲァ! ギド将軍、正門の弓兵の消耗が想定より早いです!」
正門の城壁を守らせている弓兵長から足早に報告が飛んでくる。
「ちっ……やはり白兵戦しか死守する方法は無いか」
分厚い城壁はまだ無事だが、門を集中攻撃されれば何時かは突破されるだろう。
(これ以上、城壁を守らせる兵士が減ると其処から敵に侵入されるやも知れぬ。 我が部下達よ……すまぬ! 共に死んでくれ!)
ギドは暫く目を瞑り、そして覚悟を決めた表情で叫んだ。
「ギガァァァ! よし、我が出ようぞ! インペリアル近衛兵!! 我に続けえっ!」
鉄の盾と槍を掲げ部下達を鼓舞する。
「ギガァ! 民の為に! 王の為に!」
「「「「ギガァッ! 民の為に! 王の為にぃぃぃ!」」」」
インペリアル近衛兵200匹が将軍ギドに従い、盾を打ち鳴らし槍を掲げた。
(怯える者は我が部下には居ないが、どれだけ生き残れるだろうか……いや、王国を守るしか無いのだ。 どれだけ犠牲が出ようと、必ず守り切る!)
将軍ギドを先頭に、門の前に盾を構え槍を添えるインペリアル近衛兵達が整列する。
「ギギガァ、出るぞ! 正門を開けよ!!」
鉄の門が重く悲鳴を上げながら開き、敵が蠢く姿が見えた。
「全く、何故こんな奴等が……」
「ギゲァ! ご武運を、将軍」
正門を開けた兵士達が、まるで道の様に左右に別れ敬意を示す。
そのゴブリン達は、その実力の低さから下級兵士とも呼ばれる階級の兵士達だがその瞳に怯えは無かった。
(我等の後も、彼等が死守してくれる事だろう……)
ギドは下級兵士達に笑顔で頷き、敵を睨んだ。
「ギガァ! 後は頼むぞ! ゴブリン王国と、その民の為に! 突撃ぃぃぃぃ!!」
将軍ギドとインペリアル近衛隊は躊躇う事なく、盾を構え槍を突きだし敵へと突撃した。
「ギガァァァァァッ! これより我等、修羅となる!」
クウネルが知る由もない頃、ゴブリン王国は滅亡の一途を辿ろうとしていた。




