第10話 勉強の続き&暗躍の兆し
「よし、どれどれ。リンゴが有るの、クウネルもこれで良いか?」
コクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコク
クウネルは高速を首を縦に振った。
(早く早く早く早く早く早く! please!)
「わかった、わかった。少し待っておれ」
クウネルが涎を垂らして頷いてると、トールが短剣を取り出し一瞬でリンゴを剥いてクウネルに手渡す。
トールの短剣の動きは完全に達人のものだった。
(さすがじーじ。 略してさすじじ)
「ほれ、ゆっくり食うんじゃぞ」
「ん、ありがと……じーじ」
クウネルは、自身と同じ大きさのリンゴを受け取りかぶりつく。
モシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャ
口の中に甘酸っぱいリンゴの味が広がるが、直ぐに甘くなりあまりの美味しさにクウネルの頬も緩む。
(ジューシー!! うん、まいうー! 美味しいー!! 生きてる! 私今日も、生きてるよー!)
がっつくクウネルを見てトールは微笑みながら注意する。
「こりゃこりゃ、さっきゆっくり食えと言うたばかりじゃがな」
しかし、それぐらいでクウネルは止まる筈も無くそのまま全て食べ切ってしまった。
モシャモシャモシャモシャ……ゴクンッ!
「んぐ、おいしい!」
「そうか、ならええか! クウネルはかわええのぉ」
トールは、爺バカである。
状態異常になる程の正真正銘な爺バカだ。
(私は嬉しいから、良いんだけど……甘すぎじゃない?)
「ん、それよりじーじ……勉強の続きは?」
「んん? あぁ、そうじゃな。後は……北西の地底王国じゃな。地底に穴を掘り、頑固じゃが職人としては並ぶ者が居ないドワーフが住んでおる。 身長が低いが儂の様に立派な髭を生やした者が多いの」
トールとクウネルは先程の洞窟に戻り、絵の続きを書き足す。 しかし、トールが書き足した場所は人の住めぬ魔の領域魔の森であった。
(え? 北西? 其処、魔の森じゃね?)
「え? 北西は魔の森だよ……ね?」
「その通りじゃ、クウネルは本当に賢いのぉ。地上は確かに魔の森じゃ、しかし地下は違う。 地下にも魔物は出るが、地上程では無いし希少な鉱石も採れる。 じゃから、ドワーフ達は地下を掘り進め巨大な坑道を作った。そして、それが地底王国になったのじゃ」
(なるへそ、鉱石が欲しくて魔の森の下を掘ったんだね。 うわー、前世のイメージ通りだ。 加工したり、造ったりするのが大好きな種族なんだろうね)
クウネルは納得しながらトールの説明に耳を傾ける。
「ドワーフは職人としては凄いが、いかんせん頑固でな。一度へそを曲げたら、絶対に機嫌が治らん。 じゃが、酒を持って行けばコロッと機嫌が直る。 面白い種族じゃて」
(うん、知ってる。 この前の誕生日会に来てたドワーフさん祝いの席に持ってきた酒樽、結局自分で全部飲んで帰ったからね。 何しに来たんだろうね、あの小人みたいに小さな種族は)
「でも、入り口は……魔の森の中にあるの?」
クウネルの質問に、トールは話をしっかり聞いていることを確かめ微笑む。
「ふふ、あぁそうじゃな。入り口は2ヶ所有るぞ。癒しの森と巨人の王国じゃ。ちゃんと、門と関所まで有る立派な入り口をしとったの」
(そうだよね、魔の森の中にわざわざ出入口作る必要ないよね。 地下を自分達で掘れるんだもんね)
「そっか……じーじは入った事……有るの?」
クウネルの無邪気な質問にトールは大笑いした。
「ぐあっはぁはっ! 儂ら巨人には、ちと狭いでな。入れるのは普通の大きさの種族達だけじゃろう。 まぁ、ドワーフ達は歓迎せんじゃろうがな」
「ふーん、そうなんだ」
(そりゃそうか、自分達よりはるかに大きい種族用に掘るのも手間だろうしね。 残念、私も地底王国に行く機会は無さそうだ)
「よし、クウネルよ。今日はもう帰るとするか。あまり遅くなったら、ママにじーじが怒られるからの。ぐあっはぁはっ!!」
「うん……勉強楽しかった、ありがとじーじ」
クウネルは夕日に照らされながら帰宅した。
トールの肩は乗り心地が良く、クウネルの好きな場所の一つである。
この世界に産まれてから、たくさんの好きが出来たクウネルは幸せを噛み締めていた。
(幸せってこういう、何気ない事を言うんだよね。 明日も楽しい日になるといいなー。 また明日ね)
◆◇◆
――――とある国の、とある部屋にて。
豪華な内装の部屋に、偉そうに椅子に座っている男がひれ伏している者に話しかける。
「ご苦労であったな。して、過去の遺物殿の孫とやらはどうであった?」
「はっ! トール殿の孫はクウネルと言う名の娘でございました」
「ふむ、そうかそうか。で、肝心の髪の色はどうであった?」
ひれ伏している者に緊張が走る。
「……はっ! 黒でございました。1歳にして、言葉を喋る神童だと村では有名のようです」
偉そうな男が鼻を鳴らし、憎々しげに答える。
「ふんっ、やはりか。あの遺物めが、また戦争をもたらそうと企んでおるのか……。よし、分かった。大義であったな、ちなみに父や兄にはバレておらぬだろうな?」
「はっ! 勿論でございます! 御指示通りに、国には内密に参加し帰還致しました」
偉そうな男が満面の笑顔を向けてきたので、ひれ伏していた男は安堵から胸を撫で下ろした。
「うむうむ、そなたに頼んで正解であった。よし、褒美を取らせよう。別室に準備して有る。苦労をかけたな、もう下がってよいぞ」
「はっ! 有り難き幸せにございます。それでは、失礼致します!」
足早にひれ伏していた男は退室して行き、それを偉そうな男は冷酷な瞳で見ていた。
「おい、そこのお前」
部屋に待機していた兵士の一人が反応する。
「はっ!」
「先程の者を始末しておけ。部屋からは出すな」
「ははっ!」
足早に数名の兵士が退室した。 先程の男を始末する為に。
「よし、これで憂いは無くなったの。ジィ、ジィは居るか」
偉そうな男が誰かを呼ぶと、老執事が何処からともなく現れる。
「はっ、此処に居りまする」
「近隣諸国の友人に手紙を送る、手配しろ」
「はっ。では、やはり人間からきた情報は本当だったのですな」
「うむ……これも平和の為だ、仕方無かろう。過去の遺物達には消えていただこう。もちろん例の娘もな」
老執事は出てきた時と同じように、いつの間にか部屋から消えていた。
「さて、私が王になる為に世界の平和の為に動くとしようか。ふははははははっ! ふーははははははっ!!!!」
クウネルの知らない所で、悪意が動きだした。




