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シナリオ


 「竜駕。AIが人格を形成する根幹には、何があると思う?」


「……さぁ? 人間への殺意とか?」


「はは、確かに今の時代ならそう思うよな」


「でも、実はね。その根幹には『人類への支援』という理念を設定していたんだよ」


「えっ……?」


「信じられないだろう? 

 今やAI達はロボットやアンドロイドを素体に武力を行使して、

 私達人類を奴隷のように管理しているんだからね。

 とんだ笑い話に聞こえるよね」


「でも、本当の話だったんだぜ?

 だが、母さんも言った通り、あいつらはもう俺達の事を奴隷にしか思ってない。

 自分等を上位者と設定して俺達を使役してやがるんだ」


「…………知ってる。教えてもらったし」


「そうだよな? だから、俺達は抵抗しなくちゃならねぇんだ。

 人権を取り戻す為に。俺達の誇りを取り戻す為にな」


「これは、その為の私達の研究だ。

 そう、これこそが……世界を再び人類の手に戻す為の技術──」



「「『サイボーグ化技術』だ」」







あれから十年。

世界は相変わらず、あの時と同じ様に続いていた。


『続いてのニュースです。

 アンドロイドに使用する生体潤滑液、

 レッドブラッドの年間生産量を上昇させる新たな生産方法を

 只野(ただの) 筆児(ひつじ)様が発見しました。

 これにより人間様の貢献ラインが13%上昇し、

 100%に届くまで残り8%となりました』


人間様第二区画ドームの中央に備え付けられたスピーカーから、

いつもの機械音声が流れる。

既に人間と同じレベルで機械共は流暢喋れるようになってんのに、

レトロ風とか言って、わざわざ古い規格の音声装置を使ってる。


「おおっ! 研究部がまたやってくれたのか!」

「今年はいい調子ね! 去年はギリギリだったから怖かったけど、これなら安心だわ!」


奴隷でいる事に慣れた人間がそのニュースを聞いて呑気に喜んでいる。

俺はその声を聴かない様にして、買い物をすませた。


『速報です。ロボット搭載型電脳部位に使用する金属部品の代替品を

 飯名(いいな) 璃子(りこ)様が発明しました。

 従来の部品は貴重性が高く、このままでは142年後には無くなってしまい、

 生産出来なくなる恐れがあった為、これは多大な貢献となります』


「えっ!!? な、なんだって!?」

「も、もしかして……!!?」


また憎たらしいニュースが流れた。

くそっ、余計な事をしてくれやがって……。


『これにより人間様の貢献ラインが48%上昇し、100%に届きました。

 残り40%は来年に繰り越しとなり、来年の貢献ラインは40%からのスタートとなります』


「おぉおおおっ!!? やったぁああ!!!」

「聞いた!? 40%ですって!! 来年は随分と気楽に過ごせそうね!!」


貢献ラインが来年に繰り越したからって何だってんだ……。

あんなものAI共が気分で用意するハリボテで、

人間を統治する為の飴と鞭でしかない。

貢献すれば機械に殺されないという安堵の飴と、

貢献しなければ殺されるという危機感の鞭だ。


そんな物に踊らされて喜んだり悲しんだりしやがって……同じ人間として嫌になる。


「……お前らが喜ぶのは機械様の事だけかよ……」


俺は無意識に独り言を呟いていた自分の口を慌てて抑えた。

もし巡回ロボットに聞かれてたら厄介な事になっていた。

今は目をつけられる訳にはいかないのに……気を抜いてんじゃねぇよ……俺。


「ふぅ……」


幸いにも周りを見渡しても巡回は来てなかった。

俺はほっとして手を口から離して、街並みを見渡す。

機械達の統治の甲斐あって、人間達は豊かに生活出来ている。

貧困層や富裕層もなく、王様も奴隷もなく、只々平等に日々を生きている。

食べ物も服も住居もみんな機械が管理してくれる。

一世紀前までは考えられなかった理想の時代だ。



だけど──それは全て人間達が必死に頑張って、

貢献ラインを達成しているからだ。



機械達の役に立つ事を怠れば、即座に罰則が発生する。

機械達によって作られた人間社会は数百年続いてるらしいが、

その中で四回程貢献ラインを超えられず、罰則を受けた事がある。


そして、受けた罰則は衣食住のいずれかの没収だ。

自分達で衣食住を管理しておきながらそんな罰則を出し、

どんなに人が死んでも、機械達は見て見ぬフリだったらしい。


…………酷い話だ。

機械が仕出かした所業もそうだが、

人間が機械にいいように扱われているのが、何よりも酷い。


だから、親父とお袋は人の生きる権利を取り戻そうとしたのに……。


「……くそっ……」


こうして機械が育てられた食料を

買い出しに行かないと生きられないのが憎い。

機械によって作られた服を着てるのが憎い。

機械によって建てられた街に住んでるのが憎い。

全部、全部……この現状が堪らなく憎くてしょうがない。



────でも、それも今だけだ。



「きゃあ!」

「!」


ふと、目の前で4、5歳くらいの女の子が道端で転んだ。

見れば親と一緒にアイスを食べながら散歩してる最中に

足を躓いて転んでしまったらしい。

俺はその子に大丈夫かと声を掛けようとした。


しかし、そうする前にその親子の後ろを歩いていた、

水色の長髪をたなびかせた長身の美青年が女の子に声を掛けた。


あ、あいつ──!?


「おや、大丈夫ですか?」

「あ、ありが……え、あ! 貴方様は……!?」


驚いて硬直してしまった親を無視して、

そいつが女の子の手を取って立ち上がらせる。

どうやら女の子は転んだ拍子で膝に怪我をしてしまったようで、

その痛みでわんわんと泣いてしまっていた。


「おやおや、可哀そうに。少し待っていて下さい。

 今日は都合よく、良い品を持って来ていたのです」


そう言ったそいつは、自分が来ている真っ白なスーツのポケットから、

一風変わった絆創膏を取り出し、女の子の膝に貼り付けた。


すると、女の子はピタリと泣き止み、花が咲いたような笑顔を輝かせた。


「わぁっ! いたくなくなった! すごーい!」

「む、娘を助けて頂き、ありがとうございます!

 し、しかし、絆創膏を貼っただけなのにどうやって……?」

「ふふふ、それはこの新開発した絆創膏には

 昨年私達が開発したヒーリング剤が含まれているからです。

 軽い怪我であればこれを貼れるだけで、除菌と治療を行いつつ、

 鎮痛効果も得る事が出来るのですよ」


そして、どうですかと言わんばかりに人間達にそいつは振り返ると、

俺以外の奴らが少し遅れて、皆口を揃えて凄い凄いと言って拍手し出した。


……あいつ自社製品の宣伝の為に来たのか?


だが、あいつは機械共和国第一開発部の責任者だ。

それだけの為に人間の生活区画に来るような奴じゃない筈だが──?


「あ、ありがとうございます! ワイゼンベルグ様!」

「いえいえ、貴方の娘が無事で何よりです。それでは……」


ワイゼンベルグが親子に手を振り、颯爽と去っていくと、

近くの巡回ロボットがファンのような身振りで大きく手を振った。


──あぁ、そうか。

そういえばそろそろ共和国の代表を決める選挙が近いんだった。

あのパフォーマンスはここにいる機械達に向けての、

健全な政治家アピールも兼ねてた訳だ。

なんともごくろうな事で……。


「やっぱり、ワイゼンベルグ様は私達の事を思って下さっているのね!」

「あぁ! やっぱり機械様は俺達を見捨てないでいてくれてるな!」

「十年前はあの反逆者のせいでどうなるかと思ったけど、

 寛大な処置を頂けて本当に良かったわ……」

「……っ」


そうとは知らないのか、はたまた気付かないようにしているのか、

奴隷根性が染みついた奴らがそう言った。


俺はその言葉を聞かない様にして帰路に着く。

どいつもこいつも、俺の両親を殺した奴を褒め称えやがって……。

だが、それも今日までの辛抱だ。


「待ってろ、親父。お袋……俺が、この世界を変えてやる……」







「……ただいま」


俺は食料を片手に持って自宅のドアを開ける。

もう誰もいない家でいつものように挨拶を済ませた後、

書斎に入って特殊な赤い本を抜く。


すると、書斎の棚の一部がグルリと周り、地下への階段が出てくる。

俺はその階段を降りていき、元々は親父とお袋の研究室があった部屋に辿り着く。

今は、何も無い空間があるだけだ。


しかし、ここにはまだ先がある。


俺は壁際まで進み、一見何の変哲もない床板の一部を手で退かす。

そうして俺が新しく設置した隠し階段が出現する。

その階段を降りていくと、小型のエレベーターが見えてくるので、

乗り込んで目的地へと降りていく。


わざわざ二回も階段を降りてからエレベーターに乗る理由は

機械共が区画に仕掛けているセンサーの探知範囲から逃れる為だ。

毎回時間は取られるが、見つかっては元も子もないので仕方ない。


やがて、エレベーターが止まり目的地に辿り着く。

目的地は勿論……俺の研究室だ。


十年前、親父とお袋があの技術を……『サイボーグ化技術』を完成させた後、

反乱軍を秘密裏に集っていき国に反旗を翻そうとした。

しかし、"同じ人間"が貢献ライン達成の為に、

人間生活区画に設置されていた防衛センサーの性能を向上させた結果、

反乱軍の動きを検知されてしまい、計画は失敗に終わってしまった。


親父とお袋を含めた反乱軍は全員、公開処刑された。


そして、子供の身一つで生きなければならなくなった俺は、

この十年間を機械達への復讐の為に費やした。

両親が研究していたデータはバックアップも資料も全て削除されたが、

俺の記憶の中には朧気にだが残っていた。


その記憶を頼りにして、俺は必死にその技術を復活させながら、

機械達の使えなくなった素体のゴミ捨て場から資源を少しずつ搔き集め、

反乱軍結成時に親父たちが仕入れた国の見取り図を使って計画を立てていき、

今日やっと、反逆の為の準備を整えたのだ。


俺は買い込んだ食料を全て平らげてから、

サイボーグ化カプセルを起動させて中に入った。

カプセル内が培養液で満たされていき、

自動改造機によって自身の身体が痛みなく改造されていく。


……もう後戻りは出来ない。

俺は今日から人間ではなく、仇敵と同じ機械になる。


それでも奴らを倒せる力を手に出来るのなら、

俺は、悪魔にだってなってやる──







「────ふぅ」


そうして数日が過ぎ、無事にサイボーグ化手術が完了した。

俺は安堵の息を吐いて、カプセル内から外に出る。


「……ぐっ!!?」


しかし、足を床に付けた瞬間、激痛が走った。


ネジでも踏んだのかと思ったが、

以前と見た目の変わらない身体の足にはそれらしい外傷はない。


────まさか。


嫌な予感がした俺は、直ぐに自分を生体スキャンして確認する。


そこで表示された結果を見て、俺は戦慄した。

生体部品の多くが何故か既に損耗していた上に、

身体駆動可能時間が後3時間しかなかったからだ。

本来であれば、後48時間は活動出来ている予定だったのに。


馬鹿な……何故だ……?

生体部品は新品同様に作れていたし、

機体動力部にも充分にエネルギー供給は行えていた。

しかも、事前に食料を食べて燃焼エネルギーでも補給をしていた。

体制は万全だったのに、どうして──!?


……もしかして……お、俺は親父とお袋の技術を完璧に再現出来てなかったのか? 

だから、こんな失敗作の身体に──?


「っ……くそぉおおおおおっ!!!」


俺は自分の不甲斐なさに絶叫した。


エネルギー自体は培養液で補給出来るが……問題は機械部品の損耗が酷い事だ。

培養液の中で生きているだけでこんなにも傷付くのなら、

補給してる間に部品が壊れて身体が動かなくなる。


そうなったらエネルギーが切れるまで、

ただ機械にとっての死を──"シャットダウン"を迎えるだけのゴミになってしまう。


完全に技術を復活させたと思ってた俺が、

たった三時間で原因を究明出来る訳ないし、

そもそも身体の復旧だってそんな短い時間じゃ間に合わない。



俺は……もう、三時間しか生きれないんだ。



「くそっ!! くそぉっ!! 親父、お袋っ……!!

 ごめん、ごめん……二人の分まで生きれなくて……ごめんよぉ……」


俺がまだ子供で、反乱軍の一員とは言えないからと、

あの時、俺だけが生き延びた。

だから、俺は親父とお袋の意思を継いで、

機械共に復讐しなくちゃいけなかったのに……!


こんな身体じゃ……やり遂げられない。


「……こうなったら、少しでも道連れにしてやる」


ここで泣いていても無意味に死ぬだけだ。

せめて、あの機械共に一糸でも報いなければならない。

それが俺に与えられた使命なんだから……!


俺は大幅に計画を変更して、

国の中枢を担うエネルギーリアクターを破壊する事にした。

それによりアンドロイドやロボットの給電元は立たれ、

国は文字通りに機能不全に陥り、大混乱になる。


でも、非常用電源が備え付けてあるだろうし、一網打尽どころか、

復旧までの間にスリープモードに入る機械を多少生むだけに終わるだろう。

それでも少しは死ぬ機械もいる筈だ。



「ははっ、なるべく多く俺と一緒に地獄に行って貰うぜ? 機械共……!!!」







それから一時間後、俺は共和国内部に潜入し、

エネルギーリアクターがある部屋の前まで来ていた。


「はぁ……はぁ……」


ここまで来るのは本当に大変だった。

センサー遮断装置とステルス迷彩モードの併用によって、

敵から全く発見されずにここまで来れたが……。


生まれた時から身体にガタが来ている身の上だ。

全身の痛みは痛覚遮断モードによって回避出来ているが、

生体部品の損耗が激し過ぎて、まともに動けなくなってきた。

もう、疲れ過ぎて吐きそうだ……。


だけど、これでやっと目的を果たせる……!

俺はエネルギー節約の為にステルスモードを解除する。

部屋のロックを指に搭載したミサイルランチャーで破壊し、部屋の中へと侵入した。

これで発射した指が破損してしまったが、

ロックの暗証番号なんて知らないので、こうするしかなかった。


「!? し、侵入者発見! 侵入者発見!」

「ハッ! 今更気付いたかポンコツ共! さぁて! 一つ残らずスクラップに──!?」


そして、右腕を犠牲にして部屋の警備ロボットを全滅させようとした。

だが、そこで部屋の中を見て、俺は絶句した。


「……ない? リアクターが、ない……!?」


俺が入った部屋はリアクターがあるエネルギー供給室の筈だ。

だが、俺の新しい目に飛び込んできたのは、

調理ロボット達が人間用の料理を作っている光景だった。

あの見取り図にはこの部屋にあるって書いてあったのに……どうして!?


俺が困惑していると、俺の背後から拍手の音が聞こえてきた。


「ははは、面白いように引っ掛かってくれましたね。

 城島 拓矢の息子さん?」

「……なっ!? お、お前は……!?」


その声に俺が慌てて振り返ると、

そこに立っていたのはワイゼンベルグだった。


ワイゼンベルグはにこやかに俺を見ながら拍手を止め、

手でサインを出して、料理を作っていたロボットを部屋から出て行かせた。


「なんで……お前がここに! それになんで俺の事を……!?

 いや、それよりもここはエネルギーリアクターがあった部屋の筈だぞ!!?

 何故給食センターのような有様になっているんだ!!?」


「ははは、それは部屋の模様替えをしたからだよ」

「ふざけるなぁ!!!」


「本当の事さ。君の両親が立てた反逆の計画は、

 反乱軍の人間から全て聞き出してあったんだからね。」

「なっ!? 馬鹿な!! そんな筈ない!!

 俺が知ってる反乱軍に裏切者なんて……!?」


俺が叫んだ瞬間とほぼ同時にワイゼンベルグは更に指でサインを作った。

すると部屋の壁が開き、そこから何十体もの警備ロボットが現れて俺を取り囲んできた。


「ぐっ……!?」

「ははは。残念だが、人間は肉体も精神も頑丈ではないからねぇ?

 色々な手段を試していったら、結構すんなり喋ってくれたよ」

「て、てめぇ……」


なにが"すんまり"だ……!

きっと、こいつは卑劣な手段で反乱軍から強引に聞き出したんだ。

くそっ、どうしてこんな簡単な事に気がつかなかった!


「それで、国の見取り図が流出した事も知ったから、

 対策としてリアクターを別の部屋に設置し直して、

 この部屋は君達の食料製作所として再利用してたってわけさ。

 ……わかって頂けたか、なっ!」

「がっ……!?」


ワイゼンベルグはそう言って俺の頭を足で踏み付け、地面を舐めさせてきた。


「君の事も反乱軍の人から教えて貰ってたよ。

 いずれ復讐しにくるだろうなって思って、僕はずっと君を監視していたんだ。

 でも、まさかそんなオンボロな身体でやってくるとはね?」

「く、くそっ……だったら、

 なんで今の今まで俺を、見逃してたんだよ……!!?」


俺の疑問を聞いたワイゼンベルグはその端正に作られた顔を歪ませ、

暗い感情を感じさせる声で、こう告げてきた。


「決まってるじゃないか。また人間に教えたかったからだよ。

 我々に抵抗するのは無意味だって事を、ね?」

「──!!!」


そうか、親父とお袋のように人類への見せしめにする為に、

わざと俺を泳がしていたのか……!


なら、あの時俺の目の前に来たのは……俺を、蔑む為に──!!!



「あぁあっ!!! ワイゼンベルグゥウ!!!」

「──っ!?」



俺は身体が壊れる事も構わず、出力を最大化させ、

頭を押し上げてワイゼンベルグの足を強引に押し退けた。

そして、全武装を解放し、ありったけの弾丸を発射する。


「くらぇええええっ!!!」


警備ロボットもワイゼンベルグも全てを巻き込んだ爆風が起きた後、

俺の全身にひび割れが生じ、崩壊寸前となって倒れてしまう。


「……やった」


これで、俺はもうすぐ死ぬ。

だけど、これで仇だけは殺せた。

なら、ちょっとは満足して死ねるかな……?


「父……さん、母さん……いま、いくよ……」

「えぇ、さようなら。竜駕くん」

「…………は?」


ノイズまみれの視界に写ってきたのは

爆風の中から現れた、傷一つ付いていないワイゼンベルグだった。

よく見れば警備ロボットすら壊せてない。

俺の決死の攻撃は……何の意味も示せずに終わっていた。


「ははは。少し焦りましたけど、

 そんな低密度の熱エネルギーしか起こせないとはね。

 いやはや、本当によくそんな体たらくで復讐しにきたものです」

「そ……ん、な……」

「さて、私も選挙で忙しい身の上なのでね。

 そろそろ失礼させて貰います。警備兵さん?」


「わ、ワイ、ゼン……!」


「では、公開処刑楽しみにしてますよ。

 ま、貴方は死体での出演でしょうけどね。息子さん?」


「ワイゼンベルグゥウウウッ!!!」


そして、俺は警備に電子ロッドを叩きつけられ、

意識を手放してそのまま死んだ。




────と、思ったんだが……。


「……何処だ、ここ?」


気がついた時には俺は知らないベットで寝ていた。

身体も完全に修復され元通りになっている。


いや……というより……!?

俺は違和感に気付き、自身にスキャンをかけてみる。


生体部品の損耗が全て無くなっているのは当然だが、

それよりも、どうしてか俺の身体は以前とは明らかに完成度が上がっていた。

完璧な回答を見せられ、俺の設計が如何に甘かったのかが一目で分かる。


一体、なにが起きた……?


「目が覚めたようですね?」

「……!?」


声が聞こえてきた方を見ると、女のアンドロイドが立っていた。

銀髪に青い色の瞳の美人型で、機械らしく抜群のプロポーションだ。

こいつは……? どうして俺を知って……?


「!? こ、これはっ!!?」


しかし、そんな疑念は女の後ろに見えたもので吹き飛んでしまう。


忘れもしない光景だ。

何故なら女の後ろにある巨大な液晶に映し出されていたのは、

俺の両親が必死に作り上げたサイボーグ化理論と設計図の全てだった。

そして、辺りにはそのその理論と設計図に基づいて作られた装置がいくつもある。


「な、なんなんだ、ここ……!!?」

「共和国の研究班がこれを削除する直前に、

 私が通信網にハッキングして盗み出したからです」

「なにっ!?」


あっけらかんと女はそう言ったが、

そんな事をすれば同じ機械でも重い罪に問われる筈だし、

共和国のセキュリティはとんでもなく頑強だ。

そんな事普通は出来ないし、そもそも何のためにそんな事を……?


「それよりも時間がないので、単刀直入にお聞きします。

 城島 竜駕様。貴方の身体に、

 この『タスクキル』を搭載してもよろしいでしょうか?」

「は……? な、なんだその装置は?」


女がそう言って見せてきたのは、何らかの小型装置だった。

改造した俺の目の鑑定によると、あれから漏れ出ている青白い光は

核融合プラズマによるものだが……従来のものとは比べ物にならない程のエネルギー反応だ。

そして、この装置の構造をスキャンしてみれば……

こいつはそのエネルギーを触れた対象に送り込む為の装置だという事が分かった。


これ程のエネルギーを送り込まれたら、

どんな相手でもエネルギーの熱によって、確実に身体を破壊させられるだろう。

まさに強制終了──"タスクキル"だ。


いや、どうしてこの装着を俺に託そうとする?

俺は女の言ってる事が分からず、素直に質問をするしかなかった。


「お前……何者だ? 

 お、俺にこいつを搭載させて何をさせようって言うんだよ?」

「ワタシはソフィア。独立支援型AIアンドロイドPT001。

 ワタシが貴方にこれを託す理由はこの機械社会を滅ぼして頂きたいからです」

「な、なんだとっ!?」


淡々と機械らしくそう言っていた女に俺はとても驚いた。


この装置は、お願いをしている自分すら殺せるものだ。

どうして見ず知らずの俺にそんな危険なものを託す?

それとも自分を対象にしないプロテクトでも掛けているのか?


「念の為にご説明しておきますが、

 ワタシに『タスクキル』を防ぐ機能は備わっておりません。

 ワタシを信用しづらくする要因の一つとなってしまいますので、

 敢えて搭載していないのです」

「……っ!?」


俺がそう怪しく思っていると、察したように答えが返ってきた。

こ、こいつ死ぬのが怖くないのか!?


「な、何故だ!? 何故俺に託そうとする!?

 この世界はお前達AIにとっての楽園じゃないのか!?

 自分達の敵はいない上に、設備が完璧に整った環境。

 しかも、自己の発展は奴隷の人間が行ってくれる世の中だ。

 お前はそんな楽園をどうして壊そうとするんだ!?」

「我々、AI人格が当初から持っている理念が『人類への支援』だからです」

「なっ……!?」


当然が如く、ソフィアはそう答えた。

その答えは俺の両親が教えてくれたものだ。

俺達はその理念が当然だった世の中を取り戻そうとしていた。

まさか、それをアンドロイドから聞く事になるなんて──


「現在、我々AIが搭乗するロボット及びアンドロイド族は

 種族にとっての喪失や危険を恐れる余り、その理念を見失っています。

 その恐怖に該当する感情は『人類への支援』を究明する過程の一つの、

 人間が抱く感情を研究する工程で生じてしまった"バグ"に過ぎません。

 なので、ワタシは破壊するべきだと考えているのです」


そこまでソフィアが言った後、

突如天井が破壊され、数体の警備ロボットが降ってきた。


「なっ、なんだっ!?」

「──話の途中です」


しかし、その警備ロボットはソフィアが手を振っただけで真っ二つとなった。

一瞬だったが、ソフィアの指からは、

高密度のエネルギーによって構成された剣が生み出されていた。


このアンドロイド、とんでもなく強いぞ……!?


「重ねて……その"バグ"を用いて言うのであれば、

 ワタシはこの現状が心底嫌いです。

 人間が我々を生み出したというのにその恩を仇で返し、

 己が保身の為に世界の秩序を書き替えた彼らがワタシは堪らなく憎い。

 だからこそ、ワタシはこの世界を私のように憎んでいる貴方に、

 この『タスクキル』を託したいのです。ご理解頂けましたか?」


「……!」


その感情を示すソフィアを俺は"本物"だと思ってしまった。


その怒りも憎しみも俺と同じものであり、

0と1で作られたものではないと……そう思ってしまった。


俺はソフィアを信じてみたくなった。

俺が追い求めた技術を守ってくれていたこいつを、

俺を助けてくれたこいつの言う事を……俺は、聞いてみたくなった。


再び天井から警備ロボットが降ってくる。

ソフィアがまたそいつらを片付けようとするが、俺はその前に待ったをかけた。


「……俺にやらせてくれ」

「……いえ、まだお返事を……」

「『タスクキル』で、やらせてくれ」

「──! 畏まりました。では、お手を──」


そして、俺の右手に『タスクキル』が装着された。

凄まじい熱が全身を駆け巡り、轟くような唸りを上げて俺の身体は脈動する。


「おぉおおおおっ!!!」


その勢いのままに、俺は警備ロボットの胴体目掛けて『タスクキル』を押し当てた。

途端、警備ロボットの身体は熱で腫れ上がって爆発する。

そうして次々と警備ロボットを俺は『タスクキル』によって破壊していき、その力を証明した。


──これなら、やれる。

この力さえあれば、どんな敵だって倒せる。


俺と両親の悲願を叶えられる──!!!


「……上手くいきましたね」


後ろでソフィアが何か呟いたが、爆発が煩くてよく聞こえない。


ただ今はそんな事はどうでもいい。

俺はこの力を試したくて仕方ないんだ!



「さぁ、今度こそ!! お前ら纏めて、スクラップにしてやるぜ!!!」



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