2.キャンディ
外は緑が生い茂り、優しい風が外の心地よさを部屋へと運んでくる。休日に二人でのんびりと過ごすこの時間が私は好き。部屋の掃除も終わり、テーブルの反対側でくつろぐあなたを見て私はいつもそう思う。こんなにも心が安らぐのは心地の良い風のせいか、それともあなたが目の前にいるからだろうか。そうやってぼんやりとあなたを眺めていると、つい、私のお腹が鳴ってしまった。
「ふふ、そろそろお昼ご飯にしようか」
あなたは向こう側で爽やかな笑みをこぼすと、椅子から立ち上がる。
「じゃあ今日はオムライスでも作ろうか」
やった。私はオムライスが好き。あなたの作るオムライスが。あなたは、いつもそうやってさりげなく私の好きな物を作ってくれる。
二人でキッチンに並び、あなたの手際の良さに関心しながらお昼の支度を済ます。出来上がったオムライスはもちろん絶品で、私はまたあなたに見惚れてしまう。
ああ、私もあなたの好きな物が作れたらな。私はそれなりに料理は出来るのだけれど、一人暮らしが長かったあなたに比べると、どうしても手際の悪さが目立ってしまう。これからもっと料理を作って、何とか技術を磨かなければいけないな。
でも、あなたの好きな料理ってなんだろう。と、頭の中をぐるぐるさせていると、
「そういえば、ずっと行きたいって言ってた場所がなかったっけ?」
「そうなの! 最近近くにできたところにずっと行きたくて!」
「じゃあ、お昼を食べ終えたらゆっくり向かおうか。ずっと行きたがってたもんね」
ほら、今日のあなたも私に甘く接してくれる。きっとあなたも行きたいところがあるはずなのに、いつも私に譲ってくれる。行きの車の中だってそう。私の好きな曲をかけて、それを一緒に口ずさむ。そう。きっとあなたも好きな曲があるはずなのに。
私を包む優しさのその外側で、いったいあなたは何を思っているんだろう……そんな不安を日々、飲み込んでいく。あなたの暖かさに溶け出し飲み込んだこの気持ちは、身体中をひたすら駆け巡り、頭の中をぐるりぐるりとかき混ぜた後、つい、口の中から溢れでた。
「何であなたはそんなに優しいの……?」
「あ! あ、えっとそのそうじゃなくて! これは違くて!」
急に呟く自身に驚き、必死に巻き返そうと私は慌てふためく。いけない。それを聞いてしまってはあなたの優しさに満足できないみたいで、それを疑ってしまってるみたいで、いつもは飲み込んで胸のポケットにしまってあった言葉なのに。そんな言葉がつい、顔を出した。
一人で勝手に慌て出すそんな状況にも関わらず、穏やかで落ち着いたあなたは変わらない優しい眼差しを向けてくれた。
「それはね、君が好きだからだよ」
それはまるで私の全てを受け止めた様な、こんな私でも全てを包み込んでくれる様な、そんな言葉だった。嬉しい。あなたがそう言ってくれるなら私は世界一の幸せ者だ。でも……
あなたはいつも穏やかに、私を甘く包み込んでくれる。嬉しい。幸せだけどそうじゃないの。あなたのその暖かな優しさが少しずつ、少しずつ私を溶かしていき、心の端から寂しさが流れ出る。本当は寂しさを感じてはいけないのだろうけど、私はあなたの気持ちが分からない。知ろうとすればするほど、私が好きと言う言葉で包まれてしまう。その心地良い優しさは私の心を暖めたかと思うと、時間が経つほど溶け出して、甘ったるく、粘着してこびりつく。
あなたは私の全てを受け入れてくれて、いつもさりげなくそれに付き合ってくれる。私はそれが心地よくて、もっとあなたを知りたいと思ってるはずなのに素直にそれに包まれてしまう。
あなたは私の全てを知っていても、私はあなたの全ては分からない。私は、あなたに幸せをあげられるのだろうか。
あなたの本当の気持ちが分かるまで、私は優しさに包まれながらあなたがそれを口にする時を待つ。