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あなたと結ばれて

「ラチェットと話をさせて」

「断る」

「教会のこと。放置して置けないでしょ」

「オレ達には関係ねぇ。こいつを倒したあと、誰も知らない場所で暮らすつもりだったんだ。会話する必要があるとは思えないんだよ」

「……貴族としての身分を、捨てるつもりだったの」

「オレはエルさえいれば、他には何もいらない……」


 どうやら、私達は同じことを考えていたようだ。

 悲しい結末を迎えるくらいならば、貴族の肩書など必要ないと思い切るその姿勢は、悪くないが――。

 すべてをほっぽり出して生きるのは、無責任にも程がある。


「ラチェット。あなたの願いは……」

「エル!」

「大丈夫。ディルを裏切ったりしないから」

「……!」


 私はゆっくりとディルの胸元から顔を上げ、護衛騎士に視線を向ける。

 彼にも複雑な思いがあるのでしょうね。

 ラチェットは私達の姿を申し訳なさそうに、拳を握りしめながら見つめていた。


「私の幸せを、護衛騎士として見守ること」

「はっ。ラチェット・マストンド、この命に代えましても、お嬢様を守る剣であり盾であり続けます!」

「……どの面下げて、言ってんだ……」

「ディル、やめて」

「くそ……っ」


 私の嫌がることをすれば、婚約破棄すると騒ぎになり、ラチェットに奪われてしまうことを恐れているのかもしれないわ。

 何も言えなくなった彼は苦しそうに吐き捨てると、口を閉ざした。


「その気持ちに嘘偽はないと誓えるよね」

「もちろんです!」

「わかった。私はそれで、いいと思う」

「エル!」

「私が嘘をついたせいで、話が大きくなってしまった。巻き込んでしまってごめんなさい」

「いえ。お嬢様が聖女エステラムの魂を受け継ぎしものであることは、変えられぬ事実です。謝罪するようなことでは……」

「違うけど」

「いえ。お嬢様は確かに、聖女エステラムの生まれ変わりです」


 何度否定しても、うまく話が噛み合わない。

 一体どうなっているのだろう。


 私は間違いを正すために、ラチェットとの言い合いを開始する。


「エルミーヌ・テルセートは瀬戸留美の生まれ変わり。聖女エステラムは、どっから出てきたの」

「セトルミとは……?」

「私の前世」

「……お嬢様は、前世の記憶があるのですか?」

「聖女エステラムの記憶はないけど」

「なんと……。では、一度別の人生を経由してから新たに生まれ変わり、私達は再び巡り会えたのですね……! これを奇跡と呼ばずとして、何を称すればよいものか……!」


 一人で勝手に盛り上がり涙を流し始めたラチェットに、ディルがドン引きしている。


 このまま告白してきて強引に奪われるのではないかと警戒しているのかもしれないが……話がややこしくなるからやめてほしい。


「そんなことはどうでもいい。エル、まだ話は終わらないのか」

「……私が聖女エステラムではないってこと、ラチェットに信じさせるにはどうしたらいいと思う」

「無理だろ。エルが女神の生まれ変わりだってことは、教会とあの女も太鼓判を押してやがる。いくら本人が否定しても……」

「……本当に、私が女神の生まれ変わりなら……」


 ミストラルの盟約に登場していたエルミーヌ・テルセートが、そもそも聖女エステラムの転生体であった可能性はないだろうか?


 作中で語られることはなかったが、物語の主人公であるクレマリアは現在、勝利の女神を名乗っている。

 勝利の女神と聖女エステラムは仲が悪く、いがみ合っていたらしい。


 もしもエルミーヌがマリアに憎悪を抱いていた理由がディナルドを取られたことだけではなく、前世にまつわる感情に引っ張られていたとしたら? 


 ディルが捕らえられた彼女を助けることなく見殺しにしたのは、クレマリアの魅了に魅入られていたからではなく――。

 聖女エステラムであることを祭り上げられ、教会に奪われることを恐れた可能性はないだろうか?


 ――ディナルドは魂と身体を分離させる魔法が使えるらしい。


 変身魔法を使える誰かと手を組めば、表向きはエルミーヌを裏切ったふりをして処刑させて魂と身体を分離させ、ほとぼりが冷めるまで手元に置いておばいい。


 その後元の状態に戻せば――誰にも茶々を入れられることなく、愛し合う二人はひっそりと穏やかに暮らしていけるだろう。


 そうなると、作中で処刑されたあとに描かれた霊体の彼女は、身体と魂を引き剥がされて困惑していた生霊の可能性が高い。


 ――作中でも、ディナルドがエルミーヌを裏切っていたわけではなかったと言うことだ。


 私は自分に都合のいい結末を捏造して、ある意味では原作通りの展開になっているのだろうなとため息をこぼす。


 ――結局、抗う意味はなかったってことか。


 無駄な時間を消費してしまったと考えただけで、どっと疲れた。


 ――だったら、一体なんのためにディルはクレマリアと……。


 私はあまり気乗りはしないけれど、彼女に会いに行こうと決める。


「なぁ、エル。もういいだろ。早く二人きりになりたいんだが」

「ラチェットはもういいけど、マリアに聞きたいことがある」

「まだ話し足りないのかよ……」

「もう少しだけ、我慢して」

「仕方ねぇな……」

「ラチェットは護衛として、今まで通り私のそばにいるから」

「それは許せねぇ」

「王命が下れば、教会も逆らえないはず。私の隣はディル。後方は、ラチェットが守ってくれる。完璧な役割分担でしょ」

「エルの視界に入るな」

「はっ! 物陰に身を隠しながら、お守りいたします!」


 ディルの命令を忠実に守った護衛騎士は、スススと足音を消して一瞬で姿が見えなくなった。

 やっと肩の力を抜いたディナルドは、私を抱き上げると土に突き刺さった己の剣を回収する。


「疲れてねぇか」

「……平気。教会が襲ってきても、私は絶対にディルから離れない」

「当たり前だ。頼まれたって、離さねぇよ」


 そうして私達は、弟カップルと合流するために歩き出した。

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