表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/44

ディナルドの暴走を止めて

「悪役令嬢を、舐めないで……!」


 ――はっと目を覚まして起き上がれば、しっかりと自分の喉から声が出ていることに気づく。

 私が今いる場所は、見覚えのある薄暗い部屋だ。

 慌てて指を弾き、魔力を使って明かりを灯す。


 ――よかった。魔法も使えるようだ。


 床に寝そべっていた私の周りを囲む魔法陣を破壊したら、ディルに身体を取り戻したことがバレてしまう。

 どちらにせよ真正面からベルクフリートを出ていこうとすれば、エドとクレマリアをどうにかしなければならない。

 二対一はきつすぎる。

 ここは隠密行動を取るべきだ。


『緊急ミッション! ディナルドの暴走を止めろ!』


 ――あの人を止められるのは、私だけ。

 その為には、あっと驚く予想外の方法で動きを止めるのが一番だ。


 そう考えた私は、魔法陣の影響によって身体にまとわりつくディルの魔法を辿り、彼の元へ転移することにした。


 ――私を、ディナルドの元へ導いて。


 上半身を起こして心の中で祝詞を紡げば、一瞬で彼の元へ移動する。


「ディル!」

「な……っ!」

「お嬢様!」


 しかし、そのタイニングが悪かった。


 ディルは今まさにラチェットを切りつけようと剣を振り下ろしたところだったのだ。

 すぐに彼は私の存在に気づいたものの、その手を急に止められるはずもない。


 背中からは護衛騎士の悲痛な叫び声が聞こえるが、構っている暇などなかった。


 ――私が怪我をすることで愛する人が正気に戻るなら、これは必要な犠牲なのだと考えるべきだ。


「くそ……っ!」


 覚悟を決めた私が微笑めば、驚くべきことが起きた。


 彼は命よりも大事なはずの剣を左へ投げ捨てると、そのまま右腕を使って腰を抱き、自らの元へ手繰り寄せたのだ。


「触んな……!」


 左手を使ってラチェットを制したディルは、私を強く抱きしめたまま彼に警告する。その姿はまるで、子どもを守る手負いの獣みたい。

 なんだかおかしくて堪らなかった。


「ディル。剣が……」

「そんなこと、どうでもいい!」

「あれが……」

「なんで来た!?」

「見過ごせなかったから」

「オレよりも、あいつを選ぶ為だろ……!?」

「違う。聞いて、ディル」


 身を護る術を失った彼の姿を遠目で見守っていた教会が、邪魔しにやってくる可能性もゼロではない。


 早急に彼との意思疎通を終えなければと強い気持ちで瞳を合わせれば、ディナルドの瞳が不安そうに揺れ始めた。


「エルはオレのものだ」

「うん」

「オレの愛は、誰にも負けない」

「知ってるよ」

「だったら……!」

「私は、ディルと一緒に生きたい。変な言いがかりをつけて、八つ当たりするのはやめて。みっともない姿を見続けていると、嫌いになる。それでもいいの」

「そんなの、許せるわけがねぇだろ……!」

「そう言うと思った」


 私達に足りなかったのは、円滑なコミュニケーションだ。

 一方的な思いを押しつけあったせいで、二人の考えが一致するまで随分と長い時間がかかってしまった。

 私はずっと伝えられなかった素直な気持ちを、ディルに向かってはっきりと宣言する。


「ディルのことが好き」

「エルは……!」

「聖女エステラムの生まれ代わりって話は、嘘なの。私は瀬戸留美だから。神の化身なんて愛していないし、ラチェットに好意を抱いたことはない」

「セト……?」

「愛する人の言葉すらも信じられなくなるほど我を失う人と、結婚したくはないから。それは、改善してほしい」

「……っ!」


 心当たりがあったからこそ、ディルはバツが悪そうに唇を震わせているのだろう。


 ――やっと声が届いた。


 私はほっと一息つきながらも、まだ終わっていないと身を引き締め直す。


『緊急ミッション達成。交渉レベルが3上がった』


 問題は山積みだ。

 愛する人を正気に戻し終えたあと、次に対話するべき人が待ち構えているのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ