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ディルの狂気と難易度変更

『エルを守れるのはオレだけだ。エルは誰にも渡さない。オレだけのものにならないのなら、オレだけにしか手が届かない場所に避難させてやればいい。エル。愛している。オレだけの最愛。将来の伴侶。あいつにだけは、絶対に奪わせない。奪われるくらいなら、殺してやるよ……!』


 数十秒思考を読み取っただけで、愛の重さに潰れそうになった。


「ひ……っ!」


 悲鳴を上げるのも無理はない。

 知らなかった。

 彼の愛がこれほどまでに屈折していることを。


 ――やっぱり嘘だった。


 手に入らないなら殺してしまえばいいと考えているあたりが一番最悪だ。


「ああ……読み取ったのか……」


 彼はバレたなら仕方ないとばかりに歪な笑みを浮かべると、左手の薬指で唇をなぞる。


「今、やっぱり信じるんじゃなかったって後悔してるだろ」

「……嘘つき……!」

「怯えた顔もかわいいな? オレは嘘なんてついてねぇよ。隠してただけだ。エルがオレに愛を囁くことなく長い間待てを命じたまま放置するせいで、壊れちまった」


 ディナルドは軽薄そうな笑みを浮かべているが、私は全然楽しくないし恐怖しか感じない。

 あなたを好きになった私が馬鹿だった。

 恩を仇で返されたような気持になって、全身が怒りに支配される。


「なぁ、知ってるか? ほんとにイカれてるやつは、あの女みたいに自覚がないらしいぜ。つまり、オレの場合は正常ってこと」


 あの女とは、クレマリアのことだ。


 私の婚約者は彼女よりはマシだと豪語しているけれど、どちらも同じくらい異常なほどの愛を私達姉弟に向けているとしか思えなかった。


「……殺すの……?」

「はは。まさか。エルはオレと一緒に生き続けたいんだろ? 全部オレに任せとけ。愛する姫が眠っている間に、王子が全部片づけといてやるから」

「……っ!?」


 唇をなぞっていた指が、私の目元を覆い隠す。

 突如真っ暗闇に包まれてしまいパニックになり、彼から逃れようと必死に身体を動かす。


 けれど……。

 鍛え抜かれた逞しい腕に抱きしめられてしまったら、どうしようもならなくて――。


『緊急ミッション!』


 脳内ではチカチカと赤い警告ランプが危機を告げ、新たなミッションの発動が伝えられた。


 ――この状況で、どうやって回避しろって言うの!? 


『緊急回避レベル3を使って、この困難を回避しますか?』


 ――回避できるものなら、したいに決まってる!


『エラー。レベルが足りません。推薦レベル10。原作通りのシナリオを遂行します』


 ――原作通りのシナリオって、つまり。


 エルミーヌ・テルセートの処刑!?


「死にたくない! 二度も死ぬなんて、いやぁ!」

「大人しくしてろ。傷つけちまう。オレがあの男とは違うってことは、エルだって知ってるだろ」

「知っていたとしても……!」

「この期に及んであいつに助けを求めるなら、ほんとに殺しちまうぞ」

「……!」


 死をチラつかされて脅されてしまえば、黙っているしかない。

 ふざけるなとどれほど心の中で叫んでも、彼に伝わるはずもなく――。


「オレのそばで、見てろ。あいつが二度とエルに手出しできねぇようにしてから、迎えに行ってやるから」


 どんどんと視界が薄れ、意識が遠のいていく。


「オレに全部、任せときな。目覚めた時には、全部終わってるはずだ」

「な……!」


 ――目覚めた時? 永遠の眠りなんて言わないよね!?


 叫び出したい気持ちでいっぱいだったけれど、私の身体はなぜか言うことを聞いてくれなくて。


 薄れる意識の中、真っ暗闇にはぼんやりと白い文字が浮かび上がる。


『緊急ミッション失敗』

『ペナルティとして、すべてのレベルが初期ステータスに戻ります』

『難易度をイージーに変更』


 ――難易度?


 まるでゲームの中で攻略を失敗してしまった時のような酷いシステムアナウンスとともに、不思議な文字が表示された。


「よい夢を」


 イージーと言うことは、今まではとても厳しい戦いを強いられており、この瞬間から優しくなった可能性が高い。


 そう悲観する必要はないのかもしれないと一瞬楽観視したけれど、そう言う問題ではないだろう。

 このまま命が終わってしまうなど、冗談じゃないわ! 

 できる限りの抵抗を試みたけれど、真っ暗闇には真っ白な文字が浮かび上がるだけ。

『エラー』

『シャットダウンを開始します』


 ――このまま原作通りに進むのであれば、私は幽霊になるのかもしれない……。


 危機感を感じた所で、どうしようもならないのだから諦めるしかないわよね。


 抗っても無理なら、受け入れて前に進むしかないでしょう。


 ポジティブに行こうと考えた私は、心の中でディルに思いつく限りの口汚い罵倒を繰り返しながら、意識を手放した。

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