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クレマリアの怪しい動き

 ――それから半年後。


 落ち着きを取り戻した辺境伯の領地に、私達姉弟の父であるテルセート公爵がやってきた。

 彼はディナルドの父親に長らく娘と息子の面倒を見てくれたことに感謝の意を述べると、領地に戻るように促してくる。


「気をつけて帰れよ」

「うん。ありがとう、ディル」


 ディルと別れを告げた私はすぐに身体を離して父の元に向かったが、エドの背中に隠れていたクレマリアがタダで引き下がるわけもない。

 彼女は当然のように父親の前へ躍り出ると、ドレスの両裾を摘んでカーテシーを披露し挨拶する。


「テルセート公爵に、ご挨拶申し上げます」

「貴様は……」

「わたしは勝利の女神、クレマリア。アイオハルム公爵の娘です」

「元敵領の娘が、一体なんのようだ」

「単刀直入に申し上げます。ご子息を、わたしにください」

「断る。なぜ貴様のような敗戦領の小娘を、嫁として娶らなければならないのだ。エドアーノは我がテルセートを担う跡取りだぞ。貴様のようなどこの馬の骨かもわからぬ女に……」

「今すぐ結婚が無理なら、まずは婚約者にしてください」


 父の瞳を覗き込んだクレマリアが強い口調で命じれば、すぐに異変が起きた。


 彼は辺境伯と同じように彼女の魅了に抗おうとしていたようで、長い間身体を震わせながら沈黙していたが――。

 やがて、震える唇から紡ぎ出された言葉は彼女が待ち望んでいた言葉だったようだ。


「……わか、った……。エドアーノと貴様の婚約を、必ずや実現させてみせよう」

「ありがたき幸せと存じます。テルセート公爵。最優先で、お願いいたしますね。くれぐれも、申請を出したあとに撤回しないようにお願い申し上げますわ」

「……あ、あ……」

「ふふふっ」


 妖艶に微笑むクレマリアと、何も言えずに困ったように笑うエドアーノの姿が印象的だった。


「それでは、エドさま。わたしは急用ができましたので、少しだけお側を離れます」

「急用?」

「ええ。安心してください。すぐにお会いできますから……」


 一生会えなくてもいいのになぁと、エドアーノの声が聞こえてきそうだ。

 クレマリアはてっきり私たちと一緒にテルセート公爵家で暮らすとばかり思っていたのだが、どうやらもう少しだけモントーネ辺境伯に滞在するらしい。


 彼女がエドと離れる選択をするなんて……一体どんな風の吹き回しだろうか……?


 嫌な焦燥感が胸を掠めながらも、ディルと別れを告げてしまった以上はここに滞在し続けるわけにはいかないだろう。

 そう考えた私は、ディナルドに釘を刺すことなく辺境伯をあとにした。


 *


 領地に戻ってから、不思議なことが起きた。


『通常ミッション達成! 交渉レベルが1上がった!』


 脳内マップに突如として、何もしていないのにミッション達成の通知が表示されたのだ。

 それは一生達成が不可能とされていたはずの、クレマリアをアイオハルム公爵領に戻せといった内容のもので――。


 ――あの子は一人で、何をしているのだろう。


 過程こそ異なるが原作通りにアイオハルム公爵領が辺境伯のものになった以上、彼女も貴族の名を返上することになったはずだ。


 私はドサクサに紛れて、ミストラルの盟約にて彼女が名乗っていたスカレステの家名を口にしていた。


 マリアがその名にピンときて、その名を名乗れるように画策しているのだとしたら――。


 原作通りに話が進むのならば、やはり平和ボケしてもいられないのかもしれない。


 私は自らの死が訪れないよう願いながら、エルミーヌ・テルセートとして静かに時間を消費し続けた。

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