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冴えてる聖騎士

 六年後には聖騎士団長となるべき男が、どうして瀕死の重傷に陥っているのか……。


 この世界では12歳からすでに成人としての扱いを受けるけど、まだまだ子どもと言うことなのだろう。


 悪意を持った人間は、つねにどこかで身を潜めている。

 隙を見せれば途端にパクリと食べられてしまう。


 ――腕っぷしが強いわけではないエルミーヌがいれば快勝できるのに、対人戦に自信のあるディナルドがエドアーノと一緒に戦地に赴いた途端に敗北を期すなど、おかしな話だ。


 これがご都合主義って奴かしら?


 それだけ彼女の心を読み取る魔法が強力であり、アイオハルム公爵の弱点となりうる情報を作中では引き出せていたと言うことにしておくしかないだろう。


 ――どうして私が危険を顧みず、あの人を助けなければならないのか。


 そんな気持ちを抱かないかと聞かれたら嘘にはなるけれど、見殺しにするのは目覚めが悪い。

 私が頑張れば彼の命が繋がるのであれば、ここで恩を売っておいて、逆に手籠めにすればいいんだわ!


 憂鬱な気持ちをポジティブに捉え直した私は、聖騎士の声によって意識を現実に戻す。


「お嬢様……。やはり無理があるかと……」


 モントーネ辺境伯へ徒歩で向かうにはやや距離があるため、ラチェットの愛馬の上に乗せてもらって移動していた。


 彼は誰にも許可を得ずに私の独断で領城を飛び出したことが気に食わないらしく、異を唱えてくる。


「私とディナルドに死ねって言うの」

「い、いえ! そのようなことは! しかし……お嬢様が戦地に赴いても、お力になれることは何一つないかと……。やはり、公爵に協力を要請するべきでは……」

「婚約破棄をしなければ女神の天罰が下ると、でまかせを口にしてしまった手前、お父様には頼めない」

「……はい?」


 聖騎士はどうやら、女神エストラムの予言を信じていたようだ。

 仰々しくあたかも真実かのような口ぶりで話していたので、勘違いするのも無理はないけれど……。


 ――まずはそこからか……。


 誤解を解くのがめんどくさいと感じながらも、渋々彼の疑問へ答えることにした。


「あれ、嘘。女神の信託なんて、受けてない」

「な、なんですと!?」

「そうなるかもしれない可能性を、それっぽく口にしただけ」

「一体、なんのために……」

「あの人と結婚したくなかったから」


 ラチェットは息を呑み、馬から転げ落ちないように腹部を掴む手を強める。

 彼は私の耳元で、言いづらそうに伝えてくる。


「お嬢様は……モントーネ辺境伯令息を誰よりも愛していらっしゃるのでは……」

「あれは愛じゃなくて、依存。あの人でなくてはならない理由はなかった」

「そのようなことは……」

「愛してくれるなら、誰でもいい」

「では、もしも……私が手を挙げた場合……」


 ラチェットはこうして私の無理難題を受け入れ、護衛騎士として文句を言いながらも任務をまっとうするつもりはあるようだ。

 あまりテンションの下がるようなことは伝えたくないが、希望を見出してワンチャンを狙われても困る。

 ここははっきりきっぱり、フラグは折っておくべきだ。

 そう考えた私は、冷たい声で伝える。


「選択肢にない」

「そ、そうですか……。それは、誰でもいいわけではないのでは……」


 彼が作中でエルミーヌといい関係になるような登場人物であれば、ディナルドを助け出すなどトチ狂った発想を得ずに縋っていた。

 そうならなかったのは、原作通りに行動したくないと言いながらも大きく逸れるのが嫌なのかもしれない。


 ――それに、何よりも。


 記憶の中で、エルミーヌが泣き叫んでいるのだ。


『ディルを見殺しにて他の男に縋るなどあり得ないわ! 命を賭して、彼を助けなさい!』


 自分が転生して彼女になったことを本当の意味で受け入れられない私の心情は、いつだって荒れ狂う波のように激しく暴れ回っている。


 ちょっとでも気を抜けば、エルミーヌの記憶に引っ張られて激情に駆られ、錯乱状態に陥ってしまいそうだ。


 私はかなり危うい状態で、瀬戸留美の記憶を頼りにエルミーヌ・テルセートとして生きていた。


「ねぇ、マストンド卿」

「はっ」

「……このまま真正面から進軍して、領地の中に入れてもらえるかしら……」


 領地間の移動は本来、領主の許可や推薦状などが必要となる。

 私達はアポなしで辺境伯に向かっている最中だ。

 ラチェットがどのような立場であるかは知らないが、作中で描写がなかったことを考えれば……かなり下っ端の雇われ聖騎士である可能性が非常に高い。


 私がテルセート公爵家の一員であると証明する家紋を象ったブローチは、日頃から身につけているけれど……。


 ――味方だった人間が、数分後には敵になっている。


 何かと騒がしい辺境伯の領地で私が駆けつけて身分を高らかに名乗った所で、喉元に剣を突きつけられてもおかしくはない状況なのよね。

 簡単な話が、入れてもらえないかもしれないと言うこと。


 どうしましょう。

 行き当たりばったりな行動をしたせいで、ミイラ取りがミイラになってしまうかもしれないわ……。


「恐れながら申し上げます!」

「どうぞ」

「エドアーノ様は、此度の戦争で戦果を上げ、辺境伯に留まっているとのこと! 文を出せば、悪いようにはされないのでは……?」

「……その発想はなかった」


 この聖騎士、やはり有能だ。

 先程は眼中にないと彼のテンションを下げてしまったが、これはこれでありかもしれない。

 無事に婚約破棄が成立したあと、ラチェットにその気があるならば検討してみようと決めた。

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