入学1日目“勇者育成所” 前半
『過去のセリフを思い出している時のかっこです。』『』
1日目の午前中です!
“勇者育成所”
この学校は、当たり前だけど普通の学校と違う。
“人類の脅威と戦う”事を目標とし、“人類の勝利”を目的としている。
国に認められた基準の人なら、何才からでも、いつからでも入学することが出来るから、年齢は様々だ。学年とかもない。
勇者科のクラスは、一つ。全員で33人。
それほど、基準が高い。
“勇者育成所”という名前だけど、学科は3つある。
1つ目は、メインの勇者科。
身体能力、精神力、基礎学習能力全てを、国の一番高い基準で合格している人達が集まっている。
魔王戦へ備えるべく、模擬戦で力を高めたり、仲間を作り“その時”に備える学科だ。
魔王についての座学も少しやるらしいけど、魔族についての、それこそ迷信を含めた全ての情報は、父さんの仲間たちが命をかけて消してくれた。
全人類の記憶から消す事はできないけど、元々デマくらいの情報しか出回ってなかったし、“魔王”が恐怖や絶望で塗り替えていると思う。
本当の情報であっても、ウワサや迷信になっていく。
どんな授業があったって、俺の邪魔になるものにはならない。
「イーラっ!あの子救護科だ!!!」
「え!?」
ニケの声で、意識が一気にグラウンドの女の子達の方へ向く。
そこには、さっき校門の前で見かけたあの桃色の女の子がいた。
「やっぱり救護科か。人類のために戦う勇者と、人類を癒やす女の子……相性バツグンだよ。」
「そう?やっぱりそう?」
珍しく狼狽えているニケに、自信を持って首を縦に降っておいた。大事だから3回ぐらい降った。
彼女のいる学科が、2つ目の“救護科”だ。
魔王戦での大規模な被害に備え、“人命救助、救出第一”としている。
即戦力を育てることが目的だから、とても厳しいくハードだ。
毎日人形を使い、グラウンドで本番を想定した実技を行う。
座学も多く、様々な資格も取ることが出来るらしい。
この学科は、やはり女の子がほとんどだ。でも、本当に体力のいる作業が多い。
男性の志望者も増えてほしいけど、色々考えるのは今じゃないと、一回思考をリセットした。
「お前、今日からあっち?」
ニケはそう言って、グラウンドの東側にある建物を見た。
俺も、俺の通うことになる建物をしっかりと見た。
「うん。あれが、技術科の校舎だね。」
3つ目は、“技術科”
俺の入学する学科だ。
勇者科と救護科は、一つの同じ校舎だ。
本校舎と呼ばれるくらい大きな校舎は、グラウンドの北側にある。普通の学校と同じだと思ってくれていい。
技術科だけ、校舎がグラウンドの東側にある。大きさは、本校舎の3分の1ほどだし、見た目も校舎というより大きな平屋が建っている感じだ。
人数も、2つの学科より明らかに少ない。
2つの学科のように派手に花形でないのも確かだけど、人が少ない一番の理由は“この学科には天才がいる”からだ。
多くの人が、その天才にかなわないと、この学校を自ら去ったらしい。
ぜひ、どれほどの人で、どんな事をしているのか知りたい。外に出ている情報は調べ尽くしたし、それもすごかったけど、知りたい情報はなかった。
その天才が、どう魔王戦へ本気なのか。これに尽きる。
この天才がどんな働きをしているか次第で、今後俺の予定は決まっていくだろう。
技術面でも、吸収できるものは全てしたい。
もちろん、この学科の人の能力値は全て把握する気だ。
(ニケが世界一の勇者になるために、やらないといけない事は山ほどある。気合を入れていこう。)
「イーラ。」
「なした?」
「なんで校舎わかれてんの?」
「色々作ったり、作業メインの人達も多いからね。機械音とかで他の科の授業を妨げるのを防止できるんだよ。グラウンドに出る人はいないくらいだし。」
「お前は外だろ。」
「そうだね。ニケの成長データを取って靴とか作りたいし、ニケの仲間も探したいしね。」
「ふーん。」
入学式や卒業式等無いこの学校。
人類の魔王戦への本気が伺えるから俺は嬉しいけど、ニケのキラキラな青春学生時代としては、キラキラなことが足りないかもしれない。
だからせめて、俺が死んでからキラキラで幸せがいっぱいな人生を歩んでほしい。
いや、そんなハッピーエンド以外いらない!
そのためには、ニケ以外の人類の人にだって頑張ってもらわないと意味がない。
ニケに人類の全てを背負わせたいなんて、露ほども思ってないのだから。
全人類殺せない魔王を殺してくれるんだから、もう一生分の仕事をしたと言える。
残りは、自分達の幸せのためだけに生きていい。
(ニケを見る人が増えてきたな。)
ニケはカリスマ性のある天才なので、すぐに人気物になる。
中学までもすごい人気だったから、下校は別々だった。
次会えるのは明日の朝、登校の時…
いや、今日あの女の子とゴールしたら連絡は電話のみとかになるかもしれない。
電話をいつでもとれるように、着信とバイブレーション両方マックスにしてから、ニケの顔を見た。
「したらね、ニケ。」
技術科の校舎へ向かう一歩は、ニケに腕を掴まれたことによって二の足を踏んだ。
「え?なした?」
「忘れんなよ。」
「え?」
何かを忘れたかと慌てる俺に、ニケは真剣な顔のまま
「一緒に、頑張るんだろ。」
と、念をおした。
その真剣な顔が、嬉しかった。
「忘れない。」
残りの人生、すべて捧げる。
「僕が、ニケを勇者にするよ。」
周りの人達が、は?とか、何言ってんの?と言ってるし、笑った人もいる。
でも、全部どーでもいい。
「当たり前だろ。」
そう言って、僕の勇者がニヤッと笑ってくれたから。
かっこいいなんてもんじゃない。今日ファンクラブができておかしくない。
僕の腕を離し、スタスタ歩いていくその後ろ姿まで様になっている。
僕の贔屓目じゃないことは、周りが何も言えず、ニケを見つめてしまっていることからも明らかだ。
一度、深く深呼吸をする。
(時間は、有限だ。)
俺も、技術科へと歩き出した。
「今日はまず、技科の人達のデータだ。」
どんな人がいて、どんな事をしているのか調べ、実力を把握する。
正直、1日で出来るか怪しい。でも、やるしかない。
今日は、教室に引きこもり作業だろう。
(引きこもり?)
『お前は外だろ。』
ニケの声が、頭の中でリフレインする。
「…ぇ゙?今日も外に出ろって意味だった?」
さらにハードになったけど、ニケが望むならやり遂げよう。
「頑張るよ、ニケ。」
初めて、ニケのいない教室のドアを開けた。
教室に入り、あらかじめ通達されていた自分の席を見つけて座る。
全生徒に学校から割り振られている、備えのパソコンだけがおいてあるシンプルなテーブル。
その横へカバンを立て掛け、すぐにパソコンをたちあげた。
同時進行で、自作のパソコンもたちあげる。
上着の左ポケットから小型のドローンをだして、そいつを起動させた。
小さくブオンと音を立て、光り始めるドローンから、宙に2つの画面が映し出される。
学校のパソコンと違い、これはキーボードとマウスはない。
でも、何も無い空間でキーボード操作をすれば、カタカタと音を立て入力されていく。
俺の指紋をドローンが認識し、その位置と動きを完璧に“俺の部屋にある本体”ヘ送っているという仕組みだ。
これで、俺はどこにいても、好きなときにパソコンを操作できる。
極端な話、水の中でもパソコン濡れること無く、作業が出来るといった感じだ。
やっていることは、パントマイムである。
でも、データは本体ヘ送っているので安全だし、移動しながらであっても、起動しっぱなしで充電や電波を気にしないでいい。
別々の画面で別の作業が出来るし、重さは500グラムのドローンだけでかさばらない。ドローンは飛ぶようにしてあるし、追跡機能で勝手について来るから、思いのままだ。
ピコンと音がなり、動作や電源等に異常が無い事を知らせてくれる。
今後、このたちあがりを3倍は早くするため改良する予定だけど、今日はしない。
同時に右手で操作する学校備え付けのパソコンは、全校生徒のパソコンと繋がっているものだ。
全校生徒の実績や功績のデータも入っていて、細かい個人情報やプライベートなもの以外は見放題だ。
このパソコンから得られる情報を全て確認し、めぼしい人達の情報をデータ化して自作PCヘ送る。
これが終わらなければ、今後の俺の活動予定が立たないと言っていい。
魔王討伐メンバーを見つけ、最終決戦に備える事。
平和になったあと、人類がその平和を長く維持できるよう技術を向上させる事。もしくは、技術を持っている人達がそれを発揮できる場を増やすこと。
この2つは絶対にやらないといけない。
ニケとお嫁さんの幸せな人生に、影など一つもいらない。
「さぁ、やれること全部、やろう。」
利き手は、何も無い空間でキーボードをうつ。
パチパチと音と感覚が指から伝わってくるこの指を伝わる感覚も、音も、俺は気に入っていた。
ララさんと、夜は必ず6時間寝るという約束もしてしまっているので、1日は24時間もない。
天才ではない俺は、努力するしかないけど、辛いとか、きついとか、今まで全く無かった。
明るい未来が約束されているからかもしれない。
魔王が消え、勇者達が幸せになる。
ありきたりだけど、一番のハッピーエンドが。
フェル (享年28歳) 性別(男性)職業 魔王補佐官
好きなモノ(魔族 家族 妻の手料理 ゲーム 音楽 知識欲の湧くモノ 子供 レバ刺し お好み焼き)
嫌いなモノ (甘すぎるもの めんどくさいこと ケンカ 暴力 人類の虫酸が走る所 キョウに怒られること)
魔族の王であるケイの右腕的存在。
人類だが、人類から魔族を守ることに文字通り生涯を捧げた皆の兄貴分。
物理的な強さは一般男性以下のところがあるが、とにかく頭の回転が良く、人柄もいいので敵に回してはいけないタイプの狐のような男。
色々あったが魔族の女性と結婚し、1年に一度妊娠させ、魔族初の4児のパパという偉業を成し遂げた、ある意味神と呼ばれた魔族を愛し、魔族に愛された男。
尻に敷かれるではなく、尻に自ら滑り込んでるタイプの愛妻家。
子供が好きで、身内にも優しく、博識でトーク力もあるので誰からも好かれるが、調子に乗らないでいられたのはキョウという絶対的に敵わない人がいたから。
魔族とケイ達を心から大切にしていたので、人類であるキョウとの交際を反対していたが、結局一緒に魔族を守るために奮闘し続け、友としてキョウに多大な信頼を寄せていた。
ケイが魔王になったことを本気で止められなかったこと、キョウが殺害されるところをライラに見せてしまったことを、死ぬまで後悔していた。
不死鳥のフェルと呼ばれるほど悪運の強い男だったが、キョウの次に亡くなってしまったのは彼だった。
彼の子供は全員男で、長男がライラの代わりに魔族の王を務めている。




