ソウの英雄を目指すと決めた日 前編
前回の話の“ソウ”視点です!
前編と後編に分かれています!
同性愛、下ネタなど、過激ではないですが表現されています!苦手な方はご注意ください!
15年ぶりの魔物が出現した次の日、人類は水面下で大きく動き始めた。
表面上でも、テレビやラジオがいつもと違っているから、気がつく人は気が付いていると思う。
いつでも避難できる準備と、情報を受け取る用意をしておくように5分おきで注意喚起されていたら、何も起こってないは無理があるし。
国民が不安に思わないようにか、本当にあったことなのか、“神からのお告げ”を授かったから発表することも、5分おきで絶対に伝えられていて、全国民がその発表を視聴しないといけないと呼びかけられている。
でも俺達は、フライングって言ったら変だけど、“お告げの内容”的なものを昨日聞いてしまっていた。
どうやら、魔王を倒し、人類を救う勇者が現れる………らしい。
「でもぶっちゃけ、現れるってどうやってじゃんねぇ?今から産まれても間に合わない気がするし、まさか別世界から召喚!!とか無いだろうしさぁー。」
隣りにいるこーちゃんは、そだなとあまり興味なさそうな返事を返す。
でも、実はめちゃくちゃ考えているってことを俺はわかってた。
俺達が“勇者かもしれない”と思えてしまった男が、同期として同じ学校に現れてしまっているからだ。
こーちゃんが勇者に憧れていたことを、俺は誰より知っている。
武器が剣だったのも、赤い服を好んでいたのも、もっと細かく色々と、こーちゃんの中の強い勇者像に近づくための物事たちだったし、こーちゃんはそれをクリアして本気で勇者になる気だった。
勇者は、間違いなくこーちゃんの夢で、目標だった。
魔王を、人類の一人が倒せるなんて思っていない。
バリアを持ってる聖女様達すら、一つの国を守りきるだけで精一杯だったのに、バリアも治癒も使えない、“神”とは無関係の俺達人類が個人で戦ったって、手も足も出ないのは皆わかりきっていた。
わかっていた、つもりだった。
本物の魔物が、目の前に現れるまで。
思い出しても、本当にゾクゾクとする造形だった。
俺では、到底思いもつかない生物。
人の恐怖を体の中から呼び起こすような、生物として絶対にありえない関節の曲がり方。
目や口に見える部分は、大きさがバラバラで、だけど、わざと怖がらせるように作っていないような不自然な自然。
まるで、無邪気だからこそ残酷な子供が、生き物の身体の部品を好きに組み立てて、命みたいなものまで与えてしまったような……。
一つだけしっかりと言えるとしたら、常人が思いつくデザインではないということ。
魔王なんだから、当たり前だろって言われたらそれまで何だけど…。
あんなにすごいものを作り出せるのって、もはや才能くらいまであると思う。
絶対にコアなファンが付くだろうし、魔王でいるのがもったいない。
「ねぇ、こーちゃん。」
「ん?」
「きっと、魔王が倒されないと、人類は心から平和って思えないし、魔王に負けたら、人類が滅亡するか、魔王を憎しみ続けて戦争は終わらないかだよね。」
「……大雑把に言うとそうかもな。」
やっぱり、魔王がその才能ごと散らないといけないことは確定している。
だって俺達は、たとえ命をかけてでも守りたい人達がいる。
負ける気も、諦める気もない。
(来世は、同じ人類に産まれてきてくれないかな。)
生き残る戦いだから、そのための手段は問わないし、多いほうがいい。
“勇者”だと自称している、ほぼヤンチャな暴れん坊のニケと、その隣で優しく微笑んでる彼の幼馴染を思い浮かべた。
「ニケの幼馴染が考えてる避難シェルターさ、めちゃくちゃ気になるべや。」
ニケのサポーターだから、ニケの武器みたいな戦闘的なものを発明してる人だと思っていたけど、昨日それだけではない事を知れてめちゃくちゃテンションが上がった。
技術科の人達と交流できる機会が無いことは、絶対にもったいないことだと思ってたし、彼を通じてもっと色んな情報や凄い人たちを知る機会も増える気がしているから、俺は早く仲良くなりたくてルンルンだった。
そんな俺に、こーちゃんは呆れ顔だ。
「今日、話を聞けるどころか、会わせてくれるかも怪しいべや。昨日全敗したし。」
ニケは警戒心が強くて、俺達が幼馴染に近づくのを許さなかった。
俺に勝てたらなんて、年頃の娘を持つ父みたいなことまで言い出すし、ちゃんと全勝を掻っ攫うような奴だ。
「でも、ここで待ってれば絶対に会えるべや!!」
「だからお前こんなとこで俺まで隠れさせてんの!?」
声の大きなこーちゃんを、「しっ!」と言って黙らせる。
学校の校門へ向かう一本道だから、ニケ達が歩いてきたのがすぐわかった。
こーちゃんも気がついて、まだ隠れたままでそばまで来るのを待ってる俺にドン引きしながらも静かにしていた。
でも、俺達は想像した何倍も青春してる二人を見せつけられることになった。
ニケが幼馴染の事をイーラと呼んでいるから俺も呼んだのに、本名は“ライラ”だから、俺達はイーラと気安く呼ぶなって感じでぶっ飛ばされた。
娘を持つ父どころか、彼氏みたいだ。
「一緒に登校して思ったんだけどさ。」
「一緒に登校できてねぇんだよ。ブチギレたニケにぶっ飛ばされて、おいていかれたが正しいだろ。」
こーちゃんの言う通り、ニケ達と登校できなかったし、そのことにもちろん不満はあるけど、言いたかったことはその不満じゃなかった。
「あの幼馴染君のリュック大きくなかった?アレ毎日背負って通学はしんどいべや。」
「それくらい、技科って大変なんだろ。」
昨日の魔物の出現は、こーちゃんの心を大きく変化させた。
勇者を諦めてしまったこともだけど、ニケのそばにいる“イーラ”という存在や、“技術科”に対しての認識や態度を大きく改めた。
俺は、こーちゃんの“イーラ”への印象や対応が、間違っていたとは思ってない。
肌は白くて陶器みたいにすべすべだし、肩とかなで肩気味だから、余計に華奢な印象の彼は、いかにもグラウンドでの作業が似合わなかった。
グラウンドがというより、ニケのそばがかもしれない。
ニケは一見暴君だから、余計にナイーブそうに見える彼と合うように見えなかった。
虎の威を借る狐に見えてしまってる、少し勘違い気味の人達も勇者科にいるから、余計にこーちゃんは心配していた。
技術科なんだから、建物の中で大人しくしてろみたいな、自分たちの立場が上だと勘違いしてる人達は、それを勘違いだと気が付かないし、いつ恥ずかしげもなく押し付けてくるかわからない。
こーちゃんは、自分が代表として先に彼に絡むことで、他の人がよく考えもしないで苛立ちをぶつけ、彼を傷つけることを避けようとした。
体も心も、守ってもらわないといけないほど弱いなら、ニケのそばにいるのは良いことではないと本気で思っていたとも思う。
でも、技術科の“イーラ”は予想以上に心が強かった。
技術が、戦う剣にも、守るための盾にもなると示すほど、彼は魔物戦でしっかりと功績を残した。
逆に、技術科は中で大人しく作業なんてことを、彼を先導に変えていかないといけないと思うし、彼なら変えていけるかもしれないと思えるほどだった。
「早く仲良くなって、色々開発の裏話とか聞きたいよね。」
そうだなとそっけない返事を返すこーちゃんは、悲観や反省とかネガティブなものに囚われているわけじゃない。
でも、“熱”を無くしていた。
“目標”を変えないといけなくて、どう自分を変えていいか分からなくて、冷静になりすぎてるっていうか、元気は無かった。
それもしょうがないし、自暴自棄よりずっといいけど、
俺は、この冷静なだけのこーちゃんを超えていける、もっと強いこーちゃんがいる気がする。
その強いこーちゃんを呼び起こすのは、きっと俺一人の声では無理だから、
俺は、ニケと“ライラ”と仲良くなりたいと強く思っていた。
俺だって、きっともっと強くなれる。
それに、仲良くなれる確信のようなものもあった。
仲良くなるためには、同じ苦難を乗り越えたり、目標が同じだったりと何かが同じであるといい。
“魔物の様な影”をグラウンドに見つけて、走り出す俺達は、ちゃんと同じ方向へ向かっていると思えた。
でも実際は、ニケが俺達よりずっと前を走っている事にも、薄々気がついていた。
ニケは迫りくる影たちが“魔物じゃない”と音を聞いてわかっていたらしく、直ぐに技科舎へ行き、中のライラを呼びつける。
イーラの対応も早く、直ぐにドローンを何体も空へ飛ばし、魔物モドキ達を直ぐに調べあげ、警戒すべきハチ型の魔物モドキがいる事を伝えてくれたり、武器を持っていないこーちゃんにバズーカまで渡してくれて、ハチの魔物モドキを驚くべき速さでこーちゃんが処理することができた。
バズーカから出てきたのが、ド派手なショッキングピンクのトリモチだったのは驚いたけどね。
30体以上いた魔物モドキ達は、針を発射してくるハチ型の奴らの動きを封じたら、他はわりと楽に、時間もかからず全滅することができた。
改めて、危険が先にわかっていると対策もできて、被害も最小限に防ぎながら勝利できるんだと、技術面でのサポートに感謝の気持が湧いてくる。
サポートの仕方からもわかっていたけど、ライラはとても優しかった。
急に現れた“人類が作った”魔物モドキ達を倒し終えて、緊張の解けたこーちゃんが割と雑にバズーカを地面へ下ろしてしまった時、大きめの音がなった。
その音で、人から借りたものだったと思い出して思わずビクリと肩を動かしたこーちゃんに気が付き走ってきたライラは、バズーカなんか見もしないでこーちゃんの手の心配をしてくれたほど、優しかった。
優しい人のほうが、傷つく時がある。
こーちゃんの手が無傷なことを確認したライラは、今度はすぐハチの針を思い出したようだった。
ハチが放った針が木に刺さっていて、フラフラと引き寄せられる様に近づいていったライラは、針を素手で抜いた。
「え?素手で大丈夫なの?」という俺の声は届いてなかったと思う。
針を持ったライラの目は、いつも以上に真っ黒に見えて、その黒さを声に込めるみたいに「ドラァ!!」と叫んで銀色の箱を呼び寄せる。
いやその、叫ぶセリフにしろ、声にしろ、恐ろしいとか怖いとか思えなかったけど、怒りはしっかり届いた。
ニケに叩かれ、「何キレてんだお前。誰も怪我してねぇよ、落ち着け。」と言われるほど優しいし“熱い”とこも含めて、ライラという人物なんだなと思った。
箱にドラって名前つけたり、恥ずかしがらずに叫んじゃう不思議ちゃん的なところもあるんだなと和む…まではいかないけど、いいなと思ったし、やっぱり彼をよく知りたい欲が大きくなっていく。
その後、魔物モドキは国の偉い人に命令された人達が、勇者科の力を試すために襲撃させた事を、技科の天才として有名なまかみさんが暴いて問い詰め、臨時教員として来ていた人達が聖女の騎士であるハリーさんに直接叱責を受けて謝罪をした。
ハチの針についていた薬品のことも、ライラはドラを使ってすぐ調べていたから、それを見てハリーさんも怒っていたし、本当は叱責と謝罪だけでは済まなかった大惨事になっていたと思う。
その後、何故かライラの事を昔の写真を提出するよう促すほど怪しんでいるハリーさんと、両親の死という重くて大きな悲しみを背負っている幼馴染を守ろうとするニケや、国とハリーさんを信じないまかみさんによって色々ピリピリした冷戦的なものが起きたけど、
俺は国の未来に真剣なハリーさんにも、噂よりずっとしっかりしていて、同じ学科のライラにも気を配ってあげられるまかみさんにも、ハリーさんの話を聞いたうえで、ライラの傷を広げさせないために冷静な態度を崩さなかったニケにも好感を持った。
皆それぞれ大人の対応だったから、険悪なものにはならなかったし、ハリーさんも本当にまかみさんを信頼していることや、ニケ達の信頼を得てから、ライラの写真を見せてもらうと約束してくれるほどだった。
自分がホモに巻き込まれたくないだけで、差別的な思いも、嫌悪感もないニケが、同性である人を愛してると公言しているまかみさんと仲良く話している平和な時間が、途中で例の“全人類が見ないといけない発表”が始まり中断された。
大きなホログラムの画面が空に現れ、誰かが指示しなくても、皆がそれを黙って見上げた。。
ライラのホログラムより、だいぶ画像が荒いなと思いながらスクリーンを見ていた俺達は、同じくスクリーンを観てるはずのニケとライラの会話を聞いてしまった。
「イーラ、何考えてんの?」
「ニケの、幸せな未来の事しか考えてないよ。」
どんな顔でこんな会話してるのか見れない。見る勇気が無かった。
俺の知ってる青い春より、ずっとピンクに近い気がすんのに、ニケの好きなピンクの女の子は別にいて、心の中がモヤモヤし始める。神のお告げ的な難しい話は5分の1も頭に入ってこなかった。
しかもあの二言以降、二人は喋らなくなったから、余計に気になりすぎてしょうがない。
見つめ合っちゃってたりしたらどーしよう!
ホモが法で禁止されてるせいで恋を封印してるなら、俺達が変えてあげるしかない!
そんなことばっかり考えてた俺は、我慢できなくなってニケ達の方をそーっと伺う。
こーちゃんは無言でやめとけと俺の腕を軽くはたいたけど、俺はそれどころじゃなかった。
ニケがゆっくりライラに顔を近づけてる最中だったのだ!
もう逆に俺がこーちゃん!!こーちゃん!!と声に出さずにこーちゃんの腕をバシバシ叩きまくって、こーちゃんにもあの2人を見てもらう。
こーちゃんも「え!?」って顔で固まって、俺は大興奮でニケ達を見ていた。
でも、ニケ達の口と口はくっついたりしなかった。
完全にニケの口はライラの耳元に向かったし、まさかの内緒話みたいな口元を隠す手まで現れた。
でも、あの手の中で何が起きているのかは、逆に見えないからどんなこともありえる。
(耳にキスするのが先なんてニケ!!このっハレンチ!!逆にハレンチだぞっこの思春期ボーイちゃんめ!)
俺は声を出していないのに、こーちゃんに白けた目で睨まれながら肘打ちをくらった。
耳にキスされててもおかしくないライラは、んふふと可愛く笑い出す。
キスされているにしては、笑い方が可愛すぎた。くすぐったいですらないそれに、本当に内緒話だったのかと驚いていると、ライラは内緒話をしないで
「今日は、ニケの好きなウインナーチーズロールだよ。」
と爆弾発言をした…。
(そーいうこと!?もう二人ともできちゃってる!?ウインナーでチーズでロールなのはもう逆に隠す気のないやつじゃない!!?)
そーいうことだよね!?と同意を求めてこーちゃんの方を見たのに、転んだ飼い主を見るフレンチブルドッグみたいなジト目で返されてしまう。
逆に空気を読んだのか、ハリーさんがいいなぁとニケ達に近づいた。
ハリーさんに少し分けてよと言われたニケの返事が「だめ、勇者は俺だから」だったのすらそういう意味に聞こえる俺は悪くないはずだ。
勇者ってどっちのことですか。
どっちのウインナーがチーズなんですか。
やっぱり勇者は最強なんで、攻める方でファイナルのアンサーってことになったりしてたりするんじゃないの?ねぇねぇ。
こんな事を思っていたから、ニケの勇者は俺宣言の後に、神タイミングで聖人様から「この国に、勇者が現れる。そうお告げがあった。」
と言われても、周りみたいに純粋にザワつけなかった。
逆に俺はずっとざわついてますけどね?
そんな俺を、牛乳を拭いて放置してあった雑巾を見るみたいな目で見ていたこーちゃんが、足でわりと重めに蹴って心のざわつきごと鎮めてくれる。
いつの間にか、ライラの視線も聖人様の方へ戻っていた。
聖人様を見ているライラは、さっきニケに可愛く笑いかけていたライラとは別人のようで驚く。
変な例えだけど、透明感がすごかった。
引き寄せられてるとも少し違う気がするし、マイナスな感じでもないけど、プラスでもないような、
一番しっくりくる表現が“透明”しかなかった。
そんなライラの腕を引っ張って、意識を自分に向けさせる勇者様(自称)は、やってる事も態度も彼氏みたいだったけど、
ライラは透明なままだった。
あぁ、ライラはニケに恋心が本当に無いんだと唐突に理解した。
「もしかして、おやつも手作り?そこまで尽くしちゃってる?」
声をかける言葉は、俺の中で何でもよかった。透明なままのライラに不安を持ったのかもしれない。
もしかしたら、ニケも不安で腕を引っ張ったのかもしれないと思うほどだった。
でも、周りはライラよりニケを気にしてたし、ニケが“お告げの”勇者なのか確かめようとしていた。
魔王を殺せると言われている伝説の銃ってやつを目の前に持ってくる。けど、そんなのあったら、こんな学校できてないよね?という言葉を何人か腹の中でとどめた。
ライラは逆に顔まででてきていて、さっきの透明感はどこへやらで少し安心した。
ニケなんて、なんかやだという理由で触りもしなかったし、一生使わないし、無くて勝つ宣言をするほどだった。
嬉しそうなライラは、ヒーローを見ている少年の様に純粋だ。
ほっこりする間もないほど、急に本物の魔物が現れたし、今日は別々の場所に3体も同時に現れるし、そのうち2体は弱点もないし、結局その伝説の銃は全くと言っていいほど効かなかったしで、ハリーさんが人類の塔にいるリュウ(だと思われる)魔物のところへ、ニケが、北の方角のカメ(にはあまり見えない)の魔物のところへ向かうことになった。
ニケにココを任せてもらえたし、俄然やる気も出ていた。
焦っているのは、ライラだった。
急な魔物の出現、それに場所もバラバラで、大きさもすごいから、避難がうまくいっていないことを、彼のドローン達や何処かから流れてくるデータでわかっていたみたいで、真剣に全員が無事避難できる策を考えていた。
そんなライラだからこそ、守ってあげたかったけど、彼は弱くなかった。
心の話だけではなく、物理で強かったから、俺もこーちゃんも、何人か残っていた勇者科の人達も最初唖然とする。
ずっと視線をパソコンに固定していたのは、スケスケの画面だからよくわかっていたし、手だってずっとせわしなくタイピングしていたのはよく見えていた。
そんなライラが無防備に見えないわけなく、小さめだけど魔物の分身が襲いかかる。
でも、魔物の牙も爪も全く触れることすら叶わなかった。
ヒラっと、つかめない蝶のように攻撃を避け、なんの躊躇もなく思い切り魔物の頭を踏みつける。
その戦いなれした動きは、ニケと一緒に訓練してきた証以外の何物でもなかった。
さっき、盗人猛々しいを盗人もーもーしいと言ってしまい真っ赤になっていた人物と同一人物だと思えないほどかっこよかった。
「俺も、気合いを入れ直さないとねぇ。」
向き合う巨大な魔物は、人工の物と全く違う。
背筋をゾクゾクさせる不安定な造形は、魔王独特の作風を存分に押し出していた。
いつでも殺せる小さな奴らを、あえて自分より弱い小さな奴らに襲わせ、その様子を見ている魔物は、ネコ科の残虐性と、人類の加虐性を足したような嫌悪感を沸かせるものだ。
真っ黒なコールタールでグチャグチャにされた、ボロボロの猫のような見た目で、目と口は切り取ってつけたように人類のものだし、大きさもバランスもおかしい。
ニヤニヤ笑っているような態度も顔も、怒りや恐怖を何倍にも膨れ上がらせるものだった。
人類の残酷さに近いからこそ、恐怖を覚えると魔王が思っているとしたら、本当に大したものだと思う。
本能的に、自分達の残虐さが跳ね返ってくる可能性のある存在に恐怖を抱くところを見て、魔王は何を思っているんだろう。
生物の頂点に立っていないと不安なほど、生身では最弱な俺達人類。
そんなザコの唯一の武器である文明も、発明も、コミュニケーション能力すらも通じない相手を、怖く感じないわけがない。
それでも、自分が勇者だと言い切るニケも、神の銃が効かなかったら超えればいいと作り出し、発明を諦める気のないまかみさんも、状況を把握して勝ち筋を模索し続けるハリーさんや俺達も、国民の避難状況に全力なライラも、勝つことを諦めたりなんかしない。
それすら嘲笑ってるトラだと思われる魔物の口は、よく見ると人類の女性のものだし、まつげもフサフサで、余計に不穏さを出している。
魔王の女性へのイメージがコレかもしれないし、俺もそれは否定をしない。
流石にちょっとアレすぎるけど、おおむねどの男も、一回はこういう女性の加虐的で無邪気な残忍さを目の当たりにするタイミングがある。
こんなにしっかり形にして表現できるのは才能だから、やっぱり魔王なのがもったいないと思っちゃうほどだ。
急に、「はい!!僕ホモ違います!!」と叫んだライラが、画面を切り替えてニケを映し出す。
ニケの後ろには、銃を踏みつけながら狂乱している教員が映った。
絶望を広めるために、わざとやっているのかと言いたくなるほど派手に、悲痛に、愚かしく騒いでいる様子を見て、誰も絶望しないでいられたのは、勝つ気しかない何様俺様勇者様であるニケと、彼の勝利を確信しすぎて、フライングで微笑んじゃっているライラのせいかもしれない。
ニケは有言実行主義だから、本当に山ほどデカいカメの魔物の脳天をあっという間にかち割って勝利を収め、帰って来る途中に足を挫いて逃げ遅れた女性を助けて連れ帰ってくるという完璧なヒーローをして帰ってきた。
もう、あいつがマジで選ばれし勇者でも、俺は驚かない。
このあとも、ニケの好きな子が学校の外で救助活動しに行こうとしてライラが焦りまくって止めたり、ハリーさんから電話が来て、救護活動をできるように国に掛け合ってもらったり、その救護用テントを技科の人達が提供してくれることになったり色々慌ただしかった。
一番慌ただしかったのは、絶対に靴も履かずに出てきてしまっていたライラだ。
汚れきってしまった彼の靴下も、サイズも、全く気にしてない精神も、男の子のそれだった。
でも、ぜんぜん女の子でもありだ。
足の大きな女の子、全然あり。
むしろ新しい何かが刺激される。
ライラが中性的だと思っているのは俺だけじゃなく、こーちゃんやハリーさんもみたいで、ハリーさんは電話越しに直接聞くほどだった。
『ニケの幼馴染可愛くない?女の子なこと隠してるから写真を提出できなかったとか、名前』
多分、名前も中性的だねみたいなことを言いたかっただろうハリーさんの電話は、ニケによってブチッと切られた。
「気にすんな。お前はちゃんと訓練してきた。体に筋肉が付きにくいだけだし、お前はちゃんと男だって俺が一番わかってる。」
そんなニケ言葉に、ライラは笑ってお礼を言うけど、その笑顔はさっきの花がふわっと咲くみたいな笑い方じゃなかった。
へにゃっと眉毛を曲げた困ったような、申し訳ないような笑い方に、
(これガチで女の子説あるべや!!)
と俺とこーちゃんの内心が大盛りあがりだ。
こーちゃんは純情ラブコメ漫画が大好き(本人は隠してる気)だから、この幼馴染が男女だったら絶対に応援したくなると思っていたし、俺も二人を応援したい気持ちが強い。
でも、ニケが救護科の子といい雰囲気でも笑顔でエールを送って足早に技科舎へ帰っていってしまう姿を見て、前途多難だなと思った。
ハリーさんが合流して、俺達で話し合いが始まるのかぁと疲れを感じてしまった時、ドローンがクーラーボックスを運んできてくれる。
ニケがあの救護科の美少女にするなら、俺がライラを女の子にしてあげてもいいなと思ったくらいだった。
もちろん口には出さなかったのに、何かを感じたニケに思いっきり腰辺りを蹴られた。普通にめっちゃ痛いからやめてよ。
「皆お昼まだだよね?ハリーさんが肉でもなんでも奢ってあげるし、食べながら話そっか。」
10代の男子なら飛びついて喜ぶハリーさんの言葉にも、ニケは逆に遠慮を一切しないで「俺は、弁当あるからいい。」と言って、お前らは食って来いよと言わんばかりにクーラーボックスからお茶とお弁当箱を取り出して、自分だけあぐらをかいて座って食べる用意を始めた。
それで気がついたけど、ドローンはニケや俺達が一番近い木下へ自然と移動できる位置に降りてきていたことに気がつく。
ニケが、木陰で休みながらお弁当を食べられるようにという愛しかないライラの配慮に、もはや脱帽しそうだったし、ニケが渡さないことをわかっていたから、ドローンがクーラーボックスからお茶を渡してくれる。もちろん俺達皆にだ。
ちょっと本当にソウ君惚れちゃいそう。
また何かを感じたニケから、ウエットティッシュを顔面にくらった。
そんな暴君からは想像も出来ないくらい綺麗な動作で開けられるお弁当箱を、ハリーさん含め俺達は自然と覗き込んでしまう。
10代の男子らしく大きめのお弁当には、ぎっしりと美味しそうなハンバーグとご飯が入っていて、ハンバーグの周りには健康と彩りを考えてある野菜たちが一口サイズで飾り切りしてある。
飾り切りだけでもすごいのに、蒸してあったり、味付けがしてあったり、煮浸しまであったりと少なくとも3種類は味付けも種類も調理法も変えてある野菜たちだった。
こんなの新婚でも中々作ってもらえる人はいない。
「ニケ、もしかしてそのお弁当って報酬?」
思わず聞くハリーさんに、ニケは「は?」と意味わかんねぇなを隠しもしない声色で返した。
でも、俺達もハリーさんの言いたいことはわかってしまう。
(報酬って言うよりは、ご褒美って感じがするけどねぇ。)
「コレって、幼馴染の子が作ってるんでしょ?勇者として頑張ってるニケへの報酬なのかなって。」
「報酬は、魔王倒してからだろ。国がある程度出せよ。」
「……その通りだね。」
ハリーさんは、俺達にもお弁当があるか聞いて、ここで食べるのもいいねとニケの隣に同じようにあぐらをかいて座った。
俺達は教室にお弁当をカバンごと置いてあったから、2人で急いで取りに行く。
後ろからハリーさんに、「急がなくていいよ。」と言う声が聞こえたし、その後すぐニケに報酬は何がいいのか聞いているのも聞こえた。
(そういえば、ハリーさんはお弁当とか持ってないから食べに行こうって誘ってくれたんじゃない?)
こーちゃんも同じことを思っていたようで、2人で菓子パンとかお菓子とかをあげることにした。
俺達が戻ると、口をぱんぱんに膨らませたニケが、リスみたいにご飯を食べていて、チラリと俺たちを見た。
(はいはい。お前も本当にギャップのあるやつだよ。)
何様俺様勇者様の暴君のくせに、ニケは箸の持ち方や食べ方がとても綺麗だ。口にぱんぱんに入れるのはアレだけど、口にモノが入ってるときは絶対に喋らないとか、基本的なことがとてもしっかりしてる。
周りのことなんか知らないと思っていそうで、実は周りを見ているところもギャップだよねと思う。
今も、口の中に何もなくなったニケは、すぐハリーさんに「飯は食ってこいよ。」とぶっきらぼうでも気遣う言葉をかけていた。
そういうとこだぞ!と俺もこーちゃんも思ったし、ハリーさんも「ニケは優しいね。」と嬉しそうだ。
「でも、俺は一食くらい抜いても全然平気なだけだから。」
そう言うハリーさんに、ニケは怒るでも、あっそと興味を無くすでもなかった。
ムスッと拗ねるような、がまんしているような、葛藤しているような珍しい顔をするから、俺達は菓子パンあるよと言うタイミングを逃す。
ニケは、しぶしぶですよ!をここまではっきり顔と態度に出せる人もいないと思うほどしぶしぶです!!って感じでクーラーボックスから白い包み紙を取り出して、しぶしぶハリーさんに渡した。
「一つな。」
ニケ自身も、お弁当を食べ終えたみたいで、(この際お弁当がなくなる速度が速すぎるのは置いておく。)自分用にもう一つ白い包みを取り出して剥き始めた。
中に入っていたのは、綺麗なキツネ色のパイだ。
パイの両端からは、手作り感のある美味しそうな太いウインナーがはみ出ていた。
「ウインナーチーズロールだ!!!!!!」
「うるっせぇ!!」
思わず叫んじゃった俺もそりゃ悪いけどさ、そんな本気で怒鳴んなくてもいいじゃん。
こーちゃんだけが、ニケと俺の間に入ってまぁまぁとなだめてくれる。
やっぱりここに、俺の味方としてライラも入ってきてほしい。パワーバランス的にも。
「ニケ、嬉しいけどいいの?ニケのおやつでしょ?」
「まだあるからいい。1個だけだし。」
1個だけと念を押すほど美味しくて、好きなんだなとわかったから、俺もこーちゃんもめちゃくちゃ気になったけど一口頂戴を言わなかった。
もっと仲良くなってからだ。
ハリーさんがお礼を言って包みを開け、食べようとしたその時、ズボッとウインナーが若干アウトな音を立てて引っこ抜かれる。
「「えっ。」」と声を揃えて驚く俺達を尻目に、いつの間にかそばに来ていたまかみさんがウインナーを一口で全部口の中に入れた。
そんな大きいの一口で入ってく?とか、ちゃんと手とか洗ってある?とか聞く前に、もぐもぐと噛み締めながら頷いてるまかみさんをニケが割とガチ目に注意した。
「おいサル。お前はお前の幼馴染がいるだろ。そっちに作ってもらえよ。ハリーさんは今日の弁当無かったからたまたまだぞ。」
「いいんだよ。まかみの甘えだからね。俺は受け止めるし。」とニコニコしているハリーさんに、ニケもこーちゃんも少し引いていた。
「嫌がらせだろ……。ウインナー取られてんだぞ?」
ニケの気持ちもよくわかる。
ウインナーチーズロールのウインナーはもう、本体くらいだ。それを了承無しに奪っていくのは悪質だと言われてしょうがない所業だと思う。
でも、ハリーさんは大人だからか、まかみさんが構ってくれて嬉しいのか、ニッコニコで「このままでも美味しそうだしね。」とチーズロールを食べようとしたけど、結局それもまかみさんが丸々とってもぐもぐと食べきったし、紙まで舐めてニケから「行儀わりぃからやめろ。」と叱られた。
相当美味しいんじゃん。超気になる。
「仕事せぇへんやつの飯なんて無くてもえぇんや。」
そんな事を聖女の騎士に言ってのけるのなんか、この人ぐらいだ。
ニケも、少し呆れながら「ハリーさんは仕事してたべや。」とたしなめた。
でもまかみさんは気に留める素振りを少しも見せずに、スエットのズボンのポケットからくしゃくしゃの紙を取り出して、ハリーさんへ投げつける。
「今すぐ仕事しろ。」
「…これは。」
ハリーさんの珍しく動揺したような声を聞いて、俺達にも緊張が走った。
ソウ 16歳 性別(男性)
好きなモノ(グミ 彩りの良い食べ物 楽しい時間 芸術 音楽 ワクワクすること 友達と馬鹿騒ぎすること 落ち着く時間を過ごすこと コーラルに怒られない程度に意地悪すること ニケに蹴り飛ばされることやそっけなくされること ライラとの穏やかで刺激的な時間 家族の幸せ)
嫌いなモノ(見た目がグロテスクな食べ物 匂いや味が個性的すぎるもの 友達の悲しんでいる顔 孤独 理不尽な暴力や不正)
父が京の都出身なので紫だが、生まれも育ちも最北の国なので、方言や価値観が完全に北国。
身体能力がとても高く、武器を持って戦うことが前提のような勇者育成所に、己の体だけで合格した実力者。
才能も努力もあり、それを磨くためのプライドも持っている。
かなり人柄が良く、ソウを知って妬み以外で嫌なやつと言うやつはいないレベル。
交友関係も広いが、本当に心を許すのはごく一部。
自分でも自覚のあるMっけを持つ反面、コーラルに関してはどうしても意地悪したい欲があるし、したとしても許してもらえる技術を持っている厄介な男。
女性人気がものすごく、ルックスもかなりいいので、リア恋勢、ニケとのカップリング勢が救護科で大増量する。
ニケとのカップリングはどちらが攻めなのかでかなり大きな溝を作抱える派閥が出来上がりが、隠れてこっそりソウとコーラルのカップリングに燃えている人達は、満場一致でソウが攻めなので穏やか。
美術や音楽といった芸術も好きで、ライラの独特な感性が新鮮で尊敬している。
魔王の作る魔物にも称賛の目を向けるほど、彼も少しぶっ飛んでいるところがあるが、愛する家族や国のために命を張れる男気と、強さがある。




