Ep.5残忍なrevanche(凛刳視点)
事件が発覚したのは、昔の学友からの連絡からだった。
「―――莉緒が誘拐された?」
まず最初に感じたのは後悔だった。
次に自分への怒り。そして犯人への怒り。
どうしてあの時に限って単独行動を許してしまったのか。
その思考は0.1秒にも満たない。
切り替えねばならない。
誘拐されたのであれば一刻も早く助け出すのみ。
「莉緒」
人化を解き持てる最大速力で走りつつ、学友から連絡のあった誘拐場所を目指す。
細かい場所は微かに残る莉緒の妖気を辿り、ある倉庫まで行き着いた。
「隠そうともしてねえ。舐めてんな。」
わざわざ来たことを知らせる事もない。
鍵の部分を刀で斬り落とし、静かに侵入する。
俺の侵入に驚いた見張りが2人。少し離れて1人。
視界の情報を即座に整理し、離れた1人に鞘を投擲。
そのまま右側に立っていた男の懐に踏み込んだ。
「なんだおま」
「静かにしろ。」
右拳で顎を打ち抜き脳を揺らす。
踏み込んだ足でそのまま逆へ跳び肘打ちで腹部を穿ち、折れた上半身に当身。
投げた鞘は無事に離れた男を昏倒させたようだ。
「この奥か…。」
制圧後、そこまで広くない倉庫で監禁場所と思しき場所を見つけるのは容易だった。
話し声まで聞こえるところまで近づき、静かに中を伺う。
複数の男。
縛られた莉緒。
綺麗な肌はあちこち薄汚れ、服に至っては役目をなしていない。
俺が見たのは、身体に男の手が触れようという瞬間だった。
――助けて
声が。聞こえた。
頭の中で何かが切れる音がした。
地面が抉れる程の力で駆け出し、抜刀。
刀は寸分違わず男の首へと吸い込まれていく。
「なっ………!?」
「………凛刳、さん。」
囲んでいた男達が驚愕の表情で固まる中、縋るような目をした莉緒と視線を交わす。
咄嗟に刀を裏返した。峰打ちの形になるように。
莉緒に血を見せるわけにはいかない。
硬い手応え。頸椎を叩かれた男はたまらずその場に崩れ落ちた。
莉緒を軽く抱きしめ、囁くように言葉をかける。
「ちょっと目閉じてろ。すぐに終わらせる。」
「ううん、見てるよ。凛刳さんのかっこいいとこ。」
そうか、と息を吐くように返すとようやく体勢を整えようという男達に向き直った。
10人程度残っているだろうか。
たかがニンゲンなど数がいてもそう問題ではないが、彼らが使う道具には問題がある時がある。
ので、問題が起きる前に片付けば最良だ。
何かを取り出す仕草をしている奴から優先的に狙う。
背後に回り当身。これを繰り返す。
男達が行動を起こそうとする時には5人分の作業が終わっていた。
「な、何をした!」
「お前らの認識より早く動いて気絶させてるだけだ。無駄な抵抗はやめておけ。」
声を上げた男もすぐに当身の被害を被る。
残った数人も無力化し、ものの数秒でその場を制圧した。
「莉緒、ごめんな。怖い思いさせたよな。」
「いや、全然?胸見られたくらい?」
「そういやそうだったよ、助け甲斐の無い。」
けろっとしている莉緒に苦笑しながらも、場を納めるために社長に連絡を取る。
何かしらの処理をする為には、まず魔界側で回収してもらわねばならない。
戒めを解き、自由になった手をぐ、ぱと動かす莉緒に上着をかけて抱き上げた。
「帰ろう。」
負担がかからないよう、そして少しだけカッコつける為にお姫様抱っこ。
莉緒は莉緒で俺の首に腕をかけ、満更でもない表情でにへ、と笑っている。
「だって助けに来るって信じてたもん。僕の凛刳さん。」
「………帰るぞ」
「あ、照れた!かわいい。」
軽口を叩きながら倉庫を後にする。
帰路につき、いつも通りに戻ったかのような会話を続ける。
しかし、俺が莉緒を抱く腕に、表情に、未だに力がこもっていた。