MAIN STORY 腐れ縁と因縁
休日のある日。
「凛刳さんおはよぉ…。」
「おはよ。昼ごはん出来るから顔洗ってきな。」
「めんどくさーい…。」
明るいリビングに目を細めた莉緒が起きてきた。
目をしょぼしょぼさせているくせに、鼻を鳴らしながら器用にキッチンまで歩いてくる。
「ん。」
「どした?」
「凛刳さんにくっついてる。」
「見りゃ分かるよ。顔こっち向けて。」
背後から、抱きつくでもなくピトッとくっついている莉緒。
顔だけ彼女を振り返り、軽くキスをする。
「愛してるよ。」
「んん…。」
莉緒が俺の背中に甘えるようにすりすりと頬を押し付けている。
微かに鼻も鳴らしてるな。
においをかがれるのは流石に羞恥心が出てきそうになる。
「だいすき…。」
「俺も好きだよ。ほら、ご飯できたから。」
「ごはん…!」
眠そうに垂れていた耳がピンと立つ。
配膳をしようとテーブルを見た時には、俺の後ろにいたはずの莉緒が準備万端と言わんばかりに椅子に腰掛けて目を輝かせていた。
体温の無くなった背中を少し寂しく思いながらも、莉緒との幸せな時間を感じていた。
猫の感覚は鋭敏だ。
それは鬼である俺よりも気配の察知能力という点では圧倒するほどに。
食後、ソファで求め合いながら抱き合っていた時に莉緒の身体が強張るのが分かった。
鍵が開く音。そこまで近づけば俺でも妖気で誰が来たのか分かる。
どうしてここまで来たのか、学生時代からの腐れ縁のアイツが顔を出した。
「紅様、いらっしゃいますの?ワタクシ我慢できずに来てしまいまし……た…わ…?」
「間が悪いですね、見ての通り取り込み中です。」
「……。」
莉緒がぎゅぅ、と腕の力を強める。
2人の空間を邪魔された俺の機嫌は殊更に悪い。
いくら友人、しかも位の高い妖怪――吸血鬼だからといっても許される事ではない。
「な、何をされているのですか!不埒な!」
「何、と言われれば愛し合っている最中ですが。」
「ワタクシというものがありながら、どういう事ですの!?」
「何の話ですか?私は公私共にお嬢のものです。」
謎のすれ違いがあるような気がする。
…コイツ俺に気があったのか。
「悪いけど俺の愛が注がれるのは莉緒だけだ。今日のところは帰ってくれるか?」
「ワタクシに対してのその態度、無礼だわ!どういうつもり?」
「邪魔だって言ってんだよ。莉緒が不安がってるだろ。」
莉緒の腕には終始力が籠り、目が絶えずその女を睨み続けているのは見なくても分かる。
この時間をこれ以上続けたくない。
「……覚えている事ね。このワタクシを虚仮にしてただじゃおかないわ。」
「どうぞ、ご勝手にしてください。お帰りの際は鍵は閉めていただけますようお願い申し上げます。」
「…ふん!」
嵐が過ぎ去った。俺は強張ったままの莉緒を抱きしめる。
フーッと小さく唸っている莉緒が肩の辺りを噛んだ。
猫の姿の彼女の歯は鋭く、キスマークと言うには痛々しい痕を残す。
それでも腕を離さない。痛みにうめく声も発さない。
どのくらい経っただろうか。
徐々に力が抜け、莉緒がチロチロと俺の傷口を舐め始めた。
痛みとこそばゆさに官能的な刺激が走る。
「莉緒。」
「にゃぁ…。」
「俺の愛、受け止めてくれ…。」
脱ぎかけの服を乱暴に脱がす。
俺の愛の大きさを分からせてやりたかった。
求めるように首筋にキスをする。
乱暴に胸を掴み、歪に形を変えさせる。
優しく、大切になんて出来る余裕なんて無い。
それだけお前に夢中なんだと莉緒に伝えたかった。
「愛してる。」
「凛、刳さん…。」
「愛してる……っ!」
「凛刳さん、もう分かった、から、やめ……っ。」
目覚めると、翌日になっていた。
いつまでしていたのか、どのくらい寝たのか全く記憶に無い。
莉緒を起こさないように慎重に起き上がり、顔を洗う。
鏡にうつった俺の首や肩、服をめくれば胸の辺りにも大量の赤みが残っていたのが夢ではない証拠だった。