閑話『変化したダンジョンの調査』
一匹のミノタウロスが雄たけびを上げて1人の少年に斧で攻撃を加える。ふつうの少年であれば真っ二つにされてしまうような攻撃だ。
しかし、少年はその攻撃を片手で弾く。
「ブモォ!?」
驚くミノタウロスに少年が殴りかかる。ミノタウロスはとっさに斧で防御を図るが、少年の拳はその斧を砕き、ミノタウロスの頭を粉砕する。
「ふぅ、骨が折れるね。まさかFクラスのダンジョンがここまでのものに化けるなんて。本部にはどういえばいいかな」
その少年の名は久蔵 義光。探索者協会青森支部の支部長を務める男である。ちなみに21歳で成人しており、少年ではない。
彼は泊よりミノタウロスが脱走したという報告を受け、一層からミノタウロスが生息している可能性を懸念し、Cクラスの探索者を送ることなく自ら異変が起きたダンジョンに赴いたのである。
「思ったよりすごいことになってるし、Sクラスダンジョンくらいには指定されそうだね。念のため次の層くらいは確認してから本部の人とバトンタッチしようか」
彼はミノタウロスを倒しながら先に進み、ついに二層への階段を発見した。
「ここまでで罠の発見は5件か。ちょっと多いなぁ」
彼は罠も解除しながら進んでいた。あえて避けることなしに。ダンジョンで起きた全てを記録して残しているのだ。
「降りるのも危険な気がするけどね。まぁ仕方ないか」
階段を下った先、第二層。そこで彼が遭遇したのは……。
「ミノタウロス……でもなんか大きくないかな?」
体高が通常とは違い5mに達しそうなミノタウロスを見上げる彼に巨大なミノタウロスは斧をフル下す。
先ほどのミノタウロスとは比較にならない速度。とっさに久蔵は回避する。
「Sクラス下位くらいはありそうな力してるね。2層からSクラスか。これは彼の出番かなぁ」
久蔵が思い浮かべた人物。それは日本最強の男。
「彼以外希望が見えないしねぇ。とりあえず僕もこいつやったら撤退かな」
彼と巨大なミノタウロスの本格的な戦闘の幕があがる。巨大なミノタウロスは斧を振りかぶり投擲しようとする。
「それ、得物でしょ? 投げていいの?」
一瞬にしてミノタウロスの頭上に移動した久蔵は脳天にかかと落としを決める。しかし、そのかかと落としは頭蓋を砕くことはなく、ミノタウロスはよろけながらも久蔵に反撃を加えようとする。
久蔵はすぐに頭上を離れ、ため息をつく。
「はぁ、これで死なないのかぁ。面倒なやつ。『限界突破』」
自らの能力を発動し、久蔵は身体能力を強化する。
「体力なくなっちゃうから早めに決めるよ」
ミノタウロスが走って久蔵に近付き、斧を振り下ろそうとする。
「遅い!」
瞬間久蔵の拳がミノタウロスの腹部にめり込む。
5mはあるミノタウロスの巨体が壁まで吹き飛ばされ、そしてそのまま消滅した。
「ふぅ、少し疲れたね。さっさと帰らないと」
久蔵は階段を上ろうとするが、背後の殺気に気が付き、すぐに通路の端へ跳躍した。
久蔵が居た場所に斧が突き刺さる。
「2体目かぁ、疲れるって言ってるんだけどなぁ……。『限界突破』!」
斧を飛ばしたものの正体は2体目の巨大なミノタウロス。久蔵はもう一度自身の身体能力を強化し、応戦する。
「早めに終わらせてもらうよ。『重王撃』」
久蔵は2体目のミノタウロスに突撃し攻撃しようとするが、わずかに悪寒を感じ、バックステップで距離を取った。
「3体目もいるのね。これ僕生きて帰れそう?」
そこで現れたのは3体目のミノタウロスだった。
◆◆◆
「32体目……」
久蔵の目の前で32体目のミノタウロスが膝をつく。しかし、まだ彼の周りには3体のミノタウロスがいる。
ミノタウロスは戦っている最中にどんどん増え、ついには連続で35体目が現れていた。
「正直、もうきついかなぁ。後継育ててないんだけどなぁ」
Sクラスの魔物35体と連戦し、32体を討伐した。戦績で見ればSクラスの探索者も真っ青になるレベルである。
「はぁ……とりあえず、残りのお前らは絶対に殺す。『天元突破』!」
殺意で体を奮い立たせ、攻撃に転じる。まるで鬼神のような動きである。
体を壊しながら次々現れるミノタウロスを殺していく。
討伐した数が60を超えたとき、ついに久蔵は膝をつく。目のまえにいたミノタウロスが斧を振りかぶる。
「終わりかぁ。頑張ったよなぁ……」
久蔵が死を覚悟したその時、目の前のミノタウロスの首が飛んだ。
「一体どれだけの数が居たんだ? しかしまぁ、よく耐えたな」
ミノタウロスの首を飛ばしたその男は、周りに散らばる魔石をみて驚きの声を上げた。
「神宮司さん……」
その男を目にした久蔵は役目を終えたように意識を失う。
現れたその男は正真正銘、日本最強の探索者。
「覚悟しろ。俺は今気分が悪い」
その男の持つ剣が輝きを放つ。
聖剣を持った勇者が現れた。




