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二人ぼっちの旅日記  作者: きりん
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変な羊の駆除方法(短編話)

むかーしむかしあるところに二人の少女がおりました。


「・・・ねえ。ラキ」


「どうしたのターちゃん」


「この状況なに?」


 面倒くさそうな表情で目の前の光景を指さしながらその少女は言った。銀色の髪をハーフアップの三つ編みにして車椅子に座っているタギツはキャビンの中から外の光景に困惑していた。キャビンを引っ張るラキの目の前の道の先には土で舗装された道が延々と伸びており両側には草原が広がっていた。王都から離れた場所にあるとはいえ平地が広がるだけのとても過ごしやすい場所なので時折野生動物が現れたり、木々に鳥がとまっていたりしている。そんな中を金色の長い髪を靡かせながら黄金に輝く大槌を背負ったラキがキャビンを引いていた。

 そんな光景の中に明らかに異質なものがいた。


「愛してる」「好きだよ」「さぁ、こっちへおいで」「かわいい子猫ちゃんだ」


・・・・・・・・・。


「道引き返そうか」


「突然どうしたのターちゃん?」


 そういって引き返すことを提案するタギツに不思議そうに聞き返すラキ。タギツが道を進むのをためらった理由は目の前にでかい羊がたくさんいたのだ。体長は2mほどあり全身を白い毛に覆われていた。だがその羊の顔はどうみても普通の羊のそれではなく人間の顔をしていた。しかも顔の濃い眉が太いイケメン顔だった。それが放牧された羊のように草原におり口々に愛を囁いていた。なんだこれ――。


「なにこれ、え待ってなにこれ気持ちわるいんだけど」


「そうかな?可愛いと思うけど?」


「あれを可愛いと言ってのけるラキの感性がぶっ飛んでると思うよ」


 タギツ自身はあの得体のしれない生物の横を通り過ぎるのは嫌だったがここから来た道を戻って迂回していくとなるととんでもなく時間がかかる。しぶしぶタギツは道を進むことにした。羊を避けるようにラキはキャビンを進めていった。途中なんどか羊がこちらをジーッと見つめてくることがあったがとくに攻撃してくる様子もなくただ見ているだけだった。

 これならとくに問題なく抜けられる。そう思ったタギツだったがそんな思いはすぐに崩れた。


「可愛いねどこから来たの?」


 一匹の羊がのそのそやってきてキャビンの入り口に前足を掛けて中を覗き込んできた。しかもそれで飽き足らずそのまま中に入ってこようとしてきたためタギツがすぐにマスケット銃を取り出すとその羊の眉間を撃ち抜いた。しかしそれが引き金になったのかどうか分からないが次から次へと羊が追いかけてきた・・・愛を囁きながら。


「何処へ行くんだい?」「恥ずかしがらなくていいじゃないか」「こっちへおいでよ」「まってよマイハニー」


「ラキ。全力疾走」


「お、鬼ごっこかな?いいね~それじゃ飛ばしていくよ!!」


 明らかに勘違いしているがそんなことはお構いなしに満面の笑みを浮かべたラキはキャビンを引く手に力を入れて姿勢を低くすると地面を強く蹴りだした。次の瞬間猛スピードで道を進んでいき視界の草原がどんどん通り過ぎていく。その光景の中にいる気色悪い数十頭の羊が追いかけながらなおも愛を囁いてくる。そのうちの一匹が大きくジャンプするとキャビンの側面にへばりつき閉じたキャビンの入り口に顔面をねじ込んできて引っ張られた状態の顔をタギツに向けた。


「ねえラキ。こいつら駆除してもいいよね。問題なよね。一切合切全て駆逐していいよね」


「どーしたのターちゃんそんなに狩りに積極的になっちゃって~。なにか変なものでも食べた?」


「この存在自体が気色悪い生き物を前にしてそんなこと言っていられるラキのほうがおかしいから。とりあえずそのまま全力で次の目的地の村に向かって」


「はーい」


 ラキは更に一段ギアを上げて道を進んで行き、キャビンに顔を突っ込んでいた羊はタギツが眉間を撃ち抜き地面を転がっていった。キャビンを追いかけてきてた羊の群れは徐々に離れていき最後は完全に置き去りにした。ラキの脚力が勝ったという事実に若干引きつつもとりあえず引き剝がすことに成功した。

 それからしばらく進んでいくと一つの村にたどり着いた。どこにでもある何の変哲もない村で村の入り口には一人の兵士が立っているだけで特に壁になるものはなかった。兵士の横を通り過ぎて村の中に入ると人だかりが出来ていた。農作業用の農具を担いだ村人や野菜を持った村人等々色んな人が一か所に集まってた。


 キャビンを引っ張っていたラキはキャビンを止めると人だかりに近づいていった。そこには一人の少女がうずくまって震えており、他の女性がその娘に寄り添っていた。ラキは村人たちに何があったのか聞くと、最近この辺に出没している魔物に襲われたらしい。


「どんな魔物に襲われたの?」


「顔が濃い眉の太いイケメン顔の愛を囁いてくるでかい羊だそうだ」


「わーお」


 その特徴に覚えがあったラキは先ほどその魔物の集団に遭遇したと伝えると村人たちは少し驚いた表情をしていた。あの魔物の名前はガイレシャーフと言ってなんでもあの魔物は若い少女を見つけては襲い掛かってくるという特性を持っているため毎年定期的に駆除しているらしい。ただ今年は異様なまでに数が多く、それゆえに街道をゆく旅人や商人の少女が襲われる被害が出てきてしまっている。余りにもひどいので村でお金を募って冒険者ギルドに依頼を出そうかという話まで出ている。

 ラキはその話をキャビンの中にいるタギツに話しすと少し考えてからヒソヒソとラキに話してその内容を村人たちに伝えるように言った。


「すみません! え~と魔物の討伐を冒険者ギルドに依頼するかどうかというお話ですがそれ多分なんとかなるかもしれません」


「本当かい?でもどうするんだ?」


「それはですね・・・」


 タギツから伝えられた対処方法をそのまま村人に伝えたラキは村で必要な物資を補給するとすぐにキャビンに乗せてそのまま村を出ていった。村人たちは本当にこれで解決するのかと半信半疑ではあったが特段難しくもなくお金も時間もかからないのでその方法を試してみることにした。

 草原にやってきた村人たちはその場にいた大量の羊の魔物ガイレシャーフの風上に移動すると村から持ってきた大量の唐辛子を地面に置き、枝を集めて焚火をするとその焚火の中に唐辛子を次々と投入していった。

 焚火からは唐辛子特有の刺激臭が立ち込めてそれが風に乗ってガイレシャーフに届くと次々と苦しみだし白目をむいてバタバタと倒れていった。細かく痙攣しながら呻き声をあげているガイレシャーフ達は次第に動きを鈍らせ最後は動かなくなった。唐辛子の煙が完全になくなった頃合いを見計らって草原に向かって行った村人たちは駆除されたガイレシャーフを見て歓喜を声を上げた。

 それからというもの毎日のように大量の唐辛子を持ってきてそれを燻した煙でガイレシャーフを駆除していくとその個体数をどんどん減らしていき、大量発生していた魔物の個体数を少なくすることができた。しかもガイレシャーフは見た目と言動こそ気持ち悪いがその毛皮はとても上質で売れやすく村の臨時収入になったりもするのだ。大量駆除と同時に村に入るお金も物凄い金額となり、村は空前絶後の大金を手にすることとなった。

 そしてその数年後、ガイレシャーフは絶滅危惧種となり村人は品種改良を行いガイレシャーフの飼育に成功させ新たな産業になったがそれはまだ先のお話し。





 おしまい

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