伝説のキノコを求めて
むかーしむかし、あるところに二人の少女がおりました。
「・・・いくらなんでも多すぎだろ」
「う~んどうしよっか♪」
一人は黄金の長い髪を靡かせ背負ったミョルミーベルと呼ばれる大槌を両手に握ると勢いよく目の前にあるどでかいキノコに振り下ろした。どでかいキノコには小さな手足が生えておりさらには二つの目と口まであった。明らかにどう見ても魔物ではあるのだが意外とこれが可愛い。ミョルミーベルでぶん殴った瞬間「ミュ——」という鳴き声を上げるのだ。しかも特に抵抗することもなくその場にパタッと倒れてそのまま動かなくなるのだ。
正直ここまで弱い魔物は初めてだったのでこんなに簡単に倒せるものなのかと少女ラキは思っていた。だがすぐに理由が分かった。数が凄まじいのだ。
「話には聞いていたけど本当にとんでもない量の魔物だな。討伐しきれるのこれ?」
手にパイプを持ってその光景を眺めながら呆れた様子でその光景を見ていた銀色のハーフアップの三つ編みで車椅子に座って瞳を閉じている少女タギツは煙を吹いて空に溶かしながらなんでこうなったと思いながらただただ終わるのを待つばかりだった。
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「魔物の討伐ですか?」
ある村に立ち寄ったラキとタギツは村に一泊させてもらうことができたがその代わりに魔物の討伐を依頼されてしまった。旅をしているとよくあることで小さな村などでは止めてもらったり食料物資をもらう代わりに何か仕事をするというのがあり、ある時は壊れてしまった家屋の屋根の修繕であったり、ある時は村で生産している特産品のかご作りの手伝いをしたり、更には子ども達のお世話や勉強を教えてあげたり、あるいは村の周辺に現れた魔物の討伐などを依頼されることもある。
とはいってもこの村は人里離れたところにあるとはいえもとより魔物などほとんど現れないし、基本的に魔物討伐は村の男たちがやるのだ。冒険者ギルドに依頼するほどたくさんの魔物も出なければ冒険者ギルドに依頼すれば当然依頼料が発生するのでそれなら自分たちで討伐したほうが何かとメリットがるからだ。
だが今回は冒険者であるラキとタギツに魔物討伐を頼んできた。ということはとても村人だけでは討伐しきれない魔物が現れた可能性がある。資金に余裕のある村では冒険者ギルドに依頼を出すかもしれないがこの村はお世辞にも裕福とは思えない。それでいてこうした討伐依頼を出してくるということはそうしないといけないほど魔物の脅威にさらされているということになる。
「僕たちは冒険者です。魔物討伐に関してはしっかり報酬を払ってもらわないと困ります。たとえ村に泊めてもらえるとしてもそれの対価が魔物討伐では割に合わない」
タギツは机の対面に座っている老人にそう言い放つと老人は困った表情で事情を話し始めた。
「確かに魔物討伐は危険と隣り合わせす。それを強いると成れば別途報酬を用意するのが筋なのも重々承知しております。しかしこの村はこれといった特産品もなくいつも生活していくのが限界なのです。とても冒険者ギルドに依頼を出す余裕などないのです。なんとか金銭以外の別の方法での支払いを認めては頂けないでしょうか」
「ダメです。そんなの報酬として認められない。そう言って報酬を誤魔化す奴はいくらでもいた。それに食料も旅をするためのの物資も十分にあるからそもそもこの村で物による補給を受ける必要がない。よって報酬として僕が求めるのはお金だけだよああ、泣き落としは通じないからそのつもりで」
「なんでだよ!?お前らは魔物を倒してなんぼの連中だろうが!なんで断るんだよ!」「俺達が下手に出たからって調子こきやがって!!」「いいからお前らは言われた通り討伐してりゃいんだよ!」
金銭以外の支払いを求めてきた老人を一蹴したタギツに周囲にいた村人たちはにわかにいきりたった。 中には農具を手にしているものや武器を手にしているものをいた。完全に自分たちのいいなりにしようとしていたのだ。老人が村人を宥めたが聞く耳を持たずにタギツを取り囲むと手にした武器を突きつけて脅してきた。
「いいか!この村からでたけりゃ大人しく言うとり魔物討伐をやりやがれ!!」
タギツに突き付けられた剣が鈍く光っており、交渉をしていた老人は狼狽していたがタギツは冷静に突き付けられた剣を見て溜め息をつくと目にもとまらぬ速さで短剣を振るうと剣を綺麗に切断した。一瞬の出来事に村人はポカーンとしていたが続けざまにタギツは村人の腕を掴んで引っ張ると床に叩きつけて首に短剣を突きつけた
「僕はできる限り穏便にことを済ませたいのだけれど、君たちはその限りじゃないのかな?なら乱暴なやり方でも僕は一向に構わないけどどうする?」
床に倒された村人は一瞬の出来事で何をされたのか分からず短剣を突きつけられているので動くこともできず、周りの村人たちも人質に取られた村人を助けることができず身動きが取れずにいた。老人はすでに状況が最悪の状態になりつつあり慌てて他の村人を呼びにいった。互いがじっと動かずに一挙手一投足を観察していたが、そんな沈黙を扉を開く音が破った。
「ターちゃん!これすっごい美味しいよ~。ムキムキダケの一夜干しなんだって!私初めて食べたよ。こんなにおいしいんだね~って・・・アレ?何かあったの?」
「ラキ。美味しそうなきのこを食べてるところ悪いけどすぐに出発の準備をして。ここを出ていくよ」
「うええええ!?な、なんでまた急に?何かあったの?っていうかなんで短剣突きつけてるの?」
「僕たちに魔物討伐させたいらしいよ。しかもタダ働きでね。僕たちは冒険者だからしっかりと報酬をもらわないとならないのにそれをこの村人たちは蔑ろにしようとしている。だから断ったら剣を突きつけて脅してきたからそれを制圧した。わかったら荷物纏めて」
「ええ~・・・せっかくムキムキダケのステーキとファニーマッシュルームとチョコレートダケのムニエルとフワフワダケ食べられると思ったのに~」
「・・・何食べてるのラキ。そんな正体不明のゲテモノ食べるんじゃないよ」
「ゲテモノじゃないよ!この村の森林を抜けた奥地には菌糸樹海と呼ばれる樹海があってそこには、実際に食べられる美味しいキノコが生息しているんだよ! なんでも、菌糸樹海は多種多様なキノコが豊富に自生していて中には非常に希少で貴重なキノコも見つかることがあるんだよ。この村に住んでいる女性の方に聞いたんだ!」
「貴重なキノコね~・・・どうせ大したものじゃなさそうだけれどね」
「それがなんと菌糸樹海には伝説のエレメンタリーマッシュルームが自生しているらしいの!!精霊が作り給うた至高のキノコだって!これはもう見つけるしかないと思わない!?」
エレメンタリーマッシュルーム。この世界に自生しているとされている伝説のキノコで精霊の力が長い年月をかけてゆっくりと凝縮していき外的要因でなくなったりしないで残ったものが七色の輝きを放ちながら生えているらしい。だがそれはあくまで言い伝えであって実際にそのキノコを見たものはいない。少なくともここ100年はいないはずだ。
「・・・ラキ。騙されてるぞそれ。今日日そんなの追い求めてる人いないって」
「いいや!私は探す!必ず見つけ出して見せる!!というわけでターちゃんもついていきてね」
「いやだ」
「ありがとう~! それじゃあ早速出発しようね!!」
「・・・・・・・・」
有無を言わさず連れていかれたタギツは手にした短剣をしまうと代わりに手にしたパイプをくわえて白い溜め息を吐いた。
———————
「それでね。村に住んでいるジェシーちゃんは今まで村の外に出たことがなくって誕生日を迎えて成人になったら村を出るんだって~ 私たちの旅のお話をしたらすごく喜んでくれてつい話が盛り上がっちゃったの!あ、ジェシーちゃんには二つ下の弟がいるらしくていつも手を焼いているんだって。でも二人とも仲がいいみたいでいつも親の手伝いを二人でしてるんだって~」
菌糸樹海に向かっているラキとタギツはキャビンを引くラキが村で出会った村人の話を興奮気味に話し始めた。村の状態は決して裕福ではないがそれなりに幸せな生活が営まれているのが垣間見える。
「ラキはずいぶんと村人達と仲良くなってるんだな。僕は完全に嫌われただろうな」
「まあ、ターちゃんは付き合いが浅いと仏頂面で何考えてるかわからないもんね~♪」
「おいまてコラさらっと僕のことバカにしたな?」
「アハハハハ!でも村人全員と仲良くできたわけじゃないんだよ?なんだかすごい不愉快そうに私のこと睨んでいる村人もいたしね。あ、そういえばジェシーちゃんのお母さんに聞いたんだけどあの村って遠い昔に迫害を受けた者たちが寄り添い合って作られたという言い伝えがあるらしくて、今ではさすがに外部の人間に対して排他的な態度とる人も少なくなっているけど昔は凄まじかったらしいよ」
「ふ~ん、たまたま来た旅人を追い掛け回したのかな」
「それ以上みたい。なんかたまたま流れ着いた旅人を捕まえて持ってるもの全部剥ぎ取ったあとに殺してバラバラにしたあと家畜のえさにしたんだとか」
「・・・そんな話を聞いてよく村にとどまりたいって言えるな」
「あくまでも昔の話みたいだし、今は外部の人たちと交流を持ってるからそういった排他的なことは一切やらなくなったって聞いたよ。でも村人の中にはその方針に不満をもってる人達もいるんだって」
「なるほど、それがあいつらか・・・合点がいったよ」
二人で会話しているうちに森林を抜けると、そこにはこれまた奇怪な光景が広がっていた。目の前に広がるのは、まるでおとぎ話の庭園のような風景だった。どこまで目をやってもキノコ、キノコ、そしてまたキノコが広がっていた。
立ち並ぶキノコたちは、色と形において多様性に富んでいて目を引くのは赤と青、黄色と紫など、まるで虹を地に広げたかのような鮮やかな色合いのキノコ達だった。その中には金属のように光り輝くものや、透明なキノコもある一方で、柔らかなピンク色のキノコが優雅に咲き誇っている場所もあり、まるで花園のようだった。
そして大小さまざまなキノコが、地面を覆うように自生しており足元には繊細なミニチュアのキノコが点在し、それらを踏みつけないように気をつけながら進んでいた。しかし、その一方で目の前には大木ほどの大きさのキノコが聳え立っている場所もありこれらの巨大なキノコは、幹のような太い茎が高く伸び、キノコの傘は天井のように上に広がっていた。
「これが菌糸樹海! ほんとにこんなところがあるんだね~わくわくしてきたぁ~」
「何処を見渡してもキノコしかない。どういう生態系してるんだここ」
キノコの合間を縫いように進んでいき、開けた場所にキャビンを止めるとラキは背負っていた荷物をキャビンに乗せた。
「それじゃあ私はキノコ狩りに行ってくるね!ターちゃんはどうする?一緒にキノコ狩りにいく?」
「僕はここでまっているよ。荷物の整理してるから」
そういってキャビンの中で荷物の整理を始めたタギツにラキは頬を膨らませたがすぐに気を取り直してキノコ狩りに出かけた。菌糸樹海の中に繰り出していったラキはできる限り色々な種類のキノコを摘んでいくとすぐに別の場所へと移動していった。菌糸樹海はとても広いので移動を速くしないと全部回れそうにないのだ。
大きなキノコの傘の上に乗ったラキはそこから樹海全体を見渡した。同じように大きなキノコが何十本も生えており、まさにキノコの海と呼ぶにふさわしい光景だった。
「ん?あれはなんだろう。なんか動いてる?」
キノコの傘から降りてラキが向かった先にあったのは人間と同じ大きさの幹が太いキノコだった赤い傘に白い幹のキノコではあったが如何せんヤバいのはそのキノコには短い手足と目と口があった。
「キノコの魔物?そんなのいるんだ~」
「ミュ?ミュー!」
甲高い奇妙な声を上げたかと思うとその魔物は樹海の奥に消えていった。一体何だったのだろうと思いながらラキはその後もキノコ狩りを行い、手にした色々なキノコを持ち帰った。既にタギツが焚火をつけて待っていてくれたのでラキは手にした色々なキノコを手あたり次第素焼きににしていった。 せっかくのキノコをタギツに進めたが食べたがらなかったのでラキが全部食べることになってしまったが・・・
「いや~食べた食べた~どれも美味しかったよ。ターちゃんも食べればよかったのに~」
「明らかに毒々しい色合いのキノコもあったのに食べられるわけないだろ。それに毒キノコを平然と食べれる奴なんてラキぐらいだから」
「まあ私の身体とっても頑丈だからね。ちょっとやそっとの毒じゃあ私は殺れないぜ!」
「いい笑顔でサムズアップしなくても知ってる」
笑いながらキノコを頬張ってるラキをあくびをしながら見ていたタギツだったがすぐに違和感に気づいた。ごくわずかながら地面が揺れているのだ。しかもそれは地震などの一時的な地揺れではなくずっと続いていた。しかもその揺れは徐々に大きくなっており、まるでたくさんの何かがこちらに向かってやってきているかのようなそんな揺れだった。
その揺れにラキも気づいたのか、残ったキノコを一気に食べると、ミョルミーベルを構えて森の奥の方を見た。振動は徐々に大きくなり、遠くから土煙が上がり、高くそびえていたキノコがゆっくりと倒れ始め巨大なキノコはズーンッという大きな音を立て、地面に向かってゆっくりと倒れていった。その際、周囲に飛び散る様々なキノコが目の前に舞い上がりラキとタギツは驚きの表情を浮かべ、森の奥の方に広がる土煙を見つめました。
やがて姿を現したのは人間と同じサイズのキノコの魔物でした。色々な色合いの傘に白い幹がありそこから小さな手足が生え目と口があるキノコ型の魔物が森の奥から次から次へと現れた。
「なにこれ。魔物・・・だよな。キノコの」
「ああ!これさっき見たキノコ型の魔物だ!何でこんなにも大量の魔物が押し寄せたの!?というよりキノコ型の魔物なんているの!?」
「落ち着いてラキ。キノコ型の魔物はいるよ。それよりも僕たちはこのキノコ型の魔物に取り囲まれたみたいだ。全部討伐するよ」
「わかった!とりあえず目の前にいるやつから順に吹っ飛ばすね!!」
そういうとラキは手に持ったミョルミーベルをいつもやっているように思いっきり振りぬいた。するとキノコ型の魔物は何の抵抗もなく一瞬で吹っ飛ばされバラバラに砕け散った。あまりにもあっけなく倒せてしまったので拍子抜けしてしまったラキだったがすぐに気を取り直して他のキノコ型の魔物も討伐していった。
倒すこと自体はとてつもなく簡単だった。なにせ動きが遅い上にキノコ型の魔物の攻撃が全然攻撃になっていなかったからだ。その短い手足で叩いてきてもポスッ・・と柔らかい物体が押しあてられた程度にしか感じないのだ。しかもミョルミーベルでぶん殴ればほぼ一撃で倒れてそのままピクリとも動かないのだ。
「う~ん、いままで色んな魔物と戦ってきたけどここまで弱い魔物ははじめてだよ。ねーターちゃん何か知らない?この魔物特性とか習性とか」
「この魔物は確かフォレストマタンゴだったかな。日陰のじめじめしたところにいて基本的には動かずじっとして地面から養分吸って生きてる奴だな。僕も見るのは初めてだけどこの魔物って本来よっぽどのことがない限り自分から動いたりしないし、ましてやこんな大量の群れを成したりしないんだけどね」
「じゃあどうしてここまでたくさん集まったの?明らかに私たちを狙ってやってきたようにしか見えなかったけど」
「それはわからないけどまあ討伐してからこいつらがやってきた方にいけばわかる」
「それじゃあターちゃんも倒すの手伝ってよ~」
「それは嫌だ」
「けち~」
ぶーっ!ぶーっ!と文句を言いながらラキはミョルミーベルを再度構えるとフォレストマタンゴに向かって素早く振りぬいた。一振りするごとに20匹近くのフォレストマタンゴが吹き飛んでいき徐々に周囲に魔物の残骸が大量に積みあがっていったがそんなことお構いなしに次から次へと森の奥から際限なくフォレストマタンゴが殺到してきた。
「・・・さすがに多すぎだろ」
「う~んどうしよっか♪」
倒しても倒しても際限なく現れるその光景にさすがにタギツはなんでこうなったんだろうと嘆きたくなったがそれを言ってもどうにもならないので仕方なくタギツもキャビンから降りて車椅子を進めると、懐から緑の液体の入った瓶を取り出すと栓を抜いてそのまま地面に垂らした。すると中に入っていた液体は一つの塊になりやがてブクブクとその体積を大きくしていった。
「目の前にいるキノコの魔物処理してくれ」
タギツの言葉に呼応するようにその液体はキノコの魔物の方へ向かうと次々と飲み込んでいき、ブクブクと泡をたてながら溶かしていった。
「あ~スライムで溶かしていくっていうてもあったね。それならすぐに終わりそう」
「といってもスライムは移動速度が遅いからラキがフォレストマタンゴを叩き潰してその残骸をスライムに放り込むのが一番早いぞ」
「わかった!ならそうするね」
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それから1時間後、ほぼすべてのフォレストマタンゴを討伐し終えて周囲に大量に積みあがっていたその残骸をスライムに処理させると瓶を取り出しスライムを元に戻した。ラキもさすがに魔物の数が多かったのか、ミョルミーベルを突き立てた後、地面に大の字になった。彼女の顔には汗が浮かび呼吸は荒れ疲れ果て精疲力尽の状態で横になっていた。
「流石にちょっと量が多かったよ~いくら弱いって言ってもほんとあり得ない数だよアレ」
「そうだな~。生態系に何か起きている可能性もあるけど、あれが大量発生するなんて聞いたことがない。なんにしても樹海の奥に行こう。そうすれば何かわかるかもしれない」
「そうだねハァハァ・・・とりあえずハァハァ・・・見に行ってみようか」
「・・・・・もう少し休んでいく?」
「大丈夫!樹海の奥に進んでいけば何か見つかるかもだし、すぐに行こう」
そういうとラキはミョルミーベルを引き抜き背負った後キャビンを掴んだ。タギツは車椅子を動かしてキャビンに乗るとラキがキャビンを再び動かした。フォレストマタンゴが大量に押し寄せた方角に進んでいくと所々生えていたキノコが踏み潰されていたり大きなキノコが倒壊していた。目の前の光景がいかに凄まじい物量だったのかを物語っていた。
そしてしばらく進むとひと際巨大なキノコが聳え立っていた。真っ赤な傘に真っ白で凄まじい太さの幹、さらに幹からまるで樹木が枝分かれするようにキノコが生えていた。その巨大キノコの根元に数十人の男たちがたむろしていた。しかもその人物たちはかなり苛立っているのか大声を上げていた。
「クソが!なんでやられるんだよ。もっとまともなヤツは使役してねえのか!?」
「そ、そんなこといったって・・・そもそも戦う子たちじゃ・・・」
「んだとテメェ。俺に指図するってのか! いいからもっと凶暴なやつ出しやがれ」
男たちの一人が気弱そうな小さい子どもに怒声を浴びせるその様子、男たちの明らかに剣呑とした雰囲気から察するにおそらくこの集団は盗賊団の類だろう。だが何故盗賊団がこんなところにいるのだろうか。疑問に思っていたタギツは隠れながら遠巻きに見ながらどうするか考えていた。おそらく奴らがあのキノコの魔物の群れを仕向けたとみて間違いないが察するにこの程度の相手ならさして敵にはならない上にまだこちらに気づいていない様子、ならばここは知らぬフリしてさっさとここを離れるのも手ではあるか・・・
「フヒ・・・アヒャヒャハハハハ!」
いきなり大声で笑いだしたラキが背負ったミョルミーベルをぶんぶん振り回しながら盗賊団の集団に突っ込んでいったのだ。金色鈍く光る大槌が風切り音を立てながら盗賊の男の一人に当たったと同時にキレイな放物線を描いて宙を舞った。
「な、なんだテメェは!」「!こいつら村で目星つけた標的っすよ!」「ちっ、まさかこんなにも早くこの場所がばれるとは」「野郎ども、姿見られちまった以上生かしておくわけにはいかねえ殺れ!」
盗賊団の面々が次々と武器を手に取ってラキを囲んだ。しかし、不思議なことに、ラキは何故か地面に膝をついたり転がったりしながら爆笑して口からは大声で笑い声がこぼれ出ていた。その笑い声に盗賊団の男たちを困惑させ、彼らの手に持っている武器ですら揺らぎ始めた。盗賊団の者たちはラキの奇妙な振る舞いに困惑し、武器を持ちながらも戸惑った表情を浮かべていた。どう考えても頭がイカれたとしか思えない状態にもう天を仰ぎたくなってきたタギツだったが突然ピタリと笑い声が止まった。
今度はなんだと思ったらうつむいたままシクシクとすすり泣く声が聞こえた、最初は小さな声で泣いていたがすぐに大声で泣きわめきながら寝っ転がった状態で手足をばたつかせていた。さながら思い通りにならずかんしゃくを起している子どものように泣きわめいているのだ。
「・・・ナニコレ。どうなってるんだ?」
さすがのタギツもラキの情緒不安定ぶりに困惑していたがそんなことお構いなしにラキは泣きながら周囲にいた男たちを殴り飛ばした。意味わからないことを口走りながらぶん殴られた男はぐるぐると横回転しながら地面に倒れこんでぴくぴく痙攣しながら気絶した。さらに続けざまに他の盗賊団の男たちもぶん殴って倒していった。盗賊団が悲鳴を上げながら物凄い速さで倒れていき、瞬く間に全滅していた。
だがそれでもラキの暴走は止まらず泣き止んだかと思ったら今度は何を思ったのか地団駄を踏んで怒り出したのだ。大声で叫んだかと思ったら周囲に生えていたでかいキノコを手あたり次第にぶん殴ってへし折っていた。大きい上にとても堅いキノコの幹を折っているためメキメキと鈍い音を立てながらキノコが次々と倒れていった。
「あ、あの!もうこれ以上樹海を壊すのはやめてください!!」
さきほど盗賊団の男たちに怒声を浴びせられていた子どもが暴れまくっているラキに怯えながらも樹海を壊さないように言っていたがラキは癇癪を起したかのように周囲のキノコに当たり散らしていて完全に聞こえていなかった。どれだけ言っても全然聞く耳持ってくれないラキに泣き出しそうになっていた子どもを見かねたタギツはキャビンから降りて車椅子を進めると暴れまくってるラキの首根っこ掴んで引き寄せるとそのままヘッドロックキメて動けないようにした。
正直子どもにはみせられないが仕方ない。しばらくの間バタバタ暴れていたが唐突に電池が切れたかのようにぐったりして動かなくなり次の瞬間いびきをかいていた。
「ええ・・・寝だしたよこの子」
もういい加減訳が分からなかったタギツは、力尽きたようにヘッドロックを解いた瞬間、ラキをそのまま地面に寝かせた。ラキは無防備に地面に仰向けに倒れ、深く眠っている様子のラキを放っておいて子どもの方を向いた。
「それで君はいったい誰なの?さっきは脅迫されてたみたいだけど、大丈夫なの?」
「はい・・・大丈夫・・です」
完全に警戒した様子で、目を細め、眉を寄せ、不動のままでタギツをジーと見つめたままだった。その視線は、まるで針金で作られた鋭い鉤爪のように、一瞬たりとも彼女から離れることを許さないかのように、タギツという少女を貫いていた。子どもは、口ごもりタギツから発せられる異様な圧迫感に耐えながら会話を続けた。
——————
それから1時間ほどが経過し、大体の事情が判明した。まずこの子どもの名前はリッネアというらしくこの菌糸樹海にずっと住んでいるマイコニド族とのことで、普段は樹海に自生しているキノコを食べて生活しながら樹海が荒れないように管理しているているそうだ。いつもは誰も寄り付かないこの菌糸樹海だが、ある日いきなり盗賊団がやってきてリッネアを捕まえたのだ。もちろん抵抗したがもともと菌糸樹海には外敵がほぼおらず、必要最低限の生活ができれば問題がなかったためまともな戦闘能力を持っていなかったためなすすべなく捕まってしまった。
マイコニド族は地面から自生したキノコに自我が目覚めてどんどん人の姿になっていった種族だと言われている。その証拠に目の前にいる子どものリッネアも見た目は人間なのだが頭にキノコの傘が覆いかぶさるように生えていている。
服装も明らかにこのあたりの人間と違う服装をしており、菌糸樹海の外にある森林の葉っぱを編み込んだ服を着ていた。更にこの種族は生殖機能がない。つまり親という存在がないのだ。
このリッネアも子どもの姿をしていようともすでに100年以上は生きているらしく、改めて種族は見かけによらないとタギツは思った。そしてもう一つマイコニド族には特徴がある。それはキノコの魔物マタンゴを自ら生み出して使役することができるというものだ。菌糸樹海を管理するのにもたった一人では余りにも広すぎるためマタンゴを生み出して使役していたらしい。
盗賊団はそれに目をつけてリッネアに目をつけて捕まえてきたのだという。そしてこの力を使って周囲の町や村を襲う算段だったが、その前に樹海の中にラキとタギツが入ってきたから二人を襲って金品を盗もうとした。だが元々戦闘用の魔物を生み出していなかったため、恐ろしく弱かったためラキにほぼすべて撃破されてしまったのだとか。
「なるほど。そして使役していたマタンゴを撃破されてしまったことに焦った盗賊団が怒声を上げているタイミングで突然ラキが乱入して今に至ると」
「は・・はい。そのすみません。不可抗力とはいえあなた方を襲ったのは事実です。い、如何様にも討伐してくださって結構です」
「・・・本当はラキに危害を加えたり加えようとしたものは容赦なく排除するところだけれど、その前にあなたに聞きたいことがあるんだよね。それを教えてくれるかな?それ次第だ」
「聞きたいことですか?」
「君、エレメンタリーマッシュルームて知ってる?七色に光り輝く伝説のキノコと言われているらしいが」
「はい。存じ上げております。それが欲しいのですか?」
「え、あるの?」
「はい。ありますよ?」
「それって何処にあるの?」
「え~っと、この大樹ダケの傘の上に生えてますよ?」
「・・・・」
余りにも拍子抜けするくらい簡単にわかってしまいどう反応していいかわからず困惑していた。とりあえず伝説のエレメンタリーマッシュルームは手に入るみたいだし、ラキも寝ているだけで無事ではあるから大丈夫だろうし、更に盗賊団ということはおそらく冒険者ギルド経由でこの国から懸賞金が掛けられている可能性があるからその分の稼ぎもあると考えていいだろう。
思わぬハプニングに見舞われたが今回はラキに危害が加えらられていない上に、今後リッネアがラキとタギツの脅威になる可能性も低い、盗賊団も引き渡せばしばらくは脅威になりはしないだろう。
「今回だけだぞ、見逃すのは」
「ああありがとうございます!」
「それにしても、まさかああなるとは思わなかったよ。ほんとよく分からない正体不明のキノコなんて食べるからああなるんだよ」
「あの方は樹海に自生しているキノコを食べてしまわれたんですか!?それは・・・大丈夫なんでしょうか」
「まあ、ラキは毒には耐性あるから大丈夫だろうけど、やっぱり森に生えているキノコは食べたらまずいものだったのか」
「わたしも何を食べたのか見ていないのではっきりとはわかりませんので推測にはなりますがおそらくゲラゲラダケと慟哭キノコとレイジマッシュルームかと。先ほど感情の激しさは明らかにキノコに含まれる成分によるものかと思われるので、ただー」
「ただ?」
「あのキノコって猛毒でして食べた場合先ほどのような感情の起伏が見られたのち力尽きたように倒れこんでそのまま昏睡状態に陥り、最悪の場合死に至るキノコですから・・・その・・・」
凄まじく言いにくそうにちらっとラキの方を見たリッネアは無言ではあったが何を言いたいのかは分かった。視線の先のラキはピクリとも動くことなく地面に大の字になっていた。その様子にリッネアは瞳を伏せた。樹海に生息しているキノコを誤食して死んでしまうものが後を絶たなかったために菌糸樹海に入ろうとするものをマタンゴ達を使って追い払っていたが今回はそれよりも先にもう毒キノコを食べてしまっていたのだ。
もう助からない。リッネアにできることはせめて亡くなったものを労わることだけ・・・・・・
「ふわぁ~んんっ~!よく寝た~」
「え え ええ!?」
さっきまで死んでいたと思ってたラキが何事もなかったかのように起き上がり、睡眠をとってスッキリ快眠の様子で背伸びをしていた。リッネアはラキを見つめながら、目を白黒させ、言葉を見つけることができませんでした。彼女の頭の中は疑問と困惑でいっぱいで、まだ状況を理解することができていないようだった。
「おはようお寝坊さん」
「あ、おッはよ~!ここ何処だっけ?というかなんでこんなところで寝てたんだっけ私?」
「さぁ?なんでなんだろうね?」
「え~とターちゃん?どうしてニコニコ笑顔でものすっごいどす黒いオーラ出してるのかな?私はただ寝てただけ・・・だよね?」
「そうだね~。菌糸樹海に生えてる猛毒キノコを食べてミョルミーベル振り回しながら盗賊殴って蹴って投げ飛ばして、笑って泣いて怒ったあといきなりぐーすか寝だしただけだからねぇ」
「え、ええええ!?私そんなことになっていたの!?あああのこれは違うの!そうちょっと調子が悪かったっていうか・・・そう!寝不足!!寝不足で情緒不安定だったんだよ!でも睡眠をとったらすっかり元気なったからもう大丈夫だよだからねターちゃんお願いだからアイアンクローだけはやめいだだだだだだだだだだっ!!!?」
「なんでそうやっていつも命の危険に自ら片足突っ込むのかな~?僕にはよく理解できないんだ理解できるように教えてよラキ~」
「ごめんなさいごめんないさいほっとうに反省してますもっと慎重になりますからぁあああああああ!!!」
ラキが必死に顔面を握りしめているタギツの手を外そうとするが、タギツの手はまるで万力のような力でがっちりとラキの頭を掴んでいた。ラキの頭からはミシミシという音が鈍く響き、その音と共に苦痛が広がった。ラキは痛みのあまり口を開け、掴んでいる手を必死にタップしようとしましたが、タギツは容赦なくそのままアイアンクローを続け、ラキは自身の顔面が潰れそうになるのを感じ、苦痛の表情を浮かべ、泣き声を押し殺しながら必死にギブアップの合図を送るとタギツはやっとラキを解放した。
「ハァ ハァ し、死ぬかと思った・・・」
「わかったのならもう少し慎重にして」
「う~・・・ごめんなさい」
タギツにこってりしごかれたラキはその後、大樹キノコの上まで登っていき、そこにはまるで花畑のように七色に輝くキノコが地面に敷き詰められるように伸びているのを確認した。ラキはエレメンタリーマッシュルームを収穫すると下に降りてきてそれをタギツに見せた。
「これが伝説のエレメンタリーマッシュルームねえ。本当に七色に輝いているんだな」
「ねえ。リッネアだったよね?このキノコって食べられるの?」
「ラーキー?」
「ひっ!だだだだってせっかく見つけたんだから食べてみたいじゃない?それにほら今回はちゃんと食べても大丈夫なのかどうか確認しているじゃない?同じ過ちはシテナイヨ?」
「なんで急にカタコトなのかはさておいて、リッネア。これは食べても大丈夫なのか?」
「え、あはい。もちろん食べることはできます」
タギツは不安げな表情で、手に持っているキノコをじっと見つめています。その表情は「半信半疑」と言うしかない。一方で、ラキはキノコを興奮気味に持ち上げ、その見た目や香りに夢中になり彼女は確信を持って言い放った。「やっぱりこれが伝説のキノコなんだ!」
ラキは即座に行動に移り、そのエレメンタリーマッシュルームを素焼きにするための道具を用意し火を起こし、キノコを丁寧に調理していく。炎が薪を舐め燃え盛る中キノコの香りが空中に広がり、素焼きが完成した瞬間ラキはその香りと美しい焼き色に息をのみます。タギツはまだ半信半疑のままですが、ラキは自信満々で、その素焼きキノコをタギツに差し出した。
「いっただっきま————す!!」
「いただきます」
ふたり同時に食した瞬間、二人同時にピタリと動きを止めた。そして次の瞬間肩を震わせて思わず叫んだ。
「う、ウマ————!!!」
「こんなにおいしいキノコ初めて食べた!」
焼かれたキノコは外側がこんがりと焼け、噛むと程よい歯ごたえがあり、口に入れる瞬間にジューシーな味わいが口中に広がりその味わいは今までに体験したことのないもので、幸福感と満足感が全身に広がった。エレメンタリーマッシュルームはまさに驚きと美味しさの絶頂を迎えたキノコで、その味わいは一生忘れられないほどの衝撃をもたらした。その後も、次々とエレメンタリーマッシュルームを食べ進めていきあっという間に食べきってしまった。
「まさかここまでおいしいとは思いもよらなかった。なんだか心なしか体力も回復してないかこれ?」
「はい。エレメンタリーマッシュルームは精霊の力の塊ですのでこれを食べると疲労回復は勿論、瀕死の重傷すらも回復させてしまう効能があります。更にはこれを食べたもののあらゆる病が治るとも言われていますので太古の昔にはこのキノコは万能薬として人々がこぞって奪い合ったとか」
「なるほどね。これは奪い合うだろうね」
「ターちゃん!これを村の人々にあげようよ、こんなにもおいしいキノコそうそう食べられないじゃない?だからあの村の人たちにも食べてもらいたいと思うの」
「・・・いや、それはダメだ。あの村は今でこそ外部の人間に寛容になっているが、一部の人間は未だに排他的だ。その上このキノコはあらゆる病が治る効能が見受けられるし、最悪これをめぐって襲われる可能性もある。こんなものひけらかしたら絶対に全部奪ってから売り払って金にしようとする奴が現れるぞ」
「そっか~ ターちゃんがそういうならそうかもね。あ~あせめてジェシーにだけでも食べさせてあげたかったのにな~」
「そういうことならいい考えがあるよ」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべたタギツはラキを手招きするとそのままひそひそと話し始めた。
——————
それから数時間後、辺りが暗くなってきた頃、村に帰ってきたラキとタギツは泊めてもらう予定の民家に戻っていった。そこではなにやら人だかりが出来ており、村人たちが何やら話をしていた。
「それは本当か?」「ああ、さっき見てきたがアレはひどい」「どうにかならないのか!」「いま近くの城塞都市に医者を呼びに行ったらしいが間に合うかどうか」「なんてかわいそう」
村人たちが口々にそう呟いているのを聞いた二人はただ事ではない雰囲気を察し、近くにいた村人に話を聞いた。
「すみません。何かあったのですか?」
「ん?ああ、あんた達か。それがな、この家のジェシーって娘が何者かに襲われたらしくてよ。全身血まみれでたおれてやがったんだよ。それで村中パニックになってよ。一応応急処置はしたらしいが、アレはとても長くは持たねよ」
「ジェシーにあわせてください!お願いします!! もしかしたら助かるかもしれないので!!」
「え、ちょっとあんた!!!」
話をした村人の横をすり抜けたラキは他の村人たちの間を縫うようにして進んでいき、民家の中に入っていった。家の中に入るとそこには大人の男女と小さな男の子、そして木製のベッドの上に横になっている女の子がいた。ジェシーだった。数時間前に会った時には元気に駆け寄ってきて楽しそうに話をしてくれたが今は横に案ってぐったりしており、包帯からは血が滲み体中が傷だらけになっていた。息が浅く苦しそうにしていた。
思わず目を覆いたくなる状態だったが必死にこらえてラキは懐から一本の瓶を取り出した。
「ジェシー!目を覚まして。ラキお姉ちゃんだよ。お姉ちゃんね、ジェシーの傷によく効くお薬作ってきたの。きっと良くなるからこれを飲んで」
「・・・ラキ・・お・・ねえ・・ちゃん?」
「そうだよ。ラキお姉ちゃんだよ。さっきぶりだね。お姉ちゃんジェシーに良く効くお薬作ってきたんだ。飲んでくれるかな?」
「おいあんた何飲ませようとしてんだ!!」
いきなり入ってきてジェシーに良く分からない薬を飲ませようとしていると思った両親と思しき男や村人数人がそれを止めに入った。当然だ、村人目線からすればさして親しくもない旅人の冒険者が持ってきたよくわからん薬を飲ませようとしてるのだからそれは止めに入るだろう。ラキとしてもそれは理解していた。
だが、ジェシーの容態はとてもじゃないが普通じゃない。すぐにでも飲ませないと時間がたつにつれどんどん悪化していき最後は・・・・・・
「ッ‼ いいから・・・そこをどけぇえええええええええええええええ!!!」
ラキが大声で怒鳴りながら村人を振り払うとすぐにジェシーに駆け寄り、手に持った瓶に入った液体を飲ませた。ラキを信じているのかジェシーは微かな意識の中瓶の中の液体を飲み干した。その直後
「テメェ何してやがる!!」
ジェシーの父親がラキに殴り掛かり、振り払われた他の村人たちもラキを民家の外に引きずり出すと一斉に袋叩きにしてきた。それをラキは抵抗することなく一身に受けたあと突き飛ばされた。普通なら死んでもおかしくないほどの殴打を受けたがほぼ傷はなく服が泥だらけになってしまっただけだ。むくっとゆっくり起き上がったラキは怒っている村人に話をしようとしたが
「やっぱりな。本性を現したかこの外道!!」「やはり外の人間を村になんぞ入れるべきではなかったんだ!」「今すぐにでもこいつらを追放しろ!!」
「ま、まって!違う!私はただ助けようとして」
「嘘をつくな!そのよく分からない液体が毒ではない確証はないだろ!それに仮にもし本当に助けるための薬だとして何故見ず知らずの子どもに対して使う?どうせこの子を襲ったのもお前たちだろう?そしてそのうえで助けることでこの村の連中に取り入ろうとしたんだろう!!」
元から排他的な考えを持っていた村人がラキの話をさえぎって持論を展開し、周囲の村人たちはその村人に追従するような反応を示した。考えてみれば当然のことで元々排他的だった村で村人の前であのような行動をすればこの反応も当然のことだ。誤解を解こうとラキが話そうとしたとき後ろからタギツが話しかけた。
「ラキ。・・・行こう」
「ターちゃん・・・でも、私」
「大丈夫」
「・・・わかった」
そう言うと、泥だらけで汚れた服をそのままにして、ぼさぼさになった髪も直さずに、タギツの乗っているキャビンを動かし、そのまま村を後にした。ラキの服は地面の泥で汚れ、たくさんの小さな汚れが目立ち、髪も村人に殴打されて乱れ枝や葉が絡みついていた。キャビンはゆっくりと動き始め、ラキは一度も振り返らず、汚れたままの姿で村を去っていった。
菌糸樹海の中でラキが倒してしまった窃盗団は仕方ないのでキャビンに詰め込んでそのまま近くの都市にある冒険者ギルドに引き渡してそのまま衛兵に連れていかれた。日が傾いたあとに出立したので都市についたのが既に夜中であったため特に食事もとらずに冒険者ギルドの部屋に泊まったラキとタギツは特に会話をするでもなくその日は眠りについた。
——————
それからいつもの旅に戻り、最初は元気のなかったラキだったが、徐々に元気を取り戻していき今ではすっかり元通りになってっていた。あの村に寄ってから1か月が経過した頃、とある小さな町で冒険者ギルドの受付でいつもどおり依頼をこなして受け取った報酬の確認をしてたタギツはたまたま近くにいた冒険者のとある噂話を耳にした。
「なあ、聞いたか?ある村の話を」
「ああ、聞いたぜ。なんでも村の連中が森から現れた魔物に襲われて壊滅しちまったってな。生き残ったのはごく一部の連中だけで小さな女の子とその弟?だかなんだかだけらしいな」
その話に聞き覚えがあったタギツは、荒々しい外見の冒険者に今話していた噂話を詳しく聞かせてほしいと銀貨1枚を握らせた。銀貨は冷たい感触を手に伝え軽く光りそれに満足した冒険者は粗野な笑みを浮かべながら話し始めた。
結論をいうとあの村が滅びたらしい。
原因は色々あったが元々外部の人間を信用していなかった一部の村人が盗賊団と手を組んで村に旅人が訪れるたびにその旅人たちの情報を盗賊団に伝えていたらしい。そして盗賊が旅人を襲撃して金品を強奪していた。そしてその分け前を村人はもらっていたのだ。さらにそのことを知っていながら知らぬ存ぜぬお決め込んでいる村人もいた。
さらに旅の冒険者が近くの樹海に入っていったのを樹海に潜んでいた盗賊団にこっそりと伝えていたらしく、その様子をたまたま見てしまった村人の女の子が内通していた村人によって斬られた。その後、旅の冒険者によって盗賊団は全員捕縛され斬られた女の子もその旅の冒険者が救ったが周囲の村人はそれを信じず暴行を加え、更には盗賊団と内通していた村人がその冒険者を陥れたため冒険者はそのまま去っていった。
その後、女の子が目を覚ました時に自分を襲ったのは村人であることが伝わり村中が大混乱に陥り、盗賊団と内通していた村人は他の村人たちによって殺され、知っていながらそのことを黙っていた村人は事情を知らなかった村人たちと揉めに揉めてついに互いを罵倒しあい、一人また一人と徐々に村人が流出していき、最後は瓦解してしまったのだ。
「知ってるのはこのあたりだな。 おーい!ねえちゃん酒追加だ!」
「他には知ってることはないの?」
「ほかにねえ・・・ああ、そういやさっき話した村人に襲われたって女の子は生きてたらしくて何処かの海辺の街に引っ越したそうだぞ」
「そう。ありがとう」
タギツは車椅子を動かして冒険者ギルドの外に出ると、快晴の空の下にキャビンを止めて屋根に寝転がってラキが寝ていた。すやすやと寝息を立てていたので冒険者ギルドの中で入手したリンゴを掴むとラキに向かってぶん投げた。
「うわ!びっくりした!え、なに!?」
「こっちだ。ねぼすけ」
「ああ、ターちゃんか~もうびっくりしたじゃない。普通に起こしてよね。ムシャムシャ」
投げ渡されたリンゴをラキは大きな一口でかみ砕きながら、屋根の上から跳ねるように飛び降りた。タギツがキャビンに車椅子ごと乗ったのを確認するとラキは力強く土を踏みしめ、再び次なる冒険への道を歩み始めました。キャビンがガタガタと揺れる音が耳に響きながら、二人は次なる旅路に向かっていくのでした。
おしまい