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二人ぼっちの旅日記  作者: きりん
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ラキと激辛料理(短編話)

むかーしむかし、あるところにひとりの少女がおりました。

 


 金色の髪と碧い瞳を持つ少女は手にした紙袋から、美味しそうな肉の串焼きを取り出し、それを頬張りながら街を歩いていた。そよ風が心地よく吹き抜け、街は賑やかな人々で溢れている。

彼女の手に握られた串からは、街で飼育された新鮮な牛肉の芳ばしい香りが漂っていた。その肉は焼かれることで香ばしさが増し、口に運ぶたびに肉汁が溢れ出しジューシーな肉汁が、彼女の唇を潤し、彼女の顔に満足そうな表情を浮かべさせる。

街の中には他にも様々な食べ物の香りが混ざり合い、食欲を刺激する。軽やかな歩みで街の景色を楽しみながら煌めく店舗の看板や、人々の笑顔に囲まれながら、彼女は幸せな気持ちに包まれている。

彼女の手元には、街の賑わいと美味しい食べ物を象徴する、様々な料理が入った袋があり、それを彼女は頬張りながら、幸福感に満ちた表情でこの街を歩き続けている。

 その少女——ラキは街を歩いているとふと一つの店を見つけた。

 その店は活気あふれる街の中であるにもかかわらずそこだけずいぶんと寂れた印象を受けた。その店は人の出入りが全くと言っていいほどなく店の中のテーブルや椅子はとても年季が入っていた。店内も人の気配を感じずとても営業しているようには見えなかった。だがそれでもラキは店の中に入った。


「すみませーん!ここ今やってますか?」


 ラキの声が店内に響き渡り、少しの間シーンと静まり返った。誰もいないのだろうか?静かな店内を見渡してから再度呼んだがやはり反応がなかった。仕方ない出直そうと店の外の方を向いた瞬間、厨房の方からゴソゴソと音がした。そして出てきたのは・・・豚だった。


「客とは珍しいな。いつも常連しか来ねえってのに珍しいこともあるもんだ」


 くわぁ~と欠伸をしながら厨房からでききたのはどこからどうみてもピンクの肌に特徴的な大きな鼻をもつ豚だった。しかも二足歩行で立って歩いてしっかりと服を着てエプロンもつけていた。というか喋った。


「あなたが店主さんですか?珍しい種族?ですね」


「ああ?あんたピング族知らねえの?まあこの辺じゃあ珍しいだろうが見ての通りの亜人だよ」


 そういいながらゴソゴソとポケットの中を漁ると煙草を取り出して火をつけた。白い煙が店の中に広がり天井に白いもやがかかった。


「それでメシ食いに来たんだろう。何食べる」


「そーですね~。・・・・・・そういえばここって何食べさせてくれるんですか?メニュー表ないですよね?」


「よくわかったな。そうだメニューはない!なぜならこちらが客を見て食べさせたいものを食べさせるのが俺のポリシーだからだ!」


「ええ!?じゃあ何で何食べたいか聞いたんですか?」


「なんとなくだ!」


「なるほど!」


「・・・・・・それで納得しちまう奴初めて見たんだが。これを聞くと大抵の奴は怒るか呆れるかして帰っちまうんだがな」


「まあ、結構強引ではあると思います。けど自分が食べさせたいものを出したいんですよね?それってつまり料理に信念と拘りがあるってことじゃないですか!なら美味しいに決まってます!それに直感は大事ですよ?」


「なんか本当に変なヤツだな。まあ、食ってくれるなら願ったりかなったりだがな。」


 そういうと豚の店主は厨房に向かい調理を開始した。少しすると調理場の方から色々な音が聞こえてきた。食材を切る音、鍋を振る音、食器を机に置く音。様々な音が聞こえさらにいい香りが漂ってきた。色々なものが合わさったとてもかぐわしい香り


「お待ちどうさん」


 そういって店主が出してきたのは、麻婆豆腐だった。豆腐とひき肉が絶妙に絡み合いそれに加えて、生姜の香りがとても鮮烈に漂っていた。しかし、それ以上にラキの目を引いたのは、その色合い。赤い。まさに圧倒的な赤さでした。深紅の色調が一層際立ち、まるで地獄の血の池のような見た目に目を奪われた。


「おお!これはまた滅茶苦茶辛そうですね! では早速—」


 ラキはレンゲで麻婆豆腐を掬うと口の中に放り込んだ。最初は意外といけるかと思ったが次の瞬間口の中に衝撃が走った。地獄のような見た目通りの地獄のような辛さだった。口から火を吹きそうなくらい辛く思わずテーブルに頭を数回打ちつけてしまった。瞬時に毛穴が開いて汗が噴き出した。口がヒリヒリしてたまらないがそれ以上に


「お、おいしい・・・。こんなおいしいものそうそうないよ!」


 とてつもない激辛っぷりだがその中に確かな旨味があり、生半可な作り方では出せない味わいを醸し出していた。気づけばラキは辛さに耐えながらも麻婆豆腐を口に入れていた。やはり辛い。辛すぎる。でも旨すぎる。そんな相反する感覚に全神経を集中して時折汗をぬぐい水を飲みながら最後まで完食した。


「ふぅ・・・なんか。なんだろう。美味しかった」


 ラキは言い知れぬ達成感を感じながら天井を仰いだ。そんなラキに店主はそっと次の料理を出した。次は回鍋肉だった。豚肉とピーマンにタケノコ、キャベツが入っており醤油のいい香りが漂いとても食欲をそそった。見た目以外は・・・。

 これも見た目が真っ赤。もうこれでもかというくらい真っ赤だった。どれだけ香辛料と唐辛子使ったんだというくらい真っ赤かであった。


「次はこれか~。ふぅ、よし!」


 ぺチンと自分の頬を叩き、気合を入れると回鍋肉を口に入れた。一口噛み込むと、まず痺れるような辛さが口中に広がり、汗だけでなく涙まで出てきた。辛さが猛烈であるにもかかわらず、それも一瞬で忘れさせるほどの絶妙な旨さに、驚きと喜びが交錯した。

 口の中に広がる肉と野菜の素材の味わいは、辛さとは裏腹に鮮明に感じられ一度噛むたびに、肉の旨味がじんわりと広がり、野菜の甘みとシャキシャキした食感が口いっぱいに広がっていきました。まるで口の中で料理が舞い踊るかのような感覚に興奮した。

 この絶品の回鍋肉を口にしている間、味覚だけでなく全身が満たされるような喜びを感じ、そして、あっという間に皿が空になってしまった。思わず「ペロッ」と舌をなめると、満足感とともに、この素晴らしい料理を完食してしまったことに少し寂しさを覚えました。


「ふぅ。痺れるような鮮烈な美味しさだったよ!」


 ラキが回鍋肉を食べ終わるとそれに合わせるかのように今度は黒い石の器に入った食べ物を出してくれた。それはホルモンとニラとにんにく、真っ赤なスープそして青唐辛子が入っていた。そのままの状態で。思わず目が点になったがそんなことお構いなしに地獄の窯のように真っ赤なスープがぐつぐつと煮えていた。さすがのラキも顔を引くつかせていたが意を決して目の前の料理に食らいついた。


「vにうghヴぁんヴぃlvはvな!?」


 今までのが比にならないくらい辛い。辛すぎて感覚が麻痺しそうなくらい辛かった。思わず気が遠のいで白目をむきかけたが根性で意識を手放さないようにし、無我夢中で食らいついた。確かに今まで以上に辛いが同時に今まで以上にうまかった。途方もなく旨かった。無上の歓喜に心を震わせながら一心不乱に食べ。食べ終わった瞬間達成感と充実感がラキの心を満たした。


「感無量・・・」

 

 すべてを食べきったラキは汗をかき口まわりを真っ赤にしながらもとても満足げに言った。その味わい深さと素材の旨味を引き出した料理の数々はラキを満足させていた。店主は最後にカップに入った氷菓菓子をくれた。ひんやり冷たくそして牛乳の甘みが口いっぱいに広がり美味しかった。


「これほどの料理久しぶりに食べました。ありがとうございます!」


「いや、あんたこそいい食べっぷりだった。ここまでしっかりと食べてくれる奴は数えるほどしかいねえ」


「まあ、この辛さだと誰でも食べれるものじゃないですからね。でもだからこそここまで食べれたものが到達できる境地でもあるんでしょうけど」


 そういうと口の周りを拭き、ポケットからお金の入った小袋を取り出した。これだけのものを食べさせてくれたのだから結構かかるだろうと考えていた。しかしラキの予想に反して店主は


「お代は銀貨1枚でいい」


「いやいやいや。これだけの料理に銀貨1枚はありえないですよ。何言ってるんですか?」


「金の問題じゃねえ。俺の料理の味を認めてくれる奴に食わせてやるのが目的なんだよ。だからお礼ってんならそうだな・・・・・また食べに来てくれや」


 そういうと一仕事終えたから煙草を一服吸うために奥の厨房に引っ込んでいった。ラキは汗を拭うと1枚の銀貨を机の上に置くと店の外に出た。汗で体が冷えて微かに吹いている風がとても心地よかった。今度タギツにも食べさせよう。そう思いながらラキは街へと繰り出していった。なお後日タギツを引っ張ってきたときタギツは食べた瞬間気絶した。



おしまい

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