嘆きの獣
むかーしむかし、あるところに二人の少女がいました。
一人は金色の長い髪を靡かせながら木製の大きなキャビンを引いていた。背中には身の丈ほどの大きさはある大きな黄金の大槌を背負い歩くたびに金属音を響かせていた。もう一人はキャビンの中で手にした分厚い魔導書を読み耽っていた。銀色の髪をハーフアップ三つ編みにし、片手にはパイプを持ちながらそよ風に吹かれていた。眼前の荒野は灰と土を落としたかのようなくすんだ情景を広げ物寂し気な雰囲気を放ってた。空模様もあいにくの曇天であった。
「ターちゃんそろそろ休憩にするね~。ふう」
「わかった。じゃあついでにご飯にしよ」
枯れた一本の木のふもとにキャビンを止めたラキは背負ったリュックと黄金の大槌—ミョルミーベルをキャビンのそばに置き野営の準備を始めた。タギツは普段は自由に動くことができないので野営の準備作業はラキが調理はタギツがそれぞれ役割分担で行っている。焚火に使う薪を集めに周辺の荒れ地を歩きながら散策をした。本来なら次の目的地まで一気に行きたいがさすがに日が落ちそうだったので今日はここで野宿とする。ラキは鼻歌を歌いながら薪に使えそうな枝木や枯れた倒木を拾いあつめていた。
「およ?あれはなんだろう?」
ふと前方から何かがやってくるのが見えた。それは大きな一匹の魔物だった。体長10mほどはあるだろうか焦げ茶色のふさふさとした毛並みに白い立派な牙と大きなピンクの鼻四足で走るそれはどう見ても馬鹿でかいイノシシだった。それは全力疾走でこちらへ向かって走ってきていた。重量物の魔物が物凄い速さでこちらに向かってきているためか地面が小刻みに振動していた。
「うわ!魔物が来ちゃった。ミョルミーベル置いてきちゃったし。う~んしょうがないか」
ラキは抱えていた枝木を地面に置き、担いでいた倒木を重い負荷を感じながらも両手でしっかりと握りしめた。まるで棒術の使い手のように、彼は倒木を身体の周りを素早く回す。木の重さに振り回されることなく回転のリズムに合わせて、身体と枝木が一体となったかのようにしなやかに動かす。
イノシシはますます近づいてきて、その鋭い牙をむき出しにしている。ラキはタイミングを合わせるように腰を落とし、全身の力を込め、倒木を振り抜こうとする。
「まっでぇええええだずげでぇええええええ」
——え?
ラキは一瞬目が点になった。このイノシシいましゃべった!?魔物は原則しゃべらないはずじゃなかったっけ?疑問に思っていると目の前のイノシシはラキの後ろに隠れるように回り込んで何やらガクガク震えていた。いまいち状況が呑み込めないラキだったがイノシシの後に数十匹のオオカミが現れた。オオカミといっても普通のオオカミではなく体長2mほどはあるどでかいオオカミ型魔物である。たしか
「あれはハンティングウルフ?なんであんなのがここに?」
「ああ、あれに追いかけられてたんです!たたた助けてください!」
イノシシの魔物はラキの後ろから懇願するように言ってきた。ハンティングウルフの群れは格好の獲物を見つけた猛獣の如く鋭い眼光をギラギラさせ、鼻息荒くこちらの様子を伺っていた。ハンティングウルフは、体長2メートルにも及ぶ大型の魔物であり、恐ろしい存在として知られている。その名の通り、彼らは獰猛な狩りの本能を持ち、群れで行動することが特徴としてあげられるのだ。
体は鋼のような硬さを持つ灰色と深い黒色の毛皮で覆われている。その厚い毛皮によって過酷な環境に適応し、鋭い牙と爪による攻撃から身を守る役割を果たしているとか。目は黄金色に輝き、知恵と野生の本能が混ざり合ったような光を放っている。
「というか私までエサとして見てません?まあいいけど」
ラキは手にした大きな丸太を構えると一足飛びに群れのど真ん中に降り立ちすぐそばにいたハンティングウルフに向かって丸太を振りぬいた。短い悲鳴とともにハンティングウルフの身体が吹っ飛ばされていきそれを皮切りに他のハンティングウルフが一斉に襲いかかってきた。それをひらひらと躱しながらラキは手にした丸太で次々とハンティングウルフを叩き潰していった。
全てのハンティングウルフが動かなくなったのを確認してラキは手に持った丸太をドスンと地面に置き手についた土を払った。
————それから少し後
「先ほど助けていただきありがとうございました!ほんともう死ぬかと思いましたよ~!」
「・・・ラキ。これなに?」
「わかりません!枝木と丸太拾っていたらなんか現れた!」
「・・・そう」
怪訝な表情でタギツは目の前のイノシシの魔物を見た。どっからどう見ても魔物だが普通に人語を話している。世の中には魔族なんかもいたりはするものだが、魔族はそもそも魔境と呼ばれる大地に多く暮らしている。こっちの大陸にはあまりいないしイノシシ型の魔族なんて聞いたことがないし、魔族の特徴の一つである高い魔力を有していないみたいだ。
「ああ、申し遅れました!私はジーノと申します。しがない行商人の者でしてこちらには商売でやってきたのです。え~何から話したものか。実はですね。私今はこんななりですが本来は人間なのです」
「え!?人間って」
「ええ、驚かれるのも無理はありません。私も自分の姿を水面で見た時は驚きました。まさかイノシシになってしまっているだなんて。ほんともうなんか・・・」
「まあ、ひとまず信じます!それでジーノさんは何故イノシシの魔物に変わってしまったのですか?一体何があったのです?」
「そうですね。順を追ってご説明いたしましょう。私はあの時、いつも通り商品を馬車に乗せて街道を進んでおりました。私が渡っていた街道はこの大陸でも特に安全と言われている街への街道でして時折小さな子どもも薬草採取や森林から薪を集めたりするくらい安全な所でしたので護衛の冒険者を雇っていなかったので一人で馬車を動かしておりまして、その時丁度花畑のある木陰で休もうと馬車を止めて休憩をしてましたら一人の女がやってきましてね」
「一人の女?」
「はい。その女は私にこう言ったのです。「路銀が尽きて困っていた。次の街まで相乗りせてほしい。代わりに魔法薬を譲る」と。行商人としては確かに魔法薬はとても魅力的でした。なにせ魔法薬は作れるものがそれほど多くなくしかも質の高い魔法薬となるとこれまた貴重です。それを次の街まで馬車に乗せるだけでもらえるとあればならない手はないと思いまして女を乗せたのです。そして街道をしばらく進んで次の街が見えだしたタイミングで言ってきたのです「ここまででいいですよ」と」
「なんでそんな中途半端な場所で?」
「わかりません。私もさすがにそんな場所で降りたがるのを不審に思ったのですが次の瞬間女は木の棒を私に向けて何かつぶやいたかと思ったらこの通りになってました」
話し終えたジーノはふうとため息をつくと呼応するようにタギツはパイプをふかしながら話した
「それはおそらく魔女だね」
「魔女・・・でありますか?」
「そ、この世界にはおよそ人間の寿命を超えて永い時を生きている存在がいくつもいる。そのうちの一つが魔女。魔女と呼ばれる存在は大昔からいて色々な魔女が世の中にはいるのよ。人々に協力する魔女もいれば人を騙して利益を得る魔女もいる。街のど真ん中で魔法薬の店出しているものもいれば山奥の小屋に引きこもって魔法の研究に没頭してるやつもいる。まあ、共通点としては総じて凄まじい魔力と魔に関する膨大な知識を持っているということかな」
「魔女という存在については存じておりますがまさかそんな。私が出会った存在が魔女だったとは」
「わからなかったかい?魔女は大抵わかりやすい格好していると思うのだけれどね。特徴的な大きな魔女の帽子とローブを羽織り、杖を持った女という特徴があると思うのだけれど」
「そういえばそのような背格好をしておりました! いやいはや私としたことが魔女と知らずに話に乗ってしまったのですね」
「ま、魔女って基本ずるい奴らだからそこまであなたの落ち度でもないよ。それよりもこれからのことだよ。君はこれからどうする気だい?」
「どうとは?」
「君は魔女に呪いをかけられた。魔女から商品奪い返すなりなんなりするにしてもまずはその呪いを解呪しないといけない。君が掛けられた呪いはおそらくあと1年は続くと思う。だからそれまで待つのも手ではあるけどそこまで待たずに魔法薬があれば何とかなるから魔法薬を探すという手もある」
「ほ、本当ですか!?」
前のめりになって食い入るジーノに鬱陶しそうしながらもタギツは肯定した。まあ気持ちはわからないでもない。いきなりイノシシに変えられたからそら誰だって驚くし、動揺するもんだ。そんなところに今の状態から人間に戻る方法を知ることが出来たらそりゃ喜ぶもんだ。
「解決策が見つかってよかったですねジーノさん!」
焼けたハンティングウルフの肉を、ジューシーな肉汁が滴るままむしゃむしゃと噛み砕きながら、ラキは幸せそうな笑顔を浮かべて言った。炭火で焼かれた肉の香りが鼻腔を通っていき、口の中には熱い蒸気と豪快な旨味が広がっていた。輝く灰色の炭によって焼き上げられたハンティングウルフの肉は、外側はカリッと香ばしく、内側は柔らかくジューシーだった。ラキは、心地よい噛みごたえと溢れ出る旨味に満足していた。
「これくらいの知識なら別に普通に誰でも知ってることだから気にしなくていいよ。じゃ、あとは頑張ってね」
「え!?」
「ん?」
「む~・・・」
ジーノは驚いた表情をしてタギツの方を見て、タギツは怪訝そうに聞き返し、ラキは何かを察したのかふくれっ面であった。
「あの・・・助けてはくださらないのですか?」
「なんであなたを助けないといけないの」
「もう!ターちゃんったらまた断るの?いつも言ってるじゃない。困ってる人がいたら助けること!それが巡り巡って自分たちを助けるの!」
「面倒くさい。やだ」
「お願い!ターちゃんが協力してくれたらすぐ解決しそうだし、原因を見抜いたのもターちゃんだし、私魔法薬の知識無いから作れないないもん!」
「自信満々に言われても困る。それに私だって専門じゃない」
「お願いします!私としてもいつまでもこのままの姿でいるわけにはいかないのです!」
ラキはタギツの肩を掴むとそのまま揺さぶるように駄々をこね始め、ジーノも必死に自分が元に戻れるよう懇願してきた。・・・うわぁ めんっっどくさ~と思っているが断ってもラキが納得しなさそうである。
「ハァ わかったよ。でもきっちり報酬はもらうからね」
「!ああ~ありがとうございます!」
「よかったですねジーノさん!ターちゃんはとても優秀ですから魔法薬もきっと見つけてくれます!そうだよね?」
「完全に僕だよりだよねそれ。まあいいけど。とりあえず今日はここで野宿して明日街まで行こう。目的の街は確か魔法薬を売ってる店があるはずだからそこで入手しよう。最悪材料集めれば魔法薬作ってくれるだろうし」
そういうとタギツはそそくさとキャビンの中に戻って睡眠をとった。あたりはすっかり闇に包まれ焚火の炎だけがぱちぱちと音を立てながら揺らめいていた。
「私たちももう寝ましょう。明日は歩きますからね!」
「はい。わかりました」
一夜明け次の日、目的の街の手前で、ジーノとは一旦別れた。
というのもジーノの姿はどこからどう見ても魔物そのものなので街に入ったら最悪討伐されかねなないのだ。ジーノもそのことはわかっているので街には入らず近くで待機することとなった。
『古都:メディーバルアンティーク』
街は、古代の石工技術の粋を集めた美しい建造物で溢れており、海風と波の侵食にも耐えるように堅牢に築かれたその重厚な存在感が周囲の景色と見事に調和していた。
古い石の建物の壁面は、苔や藤の蔓で覆われ、年月の経過を感じさせる風合いを醸し出し石畳の坂道には、古代の石彫りの像や噴水が点在しており、美しい花々が咲き誇る庭園も見受けられた。街を彩る彫刻は、神話や伝説の魔物や英雄を象っており、まるで物語の一場面が目の前に広がっているかのようだった。
ラキはタギツを乗せたキャビンを街の冒険者ギルドに預けラキを背負って街へ繰り出していった。街全体が坂に無理矢理造ったかのような構造をしてるので車椅子で回れない。なのでラキはタギツを背負ってある時は石段を駆け上がりある時は人一人通れるくらいの細い道を進み、ある時は川の中に埋まっている石畳の上をジャンプしながら川を渡っていきそして目的の店が目の前に現れた。
「『リュシー魔法薬』。ここね。ラキは少し外で待っていてもらえるかな。僕は店主と話をして魔法薬を作ってもらうから」
「私も一緒に行くよ?」
「いや、多分込み入った話になると思うから街で買い出しでもしてきて。そうだね~夕刻に迎えに来てもらえればそれでいいから」
「もう仕方ないな~それじゃあ私は市場に行ってくるね!魔法薬必ず手に入れてよ!」
「任せといて」
そう言葉を交わし、二人は別行動を行った。タギツと別れたラキは石畳を駆けて市場向かった。色とりどりの屋台や商人たちが熱気に包まれた活気溢れる光景を広げ独特な香りが漂い、鮮やかな布や宝石が輝き、調理される料理の香りがラキを誘惑する。
繁華な市場の中を歩くと、エキゾチックな生き物の鳴き声や鳥のさえずりが耳に響き、行き交う人々は多様な服装で身を包み、異国の言葉を交じり合わせながら取引や交渉を行っていた。
「おう嬢ちゃんいい魚が揚がったんだ!みてきな!」「お姉さんお姉さん。野菜とかどう?買ってくならまけとくよ!」「お嬢さんや。果物も買っていきなされ。今朝とれたばかりの新鮮なものだよ」「お姉ちゃんこっちの店も見ていっておくれ」
人々の声に目を輝かせながら市場を進み色々な食材を買っていき、市場を離れてさらに奥に進むとそこには、美術品や工芸品の屋台が広がり繊細な彫刻や絵画、宝石で飾られた装飾品などが見事に並び、その美しさに見惚れる人々が絶えない。
職人たちは技術と創造力を競い合い、作品を誇示しながら訪れる者たちを魅了していた。屋台の奥深くでは、貴重な魔法の素材や薬草を売っており、更には不思議な宝石や魔道具までもが並んでいた。
「魔道具に興味があるのかい?ならこいつなんかどうだい? こいつはな魔力を注ぎ込むと火が出る魔道具さ。旅の途中野営する際に焚火をしよって時にすぐに火種にできる。どうだい?」
「おお!いいですね。ターちゃんによさそう。いつもパイプふかしているけど持ってる魔道具が壊れかけるといってたので丁度いいです!」
そういって話を切り上げて銀貨を払って魔道具を受け取り歩き出した。他の屋台でも同様に魔道具が売られていたがあまり買うとまたターちゃんにねちねち怒られちゃうので買いたい衝動を抑えつつ買い物を切り上げ、ラキは荷物をもう冒険者ギルドに預けたキャビンに置きタギツを迎えに行った。
——夕刻
「魔法薬は問題なく入手できたよ」
「本当!?よかった~。これでジーノさんを元に戻せるね」
小瓶に入った透明な青い液体を見ながらラキは安堵したたのかふうと息をついた。魔法薬店から冒険者ギルドに置いてきたキャビンに戻り、その中で手にした小瓶を弄りながらタギツは話を始めた。
「僕はジーノにこれ飲ませてくるけどラキはどうする?」
「あ~・・・私も行きたいんだけど、実は市場の人たちと仲良くなっちゃってご飯誘われちゃったんだよね~えへへ」
「なるほど食い意地汚いもんねラキは」
「言い方がヒドイ!?」
「でもまあ、それなら僕一人で行ってくるよ。ラキは食事が終わったらそのまま冒険者ギルドに戻っていて」
「わかったよ~!ターちゃんの分ももらってくるね~!」
ラキは目を輝かせながら、わくわくとした興奮と待ちきれない気持ちで満たされていた。心躍る表情と軽快な足取りで街へ駆け出した。どんだけ食いたいんだよと思いながらもラキらしいと思わず笑みをこぼしながらタギツも一人でジーノの所に向かっていった。
街の灯りに比例して人々が行き交っていたが街の外れまで行くと人がまばらになり、街の外まで出るとあたりはすっかり暗くなっており空には宝石をちりばめたように星々が輝いていた。風が荒野を撫で昼間以上に不気味さを物寂しさをみせていた。そんな中一つの枯木のそばまで来たタギツはそこにいるイノシシに話しかけた。
「ジーノさん。魔法薬入手できましたよ」
「おお!ありがとうございます! これで元に戻れます」
暗がりの中にイノシシの影を見つけたタギツは持っていた魔法薬の蓋を外してジーノ口に流し込んだ。淡い光とともにイノシシの身体が徐々に分解されていき一人の中年の男の姿に戻っていった。いたって普通いやすこし裕福な人物なのかいい質感の服を身にまとっていた。ジーノは自分の顔触ったり手を握ったり開いたりしながら自分が元に戻ったことを徐々に実感し目頭が熱くなるのを感じた。
「これで・・・これでやっとまた人間として生きられる。本当になんとお礼を言ったものか。感謝してもしきれません!」
「別にいいよ。あの娘がそうのぞんだことだから助けたまで。私は手助けをしたに過ぎない」
「それでもですよ!生まれてこのかたここまで感極まったこともそうありません。ああ、やっと・・・・やっと元の生活に戻れる」
「行商人だっけ?確か」
「はい。行商人として色々な事を経験してきましたがさすがに今回のような自分が変身してしまうなどという出来事は想定外でしたよ~ハハハ」
「まあ、それはそうだろうね。それで君はこれからどうするの?」
「そうですな。商品を丸ごと持っていかれたのはさすがに痛手ですがまた行商人として頑張って稼いでいこうかと。家族にも心配かけてしまいましからなるべく早く会わないといけませんし、娘も心配しています。いつも私の後をくっ付いてくる可愛いこでしてね~、行商から帰ってきたら旅先で見つけたお菓子を一緒に食べながら旅の話をするのですよ~」
「そっか、じゃあ家族のもとに帰ってあげないとね」
「はい。ここから遠い所に住んでいるので戻るのが少々大変ではありますがそれでも必ず戻りますよ」
「そうするといいよ。あなたは家族のもとに帰るべきだからね。——ああ、そうだ一つ聞き忘れてた」
懐からパイプを取り出し、指先で丁寧に火を点けた。夜空がますます肌寒さを増し、彼女の吐く白い煙は空気中で舞い踊りその煙は、冷たい夜風にさらされて次第に薄くなっていき、やがて消えさり明日の予定を尋ねるかのように気軽な口調で言い放った
「あと何人魔女を手に掛けるつもりだい?」
———つい先ほどまでの柔らかな空気が一瞬で凍り付き緊張の糸が張り詰められたような感覚が互いの間に沈黙の時間とともに流れた。闇夜と風の音が無言の圧となって吹き抜け先ほどまで夜空だったのにいつの間にか暗雲が立ち込め星々を隠して重い影を地に落とした。
「——何を言ってるんですか?私はしがない行商人ですよ?魔女などという架空と思っていた存在にイノシシの化け物に変えらたただの一般人ですぞ」
「と口では自信に満ちた言葉をしゃべっているけど内心では動揺してるでしょう?」
「バカバカしいです!いきなりなにを仰っているのですか!?私は被害者ですぞ。それに私が魔女を手に掛ける?何故そのようなことをせねばならないのですか!」
ジーノの顔に驚きと焦りが浮かび、微かな汗が額ににじんだ。彼は動揺を抑えつつも、口元がわずかに震えるのを押し殺し、タギツの言葉に何とか反応した。目は大きく見開かれ、瞳には不安の光が揺らめいていた。息を詰めたような口調で、ジーノは断片的な言葉を口にした。言葉は詰まり、不完全な文となってしまうが、それでも彼は必死に言葉を紡いでいた。
そんなジーノの問いかけにパイプの煙を夜空に吐き出したタギツはパイプの灰を落とし話し始めた。
「理由は主に3つ。 まずは君、さっきから僕の問いかけに動揺を隠しきれていないし、僕が質問した時声のトーンが少し変わったよ。2つ目に君に掛けられていた呪いはね。あれは魔女がよく使っている術の一つである『獣の返り血』なんだよ。その呪いの発動条件は(術者が何者かの手によって殺されること)なんだよ。それがかかっているということは君の手によって魔女が殺されたということに他ならない。3つ目にその平凡などこにでもいる普通の中年の男の姿で魔女を狩ってる。となればおそらく『魔女殺し』だろうと、推測できる」
タギツは反論はあるか?といった表情でジーノの方を向き無言の問いかけを投げかけた。それに対しジーノはしばらく無表情で沈黙したがやがて隠すのを諦めたのかふぅと一息ついてからオドオドした態度をやめ鋭い眼光を向けた。
「いやはや、まさかばれてしまうとは。私としても想定外ですよ。ほんとあなた何者ですか?」
「僕はしがない旅の者だよ」
「それほどの洞察力を持ちながらただの旅人だと?冗談がきついですよ」
「世に名高い探偵程じゃないでしょう?」
「それもそうですね」
タギツの言葉に応えると、ジーノは軽く手を広げた。その瞬間、両手に二本の剣が浮かび上がり、彼の手に収まった。剣の刃は鋭く光り輝き、闘志に満ちたエネルギーがジーノの身体を包み込んだ。ジーノの全体像が一変した。彼の姿勢が引き締まり、目は冷たい薄氷のように輝いていた。剣の存在感によって空気が一層張りつめられ、威圧感が漂った。
「さてと、私としてはあなたのような方は殺したくはないのですが、魔女殺しの名を知っているということはどうやら私は指名手配されていることも知っているご様子。大変不本意ではありますがここでご退場願いましょう」
「退場か・・・なるほど。僕まで殺すつもりなんだね」
「おや、もということはお気づきでしたか」
「そりゃね。君イノシシにされていた時ずっとラキのこと見ていたいたよね?とてもとても熱烈な視線だったよ。射殺しそうなほどね」
「これはこれは。私としたことがまだまだ脇があまい」
「ラキは魔女じゃないんだけどね~。なんで狙うかな」
「そんなわけないでしょう?あれだけの魔力を秘めておきながら魔女じゃない?あれだけの大立ち回りをしておいて魔女じゃない?それを私に信じろと?」
ジーノは何の冗談を言ってるんだと言わんばかりバカにしたように鼻で笑った。だがそんなことを気にした様子もなくタギツは最後に煙を吐くとパイプをしまい、代わりに二つの魔道具を取り出した。一つは金色の金具と茶色い木目のフリントロックの短銃。そしてもう一つは煌びやかな装飾がなされた短剣のような魔道具だった。
そしてそれらの魔道具をそれぞれの手に握るとジーノの方を向きタギツはいつも通りの平坦な口調で言った。
「本当のことを言っても君は信じないのだろうね。まあいいけど。僕も君には退場してもらうと思ってたからね」
「おお、それは怖い。ですがそのような不自由な身でどのように私の相手をなさるのです?こう見えても私かなり強いですよ?」
「心配しなくていいよ。僕は不自由だと思わないし、むしろいいハンデだとさえ言えるからね」
「馬鹿にされたものです。すぐに死んでしまいますぞ?」
「安心して。僕はそう簡単に殺せないから」
その言葉を合図に、瞬く間に致命的な死合いが始まった。普通に考えれば、タギツがジーノに勝つことなどあり得ない。たとえ魔道具で武装していたとしても、車椅子に乗って一歩も動けないタギツと、万全の体勢を整えたジーノの間には、勝負の結果が最初から目に見えていた。
タギツの状況を考えると、勝利の見込みはないと思われた。しかし、この世の常識や予想を超えた事態が起こった。
タギツはいたって冷静に表情一つ変えずにジーノの双剣を短剣でいなしながらもう片方の手に収まっている短銃をジーノに向けて撃ち放ったのだ。姿勢の関係上ジーノのほうが剣に力を入れられる上にジーノが持つ剣のほうが重い。普通なら一瞬で弾かれるはずだが、短剣は弾かれることなくジーノの双剣を受け止めていた。
さらに驚くべきことはこの拮抗状態を数分間にわたって維持していることだ。常識的あり得ないがそれをタギツという少女はやってのけている。圧倒的な技巧と集中力。
ジーノは考えを改めた。魔女を殺る前の肩慣らし程度に見ていたがとんでもない。あのラキという者よりもこっちのほうがよほどヤバい。あれだけ剣を打ち合ってるのに向こうは全く疲れた様子が無いのだ。
「さすが大口を叩くだけのことはありますね。とてつもない技量です」
「それはどうも。嬉しくもないけどね」
「ですが私としてもあまり時間を掛けたくはないですので。ここらで幕引きといたしましょう」
ジーノはぶつぶつと呟くように魔術を行使した。彼の手が奇妙な動きを始め、空中に複雑な魔法陣が浮かび上がったその瞬間、ジーノの身体が強烈な光に包まれ輝いていた。そして、ジーノは別の魔術を使い、タギツの足元に魔方陣を展開した。魔方陣は複雑な模様を描き、強力な魔力の波動が発せられ、エネルギーが辺り一帯を満たした。
「こまごまとした攻撃はもうやめです。その身でそこまでの技量を身に着けたあなたに敬意を表して一撃で葬り去ってあげましょう。『上級魔法フレイムウォール』!!」
ジーノの手から放たれた魔力が一点に集まり、地面を突き抜けるようにして炎の柱が現れた。最初は小さな炎が膨れ上がり、周囲の空気を熱く蒸気させる。次第にその炎は高く伸び、燃え盛る炎の柱となって空に届き始める。その炎の柱は赤く燃え盛り、中心部からは激しい炎の舞いが生まれ、高温の熱風が周囲を包み込む。逃げる隙も与えられずタギツは炎に晒され、後に残ったのは黒く焼け焦げた人だったなにかがそこに横たわっていた。
それを確認したジーノは剣を握ったまま黒い人だったものに瞳を伏せ僅かばかりの憐みと同情の念を送ったが、すぐに瞼をあけ立ち去ろうとした。
———ドス
奇妙な音が響き渡った。それはまるで鈍い金属の衝撃音のようで、しかもその音は自分の胸から発せられていた。ジーノは驚きの表情を浮かべ、自分の胸元を確かめると、そこには一本の短剣が突き刺さっているのを見つけた。
短剣は鮮血に染まりながら、ジーノの胸から突き出ていた。その光沢のある刃は、まるで氷にように冷たく輝き、ジーノの肌に触れると痛みを伴って刺さった。どうして自分の胸からこんな短剣が生えているのか、ジーノは理解できないまま混乱と不安が頭の中を駆け巡った。
「目が覚めた?」
振り返るとそこには先ほど黒焦げに焼き殺したはずのタギツが何事もなかったかのようにその場にいた。先ほどまで持っていたはずの短刀と短銃は握っておらず完全に丸腰であった。さらにはあたり一帯の草原までもが焦げ一つなく鬱そうと茂っていた。まるで戦いなど最初からなかったかのように。
「いや、最初から戦っていなかった・・・のか?」
「そういうことだよお寝坊さん」
タギツはジーノが膝をつくと、車椅子の上から彼を見下ろした。双眸は先ほどまでとは異なり、完全に開かれていた。その奥には血を垂らしたかのような真っ赤な瞳が爛々と輝いていた。その瞳は鋭く、光を反射させるような輝きを放ち、周囲に異様な雰囲気をもたらした。凍り付きそうなほど冷たい圧倒的な威圧感が込められた鋭い眼光は、まるで魂までもが凍りつくかのような力を持っていた。
「君は魔眼というのを知っているかい?これは相手に幻覚をみせたりもしくは相手の心の内を見たりすることができる便利なものではあるのだけれど使えば使うほど視力を持っていかれるのが難点なんだよね。でもまあ楽に敵を仕留めるにはちょうどいいでしょ?」
そういうと膝をついて汗を滲ませているジーノに向けてフリントロックの短銃を突き付けた。彼の顔は蒼白で、身体は震え銃口が彼の額に触れる瞬間、彼はさらに硬直し、私たちの周りには沈黙が広がった。時折、ジーノの息遣いが聞こえていたが、彼の身体はまるで時間が止まったかのように固まっていました。
動けない。たった短剣一本刺さったくらいで動けなくなることはないはず、なのにいくら体を動かし反撃しようと頭で考えても体が全くいうことを聞かない。その事実に愕然とした。
「あなたにさっき飲ませた魔法薬だけど、あれにはもとに戻す効能のほかにもある仕掛けをしてもらってたんだよね。まんまと引っかかってくれたおかげて手間が省けたよ」
「し・・・かけ?」
「あの魔法薬の本当の効果は人間に戻すのではなく「生物を植物に変える薬」なんだよ。その過程で一度人間に戻ってから植物になるからあたかも元に戻ったかのように錯覚した。ただそれだけのことだよ」
そういうとタギツはジーノの足元を指さした。思わず視線を落としたジーノは思わず短く悲鳴を上げてしまった。自分の足が植物になっていたのだ。
「なんだ・・・・これ。なんなんだよ!!!」
「あなたはゆっくりと時間をかけて徐々に体が植物へと変わっていきそして最後にはここに根を下ろすの。ああでも安心して?ちゃんと生きられるわ。何百年もの間ずっとずっと生きていられるんだ。どう?素敵でしょ?」
そこでようやくジーノは理解した。車椅子に乗った少女の外見が偽りであることを。彼女の言動には、人の温もりや情感が欠落しておりそれはまるで、人間の皮を被ったバケモノが私の前にいるかのような感覚を呼び起こした。彼女の目に宿る光は、冷たく、無慈悲であった。少女らしい無邪気さや純粋さは、どこにも見当たらなかった。その言葉は、鋭く、傲慢であり、心に刺さるような冷酷さを含んでいた。彼女の笑顔も、人々を安心させるのではなく、生物の本能から絶望を感じさせた。
「あ、悪魔・・・」
「ひどいなぁ。僕は悪魔じゃないよ。これでも慈悲をかけたほうだよ?魔女殺しをやった君は魔女たちから忌み嫌われていてね。君を惨たらしく殺してやりたいという魔女もいるそうだ。僕としてもラキを殺そうとする悪い悪い害虫は本来惨殺されてしかるべきだと思ってるんだ。それをこうして慈悲深く生かしてあげているんだから」
「いやだ。ここで終われない!まだ終わるわけにはいかない!ぐああああああああああああああああ」
動かなくなった体を必死に動かそうと最後の力を振り絞って暴れまわる。その姿はもはや外聞もなにもかなぐり捨ててただ一途にもがき苦しむ一人の人間の姿だった。
「ダメだよ逃げたりしちゃ。君はここで立派な木になる。そしてずーとずっとここで人々を見守り続けるんだ。それが君に与えられた生だよ?それとも・・・・死ぬ?」
「っ!」
「僕はどちらでもいいんだよ?今ここで僕に撃ち殺されるかそれとも植物としてずっと生き続けるか。ねえ、どっちがいい?」
ジーノは考えた。この状況を打開する方法を考えた。考えて考えて考え抜いた果てに一つの結論に至った。どう転んでも自分はまともな目にあうことはないのだろう。ならばせめて最後に一矢報いたい。数年前のあの時、数か月ぶりに行商から帰ってきたジーノの目の前に広がっていた忘れたくても忘れられない光景。見るも無残に殺されていた愛しき妻と娘の遺体を前にただただ茫然と立ち尽くすしかなかったジーノはその日から人生が一変してしまった。ただただ空虚だった。人生の充実感が無かった。何もかもがどうでもよくなったがそれでも唯一為したかったことがあった。
二人を殺した魔女を殺すこと。後からわかったことだが二人は魔女によって殺されたのだ。だが魔女はどこにいるかわからないどの魔女がやったのかもわからない。そして魔女かどうかも確信をもって判別できない。もしかしたら魔女ではない善良な少女を殺したかもしれない。
だがそれでも止まれなかった。終われなかった誰がやったかわからない以上すべての魔女を葬るしかなかったのだ。ジーノにはこれしか残っていなかった。だからここで無様に終わるわけにはいかなかった
「・・・我命を以って願い奉る。有終の儀は焦熱の炎を以ってここに執り行い、咎人の罪業一切を焼き尽くさん!極致魔法『自壊炎業』」
あたり一帯を埋め尽くさんばかりの幾何学模様の魔方陣が多数展開され熱量が凄まじい勢いで凝縮されていき。あたり一帯が明るく光り輝いた。彼が構築した魔法は昔戦争に負けそうになったとある国が最後の悪あがきに軍の魔法使いに特攻させ自爆させるために編み出された狂気の魔法。人の歪んだ願いが生んだ悪魔の魔法だ。そしてここにも狂気に飲まれ最後の最後の悪あがきに狂気の魔法を以って全て終わらせようとするものがいた。
「なるほど。自爆型の極致魔法か。ここまでやるとはね。その魔法はたとえ君を殺してももう止まらないか・・・ここだけにとどまらず街を含めたここら一帯を丸ごと吹き飛ばす破壊の炎とは恐れ入ったよ。褒めてあげる」
タギツはそういうと手に持ったフリントロックの短銃の引き金に指をかけて
「まあ、僕の信念には届かないだろうけどね」
引き金を引いた瞬間、銃弾は勢いよく放たれ、ジーノの額に正確に命中しジーノは一瞬、天を仰ぎ見るかのように頭を後方にのけ反りさせ、その後彼の身体は硬直し、無言のまま固まったままになった。絶命した直後ジーノが放った魔法が遂に発動し地獄の業火があたり一帯を埋め尽くすかと思われたが次の瞬間、魔方陣が展開されていたすべての場所に色とりどりの花々が咲き誇った。
「悪いね。魔法転換弾で君の魔法は美しい花畑にさせてもらったよ。この方が君にとってもいいだろう。狂気の最後が自爆なんて芸がない」
ゆっくりと瞳を閉じた少女のタギツは、疲れた様子で深いため息をついた。その瞬間、片方の目から赤い血が一滴、じわりと流れ落ち、彼女は手の甲でそっとそれを拭った。その手を下げると、彼女の懐からパイプを取り出し、いつも使っている魔道具を取り出したが先の戦闘で壊れていたので魔術で丁寧に火をともした。指先から揺れる小さな炎が、パイプの中の草葉を照らし出し、そっと白い煙を生み出した。
「今までお疲れ様。地獄で会おう。そのうちそっちに行くから」
煙は空に広がり、微かな風に乗って徐々に消えていった。タギツはその様子を見つめ、静かな表情を浮かべたまま、車椅子の車輪に手をかけた。
「あ~ターちゃんお帰り~!アレ?そういえばジーノさんは?一緒じゃなかったの?」
冒険者ギルドに戻ると、ギルドホール内は活気に満ちた賑やかな光景が広がっていた。冒険者たちは笑い声や歓声を上げながら、仲間たちと楽しく交流していました。
ギルドホールの一角には、空になったでかい樽が数個転がっていてそれを見るに冒険者たちはすでに凄まじい量の酒を飲んでいることが伺えた。樽の周りには、酔いつぶれて倒れている冒険者たちがいくつか座り込み顔色を赤くし、豪快な笑い声を上げながら、その酒に酔いしれている様子でした。
そんな冒険者たちの中から木製のジョッキ片手にラキがタギツのほうにやってきた。既に出来上がっているのか顔が赤くなっていて若干目がとろーんとしていた。
「彼は家族に会いに行ったよ。イノシシにされてからずっと会えてなくて心配かけたからすぐに会いに行かないとって言ってたよ」
「そっか~。最後にお別れの挨拶しておきたかったけど仕方ないか。まあ、いつかどこかでまた会えるからその時に話をすればいいか!」
「そうだね」
「あ、ターちゃんも飲まない?ここのお酒とってもおいしいよ!アラウンドザワールドっていうお酒らしいんだけどターちゃんも一緒に飲もう!」
「僕は遠慮しておくよ。その代わり別のが飲みたい気分なんだ」
「お?珍しいね。ターちゃんがお酒を飲みたいなんて言うだなんて」
「ちょっと飲みたい気分だからさ。エッグノッグを注文してくれる?」
「わかった!」
冒険者ギルドの賑やかな人込みの中へラキは戻っていき人々の声や歓声、笑い声の中に消えていった。しばらくして、ラキはエッグノッグを手に持って戻ってきたラキはエッグノッグの入ったタンブラーをタギツに渡すとゆっくりとタギツの車椅子の横の椅子に座り冒険者ギルドの中を見渡した。ある冒険者は大声で話し、自分たちの冒険のエピソードを身振り手振り交えて興奮気味に語り合い。ある冒険者は冒険者同士が腕を組んで一緒に大笑いし、テーブルを叩いて拍手を送るのが見えた。
「ここの冒険者ギルド騒々しい」
「わかってないなターちゃんは。それがいいんだよ!この活気こそ冒険者だよ!さ!」
そういうとラキは自分が持っている木製のジョッキをグイっと突き出してきた。タギツはそれに合わせてタンブラーを上げたが合わせることなくそのまま飲んだ。
「ラキは飲みすぎ。路銀尽きる。それ以上飲まないで」
「ええ~ひどい!」
エッグノッグの甘ったるい味を感じながら、物思いに耽った。今さらやめるつもりはない。僕はは自分が信じる道を進んでいけばいい。ラキを守るために。
酒に微睡み、その酔いに浸りながら、タギツはまだ見ぬ明日に向けて、決意を新たにした。
おしまい