ドントタッチミーアスホール
「いやあああぁぁぁ、誰かーっ!! 助けてーっ」
王立魔法学園の校舎に女生徒の叫び声が響き渡る。
本来生徒会室には盗聴防止の魔法がかけられていて外に声が漏れないはずなのにも関わらず。
助けを呼んだのは伯爵令嬢アルテミシア = モークリー。
ピンク色の髪に金の瞳の美少女だ。
膨大な魔力量と珍しい光魔法、それに優秀な成績が認められて生徒会役員に抜擢された。
「どうなさいました? アルテミシア嬢」
声を聞いて生徒会室に入ってきた男たちの1人、銀髪に翡翠の瞳を持つクール眼鏡イケメン、宰相の息子ベンノ = サンドベリがアルテミシアの肩に手を触れようとして扇で叩かれる。
「え?」
「触らないでください、と言うか、そもそも手が届くような距離まで近づかないでください」
叩かれた手をさすりながら一歩下がるベンノ。
「相変わらず硬いですね、アルテミシア嬢は…」
「申し訳ありませんが、名前で呼ぶのも止めていただけますか。気持ち悪い」
「き、気持ち悪い?」
ベンノと一緒に入ってきた王太子の側近たちも顔を見合わせて驚いている。
「そもそも貴方たちは示し合わせて私と殿下を2人きりにして強姦させようとしましたね?」
「ご、強姦などととんでもない」
弁明したのはこの国の第一王子にして王太子のアルバート = オールストンだ。
金髪に碧眼。背が高くがっしりした体付きだがスマートな王子様。
「私の髪に無断で触れた上に口づけたではないですか。この性犯罪者が」
「さすがにそれは不敬では…」
側近の1人が注意する。
「不敬というのは敬われるに値する人に対して敬意を感じられない態度を取る事であって、人が仕事をしている隙をついて2人きりになるように謀った挙句に襲うような人間に対するものではないはずですわ」
「………」
「何を騒いでいらっしゃるの?」
現れたのは公爵令嬢マルグレット = リンドグレーン。王太子の婚約者だ。
金髪に碧眼で、どことなく王子とも似ている。それもそのはず、王子とはいとこ同士だ。
彼女自身、王族と言っても過言では無い高貴な血筋の令嬢だ。
「ああっ、助けてくださいマルグレット様。これ以上この生徒会に居たら気が触れてしまいますわ」
「いや、流石に髪に触れたり肩に触れようとしただけで、それは大袈裟ではないかい?」
ふてくされた様な態度で苦言を呈するアルバート。
「貴方は想像力が無いのですか? ご自分が、不快な生き物の檻に1人放り込まれて髪をしゃぶられたり、身体を撫で回されても落ち着いていられるか考えてみたら良いと思いますよ」
王太子と側近たちは、そこまで言うか、という気持ち半分、令嬢をそこまで追い詰めてしまっていたのかと言う後悔半分で蒼白になっていた。アルテミシアとて初めからこんな態度では無かったはずだ。
「その辺にしておきなさい、アルテミシア。生徒会の件は私の方で話を通しておきますから、今日はお帰りなさい」
「ありがとうございます」
公爵令嬢然とした態度のマルグレットに後を任せて退出するアルテミシアだった。
「本当に嫌になってしまうわ」
帰りの馬車には3人乗っていた。
アルテミシアと侍従のクラス = ハレーン、そして侍女のアーネ = スオヴァネンの3人だ。
クラスは侍従というより騎士の様な体格で、顔貌も美しい男性で、アルテミシアより3つ年上だ。
アーネはアルテミシアの乳母も務めた女性で母親と同じくらいの年齢になる。
本来ならどちらか1人が付けば良い、と言うかアーネ1人で良いのだが、アルテミシアがどうしてもクラスに送迎してもらいたいと駄々を捏ね、護衛と言う名目で同乗している。侍従と言えども男女で2人きりには出来ないため結局三人になったのだ。
「今更ですが、この席順はよろしく無いと思いますが」
アーネが1人で座り、その対面にアルテミシアとクラスが座っている。
本来ならアルテミシアが1人で座るべきだろう。
「何か問題でも?」
「私が伯爵様に怒られます」
「大丈夫よ」
そう言ってクラスに寄りかかるアルテミシア。
「王太子殿下が側に寄っただけでアレだけ不快感を剥き出しにしていたのに、私には触れても大丈夫なのですね」
「あんなのと一緒な訳ないじゃないの…」
呆れた声で答えつつ頭を擦り付ける様にする。
「むしろ、あの気持ち悪い男どもと一緒の空気の中に居た不快感をリセットするために全身撫で回して欲しいくらいだわ…」
「それこそ怒られます」
「分かってるわ。だからこれくらいは大目にみて」
「仕方ないですね…」
アーネははじめから見てみぬフリをしている。
クラスはこっそりとアルテミシアの背に手を回すとそっと触れた。
本来なら知る由もないつい先程の状況をクラスが知っているのは見ていたからだ。
小さな頃からずっと見守ってきた。
時には危害を加えようとする者を排除してきた。
お互い知らないフリ、バレていないフリをしてきたが。
ちなみにクラスも家督を継げないと言うだけで、家格が低いわけでは無い。
爵位だってその気になれば手に入るが、今はこれで満足だった。
いや、今までは、と、言い直そう。
結局、アルテミシアは飛び級して研究室に入ると言う形で生徒会から抜けた。
もともと学園に入ったのも人脈作りのためで、王太子らに付き纏われた事で目的を達することが難しくなったこともあり学園に未練はなかった。
「ご迷惑おかけしてすみません」
「いいえ、迷惑をかけたのはこちらの方だわ。それに、なんでも自分の思い通りになると思い込んでいるおバカさん達のあの顔を見られただけで十分元は取れているわ。手綱を締めるための弱みも握れたしね」
あれからマルグレットとは親交を深めた。本来ならこんな風にお茶会をしたりするような立場では無いので、それだけは学園に行って良かった点だろう。
「でも、これからは多少男性にも慣れた方が良いかもしれないわね」
「いえ、あんな非常識な人たちでなく、紳士的な方達でしたら…、あ、すみません」
彼らの頭はマルグレットの婚約者である事を思い出した。
「そうね。腹に据えかねて爆発してしまったのはよく分かったけど、今後はその辺も上手く隠せる様になった方が良いわね」
「申し訳ありません」
「良いのよ」
そう言ってマルグレットが笑うので、アルテミシアも少し笑った。
王太子と側近達は少し心配だが、マルグレットがいる限り大丈夫だろうと思うのだった。
個人的にスキンシップは苦手なので、恋愛物とか読んでるとめっちゃストレス溜まります。
読むなって話ですね。はいすみません。
顔が良いだけの王子様とかも嫌いなので、せっかくだからそう言うのも入れられたら良かったかもですね。
キスに関しては顔にカプサイシンの粉とか塗っておこうかと思ったんですが、そもそも合意のない相手に無理やりキスをするシーンとか気持ち悪くて考えるのも嫌なのでオミットしましたw
余談
なろうの異世界恋愛物を読んでると、異性に触れるのもNG、男女で2人きりになるのもNGみたいな世界観で2人きりで箱馬車とか、いきなり馬でしかいけない場所に誘って二人乗りで、とか、多いんですけど、正直密室に2人きりでどきどき〜、とか背中に彼の逞しい胸板が〜、と言うか、どう考えても2人っきりじゃね? とかそう言うのの前に、この男、社会的に抹殺しないと、って思ってしまうので楽しめません。個人的に(恋愛小説向いてない人だー
今日も、まだ口説いてもいない女の頬にいきなり触れる男が出てくる小説を読んでしまって、ぶっ飛ばしてえってなったよ(恋愛小説読むなよ