第二章
茂みの中に二頭の熊。
争う様子は無く、どっしりと腰を下ろしている。
熊倉は語りはじめた。まるで、村の長老が、村の伝説を聞かせるように。
「熊武は、そりゃあもう強い熊だ。ここらで奴の名前を知らない者は居ないって位にな。」
「…強いから、誰も文句は言えないって事か?そんな奴の肩を持つなんて間違ってる!」
とりあえずは熊倉の話を聞いてみようと落ち着いてみた矢先に、こんな話を聞かされた熊谷父は直ぐ様反論した。
「傾聴。」
熊倉は、ただ一言で熊谷父を諭した。
これは命令でも依頼でもない、耳を傾けて聴いてみよ、と言う意味で言ったのだろう。
熊倉の言葉の意を察し、熊谷父は黙って頷いた。
「あれは四年前の事だ。熊武は突然この森にやってきた。」
「沖の鴎に潮時問えばぁ〜、わたしゃ立つ鳥ぃ、波にぃ聞けチョイヤサエエンヤーサードッコイショ」
静かな山に響き渡る歌声。
あまりにも突然の出来事。
森の熊達は、
「街宣車が来たぞ!」
「違うってば、新手の宗教団体だってば!」
「宇宙から、我々へのメッセージだ!」
…等々、混乱に陥った。
連日、聞こえてくるソーラン節。
マスコミの報道も過熱する一方だ。
『ソーラン節研究の重鎮、熊節熊衛門』などという胡散臭い専門家を招いて、特番を組んでいる始末。
熊達の動揺を鎮めなければ、この森は崩壊する。
森の長である熊山は、森の未来を案じた。
ソーラン節対策委員会を開設。森の各地域に所属する代表熊達を緊急召集した。
「今回、皆に集まって貰ったのは他でもない。今、森始まって以来の危機が訪れている。」
熊山は、集まった熊達の表情をゆっくりと見回しながら訴えた。
「こんなにも早く委員会を開く事が出来たのは、普段からの我々の団結力に加えて、其れ程の由々しき事態が起こっているという事でも有る。」
熊山の秘書が、代表熊達に資料と蜂蜜を配布する。
資料の表紙には、
『ソーラン箱による被害状況調査結果』と書かれている。
通常の総会であれば、パワーポイントを用いての報告が主流となっているが、手書き(前足書き)の資料とは、よほど急いでまとめたのだろう。
おまけに、『ソーラン節』が『ソーラン箱』になっている。この事態に幹部も動揺を隠せないようだ。
「えぇ〜、私からぁ〜、今回の被害状況を、ほ、報告させて頂きます…。」
熊山の秘書、熊山田が誰から見ても判るほど緊張した面持ちで説明を始めた。
続く