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裕子ちゃんの告白

「裕子・・・・・。」

真琴が鈴を床に下ろすと、人間達の出来事など関係ないというように茶虎色の体を丸めて毛づくろいをし始めた。裕子は俯いたまま深刻そうな顔をしている。


愕然として真琴が立ち尽くしていると裕子が深呼吸を一つして話し出した。まるでこれから重大なことを告白するかのように。


「こないださ、ボーリングに三人で行ったあの日ね、真琴と別れてから柿本君に聞いたの・・・真琴のこと。」


真琴は話が少し別の方向に向いたので予想外に感じた。ボーリングに行ったあの日真琴はバイトが入ったので二人と駅で別れた。その後に彼らは話をしたのか。真琴は裕子の意図が把握できぬまま聞いた。

「私のことを蓉介が?」

「うん。」


裕子は蓉介から聞いたという話を真琴に全て話した。真琴の過去、生い立ち、そして蓉介との出会いから付き合うまでのことを。


「彼のこと怒らないであげて。彼はあなたのためを思って何もかも話してくれたの。 私嬉しかった。彼に私が真琴のことを大切に思っていることが嘘じゃないって、信頼されてるんだって。もっとあなたと私が仲良くなってほしいからって教えてくれたの。 


今までの真琴に接してきて、あなたも彼のようにきっと私のこと信じてくれるているはずだって思った。こんな私のことを信頼してくれた上で、二人の大切なことを教えてもらったんだから、私もいつまでも黙っているわけにはいかない。


だから私も話そうって思ったの。どうして私があなた達と仲良くしようと決心したのかを。」


裕子の告白を聞きながら、真琴は呆然とした。蓉介が真琴の知らない間に過去の話を裕子にしていたなんて。驚きはしたが怒りはなかった。むやみやたらと他人に真琴のことを話されるのは嫌だが、裕子になら知られてもいいと思った。


裕子がさっき言ったように真琴は彼女のことが好きだし信頼している。蓉介が話そうと思った気持ちを真琴は理解できる。裕子はそんな風に真琴と蓉介の信頼にこたえるべく、ボーリングに行った日の罰ゲームで言えなかったことを今まさに決意して告白しようとしている。


信用してくれているからこそ話してくれようとしている。真琴は胸を高鳴らせて真剣な表情を裕子に向けた。握られた手のひらに汗が滲む。裕子は俯き、肩を小刻みに震わせてためらい緊張していたが、意を決したように顔を上げて真琴の目をまっすぐに見据えて、はっきりと言った。 




「あなたは私の姉にそっくりなの。」

「裕子の・・・お姉さん・・・?」 



真琴は虚をつかれたようにぽかんとして裕子を見つめて彼女の言葉を反芻した。


「ええ、去年の秋に亡くなって・・・もうこの世にはいないのだけれど。」


真琴は言葉を失った。真琴は一階の和室にあった仏壇の写真を思い出した。あれは裕子の姉が映ったものだったのか。裕子に姉がいたなんて。


彼女は今までそんなこと一言も教えてくれなかったし、しかもまだそんなに遠くない昔にお姉さんを亡くしていたなんて・・。彼女がそんなそぶりを見せることは今までなかっただろうか。


いやあったかもしれない。裕子といる時、本当にたまにだけれど真琴に悲しげな微笑を向けていることがあった。その時はどうしたんだろう、と感じたけど裕子がすぐいつものように明る振る舞いに戻ったので特に気にとめることはなかった。


あの時、裕子は真琴を見て亡くなった姉のことを思い出していたから、だからあんな表情をしていたということか。裕子は弱々しく微笑んで続けた。 


「もう本当に瓜二つ。二年生になって初めてあなたを教室で見た時、私心臓が止まるんじゃかって思った程に似ているのよ。お姉ちゃんが生き返ったんじゃないかって錯覚しそうになったわ・・。」


真琴はこの家に来た時、何故彼女の両親が、真琴のことを見て驚いたのかを理解した。彼らも裕子同様に真琴の姿を目にして亡くしたはずの娘が戻ってきたように、まるで現実にありえるはずのない夢でも見せられているように感じられたのだろうか。


彼らの気持ちがよくわかる。もし死んだ真琴の父や、真琴にピアノを教えてくれたあの人とそっくりな人が目の前に現れたら、真琴もおそらく彼らと同じような反応をするだろうから。裕子の母親が漏らした彩香という名は裕子の姉の名前だろう。


「真琴は猫好きよね。姉も猫が大好きで鈴のことよく可愛がっていたの。実は鈴はね、捨て猫だったの。鈴がまだちっちゃい子猫の時に路上でダンボールに入れられて捨てられていたのをお姉ちゃんが拾ってきたの。さっき真琴が鈴を抱っこした姿見て生きていた頃のお姉ちゃんが鈴を抱っこしてるように見えたのよ。お姉ちゃんもよく鈴を抱っこしてた。その姿にぴったり重なったわ。ホントよ、冗談でも何でもなく。お母さんも同じように感じたんでしょうね。」


真琴は彼女の母親が涙を浮かべている姿を思い出して裕子を見つめていた。

「前にあなたが子猫を助けてた所見かけたって言ったでしょ。白ちゃんよね。あの頃、あなたは人を近寄らせない雰囲気があったから、遠くから見てるだけだったけれど、あなたが怪我を治療してもらった白ちゃんを抱いて動物病院から出てきた時の、あなたのあの笑顔が今でも私、忘れられない。まるでお姉ちゃんが子猫に微笑みかけているように見えた。だからあなたが猫を可愛がる姿を見たら私胸が締め付けられたわ。


ああ、この人はクラスの皆が噂しているような悪い人じゃない。本当はきっと優しい心を持った人だって確信したわ。それからますますあなたから目が離せなくなって、学校にいる時、気がつけばあなたの姿をこの目で追っていたの。それから二学期になってしばらくした頃、あなたの雰囲気ががらりと変わったでしょ。人を避ける感じが薄れたっていうのかな。それであなたが柿本君と仲良くしてる姿を見て、勇気を出して話しかけようって決心したの。」


真琴の知らない所で、すでに一学期から裕子に遠くから見つめられていたというのか。全然真琴は気がつかなかった。誰かの視線を感じたりすることも。あの頃はまだ無愛想だったのでクラスメイト達に関心を向けていなかったから仕方ないか。


それに蓉介が真琴にアプローチをしていたので、ペースがかき乱されて他に目がいってなかったのかもしれない。それにしても積極的で明るい裕子が話しかけるのを躊躇う程に、真琴は近寄りづらかったという事か。


少しショックを受けたが、人を避けていたから仕方ないのだろう。真琴は初めて裕子に放課後の教室で話しかけられた時のことを思い出していた。そういえば彼女、ぎこちなく緊張していたかも。


「お姉ちゃんはとても人当たりが良くて、皆に優しい人で振舞いも性格もあなたと全然似てないけれど、容姿と猫に向ける愛おしそうな笑顔は泣きたくなるくらいに、心根が優しいところがとてもよく似てる。」


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