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裕子ちゃんのご家族と対面したんだけど・・

駅周辺を離れて歩を進めていくと、夕暮れということもあって、お店などが姿を消し派手なネオンもなくなって、街灯だけの閑静な住宅街の風景になった。一戸建てのマイホームといった感じの綺麗な家々が並んでいた。


サラリーマンが都市部の方に働きに出てこの場所に帰宅してくるというような感じのベットタウンだった。家々には明かりが灯り、騒音もなく静かなたたずまいをしていて真琴は妙に落ち着いた気持ちになった。


真琴は裕子の家の住所を頼りに歩いていた。こんな所に住んでいるんだから裕子は蓉介ほどではないにしても、裕福な環境で暮らしているのだろうと真琴は予想した。蓉介も裕子もきちんとした家庭に住んで、真琴だけが施設暮らしなのが仲間はずれのような気持ちになったが、すぐに気持ちを改めた。


そんなことを気にするような彼らではないのだ。蓉介は初めて真琴のことを施設育ちと知っても、特にこだわったりはしなかった。真琴の家庭事情を知っているし、彼は施設だとか関係なく真琴自身のことを好きになってくれたと思う。


真琴は裕子に直接、施設育ちのことは言っていないが、学校で流れている真琴の噂が耳に入っていておそらく知っているだろうけど、そんなことまったく問題にしていないというように真琴と仲良くしてくれている。


真琴という一人の人間として見て接してくれている。二人とも真琴のことを他のクラスメイト達のように施設育ちで親がいないからろくな奴ではないというような目で見たりはしない。なので真琴自身が恥に思わなければいいのだ。クラスメイト達に真琴は自分のことをわかってもらおうとは思わない。親しい人、大切な人達にだけ理解してもらえればそれでいいのだ、充分なのだ。そんなことを考えながら歩いていると、裕子の家にたどり着いた。三階建てでとても立派な家だった。壁はベージュ色で屋根の色が赤く、モダンな感じで、白い木枠に縁取られた窓からは室内の光が薄暗くなった野外に漏れていた。庭は広くて芝生が深い緑に生い茂っていた。優雅な彫刻を施したような門扉には木材で出来た表札があって、裕子の苗字が彫られていた。真琴はしばらくその家の外観を見てため息をついた後、インターホンを押した。


澄んだドアのチャイムが鳴るのが聞こえてしばらく待っていると、女性の声がインターホンから聞こえてきた。裕子の声ではなく、もう少し年配の女性の声だった。

「はい、伊織です。」

「こんばんわ、私裕子さんの学校のクラスメイトの来栖という者です。御見舞いに来ました。」


ああ、ちょっと待ってくださいね、今行きますからと女性の声が答えてインターホンが途切れた。どうやら裕子が家の人に真琴たちが来るのを伝えていたようだ。やがて玄関の豪華なドアが音を立てて開いた。裕子の母親と思しき女性が出てきた。何となくだが裕子に似ている。


「こんばんは、はじめまして私、裕子さんのクラスメイトで友人の来栖と言います。いつも裕子さんには御世話になってます。」


真琴は改めてきちんと挨拶して頭を下げた。しかし目の前にいるこの人は何も言わず真琴の顔をじっと凝視していた。目を大きく見開いて隠しもせず驚きの表情を作り、あまりの出来事に声を失ってしまったとでもいうように絶句した様子で、彼女が息を呑む様子が真琴にもはっきりわかった。


真琴は少し眉をひそめて言った。

「あの・・・?」

「あ、あらやだ、ごめんなさいね、私ったら・・・・。初めまして、裕子の母です。こちらこそ御世話になってます。さあさ、どうぞお上がりになって。」


裕子の母親は魔法でかためられたのが解けたかのように我にかえった様子で言ってドアを開いて真琴を招いた。真琴は今のは一体何だったんだろうと戸惑った。顔に何か変なものでもついていたのかと顔を両手で擦ったりしたがどこもおかしくない。


もしかしてこの母親は真琴のことを知っていて、学校でよくない噂をされているのを聞いてて、裕子とは違い、真琴のことを不審に思っているんではないだろうか。いやでもまさか裕子自身が母親にわざわざ真琴の悪い噂話を話すとは思えない。


ならば例えば裕子の母と裕子の友達の母親とが仲が良くて、そこから真琴の噂が流れたという事もありえなくはない。だとすればさっきの彼女の驚嘆した表情は、悪い噂のたっている真琴がやってきたから見せたものではないのだろうか。


彼女は裕子には真琴のことを悪く言わないが、心の中では嵐のように非難しているんではないだろうか。だからどうしてそんな人間が家に来るんだと思っているのでは。そんな妄想を考えているとだんだん真琴は不安になってきた。


体が緊張して硬くなり身構えるのがはっきりわかった。

真琴は彼女の後に続いて気後れして御邪魔しますと家の玄関をくぐった。外観同様に家の中も思ったとおりすごく綺麗な造りで豪華だった。とても広く、天井がすぐ三階まで吹き抜けになっていて天井にはまるでシャンデリアのような照明がつるされていた。


裕子の部屋は玄関を上がって廊下を行き階段を上って二階にあるらしかった。階段の手前で彼女がわざわざ見舞いに来てくださってどうもありがとうね、裕子も喜ぶわと真琴に微笑んだ。その表情がやっぱり少し裕子に似てるかなと思った。


しかしさっき玄関で見た表情とは一転して今度はとても親しみを込めた顔だった。何を言われるかわからないと身構えていたのに肩透かしを食らったようで意外だった。学校での裕子はどうかなど、親しげに話しかけられ何気ない会話を笑顔で交し合った。


先程真琴が感じた不安は何かの思いすごしだったのだろうか。階段を上がる時、一階の奥の方に和室があるのが見えた。その部屋には仏壇があり、ここからでは遠くてよく見えなかったが、その仏壇の所に一枚の写真が衝立に入って置かれていた。


写真に映っていた人物までは見えなかった。おそらく裕子の祖父母のものだろうか。少し階段の途中で立ち止まった格好になったので、上で裕子の母も一緒になって待っててくれた。彼女の顔を見ると今度は何故か悲しそうな表情をしていた。


また真琴は少し驚いてびくりとした。しかしすぐ笑顔になってさあさ、こっちですよと再び彼女が階段を上がり始めた。今度は何だろう、真琴は何か彼女を悲しませるようないけないことをしただろうか。


ただ和室の部屋にある仏壇を少し見ていただけなんだけれど。階段を上がりきるとまっすぐ廊下が伸びていて左右にそれぞれドアが並んでいた。

「一番奥の左が裕子の部屋よ。」

そういって彼女は廊下を歩き、真琴も後に続いた。廊下の途中、突然右側の、裕子の部屋のちょうど斜め向かいの部屋のドアが開いた。


中から中年の、五十歳くらいだろうか、男性が出てきた。頭に白髪が混じり、きれいに黒髪と共に整えられていてダンディで渋い感じを受ける人だった。おそらく裕子の父親だろう。目鼻立ちの雰囲気が裕子にそっくりだった。


手には新聞を持っていた。ちょうど真琴と目が合った。

「あなた、この人は裕子さんのお友達の真琴さんよ。わざわざ御見舞いに来てくださったのよ。こちら主人です。」


彼女が真琴のことを彼に紹介した。真琴も頭を下げて挨拶した。

「こんばんは。どうも御邪魔してます。」


真琴が顔を上げると、またしても先程の彼女のように彼も何も言わず、かたまっていた。まるで信じられないことが目の前で起こったとでもいうような驚きの表情で、瞬きもせずに真琴の顔を凝視していた。彼が手に持っていた新聞紙が床に落ちて音を立てた。


小刻みに手が震えている。彼のその様子に真琴のほうが不安になってうろたえそうになった。

「あ、あなたったら、ほらせっかく来てくださったんだから・・。」

彼女が場を取り繕うように彼の肩をつかんで揺すった。彼はそれで我に返ったようでまだ戸惑いを隠せないながらも笑顔を作っていった。


「いらっしゃい。よく来てくれたね。どうぞゆっくりしていってね。」

そう言って彼は新聞紙を拾い、一階に下りていった。

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