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蓉介君の看病

以前、蓉介が休んだ時、裕子と彼の家に御見舞いに行ってびっくりした。親が大企業の社長とあって腰を抜かしそうになるような程の豪邸だった。真琴らが行くと父親は仕事で不在で、蓉介の部屋では中年女性のお手伝いさんが蓉介の看病をしていた。


その女性は佐藤さんといい、人当たりのいい感じのよさそうな人だった。彼女は紅茶とクッキーをトレーに乗せて持ってきてくれてもてなしてくれた。真琴と裕子が蓉介の部屋に通されると、彼は大きなベットにふとんをかぶり横たわっていた。


あまり顔色が良くないようで額に湿ったタオルを当てて、真琴と裕子がやってきたことに気がつくとやあ、よく来てくれたねと笑顔で言った。彼の部屋は程よく整理されていて所々に絵の画板や道具が置かれていた。


蓉介さんたら、こんな可愛い女の子達に御見舞いに来てもらえるなんてやるわねと佐藤さんが茶化すように言った。

「私は違いますよ。この子が柿本君の彼女ですから。」


裕子が佐藤さんの言葉にすぐ反応して真琴をつかんで佐藤さんの前に出すように言った。その声は明らかにからかいの色があった。真琴の頬が一瞬で上気した。


佐藤さんはまあ、と目を開いて笑って「じゃあ私が蓉介さんのこと看ることないわね、彼女さんにお願いしようかしら」と真琴が何か言う暇もなく、湯気のたった御かゆが載せられた丸いお盆を手渡された。


「蓉介さん、自分で食べれないから食べさせてあげてね、じゃあごゆっくり」と半笑いで佐藤さんは部屋を出て行った。真琴は盆を持って立ち尽くしたままでいると裕子がもてなされたティーカップに手を伸ばしながら食べさせてあげなさいよと声をかけてきた。


蓉介はニコニコして真琴の方を見つめている。とりあえず、ベットの側まで行って側にある木製のサイドテーブルにお盆を載せてフローリングの床に座り込みぼそぼそとした声で聞いた。


「・・・・一人で食べられるでしょ?」

「体温が三十九度近くあるんだ。体が重くて一人では食べられそうにないよ。」


真琴は本当かしらと蓉介の顔をしげしげと見つめた。頬が赤くほてって瞳はちかちかしている。呼吸も肩でしていていかにも苦しそうに見えた。真琴は息を吐いて言った。


「仕方ないわねぇ・・大丈夫?ほんとに体調悪いみたいだから食べさせてあげる・・。」

ありがとうと彼は言って体を起こした。少しでも体を動かすのが辛そうに見えたので嘘ではないみたいねと思った。


御かゆの入った鍋を手に取り、備え付けのスプーンですくってはい、と彼に食べさせようとした。

「真琴さん、病人なんだからもっと優しく食べさせてよ。はい、あ~んとか言ってさ。」

蓉介の言葉に真琴は赤面し、わがまま言うならもう食べさせてあげないからねっと言った。蓉介は慌てて言った。


「わわ、ごめんうそうそ、冗談だから。」

それから彼は大人しく真琴の運ぶ御かゆを食べた。何も言わなかったがすごく嬉しそうな満足した表情をしていた。幸せを噛み締めているような。


真琴もこんなことして恥ずかしかったが、心の別の部分では幸福を感じ喜んでいる自分がいた。大好きな人にこうして何かしてあげることは嫌ではなかった。そうやって蓉介に御かゆを食べさせていると真琴は彼と目が合ってじっと見つめあった。


御かゆを食べ終えてそうしていると何だか妙な気分になった。彼のまなざしから視線を逸らすことが出来ず、胸の鼓動が急速に高まっていく。少しずつ自然と真琴はベットに半身を乗り出して蓉介に顔を寄せていった。


彼も真琴の方に接近するのですぐに二人の距離が縮まる。今にもお互いの唇が触れそうになった。

「あの~、いい感じのところ御邪魔して悪いんですけど・・・私もこの部屋にいるんですが?御二人共忘れてません?」


ちょうど真琴の後ろに立っていた裕子の言葉に真琴は飛び上がって蓉介から離れた。蓉介は残念と言うような苦笑いを浮かべている。

「うんうん、病気の彼を気遣い彼女が優しくご飯を食べさせてあげる、それから・・・うん、熱々のカップルね。よろしい。」


裕子が真琴と蓉介と見比べてニヤニヤと一人納得していた。



それから少しぎこちない雰囲気だったが、落ち着いて三人談笑して、時々真琴が蓉介の濡れタオルをぎこちない動作ながらも変えて看病らしいことをした後、時間も遅くなったので蓉介にお礼を言われながらその日は真琴と裕子は帰った。






「あの時は惜しかったなあ。もう少しだったのに。」

弁当を食べ終え片付けながら、悔しそうに彼は言って真琴は頭を抱えて反論するように言った。

「私は忘れられるものならすぐにでも忘れたいわ・・。」

「僕はそうは思わないな・・。」

「え?」


彼の顔を見るととても優しげに目を細めて真琴を見つめていた。

「だって真琴さんと一緒にいられた貴重なひと時だったんだからね。時間がたてばきっとかけがえのないいい思い出になると思うんだ。」


ふ、ふーんそう、と真琴は照れて顔を横に逸らした。そっけない態度とは逆に真琴の胸には熱くこみ上げてくるものがあった。彼の言葉を聞いて真琴も同じことを思った。


そうだよね、これから二人で一緒に素敵な思い出をたくさんつくっていけるんだよね、時がたっても決して色褪せることのない大切な思い出が。昔はこんなことがあったよねと笑い合えるような。そんな二人の未来はどんなものになっていくんだろうとふと思った。


どうなるにせよいつまでも一緒に蓉介といれたらいいなと願った。それはなんて幸せなことなんだろうと素直に思えた。もちろんこんな気持ち蓉介には面と向かっては恥ずかしくて言えなかった。

彼とそんなやりとりをしていると昼休み終了の予鈴がなった。

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