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テニスの応援で豹変する真琴ちゃん

三人で遊びに行った日以来、裕子があの時気まずい感じだったので三人の間の雰囲気が変わるのではないかと真琴は心配しながらも予想していたが、それは真琴の取り越し苦労だった。遊びに行った翌日、裕子はいつもと変わらずに親しげに真琴と蓉介に接してきた。


それまで同様、普通に朝挨拶してくるし、お昼に一緒にご飯も食べた。罰ゲームについては触れなかったが楽しそうにボーリングの話をしている。まるで前日のことなどなかったかのように。真琴は少し安心してもう一度、あの時のことを切り出してみようかと考えたが、やめた。


真琴の前で明るく笑っている裕子をまたあの時の深刻そうな表情にしてしまうかもしれないと思ったからだ。罰ゲームの件があったがこれも言わないことにした。もし罰を変更しようかと裕子に提案したら、あの時のことをやはり蒸し返すことになって裕子が気にするだろうから。


真琴は裕子のために罰ゲーム自体を自分の心の底に封印することに決めた。蓉介もその話題を出そうとはしなかった。彼も真琴と同じ考えなんだろうか。もしかしたらいつか彼女が真琴達に話してくれる気になるかもしれないのをじっと待つしかなかった。


裕子にとって重要な理由である以上こちら側からは聞けなかった。それからの日々、三人は学園生活楽しい一時を過ごした。学校の文化祭では三人でいろんな出し物を見てまわり、馬鹿みたいに笑い合って楽しんだ。


一緒の時間を過ごし積み重ねていくうちに、最初は気になっていた罰ゲームのことは真琴の頭の中から自然と薄れていった。



日曜日には裕子のテニスの、他の高校との公式試合があり真琴と蓉介は連れ立って、応援しに行った。その時裕子の部活仲間たちに奇異の目で見られたりもしたけれど、真琴も蓉介も気にしなかった。


試合は接戦でもつれ、見ている方も手に汗が滲むようだった。試合をしているのは裕子なのに真琴は自分のことのように熱くなってしまって無意識の内に大声を出して裕子を応援していた。

もちろん、サーブ中やラリー中ではなくどちらかに点数が入った時点で。

これにはテニス部の連中、そして蓉介も口を開けて驚いていた。


こんな一面もあるのだと意外に思ったんだろう。一番びっくりしているのは真琴自身だった。少し前までは他人に興味を示すことなどなかったのだから。それだけ真琴は裕子に心を許しているということになるのだろうか。


真琴は日に日に蓉介のことが好きになるように彼女と仲良くなっていた。真琴は元々人を嫌う人間ではなく、過去にいろんなことが起こったのが原因で心を閉ざしていたので、今こうして心が安定した状況で、裕子のように相性がよく、好ましい人間が現れれば仲良くなって当然かもしれない。


裕子が試合を終えて蓉介と共に真琴が近づいていった時、案の定、真琴の応援が蓉介の話のダシにされた。試合に勝って称賛を述べるのもそこそこに蓉介は興奮気味に言った。


「裕子さん裕子さん、さっき真琴さんがすごかったよ。」

「何々?どうしたの?」


裕子はスポーツタオルで汗をぬぐいながら耳を近づけてきた。試合に集中していたのだろう、真琴の応援は耳に入っていなかったようだ。裕子は運動した後とあってきらきらとさわやかで同じ女である真琴にも妙に色っぽく見えた。


「もう、余計なことは言わなくていいんだから!」

真琴が顔を赤らめて蓉介の腕を懸命に引っ張ったが、彼は構わず話した。

「真琴さんがね、試合中ものすごく真剣な顔で大声上げて、君のこと応援してたよ。」

「え!?本当なの。」


裕子も目を見開いて驚いていた。彼女もやはり予想外のことだったのだろう。真琴なら冷静にじっと試合を見つめている姿が似合っていると思っているのだろうか。真琴は恥らって向こうを向きぼそぼそと言った。


「友達の応援するのは当然でしょ。それのどこが悪いって言うのよ・・」

「うれしい・・。」


裕子が囁くように言った。真琴が横目でちらっと裕子の顔を見てびっくりした。笑顔の中にわずかに顔を歪めて、目には涙が滲んでいた。


「真琴がそんな風に私のこと応援してくれたなんて、私嬉しいよ。ありがとうね。」

真琴は裕子にからかわれると思っていたので予想外の彼女の反応に戸惑った。


満面の笑顔を向けてくる裕子をまともに見れずに横を向いたまま、べ、別にお礼を言うほどの事じゃないでしょ、とどもりながら言った。そんな真琴と素直に喜びをあらわしている裕子を蓉介は優しい顔つきで見守っていた。




放課後の音楽室では蓉介と二人きりで過ごすことがほとんどだったが、部活で忙しかったから滅多にこなかったけど、たまに裕子が部活の休みの時など顔を出しに来た。 真琴が気持ちよく演奏してその横で蓉介が裕子をモデルにして絵を描いた。蓉介の絵に裕子はすごく上手で特長を捉えてて似てるねと絶賛していた。


「ふふ、美人を目の前にするとやはり捜索意欲がふつふつと湧くからね。」

「柿本君ったら、そんなこと言ったら真琴が嫉妬しちゃうわよ。」


自慢げに背をそらして話す蓉介に裕子が口に手をあてて真琴に聞こえないように言ったが、真琴はすぐに反応した。

「別に嫉妬なんかしないわよ!もう!」

「おや、真琴さんが焼餅やいてくれてる。嬉しいなあ。」


「ちょっと勘違いしないでったら!焼餅なんかやいてないし!」

「でも安心して。裕子さんは美人だけど、真琴さんはとっても可愛いから。僕は可愛い真琴さん命だからね。」

「・・・・っ!」


顔を染めて興奮していた真琴に蓉介は洞穴に入りたくなるような恥ずかしいことを言った。裕子はキャンバスノートを抱えて人事のようにケタケタと笑っていた。




秋も深まり冬に向かおうかという時期、裕子が学校を数日欠席した。担任の話によると風邪らしい。そういえば彼女が休む直前、学校の休み時間せきしながら風邪でもひいたかしらと言っていた。鼻の先が少し赤く染まっていた。


そういうわけで今日、真琴はお昼休み、教室で蓉介と二人顔を合わせてお弁当を食べていた。いつも三人でいることが当たり前のように感じるようになったのか、裕子のいない食事はいつもより会話も弾まず(蓉介と二人きりが楽しくないという事ではない)、けして不味くはないのにご飯の味も味気のないものに感じられた。


蓉介と付き合うようになって、最初真琴は彼とだけいればそれで楽しく満足だった。仲間をもっと増やそうなんて微塵も思わなかった。クラスメイト達は自分達のことを奇異の目で見ているだろうし。


そんな人間達を嫌うことはなかったが、こちらから求めようとは思わなかった。そんな状況の時に裕子が二人の輪に加わった。始めは成り行きに任せて共に過ごしたが、いつの間にか裕子が欠席でただこの場にいないというだけでこんなにも空虚感を味わうことになろうとは。


もともと目立つ子ではあったが、不在ということで改めて彼女の存在感の大きさに気づかされた。蓉介も同じ気持ちなのか、表情に違和感めいたものをあらわして食事している。


「裕子が休みなんて珍しいよね。体力には自信ありそうだったのに。」

「うん、なんか三人一緒だったから調子狂ってるみたいだな。」

やっぱりねと真琴は思っていると頭にひらめくことがあって言った。


「ねえ、裕子のうちに御見舞いに行かない?」

「裕子さんの家に?今日は用事とかないけれど。でも突然行ったら失礼じゃないかい?」


「前に蓉介が熱出して学校休んだ時、あなたの家に私達が御見舞いしたことあるでしょ。あの時は裕子が知人からもらったっていうメロン持って行ったじゃない?だから今度は私達が御見舞い買って持って行かない?本人に会えなかったらその時はその時で帰ったらいいし。それに裕子がどんなところに住んでるかも知りたいわ。」


少し蓉介は思案顔になってから口を開いた。

「そういえば前にそんなことがあったなぁ。うん、じゃあ以前僕の見舞いに来てくれたお返しということで行ってみようかな。ああ、でも僕が女の子の部屋に入るのはいくらお見舞いとはいえまずいか。」


真琴は「裕子が駄目って言えば仕方ないんじゃない?その時は御見舞いの品だけ渡して私も帰るから」と蓉介に言った。

「そうだね。それにしても僕が熱出して休んだ時のことは面白かったなぁ。」


蓉介は当時を思い出すようにしみじみといった。真琴も思い出したが、赤面して彼にそんなこと早く忘れてよ、もうと言った。思い返すだけで恥ずかしくなることだった。

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