一位は絶対ゆずれないからねっ(必死)
三人はボーリング場を後にすると、少し歩いたところにある近くの喫茶店に入った。洋風の綺麗な内装の、照明をワントーン落とした落ち着いた感じのお店だった。
街路に面した窓際の四人崖の席に座り、真琴と裕子は飲み物だけ頼んだが、蓉介はボーリングをしただけでもう小腹がすいたらしくサンドイッチを頼んで食べていた。
「で、私はどんな罰ゲームを受ければいいの?」
裕子は砂糖をたっぷり入れたミルクティーを飲みながら言った。その様子からは罰ゲームに対して恐れた様子はなく何でも来いといった余裕感すらある。ボーリングの二ゲーム目は接戦だった。裕子は何がきっかけかわからないが調子を落としてミスを連発した。
スペアを取り損ねたり、ストライクの数も減ったがそれでも百六十三点と悪いなりに点を出し、一ゲームと合わせて合計三百六十一点だった。蓉介は一ゲーム目の調子をさらに伸ばし変態ップリを披露した。
ひょうひょうとした顔で二百点ちょうどと裕子の一ゲーム目の点数を上回り劇的にスコアを伸ばし、合計三百六十二点を取って裕子の記録を抜いてしまった。この時点で蓉介は最下位になることはなくなり真琴の結果次第で一位になるか二位になるかが決まり裕子は最下位になるか二位に終わるかになる。
真琴の結果はというと・・・・
なんと一ゲーム目の百十七点が嘘のように、真琴なりに百六十六点とハイスコアを出した。二ゲーム目、真琴はとにかく真剣だった。何としても罰ゲームを回避しようと異常な集中力を発揮した。
裕子や蓉介がゲーム中話しかけてもほとんど無視する程だった。一人ぶつぶつと自らに暗示をかけるようにつぶやいていた。そのかいがあってか?ハンデの点数の四十点を加えると二百五点となり、一ゲームの点数を合わせて・・・
何と・・僅か一点差で蓉介を押さえて合計三百六十三点と、一位になった。裕子も蓉介も結果に唖然として嘘のような漫画のような逆転劇だった。一番驚いたのは他でもない真琴自身だった。ハンデがあったので真琴は少し後ろめたい勝利だったが裕子と蓉介は。
「もしかして実は一ゲーム目でわざと実力隠してたんじゃないの?ハンデ目当てで。」
裕子が少し納得できないような顔をしていたが、まあ、いいかとすぐに気を取り直して自身が調子を落とさなければ勝てていたのだから自分の責任かと納得していた。
「まあ、ハンデを三人で決めた上でやったんだから今更終わった後に文句は言わないよ。」
蓉介も男らしく真琴の優勝を認めてくれた。というか一位になれずに残念だが、まあ二位なので罰ゲームを免れただけよしという心境だろうか。
いや罰ゲームを受けないでいい安堵感というより、優勝できなくて悔しがっているという風に真琴には見えた。真琴も申し訳ない気持ちは少しあったが、もし二人に何か非難されたとしても優勝を手放す気はなかった。だって罰ゲームが嫌だから。
例えばハンデの点数を引かれるとたちまち真琴が最下位になり、優勝は繰り上がって蓉介になる。これでは初めに蓉介が描いたシナリオ通りになってしまう。そんなの真琴は絶対嫌だった。
だって・・腕を組んで歩くとか公園のベンチで蓉介を膝枕して耳かきとかはまだギリギリ許せるけど・・・その・・あの・・キ、キスとか・・。頬がほてる。もちろん真琴は彼とキスするのが本当に嫌なわけじゃない。
本人に面と向かっては恥ずかしくて言えないが、蓉介のことは付き合いだしてからもっとその・・大好きになったし・・・真琴は何が嫌かって言うと、こんな遊びの罰ゲームみたいなもので蓉介とのファーストキスをしたくなかったからである。
するならもっとこうちゃんとした、ロマンチックとは言わないまでもそれに近い雰囲気の中でしたかったのだ。その辺りの真琴の気持ちを蓉介はわかってくれているんだろうか。もちろん彼の冗談の提案であって欲しい。本気だったらがっかりである。
とまあそんなこんなでめでたく順位の変更はなく、ゲームは終わった。ゲームが終わってすぐに裕子が罰ゲームはどんなの受ければいいのと真琴にすぐ聞いてきたが、真琴はその場では罰の内容を言わず、代わりにどこか店に入って一つ休憩しないかと提案した。
まだ何にするか決まってないから喫茶店にでも行ってそこで決めたい折を話すと裕子も蓉介も了承してくれた。それから喫茶店にやってきて現在、先程の裕子がミルクティーを飲んで再度、罰の内容を聞いてきたというわけである。
真琴はアイスコーヒーの氷を混ぜ棒でかき回しながら言った。
「そうねえ、じゃあ簡単な質問だと思うんだけど答えてくれる?裕子にとって罰になるかはわからないことだけれど、私が知りたくなったことだから。」
真琴はゲームの後、二人に罰ゲームをどうするか決まっていないと言ったが、実はそれは嘘だった。真琴が一位になり裕子が最下位になったと知った時点で、真琴の意識の中に一つのことが自然と浮かんだのだ。
他にどんな罰にするかなんて思いつかなかったので、真琴はそれを罰ゲームにすることを決めたのだ。果たしてこれが裕子にとって罰になるかどうかは真琴にはわからないが。ボーリング場でゲームが終わった後でするような話ではないと判断したので場所を変えることを提案したのである。
平日といえ、午後からボーリングをしに来る客が増え混んできたのでゆっくりもしていられなかった。どこかに腰を据えてするような話の内容だった。外に出てここまでやってくる途中もどういう風に裕子にこの話を切り出すかをずっと考えて歩いていた。
その時蓉介と裕子が話をしていて真琴はその後ろから彼女の横顔をじっと見つめて、罰ゲームという口実で聞いてみるのもいいかもしれないと思った。
「いいわよ。変な質問はお断りだけど。でもそんなことでホントにいいの?折角苦労して手にした罰ゲームなのに。」
裕子を椅子に深く腰掛けてリラックスした様子でそう言った。真琴の隣では蓉介がサンドイッチを食べ終わり、ミルクを入れずにブラックでコーヒーを飲んで、真琴達のやり取りに耳を傾けていた。
「罰ゲームってどんなのにしていいかいまいちわからなかったからいいの。私は誰かに罰を受けてもらいたくてゲームに望んだわけじゃないし。私が罰受けるの嫌だから頑張ったの。」
「そう。で何が聞きたいの?」
真琴はさりげなさを装って、世間話でもするような調子で、声のトーンを落とさずに裕子に聞いた。
「裕子ってさ。どうして私達と仲良くなりたいって思ったの?」
裕子の表情が一瞬かたまってそのまま停止したようになった。
蓉介の方を見たわけではないが彼の雰囲気も変化したのが真琴にはなんとなく感じられた。
「どうしてって・・、何故そんなこと聞くの?」
裕子はつとめて平静を装うとしているようだったが、さっきまでの落ち着いていた様子とは違い、あきらかに動揺の色が見える。
「だって裕子って学校じゃすごく人望厚いし、友達も多いでしょ。ハンバーガーショップのさっきの裕子の部活の友達じゃないけど、彼女の言うとおりだと思うのよね。私達と一緒にいてもメリットはないんじゃない?デメリットなら多そうだけど。周りから変な目で見られたりするリスクを負ってまでどうして私達とお付き合いするのかなって思ったのよ。私達なんかと付き合わなくてもいくらでも一緒に楽しく過ごせる友人がいるのに。」
真琴は裕子の狼狽した様子に構わずに、気軽な感じで話した。
「やっぱりあの子が言ってたこと聞いてたのね。あの子が言ってことは私が謝るわ。ごめんなさい・・・。」
「えっと、そういう意味で言ったんじゃなくて。いいわよあんな風にいわれるの慣れてるから。ね?蓉介。」
蓉介は先程からずっと黙って真琴たちの様子を見守っていたので、突然話を振られて目をぱちくりさせてから言った。
「ん?裕子さんの友達が何か僕らのこと言ってたのかい?もしそうなら全然気にしてないから、謝ることないよ。」
そういえば蓉介はハンバーガーショップの件を聞いていなかったが、状況を推測して大体のことは理解していたようだ。真琴は蓉介と頷き合ってから改めて裕子に向き合って聞いた。
「で、話を戻すけど、何でなのかな?」
「それは・・・」
裕子は口籠って眉間に苦しそうなしわを寄せていた。蓉介はそんな裕子の様子を考慮するように言った。
「僕も前々から何となく漠然とは気になってたから、聞いてみたかたったけれど・・・でも言いたくないなら無理には言わなくても。ねぇ真琴さん?」
「ええ、そうね。罰ゲームは罰を受ける人が許容できる範囲でって事だったから、プライベートなことになってくるんなら無理には聞き出さないわよ。罰の内容を変えるだけだし。」
「・・・・・・・・。」
裕子は視線をミルクティーの入ったカップに落として黙り込んでしまった。その表情には何かを思い悩む様な、深刻さがあった。そんな様子を見て真琴は聞いたのはまずかったかと少し後悔した。でも真琴としては言いたくなければ言いたくないと断ってくれればいいのである。
蓉介も同じ思いだ。真琴も蓉介も人が嫌がるまでしつこくする気はない。理由は簡単、何故なら自分たちがそうされることが大嫌いだから。基本的に群れたり、べったりすることは好かないのである。裕子が顔を上げて口を開こうとした時、携帯の着信音が鳴った。
間の抜けたような三人の雰囲気の間をパッヘルベルのカノンが流れている。発信源はというと真琴の制服の上着のポケットの中だった。何だか水を差されたような気分だった。携帯を取り出して呼び出し表示を見ると真琴のバイト先の店長からである。
携帯は蓉介と付き合いだしてから購入したものだった。付き合うまでは携帯などはっきり言って人付き合いがほぼ皆無だった真琴にとって必要のないものだった。蓉介も持ってなかったので、付き合うのを記念して一緒に購入しようということになったのだ。
携帯を持っていなかった時、教室ででメールを打つのに励んでいる生徒達を見て、くだらないものに熱中して暇人ね、そんなに誰かと四六時中繋がっていたいの?他にすることないのかしらと馬鹿にしていた。
しかし実際持ってみると、蓉介と簡単な連絡を取ったり、一緒に買い物に出かけてはぐれてしまった時などに便利なことに気づいた。
「話の途中なのにちょっとごめんね。」
真琴は携帯を持って席をたった。喫茶店のトイレの前までやってくると電話に出た。店長の用件は今日出勤予定だったバイトの子が重要な用事とかでこれなくなったから真琴に代わりに出て欲しいというものだった。
真琴はまだ裕子達といたしあの話も途中だったので他の人に頼んでください、今日は無理ですと言った。すると店長は今日休みのバイト達にも頼んだのだが皆断られたらしいのだ。真琴しかいないからお願いと泣きつくような声で頼まれてしまった。
店長は真琴がテスト期間のためバイトを休んでいたのを知っていたので今日でテストが終わったのをわかった上で言っているようだった。店長は人柄が真面目で気が弱く少し頼りないところがあるので、他のバイト達に舐められることも多い。
だから皆から断られたのだろう。そんな店長が何だか不憫で気の毒なので、真琴は無下に断れなくなって仕方なく、わかりました、私が出ますと言った。
もし店長が傲慢な人間なら躊躇いなく断っているところだが、実際その店長はバイト達に馬鹿されていたけれど、小心者だが嘘をつけないその人柄は悪くなく真琴はむしろ好感を持っていたので出勤しようと思ったのだ。電話を終えると裕子達のところに戻って真琴は手を合わせて言った。
「ごめん。バイト先から人手がいないからどうしても出て欲しいって泣きつかれてさ。勝手な私の都合で悪いんだけど今からバイト行かなきゃいけないの。」
「そうなの・・・ちょうどいいよ。解散しよ。実は昨日勉強してあんまり寝てないからさ、実はこの後帰ろうって言おうと思ってたんだ。」
裕子は今思いついたとも取れるようなことを言った。
「そうなんだ。蓉介もごめんね。」
「うん、いいよ別に。ボーリングで充分楽しんだしね。」
蓉介は伸びをしながら言った。店を出る時、帰ることが決まって裕子がほっと胸を撫で下ろしたのを真琴は見逃さなかった。
やっぱり話したくないことだったのかなと真琴は思った。
駅に着き、真琴はバイト先へ、蓉介と裕子はそのまま家路に着くという事で、そこで解散という事になった。裕子と蓉介は帰る方向が同じようで乗車する電車も同じだった。真琴は一人方向が違うので駅の改札で二人に見送られながら手を振って別れた。
手を振る裕子の表情は冴えなかった。何か真琴に対して申し訳なさそうに見えたのは気のせいだろうか。発車寸前の電車に飛び乗って真琴は手すりにもたれかかった。窓からすでに暗くなった景色を見つめながら今日あったことを頭の中で回想していた。
裕子のあの感じから察するにやっぱり話してくれそうにないかなと喫茶店でのことを思い出していた。プシューッとドアが閉まり電車が動き出した。裕子が見せた態度のために、どうして裕子が近づいてきたのか真琴はますます気になって知りたくなった。
何か深い理由があるようだけど無理じいして聞きだすわけにもいかないので仕方ないけどあきらめようと電車に揺られがら考えていた。




