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テストも終わったし遊びに行こうぜ

放課後、柿本と真琴が音楽室で演奏、絵を描いていると戸が開いた。二人以外に誰かがここに放課後にやってくるなんて珍しいと思い演奏しながら、入り口を振り返ると裕子が手を上げて立っていた。

 

「今日は部活がテスト前で休みなの。だから来ちゃった。」

明るく笑顔で裕子は言って室内に入ってきた。


「そういえば前、私の演奏聴きたいって言ってたわね。」

真琴は演奏をやめて立ち上がって言った。彼もキャンバスから顔を上げて裕子に笑顔を向けた。

「へぇ、そうなんだ。裕子さん、真琴さんのピアノはとてもすばらしいからおすすめだよ。」


真琴が御世辞言っても何もでないわよと彼におどけて見せた。

「お二人ともすごい余裕っぷりね。テスト勉強はいいの?」


真琴と彼は顔を見合わせてから、まあ何とかなるでしょと言った。柿本は勉強が良くできて常に学年のトップ十位入りするほどだった。真琴はさすが医者?の息子ねとからかった。真琴も彼程ではないがテストで悪い点をとるようなことはなかった。


裕子は決して勉強が苦手というわけではないが、それなりに努力していい結果を残せるのであった。三人の通うこの高校はレベルが高く、本当に勉強が苦手な生徒はほとんどいない。悪い成績の生徒がいれば、サボっているなどの理由からであろう。裕子は真琴の側までやってきた。


「放課後の音楽室か。なんだか落ち着いた雰囲気がいいわね。」

夕陽が射す窓から裕子はグランドを眺めながら目を細めた。真琴はそんな彼女のオレンジ色に染まった横顔を見つめていた。


その表情にはどこか寂しげなものが混じっていて、真琴が口を開こうとする前に彼女は言った。

「真琴さんの演奏・・・聴かせてよ。」


その声はとても静かで透き通っていた。真琴は言いかけた言葉を飲み込んで、ピアノに座りなおし、期待してる程うまくないからね、というと裕子はふふ、と笑いを漏らした。真琴は静かに演奏を再開した。柿本はそんな二人のやり取りをじっと見つめて黙っていた。





「真琴さん、すごい上手じゃない!感動しちゃった。」

真琴が何曲か演奏し終えると、裕子は笑顔で大きな拍手をしながら言った。

「ふふ、そうだろう。僕の目は節穴じゃないんだ。」

柿本が顎に手をあてて満足そうだった。


「それ程でもないわよ。買いかぶりすぎ。」

真琴が謙遜するように言うと、裕子は首を振ってそんなことないよ、感動しちゃったと目を輝かせていた。

「うん、特にここ最近君の演奏は良くなったよ。裕子さんは初めて聴くからわからないだろうけど、以前に比べればとても心のこもった演奏ができるようになった。」

「へえ、そうなんだ。私も演奏聴いててとっても穏やかな気持ちになれたわ。」


彼と裕子の賛辞に真琴は照れてほめ過ぎよと否定したが、真琴自身も本当はわかっていた。演奏にも真琴の心内の変化が如実に現れていたのだ。暗さ悲しみ、不安、恐れが消え、優しさ、温かさがピアノを通していっぱいに広がっていくような感じ。


今、柿本とそして裕子と過ごすこの時間に真琴が幸福を感じているからだろうか。

「表情もいい顔するようになったしね。」

真琴がドサクサにまぎれてからかわないでと彼を咎めた。


「柿本君の言うとおりよ真琴さん、最近確かに表情が変わったわよ。二年生になってからずっと見てたからわかるわ。物腰がやわらかくなったっていうか、とっつきやすくなったのかな。」


「二年生になってからずっと見てた?」


真琴が不思議そうな顔をして聞いた。裕子はまずいというような顔をして慌てて言った。

「私だけじゃなくてクラスの皆もそう思ってるんじゃないかしら。」


優しい顔するようになったと裕子が言うと、真琴は彼に「あなたもそう見える?」と聞いた。真琴自身は心情の変化を感じていたが、外見にも他人が見てわかるくらいにそれが表れていたのかと思った。

「うん、そうだね。前に比べるととっても可愛くなった。」

「もう!明らかにからかってるでしょ!」


「本当のことを言っただけでしょうに」と彼は、頬を赤く膨らまれた真琴の攻撃を器用にかわしていた。

「でも一学期の始めなんか、あなたとても声をかけられる雰囲気じゃなかったわよ。」

裕子が真琴たちの間に割って入るように言った。

「ほらね。いかに君が仏頂面してたかってことだ。」

「もう、昔のことでしょう。」

真琴は恥ずかしそうにむくれて言った。


「でも・・・ほんとに君、変わったよ。」

彼が急にとても穏やかな表情になって真琴を優しいまなざしで見つめた。真琴は一瞬どきりとして心臓が高鳴った。

「あらあら、誰のおかげで変われたのかしらね。」

裕子が真琴と彼を交互に見ていたずらっぽく笑って言った。





生徒を苦しめた中間テストが終わり、教室中がその解放感で満たされている中、その打ち上げという感じで裕子が、どこかに三人で遊びに行かないかと帰り支度をしていた真琴と柿本に提案してきた。


テスト最終日は部活全てが休みということになっているので裕子も帰宅する格好である。生徒は学校に残ってはいけないことになっていて真琴も柿本も音楽室や美術室を使えないことになっていた。


「僕はいいよ。今日は特に用事もないしね。真琴さんは?」

「バイトとかないけど・・どうしようかしら。」

「なら行きましょうよ。こういう機会じゃないと行けないんだから。」


裕子にほとんど強引な形で腕を引っ張られ真琴は了承させられてしまった。たくさんの下校する生徒達にまぎれて真琴たち三人は並んで学校の校門をくぐった。

「蓉介は今回のテストどうだった?」


いつの頃からか気が付けば、真琴は彼のことを苗字ではなく名前だけで、呼ぶようになっていた。彼と付き合いだして同じ時間を共にしていく中で、それはとても自然なことでいつの間にかそうなっていた。彼はう~んそうだなと考えるしぐさをして見せた。


「真琴、学年トップ一〇に入る人にその質問は愚問よ。」

裕子が笑んで少し皮肉っぽく言った。彼女も真琴のことをさん付けで呼ばなくなっていた。真琴もいつそうなったのか覚えていないという事は、初めて彼女に名前だけで呼ばれた時、まったく違和感なく嫌な感じを受けなかったという事だろう。


「それもそうね。今まで十位以下になったことないって言うくらいだものね。」

 真琴と裕子にわざと白い目で見つめられて蓉介は苦笑いして言った。

「ちょっとちょっと、君達、宇宙人を見るような目で人を見るんじゃないの。ところでこれからどこに遊びに行く?」


「そうねぇ、とりあえずM駅まで出たら、色々あるわよ。カラオケ、ボーリング、ビリヤード、映画館、お腹がすいたら飲食街もあるしね。」

口元に一指し指を当てて裕子は考えるように上を向いて言った。


M駅に到着すると取り合えず、お昼時を少し過ぎた時間帯だったのでファーストフード店に入った。店内は真琴達と同じように考えた生徒が多いらしく、同じ学校の生徒達の姿があちこちで見られた。彼らもこの後どこかに遊びに行く予定なのだろうか。


テストで徹夜した連中はやっとテストが終わったと安堵して寄り道などせず、家に帰って睡眠を取るのだろうか。そんな中にも眠い目をこすってでも遊びに行く強者もいるだろうが。ハンバーガーなどを乗せた盆を持って三人は四人がけのテーブルに座った。


蓉介の盆の上を見ると、バーガーセットが二人分乗っていた。

「すごい食欲ね、柿本君。」

裕子が目を丸く言った。


「テスト中からお腹がすいて仕方なかったからね。テストの出来より、腹のなる音が周囲に聞こえないかそっちの方が心配だったよ。」

ハンバーガーをほおばって蓉介が言った。


「この後、ボーリングで体動かすのよ。そんなに食べて途中でお腹壊しても知らないわよ。」

真琴が冷やかすように言ったが、彼は気にした様子もなく、苦しゅうない苦しゅうないと意味不明のことを言っていた。


真琴も裕子も笑いをこぼして食事を取っていると、後ろから声をかけられた。

「あら裕子じゃない。」


振り返るとそこには真琴らと同じ制服を着た一人の女子高生が立っていた。真琴は誰だろうと考えたが初めて見る顔だった。彼女は健康的に顔が焼けていていかにもスポーツをしているといった感じで体格が良かったので、裕子のクラブ仲間かと思った。

「ああ、舞。あなたも来てたんだ。」


裕子は少し立ち上がって言った。

「クラブの皆も向こうにいるわよ。これから皆とカラオケ行こうって話なんだけど、裕子も行かない?」

「そう、皆来てるんだ。悪いけどこの後、ここにいる二人と遊びに行く予定だから遠慮しとくわ。ごめんね。」


裕子が真琴と蓉介のほうを振り返っていうと、舞という少女は一緒にいたのが真琴と蓉介だったということに初めて気がついたようで、驚きの表情をして見せた。蓉介は愛想よさそうにどうもといった感じで軽く頭を下げていたが、真琴は特に何もしなかった。


舞はちょっと、という感じで裕子の腕をつかんで連れ出して席を離れていった。一体どうしたのという感じで裕子は連れ出されて行った。真琴は怪訝そうにその光景を見送っていた。少し離れた所で二人が立ち止まるとコソコソと話し始めたようだ。


「どうしてあんな連中と一緒にいるのよ。祐子ったら。」

口元を隠すように小声で舞は裕子を非難するように言った。

「どうしてって?」


「もう、わかってんの?一緒にいたの確か真琴って子でしょ。それともう一人は柿本とかいったっけ、あの二人二年生の間じゃ、よくない意味で有名人で悪い噂でいっぱいなのよ。特に彼女の方、ほとんど人と話しない変人らしいじゃない。そんなのと一緒にいる柿本っていうのもきっとろくでもないわよ。」

裕子は深いため息をついて言った。


「舞・・・あなたもあんな噂信じてるのね。彼らはおかしな人たちじゃないわよ。」

「そうかしら、あんなのと付き合わないほうがいいって、一緒にいたら裕子まで変に思われるわよ。やめときなさいって・・・」


舞は裕子を説得するように言った後、背後に人の気配を感じたようで後ろを振り返った。そしてそこに立っていたのが今しがたこそこそ話題にしていた真琴なのを知って、目を見開きびくっと飛び上がった。


裕子は隣でやれやれという感じで目を閉じ、ため息をついていた。



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