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真琴ちゃんと蓉介くんのなれ初めはどんなの?

柿本蓉介とあの人のお墓参りをした日から数日が過ぎていた。学校での休み時間、今現在のようなお昼時など、真琴は彼と時間を共に過ごすようになっていた。


初めはあんな出来事があったので真琴はすごく照れくさくて、ぎこちなかったが、徐々に慣れてきてこうして二人でいることが自然のことのように感じられてきた。クラスメイト達も当初は驚いていたがそんな二人の様子にも慣れて今は注目を集めることもない。


真琴は彼と机をくっつけて各々の弁当を食べている。真琴は箸に卵焼きをはさみ口に運ぼうとするのを止めて、向かい合って座っている彼を見つめた。彼が自分で作ったという弁当を食べている。その内容はなかなかのもの。


ご飯に和食風のおかずの数々が大きめの弁当箱に納められている。彼は家で自炊するらしく、料理の腕はいいらしい(本人談)。母親を亡くして父親と男の二人暮らしだろうから食事は出前か外食、コンビ二弁当などが中心になりそうだが、彼がそれだと栄養が偏るという事で、自炊するらしい。


あの日彼に抱きついて泣いた時のことが浮かんで真琴は体が火照った。真琴の視線に気がついたのか彼は弁当から顔を上げた。


「どうしたの?」

「な,なんでもないわよっ。」

「それ食べないの?食べないならーー。」


彼は突然こちらに身を乗り出してきて真琴の持つ箸にかじりついた。あっと真琴が逃げる間もなく、卵焼きを彼に奪われてしまった。

「うん、うまい。ふふふ、間接キス成功かな?」


不敵な笑みを浮かべしてやったりという風に、顎に手をやって彼は言った。真琴は真っ赤になって声を失った。


「このっ・・・!私の卵焼きが・・・あなたには恥じらいってものがないのっ!」

箸を持つ手がプルプル震えながら真琴は言った。


「照れなくてもいいじゃないか。僕らもうそんなこと気にする仲ではないでしょう。一人きりにしないでといったのは誰かな?」

ニコニコして言うところが憎らしい。からかって言ってるだけだとはわかっているが、顔から火が出そうで真琴は彼を叩かずにはいられなった。


あの日真琴は自分から去っていく彼を追い、そして求めた。という事はやっぱり、二人は・・二人の関係は・・世間一般の感覚で言えば・・その・・・・つっ・・つっ・・付き合ってるってことになるのだろうか。


そのことを認めてわかっていても真琴は恥かしいことにかわりはなかった。いててと彼が手を上げて真琴の攻撃をかわしていると、いつの間にか気づかないうちに近づいてきていた一人のクラスメイトに声を掛けられた。


「真琴さん。」

手を止めて振り返るとそこには伊織裕子が後ろに手を結んで立っていた。

「ああ、裕子さん。どうしたの?」


彼から離れて、真琴は裕子の方に向き直って聞いた。彼女は昨日初めて言葉を交わしていた。彼が真琴と裕子を交互に見て、驚きの顔を見せた。

「お、クラスメイトの名前を徐々に覚えてきたようだね、結構結構。」

「うるさいわねぇ。」

真琴はむすっと頬を膨らまして彼を睨んだ。


「私も一緒にお昼食べていい?」

裕子は後ろ手に隠していたお弁当の包みを二人の前に出して明るく聞いた。真琴と柿本は目を丸くして意外そうな顔をして、裕子を見てから二人顔を見合わせた。


「僕は全然構わないよ。」

彼は真琴の方を見て言った。真琴の答え次第という事で裕子と柿本の視線が真琴に集中した。真琴は私?というような顔をしてから無表情で言った。

「別にいいんじゃない。好きにしたら・・・。」


「ほほう、これはすごい変化!裕子さん、この難物の真琴さんがお昼を共に食べること許すなんて奇蹟に近いことだよ!以前には考えられないことだ。」


もう!私のこと何だと思ってんのよと真琴は彼を再び叩き出した。裕子はそんな様子を見て微笑み、椅子持ってくるねと言って自分の机の方に歩いていった。





裕子が椅子を持って二人の所に戻ってきた時には、真琴がふてくされて缶入りの御茶を飲んでいて、そんな彼女を柿本が笑いながらなだめていた。裕子は弁当を机に置いて椅子に座りながらさりげなく聞いた。 


「あのさ・・・もしかして二人は付き合ってるの?」

真琴は裕子の言葉を聞いた途端、不意打ちをかけられたように、飲んでいたお茶を口からふきだした。御茶でむせたようでゴホゴホとせきをしている。


俯いた顔は耳まで赤くなっている。それとは対照的に柿本はさわやかに笑っていた。

「あれ、ごめんなさい。私の勘違いだったかしら?最近二人仲が良くなったようだったからてっきり付き合ってるものだと・・・。」


裕子は慌ててティッシュを真琴に差し出して言った。しかし真琴も柿本も何も言おうとしない。付き合ってはいないと断言しない。裕子は不思議そうな顔をして二人を見つめた。


彼は笑顔のまま首をゆっくり左右に振っている。真琴は彼にわざと顔を背けて顔を赤らめている。

「ああ、やっぱりお付き合いしてるんだ・・。」

真琴は答えないが彼が答えた。


「そう、二人は相思相愛の仲なんだよ。まだ間もないけどね、裕子さん。」

真琴の肘が彼のわき腹にささって少し痛そうに顔を歪ませた。

「そうかあ、いいなあ、あ・・じゃあ私は二人の御邪魔虫かしら?」


「いいから、裕子さん。是非一緒に食べましょう。」

真琴はこれ以上、付き合ってることを強調されたり、変に気を使われると気が変になりそうだからという風に見えて、裕子の手をつかんで引き止めるように言った。いいの?といいながら彼を見ると、どうぞどうぞと歓迎してくれた。


裕子はじゃあ遠慮なくと言って椅子に腰掛けた。裕子はお弁当箱を開けながら冷やかし気味に二人に話しかけた。

「で、二人の馴れ初めはどんな感じだったの?」

「もういいでしょ、その話は。裕子さんまで。」


真琴が案の上、この手の話題を嫌がって裕子を遮ろうとした。

「僕たちの出会いかい?いいよ。隅から隅まで話してあげる。」


話をする気満々の彼を真琴が、あなたもいちいち話さなくていいの、と必死に止めたので、この話題はやむなく終わってしまった。彼は腹を抱えて笑いをこらえていて、真琴は頬をサクランボみたく染めてそっぽを向いていて裕子は可愛いなと思って小さく密かに微笑んだ。



今までほとんど学校では一人で常といっていい程に単独で過ごしていた真琴が今では柿本蓉介、裕子と共に三人で過ごすことが多くなっていた。休み時間は三人でよく会話したり、お昼時は裕子がテニス部の集まりなどがない限り、共に食事をした。


三人でいることに違和感がなくなるようになるまでにそんなに時間はかからなかった。裕子はとても明るい性格で、会話をよく盛り上げた。よく冗談をいう柿本ともすぐに会話がかみ合った。彼は元々来るものは拒まないので、仲良く接した。


祐子は運動部だからだろうかとてもはつらつとしていて、女性に見られがちなネチネチしたところがなく非常にさっぱりしていた。細かいところにこだわらず、大雑把に見えて実は人のことをよく見ていたりして気配りもできた。


クラスでも何か問題が起こって皆がうろたえているような場面で、裕子は進んで何とかするような生徒だった。面倒見がよく教師達からも一目置かれていた。普段はよく笑いよく話すのだが、時折だが真琴に寂しそうな笑みを見せるのが気になる。


そういう時、真琴が何?と聞くと彼女は何でもないという風にごまかそうとするのだった。先日授業が終わった後の掃除の時間に裕子は初めて真琴に話しかけてきた。クラスメイトに話しかけられるなんて予想外だったので少し戸惑ったが、すぐに慣れてしまった。


裕子はどうして真琴たちに近づいてきたんだろうか。今でも謎だが、でも拒絶する理由もないのでなんとなく受け入れてしまった。少し前の真琴なら心を非情にして冷たく突き放していただろうに。不思議なことに彼女に話しかけられた時、そんな気持ちが全く沸き起こらなかった。


このことは真琴の心理の大きな変化のあらわれだった。やはり柿本の存在が大きいのだろうか。彼と付き合うことを決心したという事は他人に心を開きだしたという事になるのだろうか。


彼と付き合う前はどこか神経を尖らせてぴりぴりしていたが、今では心の重りがだいぶ、軽くなったような気がする。角が取れて丸くなった。気持ちに余裕ができたというか、物事を穏やかに見据えることができるようになった。


だから裕子がやってきても真琴は拒絶しなくなったのだろうか。他のクラスメイト達は今までのように真琴には近づいて来ることがないが、もし話しかけられたらあからさまに避けたりはせずに真琴は普通に受け答えするだろうと思った。


それくらい真琴の心情は変化していた。

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