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高校受験の結果はどうなりましたか?!

九月が終わり、十月、十一月とめまぐるしく時はあっという間に過ぎていった。冬にさしかかっていき寒さが増す季節、まだ受験まで数ヶ月もあるよといっていた生徒の顔色が悪くなって、今頃になって慌てだしたりしていた。


まじめに早いうちから取り組んでいた生徒は最後の追い込みにさしかかろうとしていた。加奈は返ってきた全国模試の結果を見つめた。和泉高校D判定・・・・。志望校変更をすすめると書き添えられていた。次の模試は一月にある。


高校の入学試験が二月、次の模試が事実上最後の模試になる。何とかそれまでに学力を上げてAかB判定をとらないといけない。加奈は強く模試の結果を握りしめた。



一月、最後の全国模試を受け、その結果が返ってきた。家の愛との共同部屋で一人封筒を前にどきどきしていた。加奈は祈るような気持ちで結果の入った封筒を開けた。心を落ち着かせて強く閉じた目をゆっくりと開く。判定結果はーーーーーーー・・・・・・・。



「B判定・・・・・・!」




合格率五十パーセントから七十パーセント。加奈は心臓が跳ね上がり、思わず嬉しさで飛び上がりそうになった。やった。これで約束していた条件を守って和泉高校を受験することが出来る。


後は試験を受けて合格するだけだ。これも裕子さんが合理的で綿密な学力のつけ方を懇切丁寧に教えてくれたおかげだ。もし彼女に出会わず、あの時声をかけていなければ今頃全く違う結果になっていたに違いない。


一人独学で無駄の多い勉強をしていたずらに時間を浪費していただろう。彼女には感謝しても仕切れない。今すぐにでも会ってお礼を言いたい気持ちになった。でもやはり試験に合格して晴れて和泉高校に通うようになってから、学校で直接お礼を言うべきだと思った。


食事をおごる約束もあるし。加奈は模試結果を手に部屋を出て階段を下りていった。おばに受験許可をもらうために。その足取りはとても軽やかだった。




時間が足りないと嘆く受験生の声にはまるで耳も貸さないように容赦なく時は過ぎて一月が終わり、二月になった。追い込みの真っ只中のこの時期、教室の生徒たちの表情にのんきさは見当たらない。いるとすれば難関校を受験しない生徒か、ごく少数の就職先の決まった生徒たちだった。


担任とおばから受験の許可を得た加奈も最後の総仕上げとして公立高校の過去の試験問題集を片っ端から解いて実践さながらの準備をしていた。弱点の分野があれば参考書で補強した。いよいよ入試前日の日を迎える。


よく入試前日は根を詰めて勉強せずにゆっくり過ごすほうがいいというから加奈もそうした。裕子も試験前日は無理して勉強せずに試験に備えて早めに寝たほうがいいとアドバイスしてくれた。愛は既に一月に難関私立女子高校の試験に合格しておりゆったりと過ごしていた。


中学校に来たり来なかったりとすでに浮かれたように自由気ままに生活していた。受験前の夜、加奈が充分睡眠時間をとるために、いつもより早い時間に眠りにつこうと布団にもぐりこもうとした時、愛が話しかけてきた。


「明日の試験、せいぜい私たちに迷惑かけないように頑張りなさいよ。」


意地悪なのかプレッシャーをかけたつもりだろうが加奈は動じなかった。何故なら多少は緊張していたが、今までここまでやれることはやったのだからという自信があったからだ。



試験当日、加奈は朝食を済ませて試験会場である和泉高校に向かった。校門に着くとたくさんの受験生たちが高校内に入っていく。胸に手を当てて意を決すると加奈もその波に混じるように校門をくぐろうとした。その時、校門の脇に知っている顔を見つけてびっくりした。


「裕子さん!」


加奈は受験生の波をかき分けて彼女の方に駆け寄っていった。裕子は高校が試験会場となり、学校自体が休みという事なので私服姿だった。上はベージュのダッフルコートを羽織り、こげ茶色の膝丈のタイトスカート、真っ赤なマフラーを首に巻いて寒そうに首をすくめて立っていた。私服だったので一瞬見逃しそうになった。


「やあ、久しぶり加奈ちゃん。元気だった?」


裕子は加奈の姿を認めるとはにかんで手を小さく振った。

「どうしたんですか?今日は学校お休みですよね。」


「ここで待ってればもしかしたら加奈ちゃんに会えるんじゃないかと思ってね。まああなたが無事に学力伸ばしてここを受けに来ればの話だけど。」


「私があきらめて志望校変更して、来ないかもしれないのにわざわざ待っててくれたんですか?」


「ええ、あなたなら必ずここを受けに来るって初めて会って話を聞いたときから確信していたわ。それぐらいあなたは真剣だったもの。努力を惜しまずにきっと成績を上げてここに来るって。だからこそ私が受験マニュアルを叩き込んであげたんだからね。受けに来たって事は受かる見込みあるんでしょう?公立一本だったわね。まあ、それなら私がしたことが無駄にならず報われるってもんだわ。」


微笑んだ裕子を見つめて加奈は嬉しさで胸が締め付けられた。来ないかもしれなかった加奈を、しかも一度しか会ったことがないのに、そこまで加奈のことを見込んでくれたことが嬉しかった。


「裕子さん・・・・。私裕子さんにずっとお礼が言いたかったんです。もし裕子さんに出会ってなかったら、私和泉高校なんてとてもじゃないけど受験できなかった・・・。」

泣きそうに顔を歪めて、加奈は心から感謝の言葉を言った。


「まだお礼を言うのは早いわよ。お礼の言葉は試験に合格して晴れて和泉高校の生徒になってから言ってよ。ご飯をおごる約束と一緒にね。」

いたずらっぽく笑って加奈の頭をポンと軽く叩いた。加奈は心が軽くなった気がした。二人でしばらく笑い合ってから、別れ際に言葉を交わした。


「試験頑張ってね。私応援してるから。高校で待ってるわよ。」

「はい!もう一度裕子さんに会うためにきっと合格して見せます。」

元気よく返事をして加奈は試験会場の校舎に向かって歩き出した。裕子は笑顔で加奈に手を振ってくれていた。




和泉高校の試験を終えた帰り道、加奈は、まだ合格したわけではないが心地よい達成感があった。試験の出来も受験勉強中に行った過去問題よりもよく解けた気がして手応えがあった。



数日後、合格発表の日がやってきた。試験を受け終わった当初はやり遂げたことで余裕を感じていたが、合格日が近づくにつれて加奈の心は現実味を帯びていき、不安になっていった。もし不合格になったらどうしよう、裕子との約束を守れなくなる、合わす顔がなくなってしまう。


夢の真意をつかむ機会が失われてしまう。浪人は出来ないからこの家を中学卒業という形で出なくてはならない、と試験の出来に関係なく根拠のない不安に苛まれ続けた。加奈は発表を見るべく和泉高校に来ていた。


校門から入ってしばらく歩いたところに大きな掲示板が設置されており、その前にはまだかまだかと合格発表を待つ大勢の受験生が浮き足立つように集まっている。加奈もその一群の波に入るべく最後尾についた。心臓の鼓動が高鳴っていく。


動揺して気が気でない気持ちでいるとしばらくして合格発表の時刻になった。掲示板に貼り出すべく、合格者の受験番号が書かれた大きな紙を携えた高校の教員たち数名が現れた。受験生達たちの悲鳴とも動揺とも似たざわめきが大きくなる。


周囲は待ちわびた感じや、加奈のように不安を感じている雰囲気が漂いはっきりと伝わってきた。四つある大きな掲示板の上に、丸められた紙を固定して設置し終わり、後は教員が手を放せば、紙が下に垂れ下がり合格者が発表される。周囲に息を飲む空気が広がった。


加奈も息が詰まる。加奈の受験番号は1123・・・・。


受験票を持つ手が震えて、加奈は祈るような気持ちになり両手を胸の前で強く組み合わせ、目をつぶった。教員たちがお互いに目を合わし合図をし合って、四つの紙がいっせいに下ろされた。一時の沈黙が断ち切られたかのように、どよめきや悲鳴が上がる。


激しい喧騒の中、加奈はまだ顔を上げることが出来ずにいる。結果を知るのが怖い。しかしいつまでもこうしているわけにもいかない。下を向いたまま薄く目を開けて周りを見やった。


合格したのであろう、喚起の声を上げて友人たちと抱き合う受験生達、がっくりと肩を落としている人、呆然と固まったように目を見開いたまま動かない人、泣いて友人に慰めてもらっている人などが加奈の目に飛び込んできた。


そんな姿を見ていると結果を知るのが余計に怖くなりそうだったので、首を強く左右にぶんぶん振った。このまま恐れて結果を見ないで帰るわけにもいかないし、結果は既に出ているのだ。今更あがいたところで結果が覆るわけでもない。


一瞬加奈の心に夢の映像の切れ端が浮かんだ。それを噛み締めるようにして加奈は意を決して掲示板を見るべく顔を上げた。1002番という数字が最初に飛び込んできた。


そこからゆっくりと目を後の番号の方へたどっていく。1050・・1064・・・・1088・・・1100・・。


この寒空の中なのに額に汗が浮かび、こめかみを汗がつたう。





1102、1108、・・・・・・1123・・・1133・・・・1146・・・・・・。




「!??!!!」

加奈は目をこれ以上は無理というほどに大きく目を見開いて、掲示板を凝視した。手にした受験番号と掲示板を交互に何度も見て確認する。


(1123・・・・1123・・・・・・・・・・・・・・・1123!)



あった!曇って見えた視界が急激にはっきり見えて、目に映るものすべてが光を放ち輝きだすように、世界が一変したような感覚になった。



それまでの不安を一掃するかのように体の底から喜びが満ちてくる。うれしさで飛び上がりそうになったが、知り合いが一人もいないのでなんとかその場はおさえて控えた。


だが拳をギュっと握りしめる。加奈はこの瞬間、和泉高校の入学を約束された。これで裕子さんとこの校庭で会うことができる、そして夢の真意に一歩近づけたような気がした。

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