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引き裂かれる友情

ホームルームが終わり、加奈が一緒に帰ろうと、いつものように亜沙子のところに駆け寄ってきた。加奈の振る舞いにおかしな所は見られない。亜沙子は少し改まった口調で加奈に言った。

「帰る前に話があるんだけどいい?」


加奈は何度か瞬きをして首を傾げたが快く了承した。誰もいなくなった教室で亜沙子は加奈と二人机を間に挟んで向かい合うように立っていた。廊下からかけていく生徒達の声が聞こえ遠ざかっていく。どう切り出そうかと亜沙子が躊躇い迷っていると加奈が口を開いた。


「改まってどうしたの?帰りながらできない話なの?」

不思議そうに見つめてくる加奈の目を見て亜沙子は思う。これは演技なのだろうか、何もかも知り尽くした上で何食わぬ顔をしているのか、それとも・・あの締め上げた下級生たちが嘘を言っているだけで加奈は本当は何も知らないのか。


意を決して亜沙子は加奈に問うた。妹をいじめた男子と女子の名を言い、加奈が彼らを知っているかどうかを聞いた。加奈は思い出すようなしぐさをしてからあっさりと答えた。

「さあ・・知らないわ。初めて聞く名前ね。その人たちがどうかしたの?」


教室の扉が開く音と加奈の言葉が重なった。開かれたドアの向こうに妹をいじめたあの男子と女子が立っていた。

「あなた達どうしたの?何かこのクラスに用でも・・まさか私に仕返しにきたんじゃ・・・。」

並んで立っている下級生たちに亜沙子は言葉をかけた。


「亜沙子さんに改めて妹さんをいじめたことについて謝罪をしようと思って来ました・・・・・あっ!この人です!煉さんをいじめるように私達に命令したのは!」


女子のほうが加奈の姿を見た途端、指をさしてそう叫んだ。指された加奈は状況がよく飲み込めないというような顔で亜沙子と入ってきた下級生たちを交互に見比べた。

「どういう事?いったい何の話をしているの?」


「確かにあなたたちはこの子に私の妹をいじめるように頼まれたの?」

亜沙子が男子と女子に聞くと彼らは頷いた。

「そうです。神楽坂さんをいじめるようにいったのも大事なものを奪ってくるように言ったのもこの人です。」

興奮気味に女子が言った。加奈はわけが分からないという顔で戸惑っていた。

「え、いじめ・・・亜沙子の妹さんを?いったい何のことを言ってるの。あなた達。」

「とぼけないで下さい!」


「亜沙子さん、もしかしたらまだこの人、煉さんから盗った物、持ってるかもしれませんよ。この間この人に渡した時、手提げ袋に入れるところをこの目で見ましたから。」

「加奈、あなたの手提げ袋の中見せてもらっていいかしら。」


男子と女子の言葉を受け、亜沙子は加奈の方を見て言った。

「妹さんの持ち物なんて私知らないわ。見たこともないのに、持ってるわけ無いでしょう。」


無実を証明するために加奈が手提げ袋を開けた。そこにはなんと煉のつくっていたであろうエメラルドグリーンのセーターが無残にも破かれて入っていた。



「そんな・・・これは・・・。」





大きく目を見開いて加奈はセーターを取り出してつぶやいた。目に映る信じられない光景に加奈の鼓動が速まり、耳鳴りがする。世界と自分が完全に遮断されたように外部の音が聞こえなくなった。まったく身に覚えのないセーターが加奈の手提げに入っていた。


加奈が入れた覚えはないのだから、何者かが加奈の目を盗んで手提げに入れたのだろうか。ハッと我に返りセーターを凝視していた視線をはずすと、亜沙子がじっと加奈とセーターを見つめていた。彼女はどの感情の色も見せず無表情で、その心理を読み取ることは出来ない。


「私本当に知らないの。この子達のことだって知らないし。初めて会ったわ。いったい何のことだか・・・。このセーターだって知らない間に私の手提げ袋に入っていたの。今朝は入ってなかったわ。お願い信じて、亜沙子。」


加奈は動揺しながらも必死に亜沙子に訴え続けた。亜沙子はただ黙って加奈の顔を見つめていた。加奈が一通り言いたいことを言い終えるとしばし教室内に沈黙が訪れた。下級生の二人も息を飲んだ様子だった。互いに見合ったままどれくらい時間が過ぎただろうか・・永遠のように長く感じられた沈黙を静かに破るように亜沙子が口を開いた。その表情は歪み、悲しみの色があらわれていた。


「加奈・・・私の事・・・嫌いなの・・・・?」

「私が・・亜沙子のことを嫌い?」


加奈は亜沙子の発した言葉の意味が即座に頭では理解できなくて、深く感じ取るために数秒を要した。加奈は首を激しく左右に振った。


「何を言い出すのよ。亜沙子の事・・嫌いなわけないじゃない。クラスで・・ううん、この学校で一番好きよ。どうして私が亜沙子を嫌いになったりするのよ・・。」

亜沙子は目を閉じ、一つ深く息を吸い吐いてから目を開けて言った。


「発表会で優勝してから加奈・・クラスの皆と仲良くなったよね。楽しそうに皆とお喋りして・・でも私といると皆が私を避けてるからこれ以上仲良くなれなくてもどかしいんでしょう。」

「何を言ってるの、亜沙子・・・?」


加奈の頭の中は混乱した。加奈が一度も思ったことのないようなことを亜沙子に言われたからだ。亜沙子はさらに続ける。

「はっきり言えばいいじゃない、私のことが邪魔だって。」

「私そんなこと一度も思ったことないよ。邪魔だなんてそんな・・・。」


「じゃあ、そのセーターは何なのよ、妹にこんな嫌がらせするぐらいなら、直接私にもう話しかけないでって言ってくれたほうがマシだわ。」

亜沙子は強い口調で言った。彼女は眉間にしわを寄せていて、その声は震えている。

「亜沙子・・・!」


駆け寄ろうとした加奈の頬に熱い衝撃が走った。亜沙子が平手で加奈をぶった。

「最低よ、こんなことするなんて!私の大事な妹を傷つけたことは許さない!もうあんたなんか知らない!」


教室の床にふして顔に手をかけている加奈を睨むと踵を返して亜沙子は教室を出て行った。去り際怒りの色が浮かんだ亜沙子の瞳には光るものがチラッと見えた。


彼女は泣いていた。一部始終を側で見ていた男子と女子は口を開けたまま固まっていた。

「どうして・・・こんなことに・・・私が一体何をしたっていうのよ・・亜沙子。」


残された加奈は目に涙を浮かべてつぶやいた。窓から差し込む夕陽は一段と色濃くなり、赤く黒く加奈の姿を照らし出していた。




加奈と神楽坂亜沙子とのやりとりを一部始終、教室のドアの覗き窓から見ていた中村愛は、教室から離れた別の校舎にある理科室の前に男子と女子を呼んで、満足そうに笑みを浮かべた。


「ふふ、まさかこんなにうまくいくとは思わなかったわ。これで加奈を守る人間がいなくなった。後は加奈の悪い噂をクラスメイト全員に吹き込んで加奈を孤立させるだけね。」


愛は二人の頭を撫でていった。

「よくやったわ、あなた達。はいこれ。」

財布から五千円札を一枚取り出して男子と女子に渡した。それを受け取りありがとうございますと手を振って、帰っていく二人の姿を愛は満足そうに笑んで見送っていた。

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