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デート?に誘ってきた柿本容介

月日は流れ一学期が終了し、高校生になって二度目の夏休みがやって来た。クラスメイト達の予定は様々で部活に打ち込む者、旅行を計画している者、来年は大学受験なので勉学にいそしむ者など思惑はそれぞれだった。


そんな中、真琴は夏休みの間中はアルバイトで集中してお金を稼ごうと思っていた。施設で暮らしている身なのでお小遣いは当然なくて自分で稼ぐ以外になかった。学校のあるうちは週に三日ほど、ファーストフード店で働いていた。働き出したのは二年生になってすぐでそのきっかけとなったのが、真琴が助けたあの子猫だった。


子猫の面倒を見ることを決めたのはいいが、餌を買うお金がなかったので真琴は餌代を稼ぐためにアルバイトを始めた。餌代といっても毎日かかるので結構な額になるのである。音楽室で柿本蓉介にこのことを話すと、しきりに感心していた。もちろん施設暮らしという事は伏せて話した。


「クラスではぶっきらぼうな君が。誰とも仲良くしない君が。クラスでは協調性のかけらもない君が。いたいけな子猫のために・・・。」

目尻に涙をほろりと滲ませて彼は笑顔で言った。からかられているのか感心してほめているのかわからない言動に真琴は赤くなった。


「うるさいわねぇ、それ嫌味で言ってるの?」

「感激してるに決まってるじゃないか。他人に冷たい態度はとっているけどそれは表向きのことで、君は本当はとても心の優しい人なんだね。」

真琴は照れくささに我慢できなくなった。よくもまあ恥ずかしくなる台詞をすらすらと・・。

「人のことを勝手に善人みたく決め付けないで!あなたのいうこと聞いてたらじんましんがでてきそうだわ!」


「またまた照れて否定するところがとても可愛くて魅力的だよ。」

真琴は彼の口を黙らせるべく叩き続けた。それでも彼はまったく懲りてはいなかったが・・。彼もアルバイトをしているらしく真琴一人で餌代を出すのは負担が大きいだろうと言って、僕が半分出してあげるよと言った。


真琴はそんなことしてもらわなくていいと拒否したが、変に頑固さを示し彼は申し出を曲げなかった。彼の言い分によると真琴とは別に柿本は一人であの猫のところに時々通っていたらしく、すっかりなつかれてしまったとか。可愛くて仕方ないから、彼も餌代を負担するというのだ。


いくら言っても聞かないので真琴のほうが折れた。それから時々一緒になって子猫に餌をあげに公園に行った。



夏休みに入って、七月が終わり八月に入ったある日のお昼、真琴は施設での昼食を終え、孤児達と数人の共同部屋で窓辺にもたれて一人本を読んで過ごしていた。その日はアルバイトもなくのんびりと過ごしていた。施設の電話が突然鳴った。真琴は特に気にも留めず、本から顔を上げなかった。職員が受話器を取ったのだろう呼び出し音が途切れて一、二分してからこの部屋にそそくさと歩いてくる音が近づいてきた。


そこで真琴は初めて顔を上げた。孤児達の誰かにきた電話だろうかと考えていると、職員のおばさんが部屋に入ってきた。部屋には真琴の他に、真琴と同じ年頃の女の子が二人いた。電話の主はこの二人のうちどちらかの友達か彼氏だろうと真琴はおばさんを見て思った。


「よかった。真琴ちゃんいたのね、あなたに電話よ。待ってもらってるから急いで出てね。」

「私にですか?一体誰からです?」

本をパタンと閉じ首をひねって真琴は言った。真琴に電話がかかってくるなんて珍しい。親しい人間なんていないのに。だがある人間の顔がぱっと浮かんだ。


まさかね、そんなことあるわけないかと思っているとおばさんがニヤニヤして言った。

「男の子からよ。柿本君っていう子から。ボーイフレンドかしら?」

真琴の顔からサーっと血の気が引いていく気がした。顔が青ざめた。


真琴の顔色に気づいたのか、ちょっと大丈夫とおばさんが聞いてきた。真琴は大丈夫ですと言って立ち上がった。ふらふらした足取りで部屋を出て電話のある大広間に向かった。電話の前まで来ると保留中になっている電話のランプを見つめてごくりと息を飲んだ。少し離れたところからおばさんが真琴のことを観察していた。


このまま切るわけにもいかず、真琴は震える手でゆっくりと受話器を取り、耳にあておそるおそる話し出した。

「もしもし・・・・?」

「やあ、真琴さん。話すのは数日ぶりだね。元気にしてた?」

彼のどこまでもさわやかな声が受話器越しに響いた。

「どうしてここの電話番号がわかったの・・・・?」


「ああ、それはね、二年生になった時に担任からもらったクラス全員の住所と電話番号が載った冊子があったでしょう?あれを見て電話をしたという次第さ。」

迂闊だったと真琴は思った。真琴の口から施設のことを言わなければ知られることはないと安心していたが、まさか住所録・・こんな穴があったなんて。


彼はこのことを知ってどう思っただろう。これからいろいろと聞かれるのではないかと身構えたが彼はそうはしなかった。

「ところで今日は暇かな?」

「どうして?バイトは休みで特に用事は無いけれど?」

「もしよかったらこれから待ち合わせして会わないかい?君に一緒に来て欲しいところがあるんだけど。」

「どこよ?」


「それは来てからのお楽しみという事で。どうだい?」

彼に何度聞いてもどこに行くつもりなのか答えようとはしなかった。真琴はしばらく考えた。彼に会えば真琴について何か聞かれるのではないかという不安があったが それとは別に彼に会いたいと思っている自分がいて当惑した。


どうしてだろう、彼に会えることを嬉しく感じているのだろうか。いや違う、ただ単に彼が物好きで変わっている人間だから、興味があるだけだと真琴は自分に言い聞かせた。彼と会ってからその後に子猫のところに行こうか、公園に行くついでになら彼に会ってもいいという理由を作ろうかと考えた。


「いいわよ。特にすることもなく暇だし。それに帰りに公園に行こうと思うから。でも変なところだったら帰るからね。」

「よし、決まった。」

彼は満足そうに待ち合わせ場所と時刻を告げて電話を切った。




待ち合わせの場所である駅前に着くと彼は、道路わきに停めた小型の二輪バイクにもたれて待っていた。真琴がやってきたのに気がつくと彼は笑顔で手を振ってきた。彼は上は黒のウィンドブレーカー、下はジーンズとベージュのブーツと、ありふれた格好をしていた。


「やあ、よく来てくれたね。ありがとう。お、私服姿か、何か新鮮だね。」

彼は真琴を上から下まで見渡して言った。真琴は上がパステル色の水色のラメニット、下は膝上までの黒のツイードのスカート、同じく黒のロングブーツ、という格好だった。


「ふむふむ、とても可愛くて素敵だよ。」

「・・・・殴るわよ。」

頬を染めて怒る真琴の顔を見て噴出しそうになるのを必死で彼は堪えていた。彼は腕時計を見てからバイクにまたがった。


「じゃあ、行こうか。はい、これヘルメット。あ、あとこれもね。」

彼は真琴に自分のとは別のヘルメットと薄手のウインドブレーカーを差し出して言った。真琴は怪訝そうに彼を見て言った。

「その前にこれからどこに行くか教えなさいよ。それにあなたバイクの運転大丈夫なの?」

「まあ、いいからいいから。行けばきっと楽しめると思うからさ。二輪免許とって半年くらいかな?まあ運転には自信あるから安心していいよ。」


ほんとに大丈夫かしらと彼の顔を疑り深く見てから、真琴は上着を着てヘルメットを受け取った。

「さっきも言ったけど、つまらなかったらすぐ帰るからね。」

真琴は彼の後ろにまたがりながら念を押すように言った。


「オーケー、オーケー。じゃあ、しっかり僕につかまっててね。」

真琴は頷いて彼の背に腕を回した。そこで真琴ははっとした。彼とこんなに密着状態になったのは初めてだと気がついた。急に胸が高鳴って真琴は少し眩暈がした。


「べ、別になんとも思ってないんだから・・・」

「ん?何か言ったかい?」

ぼそりと真琴がつぶやいたので彼が振り返った。


「な、何でもないわよ!早く出発したら!」

きょとんとしてから彼ははいはいと笑って、バイクを走らせ始めた。


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