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加奈と新しい住まい

 葬儀、納骨が済むと加奈は親戚と共に車で一時間程揺られた。たくさんの一般住宅が並ぶ場所で車を降りた加奈は見たことがない一戸建ての家の前に立ち尽くしていた。両手には生前の母の写った遺影を大事に包み込むように抱きかかえていた。側をまともに話したこともない親戚の人々が通り過ぎ家の中に入っていく。ふと後ろから肩に手をそっと置かれて振り返ると深いしわを寄せて笑顔を作ったおばあちゃんがいた。


「さあ、お入り。今日からここがあなたのおうちだよ。」

加奈はためらいながらも促されるままにおばあちゃんと共に家に入った。この家の敷居をくぐった時から加奈の停滞した心の状態とは裏腹に、真新しい生活が始まろうとしていた。玄関に入って、どうしていいかわからずに立ち尽くしているとおばあちゃんが笑顔で加奈を手招きして言った。


「遠慮することはないよ。さあ、上がって。」

家を上がると加奈はおばあちゃんに二階に通された。ある部屋の前に来るとおばあちゃんが愛ちゃん、入るよとノックした。ドアには木で作られたいかにも女の子といった感じのプレートがかけられていて愛の部屋、と丸々した文字でかかれていた。中からはい、と返事がありおばあちゃんがドアを開けると室内に女の子が一人、加奈と同じくらいの年齢だろうか、ベットの上で雑誌を読んでいた。


髪が長く目がきりっとした印象の少女だった。

「愛ちゃん、この子今日からこの家で一緒に暮らすことになった加奈ちゃんだよ。仲良くしてあげてね。こちら愛ちゃん、私の孫娘だよ、加奈ちゃん。」

おばあちゃんがそれぞれに自己紹介した。

「加奈ちゃんね、よろしく。」


愛は笑顔で握手を求めてきたので加奈もよろしくとぎこちなかったが手を差し出した。この時、加奈はよかったいい子そうで、と少し安心した。

「二人は同い年だから、学校もこれから一緒だわね。愛ちゃん、加奈ちゃんのこと色々と助けたあげてね。」


おばあちゃんがそう言って部屋を出て行った。階段を下りていく音が聞こえなくなると、その瞬間愛は態度を豹変させた。強いまなざしで加奈を睨みつけてくる。加奈はびくりと体を震わせた。

「おばあちゃんの余計なお節介で一緒に住むことになったのは仕方ないけれど、いい?この家で偉そうな態度を私に見せたらただじゃおかないからね。」

さっき見せた屈託のない笑顔とは百八十度対照的のきつい口調だった。


「聞いてるの!」

加奈が愛に圧倒されて押し黙っていると、愛は手で加奈の胸を小突いた。加奈は恐る恐る小さく頷くと愛は鼻を鳴らした。

「愛―。ちょっと下におりてらしゃい。」


階下から少女の母親の呼ぶ声が聞こえてきた。その母親は御葬式で加奈を引き取ることに乗り気でなかった。はーいと愛は返事をして階下に降りていった。加奈は一人だけになった部屋にぽつんと立ち、急に不安がこみ上げてきた。果たしてこの家でやっていくことができるのだろうか。辛いことがあっても今までは母が側にいてくれたからやってこれたが、もう母はいない。傷ついても癒して慰めてくれる人はいないのだ。


愛の父親は御葬式で加奈を施設に送ることを提案した男性だ。そしてその妻である母親と、気のきつそうな娘の愛。三人共加奈がここに住むことをよく思っていないようだ。唯一あのおばあちゃんだけが加奈を案じてくれているが・・。加奈は途方に暮れながら部屋を見渡した。


ベットにはいかにも女の子らしいフリフリ模様の付いた可愛らしいピンク色の布団が敷かれていた。ベットの隣には彼女の使う木製の勉強机といすがあり机の上は綺麗に整理されてあった。しばらくすると階段を上がる音が聞こえてきてドアが乱暴に開いた。


「まったくどうして私の部屋でよそ者のあんたと過ごさなくちゃいけないのよ。」

不機嫌という言葉を顔いっぱいにあらわして愛は文句を言って部屋に戻ってきた。ベットに体を投げ出してイライラしている。

「今日からこの部屋であなたと・・・?」

加奈が探るそうに聞くと愛は眉間にしわを寄せて言った。


「そうよ!おばあちゃんもとんだ御荷物引き受けたわね。いい?この部屋にあるもの勝手に触らないでよ。全部あたしのもんだからね、あんたなんかに使わせてたまるもんですか。」

「わかったわ・・・・。」

加奈は力のない声で答えた。この少女は想像以上に性格が強烈で相当に歪んだものだと加奈は感じた。これからここでの生活が苦しいものになるのは目に見えて容易に想像できた。



夕食の時間、加奈はダイニングルームの椅子に座らされ、愛の両親で遠い親戚であるおじ、おば、そして愛、それからおじの母であるおばあちゃんの五人で食卓を囲んだ。明るい会話が飛び交う中、加奈は自分が部外者のような気がして緊張しておとなしくご飯を食べていた。


時折おばあちゃんが加奈を気遣うように遠慮しないでたくさんお食べねと言ってくれたが気持ちが沈みがちで、初めて来た家ということもあり、あまり食が進まなかった。夕食を食べ終えしばらくした頃、おばあちゃんがそろそろ帰ろうかねぇと立ち上がった。おばあちゃんはこの家族と同居しているわけではないらしい。


この家から少し離れたところに立つ造りの古くなった家に一人で暮らしているらしく、おじとおばが一緒にここで暮らさないかと提案したがおばあちゃんは亡くなったおじいちゃんと長年暮らしたたくさんの思い出が詰まった我が家を離れがたく思い同居の誘いを断っていた。


おばちゃんを皆で見送った後、加奈はおじとおばに呼び出され、居間のソファーに座らされた。低いガラスでできたテーブルを挟んで向こう側のソファーにおじとおばが腰掛けていた。おじとおばの表情がおばあちゃんがいた時に見せていた笑顔とはうって変わって険しい顔つきに変わっていた。加奈は二人にそんな風に睨まれて体がこわばって緊張し硬くなるのを感じていた。たしか母の葬式で加奈を誰が引き取るかを話していた時に見せていた表情だったと加奈は思い出した。


「今日からお前はこの家で暮らすことになったがただで楽に暮らせると思うなよ。」

おじが厄介者を見るような目で言った。

「親戚といっても全くの他人といっていいあんたを住まわせてやろうということなんだから家の家事全般きっちりやってもらうからね。働かなかったらご飯は出さないから。」

加奈がおびえてただ黙っていると返事は、とおばにきつく咎められ、弱々しい声ではいと頷いた。その口調といいおばは娘の愛とそっくりだった。


「まったくお袋も余計なことしてくれたもんだな。まあ生きてるうちはご機嫌をとっておかなきゃならんからしぶしぶ了承したが・・・・。」

おばあちゃんの手前では、加奈に対して我慢していたのか、いなくなった途端おじおばの態度が豹変していた。ふと、居間から廊下に出るためのガラスがはまった木でできたドアを見ると愛が居間の様子を見ていた。加奈は目があって愛が不敵に嫌な感じに笑いかけてきた。


加奈は不気味に感じた。加奈はこの家で果たして平穏に暮らしていくことができるのだろうか、とてもじゃないが無理なのではと心細く不安になり心を痛めていた。



寝るまでの時間、加奈は体をずっとピリピリさせこわばらせたままだった。寝るギリギリまでの時間、おじやおばのいる居間には居辛く、かといって愛の部屋にいれば何を言われるかわらなかったので、加奈は一階の客室である畳の和室で過ごした。暖房器具があったが勝手に使えば怒られそうだったので寒い部屋で縮こまっていた。手に母の写った写真を持って話しかけていた。


「お母さん・・・。」

写真に加奈の涙が一滴落ちた。心細く今にでもすぐに母に会いたかった。話をしたかった。その優しく温かな腕で抱きしめて欲しかった。

「お母さん・・・・会いたいよ・・・。私この家に引き取られることになったの・・。ここの家の人達は加奈のことが嫌いみたい・・・私・・・ここでやっていく自信ないよ・・・。ねえお母さん・・・・何か言ってよ・・・・・お母さん・・・。」


いくら写真に呼びかけても母が答えてくれるはずもなく写真の中でただ微笑んでいるだけだった。寒い和室に加奈のすすり泣く声が密やかにこだましていた。

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