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目には見えない運命の糸とこの世界の奇蹟

「ここに来る時、僕らと同じ高校の制服を着た一人の少女に会ったでしょう?」

「ええ・・・・会ったわ・・・何故だかは知らないけれど・・

私があなたについていこうとするのを強く止められたのよ・・・。

初めて会った子なのに・・・。」


真琴の言葉に彼は強く頷いてみせた。


「こちらの世界に来てから君がやってくるまでに

少し時間があったから彼女と少し話をしたんだ。

実は生きていた頃も少し面識があったんだけれどね。」


真琴は蓉介の言葉に驚くと同時に怒りが湧いた。


「あの子のこと前から知っていたの?どうして私に教えてくれなかったのよ。」

あの子はこちらの世界に来て、

蓉介と知り会ったと言っていたがそれは嘘だったのか。


もっと以前に真琴の知らない所で、二人が会っていたというのは

あまり気持ちのよいことではなく、

はいそうですかと納得できることではなかった。


「彼女のことは少し事情があって君には話せなかったんだ。

言っておくけれど決してやましい理由ではないから誤解はしないで欲しい。」


蓉介の表情には何の後ろめたさも思っていなさそうな

感じしか見受けられず、堂々としていたので真琴はまだ少し気になったが

それ以上そのことには触れなかった。


「あの子は大切な人を皆失って孤独に打ちひしがれていた。

以前話してくれた昔の君のようにね・・。

そんな時、ピアノを演奏していた君に出会ったとあの子は言っていた。


いつそんなことが・・・そういえば音楽室でピアノを演奏している時、

誰かに見られている視線を感じたけれど・・


蓉介のいう事が正しければあの時、真琴を見つめていたのは蓉介、裕子、

他の誰でもなくあの少女だったのか、


「あの少女は僕と同じように君の音楽に惹かれていたんだ・・・・・・。

あの子はね・・・・あの音楽室でじっと

ピアノを演奏する君を見つめて涙を流していたんだよ。」


「え・・・・・?」


真琴の予想していなかった蓉介の言葉に

真琴は時が止まったかのような状態になった。


それまで耳に届いていた美しいオルガンの調べが

一瞬にして遠ざかり遮断されたように聴こえなくなった。



 


あの子が真琴の演奏を聴いて・・・泣いていた?




「よほど真琴さんの演奏を聴いて心に響くものが・・

共感できるものがあったんだろう。彼女はそれからも何度か

君の演奏を聴きに音楽室に通っていたんだよ。君は知らないだろうけれど


そんな彼女の姿が初めて君に出会った僕の姿と重なったんだ。

まるで昔の自分を見ているようだった。


彼女のように僕は泣かなかったけれど心の中では

同じように泣いていたのかもしれないね。


あの気持ちは何だったんだろうか、運命の人に出会えたような歓喜、

自分のことをわかって欲しい、理解して欲しい、

すがりついてこの身を何もかもを委ねてしまいたい、


抱きしめて欲しい、僕はそんな気持ちになった。

もしかしたらあの子も君に対してそんな想いを持って

涙を流していたんじゃないだろうか。」


「私全然そんなこと知らなかった・・・。

そんなに私の演奏を気に入ってくれて、

しかも何度も聴きに来てくれていたのに、

あの子はどうして私に会おうとしなかったの?

遠くで見つめていただけだなんて・・。」



「彼女は君に惹かれながらも会うことを恐れていた。

僕とは違い、君に嫌われてしまったらどうしようかとね・・。


遠くから真琴さんのことを見つめているだけで充分、

満足だとあの子は言ってたけれど・・・


それでも僕の説得のかいがあってかようやく

あの子は君に出会う決意をかためた。真琴さんと友達になるために・・


けれど・・・・それは叶わなかった。

事故に巻き込まれてしまったからね・・・・。」


真琴は初め、どうしてそんなに会うことを少女が

躊躇ったのかと疑問に持ったが、己を省みてすぐ気がついた。


真琴自身はあまり自覚していないが、蓉介や裕子が言ってた、

真琴の人を寄せ付けないように発していたオーラみたいなものが

少女の真琴への接近を邪魔していたのかもしれない。


蓉介があの子に会っていたことを

真琴に黙っていたわけがこれでわかった。

蓉介が少女の存在を真琴に話すことをしなかったのは、

蓉介が少女に気を利かせて黙っていたからなのだろう。


それにしても・・・・

あの少女は真琴とそのピアノを好きになってくれたから、

真琴の死を止めようとしたというのか。


いくら演奏に感動したからと言って

赤の他人である真琴に普通そこまで真剣になるだろうか。


真琴の死を止めようとする彼女は、もっとこう、

何か鬼気迫る雰囲気のようなものがあった。


「真琴さんがあの子と会うことは運命だったのかもしれない。」


真琴が祭壇上の神父を見つめてあの少女が必死だったことの意味を

考えていると蓉介は唐突とも言える感じでそう呟いた。


彼に視線を戻して問うた。

「・・・・運命・・・・・?」


蓉介は真琴の方をまっすぐ見つめたまま深く頷いた。


「彼女はある同じ夢を何度も見たと言っていた。

その夢に運命的なものを感じて、和泉高校に入学したんだ。」


蓉介は少女が見た夢の内容を話してくれた。

真琴は衝撃を受け驚愕しにわかには信じられなかった。

そんな偶然、いや必然がこの世界に存在するのだろうか。


だがもし蓉介の話が本当なら少女の真琴の死を惜しむ気持ちにも筋が通る。

だからあれほど切実そうに真琴に思い入れしていたのか・・・。


そう考えていると初めて少女と出会った時に

感じたことが脳裏に唐突に浮かび上がってきた。


以前どこかで彼女とどこかで会ったことがあるという印象を持ったことだ。

今気がついたがひどく懐かしい感情だったような・・。

その事が少女が見たという夢と関係があるのだろうか・・?


動揺を隠せないでいる真琴に蓉介は静かに告げた。

「君とあの子は見えない運命の糸で結ばれいるんだよ、きっと。」


蓉介が真琴の手を強く握ってきて、いいかい、

よく聞いてと真剣なまなざしを真琴に向けた。


「君のことを誰かが心から必要としているのなら

この教会のどこかから光る扉が現れてその向こうから君を呼ぶ声が、

現世に呼び戻そうとする声が聞こえてくるはずだ。


君が生きようとする強い意志を持ってその扉を開き

向こう側へ行けば現世に戻ることが出来るんだ。


現世から呼び戻そうと惜しみなく強く叫んでくれる人と、

それに対して応えようとし生きることに希望を見いだし本気で甦ろうと望む人、


その両者がいて初めて起こりうるこの世界の奇蹟なんだ。」



真琴は少女が言っていたことを思い出していた。

真琴のことなど放っておいて生き返ればいいではないかと

突き放すように言うと彼女は

自分のことを必要としてくれる人間はいないから・・・

と悲しげな暗い表情で呟いていた。


今蓉介から現世に戻る方法を聞いて、

あの少女の沈んだ顔の理由を理解した。


あの子は生きたいと強く願ったとしても・・・

肉体の方が生きていたとしてもそれは不可能であると悟っていたのだ。


「僕は君が来るまでここにやってきたたくさんの人々を見てきた。

中には僕のように完全に肉体がなくなっていなくて

真琴さんやあの子と同じように生と死の狭間でさまよっている人が多くいた。


扉が現れて現世から誰かが呼んでくれるんじゃないか、

誰かが必要としてくれるんじゃないかと期待を

胸に抱いて待っていたが結局誰にも呼ばれることはなく、


誰にもその命を惜しまれることなく、

ひとり孤独に悲しげに天に昇っていった人々がほとんどだった。


いいかい。人が自分のことを必要としてくれて死を悲しんでくれる人がいる、

想い愛してくれる人がいることはとても幸福なことで貴重なことなんだよ。」


祭壇のほうを見ると蓉介が話しているうちにも、

神父の導きを受けていた人々が天に昇って消えていく光景が広がっていた。

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