灯台の光る海にあの娘は・・・
裕子はタクシーを砂浜ではなく、海に面した高い崖がある道路わきで降りた。
海と反対方向の陸に少し歩くと、真琴が乗った電車の終点駅がある。
裕子は駅の時刻表を確認し、
真琴の乗った電車はすでにこの駅に到着して回送となっていた。
裕子の気持ちはあせりを増し、あの時、
一本後の電車で来たほうがよかったかと悔やんだ。
裕子は海が見える高い崖のある所に行き、手当たり次第に真琴を探した。
もう陽は完全に落ちていて、照明はなく崖の上はは真っ暗だった。
海から強く吹き付けてくる風に裕子の髪の毛が闇に踊った。
施設に電話するとやはりまだ真琴は帰ってないらしく
夕食の時間なのにいないなんて今までこんなことはなかったと
職員のおばさんが心配していた。
裕子はますます不安感が増した。
施設のおばさん達には心配をかけないようにここに来ていることは伏せた。
余計な不安をあおるからだ。
まるで迷子にでもなったかのような泣きたい気持ちになってくる。
真琴がここに絶対来ているとは言い切れないのに、
裕子は恐ろしい想像ばかりが頭の中を暴走するように駆け回っている。
真琴、真琴一体どこにいるの?
警察に連絡すべきか、いやまだ真琴に何かあったと決まったわけではない、
騒ぎを大きくして実は何もなかったというわけにはいかなかった。
もしかしたら真琴がここに来たなんてことは裕子の勝手な思い込みに過ぎず、
今頃真琴は施設に帰ろうとしているかもいしれない。
それならそれで良いのだ。
裕子の捜索が無駄に終わったとしても構わない。
むしろその方が喜ばしいことだ。
裕子にとっては真琴が無事ならばそれで良いのだ。
今出来ることは裕子が真琴を探し出すこと、それしかなかった。
そしてもしものことがあった時はすぐに助けを呼ぶ覚悟をしていた。
裕子は足場の不安定な崖の上を周囲に目を向けながら早足で駆けた。
崖を下にはうねるように波が激しく打ち寄せて砕けては消えていた。
その様子は砂浜に優しく打ち寄せる小波とは対照的で、
夜の暗黒に溶けてひどく残酷な印象を受けて恐怖感を抱いた。
海の向こう遠くにカーブを描いて伸びた海岸の突端には灯台があり、
移動する光を放っている。
時折裕子のいる場所にも眩しいその光が届いた。
崖を駆けながら辺りを照らす灯台の光の行方を裕子が追った時、
裕子は思わず立ち止まった。
裕子のいる場所から二百メートル程、
離れた所を灯台の光が通過した時に人影らしきものが一瞬だが見えたからだ。
そこは崖がさらに高く盛り上がって海のほうに突き出たところで、
裕子は迷わずその場所目指して今まで以上の速さで急いだ。
胸を高鳴らせながら、裕子は近づいていった。
百五十メートル、百メートルと途中転びそうになりながらも距離を詰めていく。
五十メートルぐらいのところまで来た時、
再び灯台の光がその人影を闇の中から浮かび上がらせた。
今度ははっきりと見えた。
崖の盛り上がった先端の所に真琴が立っている姿を発見した。
とにもかくにも真琴が無事だったことで裕子は強く安堵感を感じた。
早く駆け寄っていって、真琴の体を強く包み込むように抱きしめて言うのだ。
よかった無事で、心配したのよ。早く帰ろう、施設のみんなも心配してるよって。
冷えた体を抱きしめるようにして側に寄り添ってやるのだ。
深く傷ついた真琴に裕子が唯一してあげられるのはそれくらいのことしかないのだ。
側にいてあげることしか・・。
裕子は更に近づこうと駆ける。
暗闇でも真琴だとわかるくらいまで近づいた時、
それは裕子が真琴の名を呼ぼうとするのと同時だった。
真琴はゆっくりとした動作で崖の最先端まで進むと、
そのまま海に向かって身を投げ出したのだ。
瞬間その光景は古い映画の映像のコマ送りのように
ゆっくりとスローモーションで見えた。
真琴は荒れ狂う海へと落ちていった。
裕子はそれを目にした瞬間、
視界が白黒になって心がかたまった。
これ以上は開かないと言う程、目を見開いた。
「真琴っ!」
崖の下を見渡せる所まで来ると、両手をついて真下に覗く海を見た。
海面までかなりの距離があり、
海面に落下して激しい波に飲み込まれる真琴の姿を見た。
何度も真琴の名を絶叫するように叫んだ後、
しばし頭が真っ白になり、呆然とした。
体中の力が抜け脱力していたが、すぐに我に返り、
携帯電話を乱暴に上着のポケットから取り出すと、
助けを呼ぶための番号を荒らしく押した。




