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いつまでも続いていく誕生日が理想です

裕子の秘密を知ってからの学園生活、三人は前にも増して仲良くなり親密に付き合いをするようになっていた。その一つとして三人それぞれの誕生日を祝おうということになった。


真琴は放課後、学校を出ると電車に乗り、何本も路線が通っている華やいだ大きな駅で下車した。駅前のショッピングモールの一角にあるケーキ屋で予約しておいたバースデーケーキを受け取って駅に引き返し電車に乗った。


駅を降りると真琴は少し浮かれ気味な足取りで裕子の家へ急いだ。今日は裕子の家で蓉介の誕生パーティーを開くことになっていた。彼女の家でやろうと言い出したのは裕子自身である。


裕子の両親も真琴が来てくれたらきっと喜ぶからと言われた。蓉介と出会う前の真琴からは考えられないような人生を送っているなあとつくづく真琴は実感していた。


他人の誕生日はおろか、まして自分の誕生日をまともに祝ったことも祝ってもらったことも真琴の知る限りではまだ真琴が幼い頃に両親に祝ってもらった時やピアノを教えてくれたあの人に祝ってもらった時以来だ。


施設でもお誕生会をしたが、孤児の数も多くお金もそれ程かけられないという理由で一人一人きちんとした祝いをしたことはなかった。月の初めにその月に生まれた子供達をまとめて一度に祝うというようなものだった。


真琴のことを好きだと言ってくれた一人の青年の誕生日を心から祝おうとしていることはとても不思議に感じていたが、それと同時にとても喜ばしいことで幸せを噛み締められずにいられなかった。


真琴は心から蓉介が生まれてきてくれたことを祝福したいと思った。こんなにも他人のことを真心をこめて祝ってあげたのは、はじめてかもしれなかった。彼が喜んでくれれば真琴も幸せだった。


誰かの幸せが自分を幸せな気分なさせることなんて今までの真琴には考えられないことだった。裕子の家に着くとよく来たね、ゆっくり楽しんで言ってねと御両親が温かく迎えてくれた。裕子は既に誕生パーティの準備に取り掛かっていた。


彼女の部屋に行くと長細い木のテーブルが出され、ケーキを載せる食器とフォーク、カップ類が乗せられていた。


「こうしてみんなの誕生日をお互い毎年祝えたらいいわね。」

真琴の持ってきたケーキのろうそくを数えながら裕子は笑って言った。


「そうね。来年もやりたいわね。高校を卒業したら、それぞれ忙しくなってなかなか都合が合わなくなって難しくなるだろうけれど、出来るなら何とかやりくりしてやりたいわね。」

真琴は数年後の未来の自分に思いを寄せながら言った。


来年はもう三年生、そろそろ進路を決めていかなければいかない時期である。進学か就職、どちらにしろ真琴も蓉介も裕子もそれぞれ別々の道を未来に向かって歩いていくことになる。こんな風にいつまでも気軽に一緒にいられるわけではない。


そう思うと今三人でいられることがとても大切なこと、貴重なことのように感じられた。この幸せな瞬間は、同じ瞬間は二度とない。だからこそ大事にしようと思えるのかもしれなかった。


数十分して蓉介が来る途中で購入してきたシャンパンを掲げてやって来た。早速三人揃ったところでケーキにろうそくをさし、火を灯してパーティーを始めた。暗闇の中で光るろうそくはささやかな幸せを象徴しているように見えた。


電気を消した真っ暗な部屋の中で、真琴と裕子は祝福の歌、ハッピーバースディを歌い蓉介に捧げた。ケーキに立てられた十七本のローソクの炎を蓉介が吹き消した。明かりをつけ、クラッカーをひいた。色鮮やかな色紙が花開く。


「十七歳の誕生日おめでとう。蓉介。」

「おめでとう。柿本君。」

グラスに注いだシャンパンで乾杯をして、真琴と裕子は順に祝いの言葉を述べた。蓉介は穏やかな笑みを浮かべて言った。


「二人ともどうもありがとう。今日まで生きてきて本当に良かったと思えるよ。」

「蓉介ったら大げさねぇ。」


真琴が苦笑いしてそう言うと蓉介はふざけるでもなく、落ち着いた諭すような口調で静かに言った。

「冗談でも何でもなく僕は本当にそう思ってるよ。君達と出会うことが出来てこうして祝ってもらえるなんて夢のようだよ。今日という日はもう二度とないんだからね。」


蓉介の顔を真琴も裕子も思わず、じっと見つめてしまった。彼の言わんとしている意味を裕子も真琴も察して何だかしんみりしてしまった。蓉介も先程真琴が思ったことを同じように考えていたのかと一体感を感じて嬉しかった。


「よし!じゃあ、ケーキ食べましょうか。、真琴そこのナイフとってくれる?」

裕子が場の空気を盛り上げようと明るく言った。ケーキを器用に切り分けて裕子は皆に配った。おいしそうにケーキをほおばりながら蓉介が言った。


「最愛の真琴さんの誕生日には僕のいっぱいの愛情でうんと豪勢に祝ってあげるから期待しててね。」

蓉介がなんのてらいもなくまっすぐな口調で言ってきたので真琴はやれやれと言った感じでグラスを口にして答えた。


「はいはい、楽しみにしてるわよ。」

「ほう、もうこれくらいでは照れたりしないか・・。」


感心したように蓉介は言ったので、真琴は勝ち誇った笑みを浮かべた。

「そういつまでも、醜態さらしたくはないからね。なめないで欲しいわ。」

「真琴さんの誕生日では僕と真琴さんの二人きりでやりたいなぁ。」


蓉介の言葉に真琴は、その言い方は裕子に悪いんじゃないかと言おうとしたが、裕子は怒った様子もなくニヤニヤして蓉介に聞いた。


「私は御邪魔虫ってわけね。二人きりでしてどうするの?」

「どうするって、決まってるでしょう。こんなことするんだよ。」

そう言ったきり、蓉介は下を向いてクックッくッと気味の悪い声で笑い声を漏らした。


「?」

真琴が怪訝そうな顔で蓉介の顔を覗き込もうとすると、いきなり蓉介が真琴に抱きつついてきた。

「ぎゃッ!」


真琴は彼の不意打ちの抱きつきに思わず、驚きで奇声を上げた。

「なんて声出すの。真琴さんったら、ププ・・。」

真琴は蓉介の抱擁から逃れようとしたが強く抱きしめられて振りほどけなかった。

「ちょっと、裕子もいるんだから、離しなさいっ。」


真琴の顔がみるみる赤くなる。蓉介が顔を離して真琴をつかんだまま見つめてきて真琴はどきりとした。

「嫌だね。愛し合ってる仲なんだからそんなに嫌がることないでしょ。」

「・・・。」


真琴は真剣な男性のまなざしをした彼の言葉に頭がのぼせてくらっと来た。全身の力が抜けて再び抱きしめられもうなすがままだった。目がとろんとしてきて何だか妙な気分になった。

「アツッ、熱すぎるわ。お二人さん見せ付けてくれちゃって。もうラブラブね。」


ケーキを食べながら、抱き合う真琴と蓉介を端から観察していた裕子が言った。

これまた不意打ちで蓉介がはい、おしまいと言ってぱっと体を離した。抱擁を解かれた真琴はまだ高揚した気分でフニャフニャだった。目がトロンとしている。


そんな真琴の様子を見て蓉介は顎に手を当てて言った。

「抱きつきがもっと欲しかったかな。」

「いっそのことなら口づけの一つでもしてあげたらいいのに。」


裕子の無責任な一言に彼がよし、と頷いて顔を寄せてきたところで真琴は目の焦点が合って正気に戻った。はっとして蓉介を突き飛ばした。

「もう!二人して私のことからかって!」


真琴が怒って言ってもずっと蓉介と裕子はげらげらと笑っていた。真琴は彼らに弄ばれかんかんになりながらも、頭の片隅では色々なことを感じていた。


幼い頃に大切な人を失ってから蓉介、裕子と共に過ごすようになるまで、真琴は一人孤独に日々を過ごしていた。その頃には今こうして、恋人や親しい友人が出来、たわいないことで笑いあって幸福な時間を共有していることなんて想像も出来ないことだったろう。


運命という言葉はあまり好きではないけれど、こうして二人に出会えたことは奇蹟のようだと思った。蓉介が心から笑っている。裕子も満面の笑みを見せている。そんな彼らを見ていると真琴の中に一つの祈り、願いのようなものが浮かんだ。


二人とはいつまでも一緒にいたい、たとえそれが無理だとしても出来る限り、同じ時を過ごして様々なものを真琴一人ではなく・・・そう、三人でみていきたいと心から思った。


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