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これがおばあちゃんとの最後

晴れ渡る空の下、葬式に参列した黒の衣服を身にまとった人々が続いていた。中にはおばあちゃんと近所づきあいがあったのだろう、おばあちゃんと同じくらいのお年寄りの男女がハンカチを目に当ててすすり泣いていた。


他にもお葬式に来た人は様々でたくさんの人々がおばあちゃんの死を惜しんでいた。加奈はそんな光景を見ておばあちゃんがその優しい人柄で、いかに周囲の人々に愛されていたのかがわかった。


おばあちゃんという存在はその場にいれば場の雰囲気がポウっと明かりを照らされたように明るくなり、皆の心も温かくした。おばあちゃんがこの世に生きた価値がはっきりとこのお葬式で目に見える形で見られた気がした。


人々の中に加奈が高校の制服を着て立っていた。学校を休み、愛と共におばあちゃんのお葬式に出ていた。おばやおじはお葬式に来てくれた人達の応対で忙しそうに駆け回っていた。


受付のところでおばが来てくれた人から香典をもらい、その横で加奈と愛は来てくれた人に深く頭を下げた。たくさんの色とりどりの花々に埋まるように置かれた白い棺に入れられたおばあちゃんは生前と同じようにとても優しい顔をしていた。


じっと見つめていると今にも起き上がって微笑んでくれるような錯覚にとらわれた。死んでしまったことが信じられないくらいだった。唯一違うのはもうその閉じられた瞼が開かれることはないこと、肌が冷たくなっていることだった。


加奈だけおばあちゃんの最後をしっかりと見届けた。温かかったおばあちゃんのぬくもりが次第に冷たくなっていくのを側で感じた。おばやおじや愛よりも一番近くでおばあちゃんと過ごせたことはうれしくもあり、同時にそれは息が詰まりそうなくらい悲しいことでもあった。


もうこの世のどこにもおばあちゃんはいない。


どこを探しても。代わりになれる人なんていない。

おばあちゃんは確かにこの世界に生きていた。その存在はこの世界に少なくない影響を与えた。


でも、もうどこにもいない・・・。


加奈の心に大きくぽっかりと穴が開いてしまった。母が亡くなって悲しんでいる時、知らない親戚に引き取られ、右も左もわからなかった加奈を温かく包み込んでくれたのがおばあちゃんだった。


母という心の大きな支えがなくなっていた加奈にとっておばあちゃんは母に代わる心の支えだった。生きる希望だった。辛いことがあってもおばあちゃんの笑顔があったからここまで何とかやってこれた。亜沙子が加奈から離れていった時も・・・。


これで大切な人を失ったのは二人目だった。母もおばあちゃんも加奈を残して天国に旅立ってしまった。


おばあちゃんの棺の前でお坊さんが座布団に腰を下ろし、手に数珠とお経を持って唱えている。広間に並べられた椅子に参列者たちと共に座っていて加奈はおばあちゃんに思いをはせて、そんな様々なことを考えていた。


最後のお別れの時が来た。棺の蓋を閉じる前に人々が手に花を持って、おばあちゃんの横たえられた棺の中に添えた。おじも、おばも愛も、加奈もたくさんの花をおばあちゃんに捧げた。


おじが声を出さずに口を強く押し結んで、涙で瞳を潤ませている。おばも泣いている。愛は険しい顔で唇を結んでいる。泣くのを堪えているのだろうか。


加奈は泣かずに笑顔で送り出そうと決心していたが駄目だった。おばあちゃんの永遠の眠りについた穏やかな顔を見たら、胸に秘めた決意があっけなく音を立てて崩れるように、顔を歪めて溢れ出す涙を抑えることができなかった。


たくさんのおばあちゃんとの楽しかった思い出が走馬灯のように加奈の脳裏に浮かんだ。母の御葬式の後、一人孤独で途方にくれていた加奈をおばあちゃんが手をつないで迎えてくれたこと。


初めてピアノの演奏を聴いてくれたこと、発表会の優勝を加奈と一緒になって心から喜んでくれたこと、誰にも祝ってもらえないと思っていた誕生日を祝ってもらえたこと。どれもおばあちゃんの優しい笑顔が印象に残った。


涙でおばあちゃんの顔が滲む。もう二度とこの優しい顔を見ることはできない、そう思うともう駄目だった。声を出して泣いた。加奈は人の目なんて気にせずただ泣き続けた。



おばあちゃんは火葬されて親類だけで焼け残った御骨を拾った。おじとおばにお前は血縁でないから来なくていいと言われたが、加奈は断固として首を縦に振らなかった。初めてかもしれない、加奈は強い意志で御骨を拾うことを申し出た。


加奈に強い意志のこもったまなざしで睨まれたおじとおばは怯んで、渋々といった感じで許可を出してくれた。泣きながら加奈は皆と真っ白なおばあちゃんの御骨を拾った。


御葬式が済み、親戚一同は近くの日本料理の料亭で食事をした後、おじたちの家に集まった。おばあちゃんの息子であるおじは三人兄妹の長男で、おばあちゃんの御葬式の喪主を務めた。


リビングルームにはおじ、その妹の長女、一番下の次男がソファーに座って話をしていた。おばあちゃんが残した遺産相続について込み入った話をするという事で、おばを除いたおじたちの妻や、夫、その子供たちは和室の方に移るように言われた。おばはおじら兄妹三人に御茶を用意してからおじの隣に座っていた。


加奈も和室の隅に皆に混じってたたづんでいる。加奈の母の御葬式で会ったこともある人達なのであろうが、あの時加奈は母を失った悲しみで人の顔を覚えている所ではなかったし、小さかったので知らない顔の人達ばかりだった。


大人の人から、赤ん坊まで様々だった。その中で愛は、彼女の従兄弟なのであろう、同じ年頃に見える少年、少女と笑顔で会話していた。おばあちゃんとお別れした後に笑顔になれるなんて加奈には信じられなかった。


話の内容もどうでもいいようなたわいない話をしている。加奈よりも長く、愛はおばあちゃんと過ごしてきたはずなのに。おばあちゃんに深い愛情で可愛がられていただろうに。


悲しくないはずがないのだが、愛の表情に悲しみを堪えている様子は全く見受けられなくて加奈は複雑な気分になった。加奈には今あんな風に屈託なく笑って振舞うことはとても出来ないだろうから。

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