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5.不幸な事故

 中ではカツヤが潰れたエアバッグの上に顔を置いて意識を失っていた。


 洋輔とさやかも様子を見に来た。

 カツヤの両足が大きくひしゃげた軽トラの前部に挟まっていた。片方は骨が折れているようだ。

 翔太は命に関わる怪我はなさそうだと判断した。しかし、このまま怪我が治るとまた襲われる。

 カツヤのズボンのポケットからバタフライナイフが落ちそうになっていた。

 翔太は取り上げると刃を出して(おもむろ)にカツヤの太腿に突き刺した。

 「うぐぐ」カツヤが痛みで目を覚まし始めた。

 翔太は更に柄を大きく回して傷を抉った。

 「ぐあぁーッ!」

 カツヤが目を見開いて呻いた。

 「うわ、痛そう…」

 さやかが顔を顰める。

 「すまん。起こしたな? 俺が分かるか?」

 翔太は言いながらまた軽く柄を動かす。

 「お前ッ!痛い!やめろっ!」

 「じゃあもう襲わねえ?」

 「あ、ああ。もう襲わねえ。それより助けろよ!足が挟まって動けねえ。」

 「いやいや、襲うよお前。そんな奴だよお前は。」


 「や、やめろよ…」

 その時三人の後ろから弱々しい声がした。

 軽トラの持ち主だ。廃車確定の軽トラを交互に見ながら青ざめた顔で突っ立っている。

 手には頭がこぶしほどのハンマーを持っていた。大きな音を聞いて、慌てて飛び出して来た様だった。遠巻きに他のメンバーも見ているが思った以上の惨状に呆然としていた。

 「お、良いもん持ってんな。それ貸して。」

 翔太がハンマーを見て言った。

 抜けた力で持たれていたのか、すぐに洋輔がハンマーを奪って翔太に手渡した。

 「はい。」

 「おう。サンキュー。」

 翔太はカツヤに向きなおる。

 重いハンマーを振り上げてカツヤの膝に打ち下ろした。

 ボコッ、ともグシャッとも言えない音がした。

 「うがーッ!!」

 カツヤが叫んだ。

 「もう襲わない?」

 「襲わねえよ!頼む、頼むから助けてくれ。」

 「嘘だね。襲うだろ? まぁこのままほっといても足首からの失血で死ぬんだろうけど。これだともう数リットルは流れてんな。」

 足首から大した出血はないが潰れたエアバッグで見えないことをいい事に脅しの材料にした。

 「待ってくれよ。頼むから救急車呼んでくれ。」

 カツヤが青ざめた。

 「それは虫が良すぎるんじゃねーの。」

 その時カツヤは翔太の目を見た。


 なんだこいつの目は。


 こんな目をした奴は見たことがなかった。カツヤも相当無茶な事をするが、目は熱く燃えている。

 しかし翔太の目は違った。

 そこに全く感情の起伏がない。まるで単純作業を繰り返す工員の様だ。ただ流れてくる部品をいくつかのネジで留めて行く。そんな作業を行うかの様に人を傷付けられる者の目だ。

 決して予定外の事はしない。計画し、決定し、粛々と事を進める。そんな人間である事が目を見ただけですんなり理解ができた。


 するとカツヤの強気の態度が急におとなしくなった。

 「あ、そうだ!」

 翔太はカツヤの上着の内ポケットを探るとライターを取り出した。

 「やっぱ持ってたな。」

 手にしたライターでカツヤの裾に火を点けた。

 「な、何してんだよ。」

 まだ火が小さく熱さを感じてなかったが、だんだんと燃え広がってきた。

 「あちっ!熱い熱い!やめろ、やめてくれ!」

 とうとう火が皮膚にあたり火傷を作りながら、ゆっくりと潰された膝のあたりまで燃えていった。

 「あ、あああうっ」

 涙を流しもう声になっていない。火はあまり大きくならず、じわじわと燃えていく。

 カツヤはゆっくりと熱さが登ってくるのを感じていたが肩が外れ、至る所が痛くて消そうにも消せない。

 頭を振ってもがくだけだった。

 「まだ襲う?」

 カツヤはもうそれどころではない。振っていた頭がだんだん大きな震えに変わっていく。

 「このままだと漏れてるガソリンに引火しそうだから逃げよっと。」

 いよいよカツヤはの震えが最高潮に達した。

 「アアア…」

 「その前に指を()いでキーホルダーにでもするか…」

 ハンドルを強く握り固まっていた手にハンマーを落とした。

 ボキボキッ。

 複数の骨が折れる音がした。

 「ア……」

 カツヤはとうとう気を失い、股間からは液体が拡がってズボンを汚した。。

 「あ、寝ちゃったよ…。お、火も消えた。上手いこと考えたな。」

 翔太は刺さったままのナイフをまたグリグリしたが、今度は目を覚まさなかったので後ろで傍観しているカツヤの仲間たちの方に向いた。


 「お前達も俺を襲うのか?」

 全員がブンブン首を振った。

 「そうか。でも俺はこいつがまだ襲うと思っている。だから定期的に膝だの何だの潰しに来るからこいつに言っといてくれ。」

 今度は全員がヘッドバンキングをした。

 「あ、それとモヤシ…、わかるな? あいつにも手を出すなよ。」

 そう言ってナイフを抜いて、ハンマーと一緒に軽トラの持ち主に返した。


 事故に気づいた数人が近づいて来るのが見えた。


 続けてカツヤの仲間たちに言った。

 「では、この事故を整理する。こいつが借りた軽トラを暴走させて勝手に事故った。これは見たまんまだ。」

 周りの者は全員縦に首をふる。

 「俺たちはここにはいなかった。」

 もう一度首を縦にふる。

 「以上。洋輔、さやか行くぞ。」

 さっと踵を返して翔太達が去って行った。


 ザワつき始めたヤジ馬から離れて、

翔太達はファミレスに向かった。


 翔太は道中、未来視について考えていた。


 二回目の未来視は短かかったものの一回目と時間が重複している部分がある。そして現実の三回目と全て内容が異なっている。つまり、同じ時間を何度も経験出来るというとか? しかも違う行動が結果に影響する。

 未来は未確定で修正ができるという事だろう。もし、これを意識して出来る様になれば、何をするにもすごいアドバンテージになる。

 どんな事でも成功するまで何度も試行錯誤すれば、今後失敗はないという事だ。

 いずれにせよ意識して出来ればの話だ。

 あと未来視している時間も気になる。一回目は数十秒間ぼーっとしてたようだ。二回目は一瞬。やはり未来を視る時間に比例して意識を失っている時間も長くなるということか。

 それに一回目の未来視のあとの猛烈な頭痛。二回目は軽かった。それも比例するって事か。


 まずは練習してみるか。二回目の時の感覚がまだ残っている。あの時は無意識に未来を視ようとした感じではあるが、その時の感覚を呼び出せたら…


 翔太は意外に簡単に出来そうな気がした。



 モヤシは心配した様子で自動扉が開くたびに人物を確認していた。SNSアプリでメッセージを送ってはいたが、返信がない。工場跡からカツヤ達全員が出て行って以降、電話をするのは邪魔になると控えていた。展開的に各個撃破は出来なかったと見ていい。


 大丈夫かな…。

 五対二ではやっぱり無理だったんだ。下手したらさやかさんが足手まといでもっと悪い状況かもしれない。もしかすると僕に頼まれた事まで喋ってしまったかも…


 モヤシはだんだん不安になってきた。


 あと十分したら電話してみよう。でも翔太くん達が捕まってたら僕の存在に気づかれる。


 モヤシが緊張して待っていると翔太がファミレスに入って来た。同時に翔太と目があい、胸を撫で下ろした。


 「終わったぞ。」

 「終わったって?」

 「あいつ軽トラで事故って、両足骨折して膝が割れて、太腿に穴が開いて、あと指も何本か折れたか? 不運な事故だった。」

 「いや、後の三つは翔兄が…」

 「まぁそんな感じだ。」

 さやかが言い切る前に被せて言った。

 「怪我はそんだけだが、そのあと脅しといた。多分もう大丈夫だろうけど、お見舞いにでも行って念を押しといた方が良いか。そっちはアフターサービスという事にしといてやる。」

 「あ、ありがとうございます。」

 モヤシは頭がパソコンのキーボードに当たるまで下げた。顔を上げると涙も滲んでいた。それほど辛かったのだろう。


 モヤシがカツヤ達に目を付けられたのは入学して早々のことだった。もう一年半近くになる。自殺を考えた事もあるが結局怖くて出来なかった。これからもずっと続くものと思っていた。今日翔太達に頼んだのは直感だった。最近の金銭の要求がひどくて、大分追い込まれていた事もある。翔太が負けても、依頼した事がバレなけれいい。最悪バレたら今度こそ自殺しよう。

 そんな思いで翔太に声をかけた。そして解決してくれた。この先もずっと続くと思っていた暗い道を翔太が明るく照らしてくれた。周りの景色に色が戻ったきがした。


 「十万円は必ず払います。とりあえず明日、今月分持って行きます。」

 モヤシにとってもう十万円くらい大した金額ではなかった。流石(さすが)に一度の小遣いでは(まかな)えないが。

 「おう、ところでお前盗聴以外に何が出来る?」


 もしかしたら今後有用な人材になるかもしれないと翔太は考えた。

 「えっと…」

 最初質問の意味がわからなかったがすぐに理解した。

 翔太が言いたいのは、ソロで龍を狩れるとか、学園一の美少女を確実に堕とせるとか、そういった事ではない。いやモヤシには出来ないが。


 「盗聴の為にハッキングのテクニックも磨きました。あとサバゲーもかじってましてエアガン、ガスガン、電動ガンと電動ガンを改造した強力なのもあります。サバゲーで使用しないような武器も興味があって集めてますし、作れるものもあります。なにか手伝えることとしたらこれくらいでしょうか。」

 「わかった。」

 なにかの時は使えそうだ。

 「じゃあな。」

 洋輔とさやかが、また飲み物をもって戻ってきたところだった。

 「待って、これ飲んでから…」

 洋輔がスポーツドリンクを一気飲みする。それを見たさやかが手に持ったコーラを一気飲みして、目を思いっきり瞑った。

 「ん~っ!」

 炭酸の刺激が喉を一気に襲った。


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