4.未来の矯正
※前話の区切り間を違えました。前話に最後の一文を追加ました。
翔太が叫び、そのまま目の前が真っ暗になった。
「翔兄? どうしたの? ボーっとして…」
さやかの言葉に真っ暗な世界から意識が戻って来た。すぐに猛烈な 頭痛が翔太を襲い、翔太は頭を抱えて机に突っ伏した。
「翔兄大丈夫? どうしたの?」
さやかが心配そうにたずねるが、翔太は答えられないまま突っ伏したままだ。
「ちょっと、翔兄。すごい汗だよ。」
首の後ろから汗が吹き出ていた。
「どの位ボーっとしてた?」
だんだんと頭痛がマシになって来るのを感じながらさやかに聞いた。
「んー、三十秒くらい? かな?」
同意を得るように周りをみた。
「うん。そん位。翔兄大丈夫かよ? そんなに嫌なら飯の恩は忘れて貰おう?」
モヤシが悲しそうな顔で翔太を見ている。
「いや、それよりどこまで話した?」
「んーと、翔兄がかくこうげきだ? って言ったとこ。」
「各個撃破な。了解、ちょっと考えさせてくれ。」
三人は翔太を心配そうに見ていた。
さっきのは何だったんだ? 夢にしてはリアリティがあり過ぎる。予知夢か? いや寝てたわけじゃないから未来視か。
なぜか先ほどの現象が夢ではという確信が翔太にはあった。
とにかくこのままではさやかが殺されるという事だ。かと言って全く別の行動をするとどうなるか分からない。できるだけ同じ行動を心がけて、最後の展開だけ防ぐ様に動くか…。
翔太がさやかを見ながら考え事をしていたら、何を勘違いしたのかさやかが頬を染めた。
「翔兄…」
「モヤシ、この映像溯れるか? あいつと別れてからの行動が知りたい。」
そのあとは一通り同じ会話をして、三人で工場へ向かった。
しかしあのカツヤって奴相当ヤバいな。俺達を轢き殺す事に躊躇してなかった。
そんな事を考えながら歩いていると、工場まであと五分ほどのところで、モヤシから電話が入った。
『翔太君、さっき出て行った人が軽トラに乗って帰って来ました。軽トラは工場のすぐ前です。』
「わかった。これから軽トラをシャッター前に置き直すはずだ。そのあと誰か乗り込まないか良く見ててくれ。」
あの時翔太は運転席に誰もいないと思い込んで油断していた。
それにしても発車のタイミングが良すぎる。誰かに尾けられてるのか?
カツヤはエンジンをかけたまま待っていた筈だ。でなければあのタイミングで急発進できるはずが無い。待っていたという事は来ると分かっていたのか。
翔太はそう思い、後ろの気配に注意した。
注意すると簡単に尾けられている事がわかった。
尾けられている事など、全く考えなかったあの時の自分の間抜けさに呆れた。
よし、まだ全体の流れは変えない様に、行動を変更するか。
翔太は未来を矯正するべく行動を開始した。
「洋輔、尾けられてる。さやか後ろを見るな。」
小さな声で前を向いたまま二人だけに聴こえるように言った。さやかは思わず振り返りそうになり、翔太の制止になんとか止まったが、立ち止まって空を見上げた。
非常に怪しい動きだが、立ち止まったさやかに訝しむように翔太が声を掛けた。
「ん、さやかどうしたんだ?」
自然に後ろを向いて尾けている奴の様子をみた。
そいつは電柱に隠れて電話をしていた。電柱から肘が見え、携帯を耳に当てている様子がわかった。
今ならこっちを見ていない。
「洋輔、今見られていない。裏から回ってあいつを背後から捕まえろ。」
「了解。」
洋輔はすぐに駆け出し、横道に入った。
翔太はさやかを心配するそぶりで近付いて、時間を稼ぐ事にした。
「大丈夫か? 熱中症にでもなったか? そこの影に入って少し休むか?」
「え? ううん。翔兄、大丈夫だよ。」
軽い声で返事をするさやかに翔太が顔をしかめる。一拍置いてさやかが意図に気づいた。
「あ、うそ。ちょい暑くてしんどくなったかな…。休ませて。」
翔太は目の端で後ろの様子を見ると、キョロキョロしていた。洋輔が居ない事に気づいたのだ。
「洋輔ちょっと待て。」
翔太は咄嗟に洋輔と反対側の道の先を見て、やや大きめ声で呼びかけた。
「さやかが気分悪いみたいだ。少し休ませる。それにそっちじゃ無いぞ。先々行くな。」
尾行者はキョロキョロをやめて様子を見た。
「洋輔、ちょうどいいからそこの自販機でスポーツドリンク買ってやってくれ。」
続けて誰もいない方に向かって話かける。
尾行者は怪訝に思った。
あっちに自販機ってあったかな?
そう思った時、不意に後ろから背中を蹴られた。
洋輔が軽くジャンプして体重を乗せた前蹴りを背中に入れたのだ。尾行者は前につんのめって倒れた。洋輔はすかさず腕を後ろに回して背中に膝を置いて体重をかけた。
「痛ッ!イテテテテッ!」
翔太はその声の主を見た。
やはり立石だった。
「よーし。洋輔良くやった。」
その時携帯が鳴った。モヤシからだった。
『軽トラに誰かが乗り込んだ見たいです。車の影に隠れて誰かまではわかりませんでしたが…』
「わかった」
翔太はすぐに携帯を切った。
「おい、立石。今誰に電話して何を話したんだ?」
「…!。なんで俺の名前を知ってんだ! イテッ!」
洋輔が締め上げた。
「聞かれた事に答えろ!」
「わ、わかった。君達の事を尾けてカツヤ君に状況を報告してたんだ。カツヤ君は君の事を相当怒ってる。逃げた方が良いよ!」
「ついさっきの電話で何を伝えた?」
「カツヤ君が通りに出る手前で連絡するように言われたんだ。」
よし、予想通りだ。この連絡を受けてカツヤは軽トラに乗り込んでスタンバってたんだ。それにしてもこいつあっさりと全てを話しやがる。嫌々従ってんのか?
ま、そんな事より今はカツヤの始末だ。あいつ大分ぶっ飛んでるから、ここで再起不能にしておかないと近い将来殺されるな。
翔太は未来視を完全に信用し、作戦を続行する。
その瞬間、また翔太の視界が周りから急に暗くなり、すぐに元に戻った。
翔太はすぐに理解した。今未来を視ている。
翔太は二人をここに置いて一人で路地から出た。いつでも避けられるように、出来るだけ安全な場所に跳び退けるように場所を確認しながら進んだ。しかし、軽トラがいつまで経っても発車しない。
わかった。奴は俺達が三人だとわかっている。出来るだけ引き付けて一人でも多く轢き殺そうとしているのだ。
翔太はそう確信した。
その時、また周りが暗くなり軽い頭痛がしたがすぐに視界が戻る。未来視が始まる前の状態だった。
翔太は経過時間が気になったが、周りの反応からほとんど時間が過ぎていない事を理解した。
「さやかはここで待ってろ。何があっても通りに近づくなよ。洋輔、この路地を出ると猛スピードで軽トラが突っ込んでくる。わかってたら簡単に避けられる。すぐにこの路地に戻るように跳んで避けろ。良いな!」
一回目の未来視で、洋輔が出た所で走り出したのを思い出した。男二人が出たらすぐにさやかも出て来ると思ったのだろう。実際その通りで、さやかが轢かれたのだ。さやかはここに待たすことにした。
「わかった。けど何で分かるんだよ。」
「今ある情報と状況から推理しただけだ。」
「こいつはどうする? その軽トラに轢かしてみる?」
洋輔が物騒なことを言い、立石は顔を青ざめさせた。
「ほっとけ。行くぞ!」
注意深く、足早やに路地を出た。すぐに洋輔もそれに続く。
するとやはり軽トラはエンジンをふかして急発進した。
あまり早くよけると追い掛ける様にハンドルを切りかねない。翔太はギリギリまで待って横っ飛びに車道へ出た。一回目と同じだ。
カツヤはすぐに翔太を諦め目標を洋輔に変更した。
洋輔は言われた通り路地に向かって走った。
ヤバイ!間に合うか?
洋輔は軽トラがあと数十センチの所で路地に飛び込んだ。
軽トラは逃げる洋輔を追う様にハンドルを切るがそのまま路地入り口の壁に激突した。
それは未来視と同じ光景だった。だが、今回はさやかは轢かれていない。
翔太はすぐに運転席に駆け寄った。軽トラの前面は大きくひしゃげている。
中ではカツヤが潰れたエアバッグの上に顔を置いて意識を失っていた。