3.未来体験
遅くなりました。
「そうと決まれば、各個撃破だ。」
その時、翔太の視界が周りからすうっと暗くなった。視界が全て黒塗りに変わるのは一瞬だった。そして、視界の真ん中からすうっとまた元の景色に戻った。戻るのも一瞬だった。
ん?何だ? 座ったままなのに立ち眩みか?
翔太は訝しく思ったが特に気にする事もなく思考を戻した。
明日奴らが動き出すまえ前に、何かしらの手を打って個別に襲う。最低でも二対三に持ち込みたい。
「この映像溯れるか? あいつと別れてからの行動が知りたい。」
「出来るよ!」
モヤシが画面を切り替えて巻き戻しボタンをクリックした。洋輔も画面に覗き込む。さやかはのんびりコーラを飲んでいた。
高速で巻き戻されていく画面に三人が食い入る様に覗き込む。一人が出て行く所が逆再生でみえた。
「ストップ」
翔太が言うが早いか、モヤシが再生ボタンを押す。
慌てたように出て行く男はカツヤに比べるとやや小柄か。
「こいつは誰か判るか?」
「多分さっき翔太君も会った立石君だと思います。」
「五人の中ではどういうポジションだ?」
「下っ端ですね。よく使いっ走りになってます。カツヤ君の彼女の弟です。」
「よし、さっきよりゆっくりめに巻き戻してくれ。カツヤとか言う奴はどんなポジションだ?」
巻き戻しボタンをクリックし、速さを調整しながらモヤシが答えた。
「リーダーです。それほど上下関係は無いですけど。カツヤ君が喧嘩っ早くて強いんでリーダーに納まってます。先手必勝が口癖で、相手がまだその気でもない内に殴りに行くんです。奇襲もおおいんですが、自力もあります。結構エグいことも平気でしてて、この間、刃向かったクラスメイトに有刺鉄線を巻きつけてそこの工場のクレーンで吊るしてました。」
「うげ…」
聞いていないようだったさやかが苦い顔をした。
少しして数人が工場に入っていくとこが映った。
すぐにモヤシが再生に切り替える。
カツヤらしき人物がお腹を押さえて工場に入って行くところが映っている。。立石と呼ばれた男は最初カツヤに肩を貸しながら歩いていたが、突然殴られたようにしりもちをついた。カツヤはそのまま工場に入り、程なくして立石と姉も工場に入って行った。
これで工場の中には最低でも三人いる。
また逆再生を進めると、二人の男が喋りながら工場に入って行った。
「よし、これで立石弟以外が工場跡
に居るって事だな。洋輔、さやか行くぞ。モヤシはそのまま監視してろ。出入りがあれば連絡してくれ。携帯番号を交換しよう。俺の番号にワン切りしてくれ。」
「えー、あたしも行くの? 暑いし待ってる。ここ涼しいし…」
「そうか。一緒に行かなくて良いんだな?」
報酬もない事を暗に示唆して念を押した。
「良いよ、翔兄。俺たちだけで。さやかは足手まといになるだけだよ。」
その意味に気づいたさやかが慌てて訂正した。
「やっぱ行く! 絶対行く!」
翔太の携帯に着信があり電話番号を確認し、三人でファミレスから出て行った。
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翔太がボロアパートに着く少し前、立石がカツヤに肩を貸して歩いていた。
工場までたどり着く頃に、カツヤはようやく呼吸がもどり、動けるようになってきた。
預けていた肩を外してシャツをまくると、殴られた腹に赤く拳のあとがあった。
「クソッ! なんだあいつ。ぶち殺してやる!」
真っ赤な顔で誰に言うでも無く大声を出した。怒りが抑えられず、近くで様子を見ている睨んだ。
「お前も何突っ立ってんだよ! すぐやり返しに行けよ!」
言いながら裏拳で立石を殴った。
「うぐっ…。ごめん。」
立石は鼻を殴られて顔を抑えながら謝った。鼻から血が流れた。
「ケンジは中か?」
「多分みんな集まっていると思うよ。」
立石は鼻を押さえて涙目になりながら言った。
学校が終わると此処に集まる習慣になっていた。
「とにかくあいつをぶっ殺す。」
工場の入り口に向かって歩き出し、続いて立石と立石姉はついて行った。姉はティッシュを弟に渡して心配そうに声をかけていた。
カツヤ達がシャッター横のドアから中に入った。
工場は天井が高く広い空間で、錆びた工具や備えつけのクレーンが見える。その工場に入ってすぐのところに六畳ほどのプレハブ小屋があり、錆びたストーブと壊れたエアコンが備えてあった。恐らく事務作業のスペースだろう。
カツヤがプレハブのドアを乱暴に開けると煙が漂ってきた。部屋には煙草の煙が充満し、逃げ場を探す様に開いたドアからあふれ出た。
「おい、あの舐めた一年ぶっ殺しに行くぞ!」
「どうしたんだよ急に。誰だよ。」
中でタバコを吸っていた一人が聞いた。
「そこの道を勝手に使ってる、養護施設出の奴だよ!」
「なに切れてんだよ。」
別の一人が聞いた。
「やられたんだよ! あいつやけに喧嘩慣れしてやがる。」
「何だよ、先手必勝じゃなかったのかよ。」
顔に笑みを浮かべて言った。
カツヤはそいつにゆっくり近づきつつ言った。
「そうだよ!」
ドカッ!
カツヤはいきなり胸に蹴りを入れた。相手はパイプ椅子ごと後ろにひっくり返った。
「あいつそれを完全に予想してやがった。おい立石、お前あいつ探して来い。とりあえずあいつのアパートに向かって探しに行け。居場所がわかったら連絡しろ。気づかれるなよ。」
「えっ、今?」
鼻血を姉にもらったティッシュで拭きながら、油断していた立石が応えた。
「今すぐだよッ!」
顔に怒りを浮かべて怒鳴った。
「わ、わかった!」
また殴られたら叶わないとティッシュを鼻に突っ込み、そのまま走って出て行った。
「おい、お前んち軽トラあっただろ。持って来い!」
「無茶言うなよ。何に使うんだよ。」
呼ばれた男は、カツヤの剣幕に押され、声がよわい。
「見つけたらすぐに動けるようにだよ! ほとんど使って無えって言ってたろ! 親に見つかる前に返せばバレねえだろうが!」
「今日は使ってるかも知れないだろう…」
農家を営んでいるその男の実家には、収穫時期の少しの間しか使われていない軽トラックがあった。
「とにかく見て来いよ! それともお前、俺がやられたのに無視すんのかよ?」
カツヤは睨みつけた。
「そうじゃねえけどよ…」
「じゃあ早く行けよ!」
男は渋々工場を出て行った。
数分してカツヤの携帯が鳴った。立石からだ。
『居たよ。あいつアパートから駅の方に向かっているみたいだ。他に和成と男と女が一人ずついる。多分施設の中坊だ。』
「よし。お前そのまま尾けて行け。まずは駅から電車に乗るのか、それともどっかで飯でも食うのか確認しろ。」
『分かった。』
「二、三十分で車で向かうから、それまで絶対見逃すな!」
『わかった!』
カツヤは車の到着をイライラしながら待っていると、十分ほどして携帯が鳴った。
「どうした?」
『あいつら駅前のファミレスに入って行った。』
「よし、そのまま待ってろ。そっちに行く前に出てきたらまた電話しろ。」
それから何度か軽トラの調達状況を電話で確認しながら待つこと四、五十分、彼のイライラがいよいよピークに達しようというところで、シャッター前の車道脇に車が停まった音がした。
カツヤはすぐに工場からでて、運転席にいる男へイライラをぶつけた。
「おせーよ! 何もたついてんだよ!」
「いや、そんなこと言ってもよ…」
その時、立石から電話が入り、カツヤはすかさず携帯にでた。
軽トラを持ってきた男はあからさまにほっとした顔をした。
『カツヤ君、あいつらファミレスから出てきた。和成以外の三人だ。和成はまだファミレスにいる。』
「和成はほっとけ。どこに向かっているかわかるか?」
『学校方面に向かってる。もしかしたらそっちに向かっているのかも…』
「舐めやがって…。お前そのまま尾けてろ。ここの前の通りに出る手前で電話して来い。」
立石の返事を待つ前に電話を一方的に切った。
ギリギリ間に合ったな。
カツヤの口角がいびつに上がる。この後の展開を想像しイライラもおさまったようだ。
「お前はUターンさせて、車を歩道に入ろ。キーはつけとけ。」
男は少し先でUターンし、進行方向の右側の、工場のシャッターに付けて軽トラを置いた。
それを見届ける前にカツヤは工場に入り、二人に声をかけた。
「お前たちも、念のため武器になりそうなもん持っとけ。まあ要らねえだろうけどな。」
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翔太達三人は工場に向かっていた。
「工場に行って、あいつが一人になるまで待つぞ。」
途中、モヤシから電話があり、一人が出て行ったが軽トラで帰ってきたことを知らされる。これで男四人と女一人だ。
翔太は例の裏道に、工場の窓がある事を思い出してそこから中の様子を見る事にした。
細い路地から工場跡の通りに出る手前で、様子を伺う。工場まで数十メートルだ。シャッター前に軽トラが置いてあるのが見えた。
まぁ、出くわしたら出くわした時か…。
「おい、見つかったら逃げるからな。」
翔太は二人に向かって言いながら携帯を取り出した。
「モヤシ、変わりないか?」
『はい、なんか軽トラをシャッター前に置き直したみたいだけど、その後工場に入って誰も出てきていません。特に変わった様子も無いです。』
その時モヤシは、工場の出入口が軽トラの影になり、カツヤが運転席に乗り込んだのを見逃していた。
「わかった。」
翔太が足早に車道を横切り、歩道から裏道に向かう。その後をすぐに洋輔が続く。
すると誰も乗って無い筈の軽トラが急発進して歩道を走り、猛スピードで翔太と洋輔に向かって行った。
「ッ! 避けろ!」
翔太はすぐに気づき叫んだ。同時に自身は横っ飛びに車道に出てかろうじて軽トラを避けれた。
横を通り過ぎる直前にカツヤと目が合った。
すぐ後ろの洋輔も同様に車道に飛び出して事なきを得る。車道に車の往来があれば轢かれていただろう。
しかしさやかが丁度路地からのんびり出てくるところだった。
「ドンッ」
それは想像以上に軽い衝突音だった。翔太はスローモーションで流れる世界でさやかの驚いた目を見た。さやかはすぐ後ろの路地の壁に激突し、軽トラはそのままの勢いでさやかもろとも壁に衝突した。
「さやかーッ!!」
翔太が叫び、そのまま目の前が真っ暗になった。
取り敢えず金曜日までストック分を吐き出します。
継続はその時に考えます。
もし続きに興味を持ってもらえたら、評価をください。
※話の区切りを間違えたので、最後の一文を追加しました。