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13.カツヤの変化

 タクシーでさやかを拾ってモヤシの家に戻ってきた。

 モヤシの部屋では二台のモニターにそれぞれ四台分ずつのカメラ映像が表示され、更に一番大きい三十二インチのモニターに選択された一台のカメラ映像が表示されていた。

 切り替えはキーボードの数字キーで簡単に切り替えられた。


 「結構きれいに映るんだな。」

 洋輔が感心した。

 「とりあえず一週間ほど様子をみてみよう。それからこのコンテナが監禁場所なのか、違うのか。あと行動パターンが把握できればベストだな。」

 「わかりました。」

 「モヤシ、明日デクってやつを寄越すから二人で手分けして見張ってくれ。基本的に食うか体を鍛えるか、寝てるだけの奴だ。それ以外は何時間でもぼーっとしているからこんな作業にはうってつけだ。」

 それに洋輔が不満そうな声を上げる。

 「え、翔兄俺は?」

 「お前モニターの前で何時間もじっとしてられるのかよ。」

 「・・・。できない。」

 さやかは最初からやる気がなかったようだ。

 「毎日顔を出すから。何か買ってきてほしいものとかがあったら言ってくれ。」

 「わかりました。」

 「じゃあ頼んだ。」


 三人でモヤシの家を出た。歩いて帰ろうかと思ったが、日が沈むまでまだまだ暑い。どうせ金ならあるとタクシーを呼び、美空園に向かった。


 美空園でデクに明日から手伝ってくれるよう頼みに行くことにする。

 この時間ならいつものベンチにいるはずだ。

 「俺はデクに会ってくる。」

 「夕飯食べて行くんでしょ?」

 「ああ。」

 「じゃあ後でね。」

 「翔兄、なんか起きたら俺もすぐに呼んでくれよ。」

 洋輔は何が不安なのかしきりに存在感をアピールしてくる。

 「わかってるって。じゃあな。」

 

 裏庭の木陰にあるベンチに向かった。

 「よう。デク、久しぶりだな。」

 「うす。」

 「ちょっと頼みたいことがあるんだが良いか?」

 「うす。」

 「明日から一週間ほど、盗聴マニアの家に詰めて、手分けして監視をして欲しいんだ。」

 翔太は粗方事情を説明した。デクは無言で聞いたあと、抑揚の無い声で言った。

 「うす。問題無い。」

 「…。じゃあ明日何時でもいいからこの住所を訪ねてくれ。」

 デクは携帯電話の類を持って無いので、モヤシの住所をメモしてわたした。

 「頼んだぞ。」

 「うす。」

 受け答えが素っ気ないがいつもこの調子だ。



----



 翌日午前中にモヤシの家に行ったらまだデクは来ていなかった。


 一晩でいくつかのことが分かった。まず、コンテナの中に誰かが監禁されているのは確実のようだった。女がたまに食べ物を持ってコンテナに入って行く姿が見られた。コンテナの外から中に向かって、ホースで水を撒いているところも確認できた。恐らく掃除や身体を洗っているのだろう。

 その女は誰もいないタイミングを見計らってコソコソとしている。何人かの男もコンテナ内の様子を見ているのが確認出来たが、遠巻きに見ているだけだった。多分、見かねた女が勝手に助けているだけで、男どもはそれを黙認している様な感じだ。積極的に助けようとする者は居なさそうだ。

 リーダー格の男は基本的に二階の事務所にしかいないようだった。



----



 月曜日の放課後、今日もモヤシの家に寄った。

 デクがモニターを見つめていた。

 「おう、デク。」

 「うす。」

 「悪いな、手伝わして。」

 「別にいい。どうせ暇だから。」

 「園長には何て言ってあるんだ?」

 「一週間ほど帰らないって書置きしてきた。」

 「…そうか。」


 デクは放浪癖があった。初めての時は大騒ぎになって三日後に警察に保護されて帰ってきた。小学校五年の時だった。特に家出の意思はなく、ただ外に出たかっただけだと言った。その後数か月に一回程度、ふらっといなくなる様になった。しかし、いつ帰るかといった書置きを残すようになり、その通りにちゃんと帰ってくる事から園長も黙認するようになった。

 あまりうるさく言うと本当に出て行ってしまうので、ある程度は黙認せざるを得なかったのだ。

 現在、中学三年生だが老け顔で高校三年生、下手すると大学生くらいに見える。百八十五センチ、九十キロの巨体で身長はまだ伸びているらしい。


 モヤシはベッドから眠たそうに翔太を見た。

 「モヤシ、お疲れ。」

 モヤシが億劫そうに上体を起こして話し出した。

 「特に変化はありませんが、会話からリーダーのことがいくつかわかりました。」

 ベッドから手を伸ばして机のメモを取った。

 「リーダーの名前は真嶋賢司。立石姉が言っていた名前と一致します。暴力団幹部の息子のようです。」

 「いつもここにいるのか?」

 「数時間いなくなる事はありますが、基本的にここに住んでるのではないでしょうか。少なくともこの三日はここで寝泊まりをしています。高価なアメ車を所持していたり、派手な女を何人も連れてきたりと羽振りはいいようです。まともな仕事ではないでしょうが。」

 「わかった。その調子で頼む。何か足らないものはあるか?」

 二人に向かって言った。

 「翔兄、カチコミがあるなら新しいナックルが欲しい。今のやつが少し小さくなった。」

 「わかった。できるだけ戦闘は避けて救出するつもりだが、用意しといたほうがいいだろう。モヤシ、ネットで購入してやってくれないか。金は俺が払う。」

 「わかりました。」

 「じゃあ、引き続き頼むわ。」



 翔太は次に立石姉弟に会うためにファミレスに向かった。

 またタクシーを使う。


 足があった方が便利だな。暇な時に原付きの免許でも取るかな。

 でも、自分で運転すんのは面倒くさいな…


 タクシーの中でぼんやり思った。


 ファミレスに着くと、立石姉弟とさやかが一緒にいた。既に昼飯を食べおえている様だ。


 「なんでお前がいるんだ?」

 「お昼ご飯奢ってくれたよ。」

 「…。おい。俺にも一食奢れ。」

 翔太は自分だけ何も奢ってもらってない事が癪にさわり要求した。

 「もちろん良いですよ。」

 弟が快諾した。


 

 「…とりあえずそんな感じだ。まだお前らの兄貴とは決まってないがな。」

 料理が届くまで、監視してわかった事を説明していた。

 「ありがとうございます。それでいつイケそうですか。」

 姉弟は今からでも救出に向かいたい気持ちを抑え、翔太に尋ねた。

 「まだだ、とりあえず一週間は様子をみて、出来ることなら監禁場所を確実にしたい。あとできるだけ人が少ないときに実行したいからな。まあ楽観はできないが今まで生かされてたなら、今殺すこともないだろう。」

 「…。分かりました。」

 「飯食ったらカツヤのところに行くぞ。情報収集だ。」

 「え、私も行くんですか?」

 姉の加奈子が嫌そうな顔で聞いた。

 「なんで行かねえんだよ。」

 「…はい。」

 立石姉弟が渋々うなずいた。



----



 病室を覗くとカツヤと母親がなにかしら会話をしている様子だった。母親の顔が心なしか穏やかだ。

 「よう。カツヤ。」

 カツヤが声を発した翔太より先に立石姉弟を視界に留めた。

 「カツヤ君。お久しぶりです。」

 「…。」

 加奈子は何も言わなかった。

 カツヤは苦虫をかみつぶしたような顔をした。

 「お前ら…。」

 立石姉弟にかける言葉が見つからなかった。仕方なく翔太に向かって呟いた。

 「お前また来たのかよ。」


 「あら、お友達ね。わざわざ来て頂いてありがとう。」

 「いいえ。ちょっと様子を見に来ただけですから。すぐにお暇します。」

 カツヤの母親のまともな反応に、翔太が丁寧に返答した。

 「そんな事言わず、時間あればゆっくりしていってください。この子ずっと退屈してて。」

 明らかに前と様子が違う。表情が豊かで、受け答えもしっかりしている。

 「あ、話しにくいでしょうから私は少し外してますね。」

 母親は病室から出て行った。

 「おい。あれはいったいどうなってんだ。別人じゃねえか。」

 「ああ、ポツポツ話してたら段々治ってきた見たいだ。」

 カツヤの顔つきも角が取れてるような気がする。

 すると突然思い詰めたような顔で姉の加奈子が大きな声を出した。

 「ごめんなさい。私もうあなたと付き合えません。」

 カツヤは驚いた顔をしたが、すぐにさみしそうな顔になった。


 「わかってるって…。」

 一呼吸置いて話を続けた。

 「俺、学校辞めて働きながら定時制に行くことにするんだ。ババアがよ、もう離婚するんだってよ。それで働きにでるって。

 あんな顔見たの何年ぶりだろうな。すっきりした顔をしてやがる。」

 「ふーん。そうかよ。よかったじゃねえか。」


 そこで居心地わるそうにもじもじしていたさやかが、我慢できずに口にした。

 「わたし外で待ってるね。」

 誰の返事も待たずにさやかが病室から出て行った。

 

 「もうあの学校にも行けねえしな。まあ自業自得だ。」

 「ああ、そうだな。」

 「お前が言うなよ…。」

 

 「いつ退院なんだ?」

 「明後日だ。まだ車いす生活だが、病院にいてもすることねえしな。

 で、何しに来たんだよ。もう報復なんて考えてねえよ。」

 「ああ、ちょっと聞きたい事があってな。お前チーマーに入ってただろう。」

 「ん? ああ。まだ一回だけたまり場に顔出しただけだけどな。まあこのままフェードアウトしようかと思ってる。それがどうしたんだ。」

 翔太が加奈子に向かって命令する。

 「おい。説明しろ。」

 「はい…。」

 加奈子が兄の斗真の現在状況を掻い摘んで説明した。


 「お前、だから俺と付き合おうとか言い出したのか。おかしいと思ったぜ。」

 「ごめんなさい。」

 「いや、いい。」

 カツヤが翔太に向き直った。

 「俺も全然知らねえんだが、そうだな、まず規模としては、俺の知る限りでは第二環状道路の内側くらいを勢力圏にしている。」

 「かなり広いな。ほぼ県の半分じゃねえか。」

 「ああ、とはいえ縄張り意識は低いみたいで、抗争はちょくちょくあるものの、制裁とかメンツを保つ目的が多いらしい。基本他のグループには無関心だ。人数もそう多くない。多分正規メンバーだと十五から三十人ってところだろう。少数精鋭といえるかもしれねえ。合成麻薬を売りさばいて稼いでる。実際俺も買わされそうになってる。自分で使うか売り捌けって。ご丁寧にチームを組んでの売買の仕方を教えてくれるらしい。ほかのメンバーがビビッてたからまだそこまでやって無かったけど時間の問題だったな。

 それくらいしかわかんねえ。」

 「お前の行ったたまり場ってのは、臨海のコンビナートのところか?」

 「いいや。あっちに行けるのは正規メンバーだけだ。」

 「正規メンバー以外は何人くらいいるんだ?」

 「わからねえな。誰も把握してねーんじゃねえか。」

 「そうか。リーダーと話したことは?」 

 「ない。多分俺が話してたのは薬売りの孫請けくらいのチームだと思う。」

 「そうか…。」

 「気を付けろよ。やくざより統制取れてない分、やることはかなりえげつないらしいぞ。」

 「ああ、ありがとよ。また明後日くるわ。」

 「来なくて良いよ。」

 「じゃあな。」

 「カツヤ君、ありがとう。」

 「おう。お前らも気を付けろよ。」

 加奈子は黙って礼をした。


 んー。情報が少ねえな。誰かいねえかな。情報通が。悪徳弁護士には頼りたくねーしな…


 翔太はもう一人の顔を思い出していたが、あえて頭から消した。


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