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12.潜入

 「実は一つ頼みたいことがあるんだ。」


 そう切り出して、立石兄弟の置かれているの状況を説明した。

 「やっぱりあの二人、事情があったんですね。」

 

 「俺たちの目的は立石兄の安否確認と無事であれば救出。それも俺たちが噛んでいることがバレないように。救出したら警察に引き渡す。安否に関わらず立石一家は引っ越すなりして縁を切らなければ、普通の生活は出来ないだろうな。」

 「僕に荒事は無理ですよ。」

 「ああ、それは分かってる。やってもらいたいのはまず相手の組織について調査。それから潜入、救出までのサポートだ。お前の盗聴技術の腕を借りたい。報酬は以前の貸しの七万五千円でどうだ? 経費とは別だ。」

 「良いですよ。僕の技術が始めて役に立ちそうです。何より面白そうだ。」

 モヤシがあっさり承諾した。

 

 「じゃあ早速溜まり場の調査からしましょうか。場所を教えてください。」

 「よっしゃ。」

 洋輔がスマホで地図を検索し始めたところで、モヤシは奥の部屋に続くドアを開けた。

 そこは勉強机とベッドが置いてある十二畳ほどの部屋だった。ただし壁の一面には銃がいくつも飾られており、床には何かわからない装置や部品で溢れていた。数台のパソコンも常に電源が入っているらしかった。

 「どうぞ。こっちが僕の趣味の部屋です。」

 案内されて奥の部屋に行くと、さやかが感嘆の声を上げた。

 「何これー。変なもんがいっぱいある。」

 手近に転がっているこぶし大の部品を持ち上げしげしげと観察した。


 「すげーな。何挺くらいあるんだ。」

 「壁にかかっているだけで二十挺くらいあります。あとやばい改造物が数挺あの金庫に入ってます。」

 そう言って部屋の隅にある金庫を指した。

 「あった。ここだ。」

 隣の部屋からスマホを見ながら洋輔が入ってきた。

 「見せてください。」

 デスクの椅子に腰かけながら洋輔に促した。

 「このコンビナートの一角。このあたりらしい。」

 「ちょっと待ってください。」

 改めてパソコンで地図を確認した。

 「元は日本昭和石油化学株式会社の子会社の敷地のようですね。えーっと、六年前に地元の会社がこの土地を購入してます。」

 モヤシはパソコンをたたきながら答えた。

 「ここの防犯カメラは全て撤去されてますね。そもそも無かった可能性もありますが。」

 「ってことは状況がわからないな。」

 モヤシはおもむろに立ち上がり積み上げられた衣装ケースの一つから何かをを取り出した。

 「じゃあ、これを設置しましょう。隠しカメラです。色々種類がありまして、これなんか蛍光灯の端子に挟み込むだけで撮影が始まります。本体のほとんどが蛍光灯と器具の隙間に隠れるのでまず見つかりません。あと少し大型になりますがソーラー式のものもあります。」

 モヤシはもう一つ取り出す。ソーラー部分は五センチ四方ほどで薄く、単二乾電池ほどのカメラ部分とはコードでつながっている。

 「これは被写体が二、三十メートル離れていてもきれいに撮影できます。夜は赤外線モードで動作しますので暗くても問題ありません。ソーラー部を街灯に貼り付けて本体を街灯の裏に隠すと、ほとんどカメラとは気づかれませんので、例えば敷地外の出入りがわかるところに設置するのが有効です。」

 「すげーもんだな。」

 「どこかの無線LANを拝借して中継すれば、ここからでも様子が確認できるようになりますよ。」


 さらにもいくつかの隠しカメラのレクチャーを受ける。


 「よし、じゃあ早速設置しに行くか。洋輔手伝ってくれ。モヤシはサポートだ。」

 「じゃあさやかさんはコンビニで中継機を設置して下さい。中継機とカメラの距離は一、二キロは届きますから、このコンビニの無線LANの圏内に機械が隠せるところならどこでもいいです。それが終われば映像を見ながら画角などをここから指示します。」

 パソコンの地図を指して説明する。

 「はーい。」

 モヤシが生き生きしている。


 翔太、洋輔、さやかの三人でタクシーで移動する事にした。途中でさやかをおろしてコンビニに向かわせる。

 さやかをおろして三分位走ると目的の工場の大きな門が見えた。門はタンクローリーがすれ違えるくらいの幅があるが、三メートルほどだけ開いていた。


 隣の工場の壁の陰に隠れて門の様子を見ていた。

 「よし、洋輔。あの街灯が角度的に調度よさそうだ。登れるか?」

 「余裕。」

 「ちょっと待ってろ。」

 翔太は眼を数秒閉じた。

 「よし、行け。今なら誰もこない。行くぞ。」

 「なんでわかんだよ。」

 「ちょっとした勘だ。」

 翔太が目当ての街灯のほうへ小走りで行く。洋輔がそれに続くが、翔太を追い抜いてひょいひょいと登っていった。

 太ももとすねあたりでうまく 挟んで体を支え、両手を放し何かをキャッチするように手を開いた。そこへ翔太がすかさずカメラを放った。

 「説明されたとおりだ。分かるな。」

 「ああ、簡単だぜ。」

 翔太がさやかに電話した。

 「さやか。どうだ?」

 『ちょっと待って。オッケー。外に使われてなさそうなコンセントがあった。多分これで大丈夫。』

 「了解。ちょっとまってろ。」

 翔太がモヤシにも電話をつなげて三者通話に切り替えスピーカーモードにした。

 「モヤシ、今一台設置したけどどうだ?」

 『はい。画像が来ました。もう少し上を向けてください。』

 「洋輔がカメラの角度を変えた。

 『あ、少し行きすぎました。そう、そのくらいでオーケーです。』

 「よし、洋輔降りてこい。さやかもいいぞ。そのコンビニで待ってろ。」

 『ハーイ』

 「あと裏の門と内部も何台かつけられるか見てみる。」

 『了解しました。気を付けてください。』


 裏に周って裏門にも同様に設置した。次は建物の中に付けたいところだ。

 「取り敢えず入ってみるか。」

 翔太は裏門の向こうにある建物の様子を見るフリをして、また二十秒ほど目を閉じた。


 「ダメだ。裏門は入りづらいな。」

 二回潜入を試みたが、工場の外階段を降りてくる者に二度とも見つかった。遮蔽物が無く、階段から丸見えだった。


 「表に回るぞ。」

 表の門に入ったとこに大型のピックアップトラック停めてあり、いい遮蔽物になりそうだ。

 一組門から出て行ったタイミングでピックアップトラックまで走って中に入った。出くわす頻度を考えると、なかなか出入りが多そうだ。

 そこから植え込みに走り、素早く工場の(とい)を伝って荷受け場であろう大型の(のき)の上に登った。十トン車が縦列に二台丸々入るぐらいの軒だ。登ってしまえば下からは見えなかった。

 もちろんここまでも都度未来視で確認しながらなので、洋輔が思うほど危険は無い。

 軒から手を伸ばせば二階の窓に手がかる。その窓は廊下に並んだ窓だった。そこで十五秒ほど待って、三人組の男が部屋から廊下に出てきたのをやり過ごした。

 階段を降りて行ったのを確認し、窓を開けて中に忍び込んだ。

 無言で階段の踊り場にある蛍光灯を指でさした。洋輔はすぐに理解して、防火扉のノブに左足をかけて、右足は防火扉の反対の壁に足の裏を置いて体を固定した。

 翔太がカメラを洋輔に渡す。蛍光灯のプラグに差し込むだけなので簡単に設置を終わらせた。

 次に先ほど男三人が出てきた事務所の扉のうえ蛍光灯にも設置する。廊下の窓枠に乗るだけで設置できた。

 軒に沿って廊下を進むと二階部分は建屋全体の三分の一ほどの面積しか無いようで、三分の二は吹き抜けになっていた。

 廊下の端から梯子を登ると、吹き抜け部分の天井付近に設置されたキャットウォークに上ることができた。

 キャットウォークは工場の全体を照らす水銀灯より上にあり、そこにいれば下からは水銀灯がまぶしくて姿が見えないような作りになっている。

 キャットウォークの数か所に、ぶら下げるようにカメラを三カ所設置した。工場全体の七十パーセントくらいはカバーできているだろう。


 「よし、これくらいでいいだろう。」

 撤収しようと洋輔に声をかけたところで、洋輔が工場の隅を指した。

 「翔兄、あれ。」

 そこには四十フィートコンテナが置かれており、扉が開いていた。

 その中からは鎖の音が聞こえてきた。

 「中の様子は見えねえな…。とりあえずあの真上にも設置するか。」

 最後の一台をキャットウォークに括りつけ、モヤシに電話した。

 「合計八台設置した。全部見えてるか?」

 『はい。ばっちりです。』

 「よし。じゃあ今から帰る。」


 翔太と洋輔は侵入した時と反対の手順で工場を後にした。

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