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100円玉群像劇

老婆はコーヒーを150円で飲んだ。


それを受け取ったのはバイトの冴子で、彼女は両親を幼い時に亡くし祖母に育てられた。その祖母は今年癌になり冴子は気が気でない。


100円玉は冴子の手からレジに落ちた。


しばらくして100円玉は釣り銭としてバイトの拓海につまみ上げられた。プレイボーイの彼は二股をしている。相手はバイトの冴子と美咲だ。この2日後修羅場が待っていることを彼は知らない。


拓海から釣り銭を受け取ったのは弁護士の小嶋。彼は人権派の弁護士としては名の通った男だが、同じく人権派として売り出している三枝薫のメディア露出の多さ、その浅はかな宣伝戦略には忸怩たる思いを抱いている。


小嶋はその近くのバーガーショップでチーズバーガーを買った。もちろんさっきの100円玉も店員に渡す。受け取った店員は店長の矢島で、気の弱い彼はいつもチーフマネージャーにパワハラまがいの罵詈雑言を吐かれている。辞めたいと何度も思うが来月生まれてくる子供と妻のためにも歯をくいしばるしかない。


しばらくしてレジから100円玉を取り出したのはベトナム人バイトのグエン。彼の父は旧南ベトナムの親米派で彼は5歳までロサンゼルスで育った。共産党からの親米派への弾圧が緩くなり、5歳以降はハノイで過ごした。今は日本に留学中であり、学費を稼ぐためにここで働いている。


釣り銭をグエンから受け取ったのは進藤歩。ニートだ。ハローワークの帰り道にテリヤキバーガーを食べている。


5年後。


あのテリヤキバーガーを食べた日以来進藤は引きこもった。ハローワークにはブラックな仕事しかないからだ。しかし母親が去年他界した。あとは父親の年金しか残っていない。さすがにこうしてはいられないと思い、進藤はふたたびハローワークに向かった。途中でまたこのバーガーショップに寄る。またテリヤキバーガーを買った。あの100円玉。5年間財布という暗闇の中にいた財布。それが進藤の手から店員に渡される。


100円玉は今日も旅を続けている。

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