第3章『魔族の王国で爵位を得て魔王軍准将に任命されたからにはその立場に相応しくあろうとする勇者』①
朝食を準備するために毎朝四時に起床し調理。
朝食後の皿洗いの後はガルムの練兵訓練に午前中だけ参加し(体力不足で午後はまだ無理)、
魂が半分抜けかかった表情(ってミハエルに言われた)のまま兵士用の食堂で昼食を頂き、
昼食後は魔王城敷地内の手入れ。
三時からはイチゴとミルクたちに料理の極意(そんな大層なものじゃないのに……)を教えるように言われたのでその任務をこなしつつ夕食の準備。
夕飯の片付け後は翌日の仕込み(というか寝坊したときのための保険)をして、お風呂にチャポンしてベッドに沈む。
そんな生活が一週間ほど続いたある日のこと。
もっと言うと、朝食片付け後&練兵前の一番気が重くなる時間のことである。
ちなみにこのときのわたしはミハエル曰く、断頭台に上る囚人のような顔らしい。
「勇者ってみんな、こんなに大変なのかな……」
まぁ魔王城にいる時点で勇者っぽくないんだけど。
ましてや、四天王の次に偉い階級まで飛び級とか意味分かんないし。
今のわたしってむしろ、勇者に命を狙われる立場じゃないのだろうか?
そんな感じで現実から逃避する方に思考を全力疾走させていると、後ろから声を掛けられた。
「おう、姫っ子。元気か?」
「あ、ガルム。今日はまだ練兵前だから生きている方かな?」
練兵後は半分死んでます、とは言わないでおく。
「おぉ、俺の訓練をそんなに楽しみにしててくれたのか。嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか!」
いや、その逆ですよ、逆っ!
五段階評価で平均『4』ぐらいは学校でいただいていたわたしが、唯一不動の『2』だった教科が体育ですとも。
提出物も全部出して、ペーパーテストもそこそこ点数とったはずなのになぁ……
「まぁそんなところ悪ぃが、今日の練兵は休みだ。日曜日は休息をとらせることにしてるもんでな」
「そっか。それは残念だなぁよっしゃ!」
「よっしゃ?」
「い、いや……気合よ。せっかくの晴れだから、気合入れて布団でも干そうかなって」
「そうだったのか。じゃぁとっとと干して来い。これから俺と、クファミナっていう西にある街まで視察だ」
「視察?」
つまりは、魔族の暮らしている街を見れるということだろうか?
「おう。魔王軍准将にして、男爵の爵位を与えられておいて、街の様子も知りませんじゃ話にならねぇだろ? 俺が案内してやっから……どうした? 妖精が初めてハバネロを食ったような顔しやがって」
「え? え? えぇっ! あのピンバッジってそんなに大事なものだったの!」
確かに三日前、バッジを二つ貰ったというか……
「いつも以上に不機嫌そうなミハエルに、『君には不釣合いなものだからドブに捨てたいのは山々だけれど、渡せと言われたから渡しますね』って、針の部分が剥き身のピンバッジを二つ投げつけられたけど、本当に不釣合いなものだったんじゃない!
勇者が魔王軍准将で魔族の国の男爵って何それ! 『去ね死ね消えろと言いたくなる僕の気持ちを分かってはいただけないんでしょうね』ってイヤミを言ったミハエルの気持ちがちょっと分かっちゃったんだけどっ!」
「お前らいいよな。毎日がコントみてぇで楽しそうだ」
「ガチで仲悪いのよっ!」
「おぉ、元気出てきたじゃねぇか!」
それにしては、気持ちがどっと疲れたのは何故だろう? 何故だろう……
って……あれ?
最初に『元気か』ってわたしに聞いてなかったっけ?
ガルムはもしかして、わたしのことを心配してくれていたのだろうか?
「とりあえず支度して正門のところで待ち合わせだ。爵位持ちの准将に相応しい格好をして来いよ?」
「はい! 急いで準備してきま……え?」
ちょっと待って、それってどういう服よ?
しかしそう聞く前にガルムは歩き出していて、その背中は既に遥か遠くだった。
魔族の街にお出かけです。
白虎は古来中国では西方を守護するとされていたので、管理する地区も西。
領民にとっても良い兄貴分です。