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第5章のちょっと前 「呪われし勇者」⑤


「でも、魔王城って意外と自由だったのね」

「三年前にシモン様が魔王になられてから、雰囲気が変わりましたね。政策も変わり、地方での人間とのトラブルも減ってきていると聞いています。

 最近は冷戦状態が続いていますし、着任一ヶ月で二回も死ぬ思いをする人も、たった一ヶ月で香澄さんほどの功績をあげるのも珍しいことですよ」

「へぇ、そうなんだ……」


 ってことは、災難は今日に始まったことではないってこと?

 もしかして、ついていないのは今日だけではないのだろうか?


「仕方ない。できるかどうか分からないが、魔力の痕跡を辿ってみよう」

 そう言ってグリードは地面に紙を広げ、円と、その中に文字を書いていく。

「できるんだったら、最初からやってくれれば良かったのに」

「魔術や呪術が発動してる瞬間じゃないと、ほとんど成功しないんだ。あまり期待はしないでくれ」

 そしてグリードが準備を終えて立ち上がったとき。


「あれ何? 人形?」


 一階の窓から空高くに向かって、人形のようなものが放り投げられるのを、わたしは見た。

 目で追っていたが、太陽の光が眩(まぶ)しくて、わたしは目を瞑(つむ)ってしまう。


 そして、わたしが再び目を開いたとき。


「来やがった! 石鏡組(いじかぐみ)の克(か)ち込(こ)みだぁっ!」

「拳銃(チャカ)用意しろ、急げっ!」

「組長を守れ! 何としててでも守り抜けっ!」

「井上ぇぇっ! 観念せいやぁぁっ!」

「俺の命(タマ)、おどれらに取れるモンなら取ってみろや、このド三品(さんぴん)がぁぁっ!」


「え? えぇっ?」


 わたしはどうしてか、黒服の男達が拳銃を向け合う、暴力団事務所のド真ん中にいた。


 わたしのすぐ横には、小さい頃から知っているお父さんの仕事仲間の銀次さん。

 更にその隣には、ときどきお父さんを黒いベンツで迎えに来る恭司郎(きょうしろう)おじさん。

 他にも知った顔の人たちが何人もいた。


 わたしは後ろを振り向く。

 そこには目を丸くして、わたしの存在に驚いているお父さんの姿があった。


 まぁドンパチのど真ん中に娘がいきなり現れたら、まぁそうなるよね……

 でもとりあえず、わたし以上にお父さんが驚いてくれたお陰で、少しだけわたしは冷静になれた。

 

「えっと……つまりこっちが味方ってことでいいのかな?」


 直後、銃声。

 けれどわたしが盾を展開するほうが早かった。

 盾に当たった弾(たま)は跳弾(ちょうだん)し、こちらに抜けることは無い。

 わたしは盾を展開したまま、敵側(石鏡組って言ったっけ?)の方へと突進する。

「何だ! 一体なんだってんだ!」

「撃て、撃てぇっ!」

 石鏡組の方の人数は十三人。その全員を壁に押し付けられるように盾を大きく広げ、全力で、ただ全力で、わたしは壁に向かってタックルした。


「よっしゃ! うちのパパの命(タマ)とろうなんて百年早いのよっ!」


 壁に頭を打ち付けたり、跳弾した弾に当たったりで、石鏡組の十三人全員が床に倒れる。

 わたしはお父さんの方へ振り向いてガッツポーズをし……


 そして、その場にいる井上組の全員が唖然としていることに気付く。


「一体、何があったんだ……」

「あれ、組長の娘さんだよな。行方不明になってたって言う……」

「お嬢、お怪我はありませんかっ!」

「義親父(おやじ)! 驚かれるのも分かりますが、しっかりしてくださいっ!」


 お父さんは銀次さんに頬を叩(はた)かれて我に帰り(そのあと銀次さんが殴られていた)、それから銃を仕舞うとこちらに歩み寄ってくる。


「香澄、なのか……」


 その声は、とても懐かしく感じた。

 あったかくて、優しくて、嬉しさに胸を締め付けられて涙が出た。

 まだ一ヶ月も経っていない。だけどもう随分と会っていないような気がしていた。

「うん。香澄だよっ!」

 わたしがお父さんに駆け寄ると、お父さんがわたしの背中を力強く抱きしめてくれる。

 怖かった全部と辛かった全部が、嗚咽になって喉の奥から沸いてくる。

 わたしの全部を受け止めてくれる気がして、安心したら涙がもっともっといっぱい溢れ出てきて止まらなくなった。


「会いたかった、会いたかったよっ!」

「香澄、無事でよかった……」

「わたしも、今日まで生きてこれてよかったぁぁっ!」

「菫も瑠璃花の元気でやってる。だけど、お前がいないと寂しい……」

「わたしもっ! わたしだって……」


 泣き腫らした目を開く。

 涙越しにでも分かるほどにお父さんの顔もぐちゃぐちゃで、だけど嬉しそうに笑っていた。


 再び目を閉じたら、お父さんの腕の感触が消えた。


 うん、何となく分かっていた。

 理由は分からないけれど、奇跡のような時間だって思っていたから。


 再び目を開けると、そこは城内の扉の前だった。



香澄は家族を大切にする子です。

だったらほんのわずかな時間でも、会わせてあげたいじゃないですか。


※設定無駄話※

香澄と菫は、私立彩花原学園という学校に通っています。

それぞれ高等部1年生と中等部2年生です。

井上組は多額の寄付をしているため、香澄はちゃんと進級する予定。

県内でも有名な極道さんなので、井上家のパパのお仕事は全校生徒のほとんどが知っています。誰も文句は言えません、怖くて!!


ちなみに香澄が戻ってこなくても、チンピラ13人程度ならクロウが秒で倒してました。


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風変わりな恋愛小説はじめました。
「悪「役」令嬢なんて生ぬるい! ~婚約破棄を宣言された辺境伯令嬢は、ナメた婚約者に落とし前を付けにいくことにしました~ 」

王道の婚約破棄から始まるのに、少し変わった悪役令嬢ものです。
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