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第2章「ドレスの勇者」②


 走る。走る。走る。


 草原みたいに広い庭を走り、

 噴水の前を魔族の目を盗んですり抜け、

 馬……じゃなくて龍(?)みたいなのが飼われている小屋の背後を隠れて進み、

 青い薔薇の咲く薔薇園を抜けて、

 それでも敷地の端に辿り着かない。


 わたしの服装は、明らかにこの国の服装とは違う。


 というかパジャマだ。

 パジャマのままだ!


 裸足で走るのもそろそろ限界になってきて、人目が無いことを確認してわたしは足を止めた。


「はぁ、はぁ……広すぎ……」


 近くにベンチがあって、ついでに見覚えのある噴水まで目に入ってきた。


「………………」


 もしかして、ここって一回通った場所?


 その考えは、寝起きで空腹の状態には(こた)える。

 ってか心を折れるよマジで……


 一回目に通ったときと違って、魔族が一人もいなかったのは助かったが、それでもいつまでもここにいるわけにはいかない。

 それでも休息をとらないとさすがにもう走れなくて、わたしはベンチの裏側に、人目につかないように腰を降ろす。


 三分……いや五分ぐらい休んだだろうか。

 そして、そろそろ移動しようかと、わたしがベンチの陰から顔を出して様子を伺おうとしたときだった。


 今まさにベンチに座ろうとしていた男の子と、目が合った。


「わっ! ご、ごめんなさい!」


 男の子が謝ってくる。

 持っていた本を落とし、自分が尻餅をついているにも関わらずだ。


 幸い他に人目も無い。

 何よりわたしが突然出てきたのがいけないのに、男の子に先に謝らせてしまった引け目もあって、わたしは本を拾うと男の子に手を差し伸べる。


「ありがとうございます」

「わたしの方こそごめんね……って、あれ?」

 わたしには、その男の子の顔に見覚えがあった。

「あなた、もしかして魔王の部屋にいた子?」

「えっと……はい。そうです」


 それから男の子は、


「よろしければ、ジョンと呼んでください。ジョン・アクア・リィです」


 そう言ってわたしに微笑んだ。


「わたしは香澄。よろしくね」

「お姉さんは、香澄さんというんですね。よろしくです」 


 それからジョンはベンチに座って腰を下ろす。

 だからつられてわたしも隣に腰を下ろしてしまった。


 ……あれ? これってちょっとマズくない?


 だって、あの部屋にいたってことは……


「ジョン、ひとつ聞いてもいい?」

「あ、はい。僕に答えられることなら」

「あなた……魔族よね?」

「えっと……まぁ、はい。そうです」

「わたしが魔王と戦っているところ、見てたわよね?」

「そうですね、見ていました」


 ってことはやっぱり、わたしが勇者だってことバレてんじゃんっ!


 いや、まぁ本当に勇者ってわけじゃなくて、そう思われてるって意味で。


「戦っているというよりは逃げているように僕には見えたんですが……でもやっぱり、あのときのお姉さんですよね。よかった、人違いかと思って少し戸惑っていました。城の敷地内で特徴的な服装をしている裸足の人間なんてそうそういないから、もしかしたらって思っていたんです」


 いや、そんな特徴的な人、城内どころかこの世界にも一人しかいないから!


「あの……もしかして脱走してきたんですか? 見張りを二人つけて部屋に閉じ込めてあると聞いていたのですが」


 いや、脱走めちゃチョロかったんですけど!

 よもや魔族って、全員馬鹿なのだろうか?


 わたしはとりあえずジョンに「まぁ、そんなところね」とだけ答えて、ベンチから立ち上がる。


「じゃぁわたし、そろそろ行くわね。いろいろありがと」


 とりあえず、ジョンとこれ以上一緒にいるのはまずい。 

 ジョンに敵意は無さそうだが、他の魔族に見つからないうちにこの城の敷地から逃げ出さなくてはいけないからだ。


 しかしわたしが歩き出そうとしたとき、「待ってください」と、ジョンに腕を掴まれる。


「僕と一緒にいたほうが安全です」


「えっ?」

 ジョンの思いがけない言葉に、わたしは足を止める。

「お姉さんが倒れたあと、魔王様が言っていました。お姉さんは魔王様と戦っていた勇者とは別人だと。それはガルムさんとミハエルさん――えっと、白虎さんも青龍さんも知っています。

 それでも人間であるお姉さんがお城の敷地内を一人で歩くのは良くないと思います。どこか行きたい場所があるのなら、僕が一緒に行きますよ」

「………………」


 それは少なくとも、わたしが勇者だという誤解は解けているということだろうか?

 そう言えばイチゴとミルクもわたしのことを『お客様』『お客人』と呼んでいたことを思い出す。


「……別に、どこに行くってわけではないんだけど」

「そうなんですか? じゃぁ一緒に青龍さんのところに行きましょう。大丈夫です、青龍さんは優しくて真摯(しんし)な方ですから」

「あっ、ちょっと……」


 無邪気に笑うジョンの手を振り払うことも気が引けて、わたしは結局青龍の元へ連行されることになった。



ジョンくんは、しっかりとした考えを持った優しい子です。

次回、青龍(ミハエル)再登場。

白虎(ガルム)はその次ぐらいには書けるかな?


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風変わりな恋愛小説はじめました。
悪「役」令嬢なんて生ぬるい! ~婚約破棄を宣言された辺境伯令嬢は、ナメた婚約者に落とし前を付けにいくことにしました~

王道の婚約破棄から始まるのに、少し変わった悪役令嬢ものです。
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