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第2章「ドレスの勇者」①


「ん……うぅんっ……」


 眩しい光に、わたしは目を覚ます。


 目蓋を開くとそこには、見たことも無い天井。

 平に磨かれた大きな一枚の石が四枚の壁の上に乗っているような印象を覚えて、「あれ、落ちてこないよね?」なんて寝ぼけた頭のまま呟いてみたりした。


 部屋を見回すと、それなりに調度品は揃っているようだった。

 ベッドのほかには机や椅子、鏡台があり、クローゼットのような観音開きの箪笥っぽい家具まである。


 頬を撫でるのは、ひんやりとした風。

 石壁の窓にガラスは無く、外には雲ひとつ無い青空が広がっている。


 窓から身を乗り出してみる。

 どうやらここは一階のようだ。

 手入れの行き届いた庭園が広がっていて、体育館のステージにのぼる要領で、すぐにこの部屋からは出られそうだった。

 まぁそんなことをしなくても、普通に部屋の扉から出ればいいのだが。

 けれど、ひとつ疑問に残るのは……


「……ここ、どこ?」


「ここは魔王城です。そしてこの部屋はその客間です」

「お城の隅っこににある、お客様用の部屋だよっ!」


「えっ?」

 振り返ると、そこには二人の少女が立っていた。


 一人はピンク色の髪を短くまとめ、もう一人は背中まで流れる白い髪をしていて、どちらもメイドのような服装に身を包んでいる。

 二人ともツンと(とが)った耳をしていて、しかし白虎も青龍もそのような耳をしていたなと思い出す。

 おそらく魔族はみんな、尖った耳をしているのだろう。


 二人の少女は可愛く微笑むと、二人同時に口を開く。


「お客様、お目覚めになられたのですね。お体の調子はいかがですか?」

「やっと起きたんだねー。丸一日寝てたみたいだけど調子はどうだい、お客人っ!」


 丁寧さ100%と丁寧さ皆無の口調で同じ内容の言葉を言われて唖然としてしまい、わたしはすぐ答えられるはずの質問の回答に数秒の間を要した。


「えっと……とりあえず体調は問題ないわ。ありがと」


「それはよかったです」

「うん、さすがだね!」


 初対面で失礼かもしれないが、この二人は線香花火とロケット花火だ。

 それぞれの個性に(おもむき)があるはずなのに、隣り合っているせいでどっちを見たらいいか分からなくなり、色々と台無しになっている感じがする。


「ところで、あなたたちは?」


「わたしはイチゴといいます」

 とピンクの髪の少女が答える。

「魔王様に仕える八十四里走駆隊所属の兵士であり、平時は使用人としての業務を任せていただいております」


「あたしはミルク。よろしくね」

 と白髪の少女が答える。

「一応括りは遊軍って扱いなんだけど、つまりは決まった仕事が無い待機組みなの。だから普段はお城の仕事を手伝ってるんだ!」


 同じことを言っているはずなのに、どうしてこうも聞こえ方が違ってしまうのだろう?


 苺と牛乳のように上手く調和してくれればいいのに、イチゴの言葉のオブラードをミルクが引っぺがし、ミルクのいい加減さをイチゴが際立たせている。

 見事な足の引っ張り合いだ。


「完全に『混ぜるな危険』だよ、この二人……」


 それにしても、自分はどうしてこんなところで寝ていたのだろう?と、わたしは意識が落ちる前の記憶を辿る。

 わたしは転生(?)した瞬間に魔王に襲われ、白虎と青龍に包囲され、部屋の隅にいた男の子を盾にして逃げ延びようとしたところで……そう。

 突然、黒髪の少年が目の前に現れた。

 そこで意識を失ったんだ。


「ところでお客様……」

「お客人、あのさぁ……」


 いちご毒ミルクの二人が言う。


「実はわたし達、お客様から目を離さないよう青龍様より仰せつかっていたのです。先ほどは所用にて席を外してしまっていたのですが、そのことはどうか内密にお願いできないでしょうか?」

「あたしたち、お客人が目を覚ましたら知らせるようにって言われてたの。だけどトイレに行きたくなって、ついでに厨房でつまみぐいとかしちゃってたの。お腹が空いたらしょうがないよね? ね? バレたらマズいの。だから内緒にしてほしいんだけど……」


 全部暴露されてる!

 せっかくイチゴが言葉を選んだのに、ミルクがその努力を全部無駄にしてるっ!


 しかも『つまみぐい』って……せめて言うのはトイレの方だけにしておけば弁明も立つだろうに!

 その程度の脳も無いのか、ミルクの方はっ!


「……わかったわよ」

 さすがにイチゴがかわいそうになってきて、わたしは二人に頷く。

「だけど、二人でわたしを見張ってたんでしょ? トイレなら見張りとで二手に分かれて、一人ずつ行けばよかったんじゃないの?」


「なんと、その考えは無かったです!」

「なるほど。お客人、まさか天才か!」


 二人が同時に目を丸くして驚く。


「えっ、何で驚くの?」


 馬鹿なの? もしかして二人とも馬鹿なのっ?

 しかもミルクだけじゃなくて、真面目そうな表情にしっかりした話し方のイチゴの方まで、頭の中は残念な感じなのだろうか。

 わたしはどうにかして言葉を選ぼうとし……


「あんたたち、ダメっ子でしょ?」


 しかしこれが限界だった。

 完全な駄メイドだこいつら。


「そんなことはないですよ。ミルクちゃんは裏表の無いとても素直な子なんです」


 いや、それって裏表を作るほどの能力もないってことよね?


「失礼なのよ、お客人っ! イチゴは天才のわたしと同じぐらい頭がいいんだから!」


 馬鹿ってことよね! つまりそれって馬鹿ってことじゃない! 


 この二人もしかして、決まった任務に就けても役に立たないから、放り出されただけではないのだろうか?


 まぁでも、お互いがお互いのことを大切にはしているようだし、仲がいいのは良いことだ。

 二人で支え合って……いや駄目だ、この二人は足を引っ張り合うタイプだった。


「それでは行きましょう、お客様。ご案内します」

「お客人! 偉い人のところに案内するからついてきてね!」


 わたしは思う。

 たぶん、この子たちはそんなに悪い子達じゃないのだろうと。

 けれどここは魔王の城の中で、どういう理由か分からないけれど、わたしは勇者だと勘違いされている。

 しかも勇者が言ったらしい罵詈雑言も全部、わたしのせいになっているときたもんだ。

「イチゴ、教えて」

 だから慎重に行動しなくちゃいけない。

 わたしはピンク色の髪の少女に聞く。

「わたしは誰のところに案内されるの?」


「はい。まずは青龍様のところへご案内します」


「――――――っ、」


『この女、ただ死なせるだけじゃ気が治まらないよ』

『せめて僕の手で消し炭にしてもいいかい?』


 青龍といえば、魔王と一緒にいたタキシードに龍の翼を生やした青年だ。

 どうしてこんな部屋でこんな待遇を受けて眠っていたのかは分からない。

 けれどあのときの青龍の眼は本気だった。

 この二人に付いて行ったら、間違いなく殺される!


「あっ! 箪笥の上にイケメン男子にモテモテになって頭もよくなる秘薬がっ!」


「えっ! 本当ですか!」

「なっ! マジかそれは!」


 二人が目線を逸らした瞬間に、わたしは部屋の扉とは逆方向へ走る。


 窓の枠に手を掛け、そしてわたしは魔王城から飛び出した。



イチゴとミルクは、メイドとしては優秀です。

まぁちょっと、おつむの足りないところはありますが...


あれ?ところでこの子たちって本職軍人だよね?

忘れたまま書いてて、まぁいいやってそのまま最後まで書き進めました。

イチゴとミルクはこれでいいのです!


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