第1.5章
「あれは別人だ」
魔王は意識を失った香澄を客間のベッドへ運ぶと、白虎、玄武、青龍に振り返ってそう言った。
「どういうことだ、魔王様よぉ。甲冑姿の勇者を弾き飛ばしたら、そこにこの女が倒れてた。どう考えてもこいつが勇者だろ。鎧が吹き飛んだって考えるのが普通じゃねぇのか?」
「その……感じられる波長も、甲冑を纏っていたときと一致しています。たぶんこの人が勇者で間違いのかと……あ、いえ、何でもないです」
「先代の勇者も女性だったと聞きます。魔王様、女だというだけで別人だと断定するのは早計かと」
「いや。私が気になっているのはそこではない」
魔王はベッドに寝かせた香澄に毛布をかけてやると、そのベッドに腰を下ろした。
「残っていた鎧は頭部と、他には小さな破片しかなかった。部品が足りない。全身の甲冑を消し飛ばしたと考えても、この女がほぼ無傷であの場にいたのも気がかりだが、決定的なのはそのことでもない。光だ」
「光?」
「鎧を纏っていたとき、勇者の剣は銀色に光っていた。けれどこの女は違う。白虎の攻撃を防いだとき、確かに聖剣は本来あるべき金色の光を放ったんだ」
そして魔王は笑った。
穏やかで、嘲るようで、それでいてとても綺麗な笑みで。
気を失った少女の髪をその細い指で梳きながら、魔王は言う。
「こっちだ。ここにいる少女の方こそが、本当の勇者なんだ」
このとき魔王の言葉の意味を、白虎も、玄武も、青龍さえも理解できずにいた。
※設定メモ※
白虎:マッチョ
青龍:紳士(キレると怖い)
玄武:賢い子(草食系)
それぞれの名前は、もう少ししたら出てきます。たぶん。