1-8 代官現る
翌日、早朝から代官が攻めてきた。馬に乗った武装した人間を20騎も引き連れている。街の衛兵か何かだろう。
村長さんや村の人が青い顔をしているが、奴らがエニスを引き立てようとか考えているのなら、俺のやる事はただ一つだ。ウミウシの恐ろしさという物を思い知らせてやる。
俺は戦闘準備を整えた。相手が普通の人間で、浜辺で戦うというのなら、たとえ万の軍勢でも倒せるだろう。俺はいやしくもドラゴンと呼ばれる生き物なのだから。
俺はエニスを波打ち際まで下がらせて、いつでも敵を攻撃できるように身構えた。
「おお、これはデカイな。ウミウシよ、わしがエロウラの町の代官じゃ。たしか、人の言葉を喋るのだったな」
「喋りますが、それが何か」
俺は少し不機嫌そうに言った。
「まあ、そう尖るでない。お前が来いと言ったので来たのではないか。昨日はうちの部下が失礼したそうだな。それについては侘びをいれよう」
おや。割と話のわかる人が来ちゃったな。お話だけは伺っておくとしますか。
「話なら聞いてもいいけど」
「おお、そうか。そうしてくれると助かるの。わしは、準男爵のヘルモスキーじゃ。お前は?」
「ブルー。ブルードラゴンのブルー」
一応、ドラゴンである主張は忘れない。
「そうか、そうか。ドラゴンか。そうだったのう。子供の頃に物語で聞いたもんじゃたわい」
そうなのかあ。その物語、読んでみたい!
「して、ブルーよ。先日お前が見つけた物なのじゃが、それに関して調査をしたいのだ。よければ協力してもらえんかのう」
「うーん、いいけど俺一人じゃ無理。大きすぎて船の中に入れないもん」
「そうなのか? では助けを呼んでもよいが。褒美も出そうじゃないか」
「本当? あいつと俺の2人にくれる?」
「そりゃあ、構わないが……何が欲しい? どうせ、あいつとかいうのも人間じゃあるまい」
「うん、タコだよ。大きなタコさん」
代官は少し眩暈がしてきたようだった。
「で、では、そのタコ君にも望みを聞いてみてくれんかの。おそらくは、国からも役人が来る事になるじゃろう。前回のように役人が調べたり、姫様が来たりなどという事態では済まされん事情があるのじゃ」
なんだか、よくわからないが色々な事情があるようだった。ウミウシにはあまり関係ないが、褒美は魅力だ。
「じゃあ、俺の褒美はさっき貴方が言っていた絵本ね」
「え、そんな物でいいのか?」
「ウミウシ、じゃなかった、ドラゴンは金銀財宝やお金には興味ないんだ」
「それはおかしいのう。ドラゴンとは、そういう物を集めるのが好きなもんじゃが」
代官さんは、若干面白そうに笑って突っ込んだ。
「ええー、いやだな。そういう物は自分で冒険して集めるのがいいんじゃないか!」
ちょっと誤魔化しておいた。だって、本当に興味がないし。
エニスが欲しいんなら集めてきたっていいんだけど、あの子はそういうの興味が薄いんだよね。光るものは気になってちょくちょく集めたりはするんだけど、何の役にも立たないから、ただのガラクタさ。
「まあ、それなら全巻セットで用意しておこう。問題はタコのほうだが」
「あ、それならねえ。多分壷がいいんじゃないかなと」
代官さんも微妙な顔をした。
「タ、タコ壷か。しかし、どのくらいの大きさなんだ?」
「んとね、足を広げると俺の高さくらい」
「ク、クラーケンか!」
代官さんは少し眩暈がしてきたようだった。
クラーケン……そうなの? 自分でタコって名乗っているけど。
ちなみに俺のサイズは村人30人が縦に並んだくらいだ。約50mって感じだろう。
「最近大きくなり過ぎちゃって、自分の入れる壷が無いって、いつも嘆いているんだよね」
「ううむ。国に相談してみん事には。しかし、クラーケン壷なんて作れるもんなのかのう」
「一応、訊くだけ訊いてみてよ」
「わ、わかった」
代官さんが頭を抱えている。
「よーし、じゃあ何してあげたらいいの~」
「それは国から誰か来てからとなるの。お前はどうやって呼んだらいい?」
「え? 毎日ここでエニスと遊んでますが」
「そ、そうなのか」
自分の管轄の村で、こんな幻の生き物が堂々と遊び暮しているとは。少し頭が痛くなってきた代官だった。
その時、1台の馬車がガラガラと激しい車輪の音を立てて、飛び込んできた。勢い余って、浜で引っくり返ってしまった。
そして、その馬車に刻まれた紋章を見て代官は顔色を変えた。
「で、殿下?」
大慌てで駆けつける。
馬車の中から引き出されたその人は、金色のような装飾を施されて立派な格好をしていたが、物凄く血塗れで青い顔をしていた。
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