1-7 小役人
またちょっとタイトル微妙にいじってみました。
村に帰ってみると、浜辺にはまた村中の人が集まっていた。
「あれえ、もう晩御飯の匂いを嗅ぎつけてきたのか」
「もう、そんなわけないでしょ。また何かあったのかなあ」
エニスのお爺さんが慌てて、手招きしている。
「ただいまー、御土産あるのよ~」
「おお、帰ってきたか。今までどこへ行っておったんじゃ」
「ええ? 網の繕いが終わったんで、ブルーと遊びに行っていたんだけど。それよりお爺ちゃん、聞いてよ。あの幻の……」
「それどころじゃないわい。今、村長が街の代官様に報告したら、至急街まで来てもらって話を聞きたいと。早く行かんと叱られてしまうわ」
お爺さんの慌て様が面白いので、しばらく観察していた。
「ええっ?」
「さあ早く。もうお迎えの馬車がそこでずっと待っているのじゃ」
よく見ると、厳しそうな顔をした如何にも田舎の小役人といった感じの男がムスっとしていた。
「ちょっと待って。私? 私は、何にも知らないわよ。訊くのならブルーに訊いて」
「しかしのう。お前が拾ってきた事になっとるし。こいつが町には行けまい」
「そんな事言われても困る~」
エニスはじたばたしているが、小役人がやってきて乱暴にエニスを掴んだ。
「小娘、さっさと来ないかあ」
「きゃあー、ブルー助けてー」
バシャ。いきなり海水を食らって、男は堪らずよろめいた。
「おい、この野郎。エニスから離れろ。俺の友達に酷い事をすると許さないぞ」
「なんだと、このバケモノめ。成敗してくれるわ」
そいつは笑止千万な事に、刀を抜いた。
「やれるもんならやってごらん~」
「おのれ小癪な、このウミウシがあ。食らえ、我が必殺の武技、飛翔閃」
これは知っている。カマイタチのようなものだ。人間相手ならそれなりに脅威だけれど、ウミウシには通じない。何でそんな事を知っているんだろうな。
「そーれ、海水バリヤー」
俺は鰭で吹き上げた大漁の海水で物理的に、奴の下らない武技をあっさりと打ち消した。
「お、おのれ~」
ついでにそいつにも、口をすぼめた水鉄砲を食らわして倒した。
「はい、終了台~。打ち止め、打ち止めでーす」
男は気を失っているようだった。頭は冷えたかな。御付きの人が大分困っていたようだったので、助言してあげた。
「エニスは何にも知らないから、その子に何か言っても無駄だ。話が聞きたい人がいるなら、その人がここへくればいい。俺は街まで行けないから、来てもらうほかはないね。わかった?」
御付きの人はコクコクと頷いて、男を馬車に詰め込んで慌てて去っていった。
「ありがとうブルー。助かったわ~」
「しかし、街の役人をあんな目に合わせて大丈夫だったかのう」
お爺さんは、ちょっと心配そうだ。
「どうしても揉めるようなら、姫様に仲裁してもらおうよ。多分、あいつの方がペコペコしちゃうんだろうけど」
俺はどこ吹く風だ。攻めてきたら倒すまで。実はブルードラゴンは結構強い。そう簡単には負けたりしない。人間相手でもやり方一つだ。
村の人は全員、やれやれといった感じで頭を振った。
「ねえエニス、そういやさあ。さっきの魚はいいのー?」
「あ、いっけない。変な人が来ていたから忘れてたわ。出してー」
俺は浜から少し離れたあたりを目掛けて、ドーンっとさっきの大きな魚を出してみせた。
マグロのようにでっぷりと太り、カジキのような背びれを持ち、鮫のような口を持つ。その鋼鉄のような強度を持つ鱗は虹色の光沢を放っていた。うーん……殆ど魔物だな。
「おおっ、これはまさしく幻の魚、レーバウイッシュではないか」
「これがそうか。俺は初めてみるぜ」
「こいつがねえ。見ろよ、あの口の凶暴な事」
村の漁師達は、魚の周りに取り付いて口々に感想を漏らした。
「しかし、これはどうやって解体したらいいんだ? 触ってみたが、うちの刃物ではこの魚の鱗はなんとも出来んぞ。まるでドラゴンだ」
みんな、腕組みをして考え込んでいる。
「僕が解体してあげようか」
「え? ブルー、お前がかい?」
「うん。どんな風に切るの?」
「そうさなあ。まず頭と尻尾を落として、腹を断ち割って内臓を落とし、鱗と皮を綺麗に剥がして3枚に下ろしてもらえれば」
なかなか適切な指示だった。小さな魚とは、解体手順が違うようだった。
「よーし、その辺の人、危ないからどいていてねえ」
俺はちょいっと浜に上がる感じで手代わりの右の大きな鰭を高速振動させた。
まるで電動ノコのように一瞬で魚の頭と尻尾を切断する。腹をバッサリといってからベリっと皮を引っぺがした。何かに使おうかと思って、前に作っておいた木を組んだ台を出して、その上に魚の切り身(特大)を置いた。肝も捌いて置いてあげる。
「もうちょっと細かくしとく?」
「そ、そうじゃな。せめて人間一人分くらいまでに細かくしてくれると助かるのう」
俺は見事な包丁(鰭)捌きで切り身を作った。肝も大きいから、切り分けておいた。肝って美味しいよね。特に毒がたっぷりだと、もう堪えられないや。
そこから先は村総出での大作業だった。
さすがに量が多いので、干物にしないといけない。老人も子供総がかりだ。
「エニス。今日、天気が良くて良かったねえ」
「そ、そうだね。でもお手伝いしないと。今日はもう遊べないや。また明日ねー」
「また明日ー。あ、村長さん。なんか手伝う事あるー?」
村人の指揮をしていた村長さんが、こちらを向いて手を振った。
「いや、これだけやってくれれば充分じゃ。本来ならお前にも宴に参加してもらうところなんじゃが」
「いーよ、俺また狩りにいってくるから。さっき大きな毒魔物の気配がしてたんだよねー。村の近海に来るといけないから狩っておくよ~」
「そうか、それは助かるな。どれ、せっかくのレーバウイッシュじゃ。街の代官様にも届けておくかのう」
俺は村長さんに鰭を振って、海へと消えていった。
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もう書店様に並びだした頃でしょうか~




