1-6 新しい遊び
ちょっとタイトルを変えてみました~
体を海水に浸しながら待っていたら、何故か村長さんまでエニスと一緒に駆けてきた。もう歳なんで、息をかなり切らしている。
「村長さん、久し振りー。大丈夫~?」
「いや、いや。これを取ってきたのは、ブルーお前か。どこにあった」
「えーとね。こっから50kmほど行った先の深い海の底」
「km?」
「あー、距離の単位だよ。ここでは、なんていうのか知らないな。この大地の大きさから算出した単位だから、大地の大きさを理解できない人にはわかんない単位」
村長的には、ちょっと理解できなかったようだ。言ってる俺にもよく理解できないや。
「と、とにかく、こんな大事な物は国に提出せねばならん。他には何か無かったかね?」
「さあ。友達のタコ魔人君が見つけて取ってきてくれただけなもんで。えっと、この箱に入ってました~」
村長は収納の魔法で取り出された、その宝箱のような箱の蓋を開けると、中を真剣な表情で調べていたが、また鏡の時のような難しい顔をした。
「船長は貴族家の人間のようだな。家族に充てた手紙や家紋入りの装身具なども入っておる。立派な最期を遂げたようだ。これはまた、お役人を呼ばねばならんのう」
「ふーん」
「こうしちゃおれんわい」
村長さんがバタバタしていくのを2人で見送ってから、エニスが言った。
「ブルー、何して遊ぶー?」
両手を後ろ手に組んで、片足の先で浜をぐりぐりしながらエニスが訊いてくる。
「待ってました」
そう言って俺が取り出したものは、ライディングボード。流木を集めて加工して、エリスが俺の背中に乗れるように工夫したものだ。
ロープは特殊な海草を撚り合わせたもので、とても強靭だ。鰭の間に引っ掛けて、鰭でホールドするようにしてある。こんな物を作れちゃう俺って器用~。
「何これ?」
「これで俺の背中に乗って、波乗りするのさあ」
俺は、さっそく腹ばいになると、ライディングボードを背負ってエリスが乗れる席を作った。
「わあ、面白そう~」
鰭を伸ばしてエニスに乗ってもらい、そーっと背中に乗せる。さあエニス。君も今日からドラゴンライダーだ!
大海原を、すいーっと風切って進む勇姿は若干シュールなものだったが、エニスには大好評だった。
「うわあ、気持ちがいいなあ。前に船ごと乗っけてもらった時より凄いよ~」
「あの時はあんまりスピード出ない状態だったからね。今回は座席もちゃんと作ったしさ。前回は時速50kmも出てなかったけどさ。今日は100km出てるから。
なんたって、俺は図体でかいからさあ。速いのよ~。もしこのサイズの人間が普通に陸上を歩いたら、それだけで時速150kmくらい出ちゃうもの」
「時速ってなあに?」
「えーと、速さの基準、単位だよ。数字が大きいほど早いって事さ」
真っ青な海、それは俺の分身。青空に、入道雲。俺の青もよく映えるぜ。まあ、ただの保護色なんだけれども。
「あれ? ねえ、ブルーあれは何かな」
「どれどれ?」
そこには、大きな水飛沫を上げる大きな生き物がいた。
「あー、あれか。大きな魚だね。毒が無い奴だから、俺の好みじゃないなー。どうしてもお腹が空いてたら食べるかもだけど。アイテムボックスに前に倒した獲物とかも持っているし」
だが、エニスの南海の海を思わせる綺麗なエメラルドグリーンの瞳はそいつに釘付けだ。心なしか唾を飲み込む音が聞こえてきたかもしれない。
「エニス、喉渇いた? はい水筒」
海で拾得したものを綺麗にして、飲み水を入れておいたのだ。
「あ、ありがとう。でも喉が渇いていたわけじゃないの。でも水は嬉しいかな。あ、この水すごく美味しい」
「うん。どっかの島ですごく美味しい水が沸くとこがあるんだ。手が届くところにあるし」
「ねえー、ブルー。あの魚を獲って帰れないかな~。あれはきっと幻の魚、レーバウイッシュじゃないかと思うの。すっごく美味しくて、あちこちの部位が高く売れて最高なんだって」
「いいけど。なんか、それ魔物っぽくない?」
「うーん、どうなのかなあ。ねー、お願い」
「わかったよー。しっかり掴まっていてね。じゃ、ブルーいきまーす」
俺は加速して高速で、そいつを追尾した。潜られちゃうと困るなあ。エニスがいるから海中までは追えない。
だが、幸運な事にそいつは海面を進んで逃げていた。俺と同じで海面を泳ぐ習性があるのかな? 食性などの関係でそういう生き物はいるはずだが。俺の場合は気持ちがいいからだけなんだけどね。
「鰭鉄砲発射用意!」
俺は頭の近辺にある鰭の先を奴にピッタリと狙いを付けた。目と連動して狙いをつける。
「発射」
体から切り離されて、体内圧によって大砲の弾のように発射されたそれは、見事に目標の頭にズドンと命中した。
この辺の照準や射撃技術は人間とは比べ物にならない。ちなみに鰭先は再生能力により、一瞬にして生えてくる。人間で言えば爪みたいなもんだから。
奴はグラリと引っくり返って、プカっと海面に浮いた。全長12mか。そうたいしたサイズじゃないな。御飯に手頃なサイズだ。食べないけど。
「うわあ。ブルーって、すごおい」
わーい、エニスに褒めてもらっちゃったよ。
「じゃあ、まだ早いけど、村に持って帰る?」
「うん、今日はこれを使って村中で晩御飯よー」
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ちなみに、このウミウシが水面付近をを泳ぐのは好物のクラゲさんを食べるためですが、ブルーはただの人外転生魔物なんで関係ありません。鰭も自在に硬化できますし。