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1-56 厚みのある人生

 幸いな事に、飛行機はそんなにスピードは出していないので楽々追いかけられたが、よほどうまく風に乗っているらしくて落ちてこない。急に落ちられても困るのだが。


「おーい、ブルー。何やっているんだあ?」

「あ、タコ魔人君。いいところに来た。ちょっと手伝って」

 ああいうのを捕まえるのなら触手の持ち主に限る。


「はあ? どうしたのさ」

「あれを見て、王子様が無謀な事して飛行機で大空高く舞って降りてこられないんだ」


「あはは。傑作だな、ありゃグライダーじゃないか」

「いや、笑ってる場合じゃなくてさ」


 追いかけていると、少し高度が落ちてきた。あれならいけるかも。

「みんな、ちょっと耳を貸して」

 俺らもタコ魔人君も耳なんてものが、一体どこに付いているのか知らないけどね。


「ふんふん、なるほど。やってみるか。それにしても、あの王子案外と世話がやけるな」

「まあ、日頃苦労しているから、たまには発散したいんじゃない?」

「しょうがないなあ。まあ手伝うのはいいけどさ」

 2人も同意してくれたので、降下ポイント目掛けてみんなで飛び込んだ。


「それっ」

 俺がルーを担いでルーがタコ魔人君を担いで、タコ魔人君の触手がもうちょい!


 だが無情にもあと数cmといったところで、スカッと空振りでまた上昇していってしまう。ヤバイ、この沖の風だと~。仕方が無い、ウミウシジェット~。


 俺は水魔法を噴いて、飛び上がった。50mほど飛び上がってやっとタコ魔人君の触手が捕らえてくれた。そして着陸の衝撃でまた飛んでいって、離れていってしまった。しかし、今度は高度が低い。


「うおーい、王子様~」

「しょうがねえなあ」


 タコ魔人君は一旦水中に潜って、それから鯨か潜水艦のように水上に飛び出すと王子様の乗った飛行機もどきを捕らえ、海面に落ちてきたところを俺とルーが受け止めた。


 幸い飛行機は壊れておらず、王子様は中で目を回していただけのようだ。

「やれやれ」

 帰りはマリエール号を出して、上に寝かせておいた。


「ただいま~」

「おお、ブルー。殿下は無事か?」


「ほれ、この通り」

 俺は殿下と飛行機を浜に降ろした。


「殿下、殿下。しっかりしてください」

 商人さんが必死で揺り起こしている。まあ頭は打ってないと思うからいいんだけどね。


「ちょっとどいて~」

 俺は鰭先から、やや気付け成分を含んだポーションを吹きかけた。あ、覚せい剤じゃありませんよ~。それにしても、この王子様と最初に会った時もこうだったな。


「う、うーむ。はっ、私は一体」

「やりましたね。殿下は世界で始めて空をお飛びになられたのです」

 商人さんも何かこう誇らしげだ。さては、王子様ったら商人さんに仕事を丸投げしたね。


「おお、そうか。成功したのか! 何しろ、父の後を継ぐに当たっては、何がしかの成果を上げねばならない。これで安心して王位を継げるというものだ」


「王子様、王様になるの?」

「まだまだ先だ。だが実績とは一つ一つコツコツと積み上げるものなのだ」

 それで、あんなに必死だったのか。大変だな、国の跡継ぎも。


「ねえ、あれで飛んだ事になるの?」

「う、うむ。まあ曲がりなりにも飛べたからな。以前は機体の強度が足りなくて、飛ばすことがまったくできなかった。強度を上げると、今度は重すぎてな。木材をバラバラにならないように固定するのに軽量で丈夫な糸が欲しかったのだよ。ブルー、お前のおかげだ」


 でも、ちゃんとコントロールできて自力で着陸できる機体にしないと駄目だと思うの。特に次期王様が乗るためには。


「娘、お前も見ていてくれたよな?」

「ええ、見てましたけど。王子様が空を飛べると何かいい事が?」


 もうエニスったら本当に夢が無いんだから。ラウがいたら大喜びだったのに。今度、紐付きのグライダーでも作ってあげようかな。


「う、うむ。異世界から人外転生した者達の証言によればな。そうだろう、アルフレッド」


「まあな~。だが、のんびり行くのもいいもんだぜ。人生はあんまり急ぐのも考えものさ」

 多分、タコ魔人君の考えているのはアレの事だな。なんだっけ、空から攻撃するアレ。


「そうか。飛行機には、あまり良くない事もあるのだな」

「少なくとも異世界じゃな。でも、便利な事もあるし、気持ちがよかったりもするんだぜ。俺は昔、あっちの世界じゃ空を飛んでいたんだ。王子様だって気持ちがよかっただろう?」


「そうだな。あれは本当に気持ちよかった」

 王子様は嬉しそうに頷いていた。


「そのへんの事は、どんなものでも使う人間次第なのさ。それは王子様、あんたの仕事だ」

「ああ、肝に銘じておこう」

 王子様はまた一つ人生に厚みを加えたようだった。


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